2009年6月30日火曜日

患者を叱る医師になれ

6/8号 「患者を叱る医師になれ」、コラムニスト・勝谷氏2009年06月08日
 「確かに親は月末には徹夜でレセプトを書いていたが、僕が子供の頃、開業医は非常に金持ちだった。医師が特別な時代があった。一方、今は初期投資をして開業しても、元が取れるか取れないかという時代。しかし、国民の中にはこうした『お医者さん、イコールお金持ち』という深層心理が残っている。その時代を知っている人は子供や孫にそのことを話したりもする。世間の目は容易には変わらないことを理解してほしい」  「医師をよく知る立場」から、一般の方が医療、医師をどう見ているか、ではどうすれば患者とコミュニケーションが取れるかという視点から講演したのがコラムニストの勝谷誠彦氏。勝谷氏は、昨日(6月7日)に開催された第2回全国医師連盟集会で、「日本の医療を斬る - 全国医師連盟に期待すること-」というテーマで1時間強、記念講演を行いました(同集会については、『医師個人加入の労働組合「全国医師ユニオン」設立』を参照)。  勝谷氏は、文藝春秋で『週刊文春』などの記者を務めた後に独立、現在は雑誌に多数連載するほか、テレビのコメンテーターとしても活躍しています。「記念講演」と言っても堅苦しいものではなく、歯に衣着せぬ、軽快なトークショーでした。
 勝谷氏は1960年生まれ。同氏の父親は1959年に兵庫県尼崎市で開業、81歳の今でも現役だそうです。勝谷氏の弟が医院の後継者。
 勝谷氏がまず紹介したのは、子供・少年時代のエピソード。勝谷氏は、全国でも有数の進学校、灘中・高等学校の出身。「優秀な成績で入学したのに、どんどん下がっていった。進学校は何もしてくれない、自分で勉強するところだということに気づいたのは後になってからのこと。1日1時間授業に出ればよかったので、皆勤賞だった。1学年4クラスで、土曜日は4時限まで。他のクラスの授業にも出て、4時間とも体育をやっていたこともあった」(勝谷氏)。そんな勝谷氏が高校生の頃、母親から言われた言葉が、「離乳食としてポタージュを食べさせるために、宝塚ホテルに毎晩行ったのに……。どうしてこうなるの」。
 自家用車を持つのが珍しかった時代に、ご両親は米国製の車に乗って神戸のダンスホールまで遊びに行っていたそうです。近所の開業医の先生を見ても、往診に行く時とプライベートで乗る車を変えていたとか。
 「開業医は、その辺りの後ろめたさをずっと感じながら、やってきているのではないか。こうしたことを気にすることが、実は日本の医療の様々なところに関係しているのではないか。『妊婦のたらい回し』などのヒステリックなマスコミ報道の根底にも、人間の嫉妬、あえて言えば下劣な感情があるのではないか。それを怒っても仕方がないことで、どう解消していくかがこれからの医師と患者・国民との関係を考える上で重要なのではないか。データで現状を示すことも大切だが、お互いに本音でトークすることも必要」(勝谷氏)。
 患者とのコミュニケーションの重要性を強調する勝谷氏は、以下のように展開します。
 「モンスター・ペイシェントと言うべきでない。モンスターと言ったら、それは逃避。私の父は本当に患者を叱っていた。往診に行くと、しつけまでやっていた。これを50年間も続けていると、地域にいい患者が育ってくる。しかし、今は家の中には踏み込まなくなっている。これが本当にいいことなのか」
 「長野県では、若月俊一先生(地域医療で有名な佐久総合病院の創成期を支えた医師)が、患者宅で、味噌汁の塩分指導までしたことが今の低医療費につながった。患者に文句を言う医師であってほしい。『患者に文句を言ったり、叱ることが評価される』という論壇を作ってほしい」
 「兵庫県立柏原病院では、お母さんたちが小児科を救った。お母さんたちは、国が何をしてくれるかではなく、自分たちに何ができるかを考えている。疾患別の患者会だけでなく、例えば、勤務医が、診察以外に患者さんと向き合う場、サークルのような場を作ってはどうか。そこで話し合っていくうちに、『お前、何を言っているんだ』と患者を叱ってくれる怖いオヤジが出てくるのではないか。訴訟社会の米国とは異なり、日本社会にはまだこうしたことができる余裕があるのでは」
 勝谷氏の話は、記者クラブ制に依存したマスコミへの批判、福島県立大野病院事件などを例に挙げた検察批判にも発展。すべてを紹介すると長文になってしまうので、「記念講演」の主題である、「全国医師連盟に期待すること」に関連したコメントの一部を最後に取り上げます。
 「日本は、利権談合共産主義国家だった。これは、ボスがいて、パイを配分する仕組み。典型的なのが、医師会と農協。私の父は臨床医としてはすばらしいが、医者としての仕事が大事なのか、医師会の派閥活動をやっているのかが分からない時があった。全体のパイがあるときはいいが、パイが少なくなってくると、この構造が崩れ、ボスの力がなくなる。特に、ここ10年でこうした構造は崩れた。先人たちにこれまでできなかったが、全国医師連盟のような会が温厚に開催できること自体、画期的ではないか。上意下達の利権分配型の組織ではなく、自分たちで自分の権利を守るという組織にしてほしい」
以上2009/6/8
橋本佳子 氏