2009年12月22日火曜日

診療報酬改定、厚労省と財務省が火花 予算年内決着にも影響か

2009年12月19日 提供:毎日新聞社
診療報酬改定:厚労省と財務省が火花 予算年内決着にも影響か

 ◇厚労省、10年ぶり増額/財務省、財政難で削減
 医療関連予算を巡る厚生労働省と財務省の主張が真っ向から対立している。厚労省は「医療崩壊を食い止めたい」と、10年ぶりの診療報酬全体の増額改定を狙うが、財務省は財政難を理由に診療報酬の削減を要求している。中小企業の従業員らが加入する全国健康保険協会(協会けんぽ)への財政支援を巡っても両省の意見の隔たりは大きく、政府は予定していた週内決着を断念し、週明けに持ち越した。年内の決定を目指す予算編成のスケジュールにも影響を与えそうだ。【佐藤丈一、坂井隆之】
 診療報酬は手術など医師の技術料にあたる「本体」部分と「薬価」の二つの公定価格で構成される。厚労省の政務三役は、薬価を1・37%引き下げて稼いだ原資(5000億円)をすべて本体部分の増額に振り向けて、本体部分を1・73%(6300億円)引き上げ、差し引き(ネット)での診療報酬全体の改定率をプラス0・35%(1300億円)にする戦略をとった。国費負担ベースで300億円の追加にとどめて、財務省の理解を得る作戦だ。
 しかし、財務省は「デフレ状況で医師だけ報酬が増えるのは国民の理解を得られない」と主張。本体部分を最低でも据え置き、薬価をさらに引き下げることで診療報酬全体の減額を求めている。民主党が16日提出した政府への要望では、本体部分の増額を求めたため、財務省は本体部分引き上げは容認姿勢に転じたものの、総額削減は譲っていない。
 財務省が減額を譲らない背景には、加入者の高齢化などで財政が悪化している協会けんぽへの支援問題もある。厚労省は保険料引き上げを抑えるため国庫負担を増やす方針で、必要な財源約1800億円を見込んでいる。財務省はマニフェスト項目でないことを理由に、「診療報酬の削減で財源を捻出(ねんしゅつ)すべきだ」と訴える。1800億円を捻出するには、診療報酬を2%以上引き下げることが必要だ。
 自民党政権時代は、診療報酬は日本医師会と族議員との間で事実上決められてきた。鳩山政権が「政治主導」を掲げ、医師会や族議員の影響力を排除したことで、各省が互いの主張を譲らず事態が迷走する状況になっている。

2009年12月14日月曜日

うつ病100万人超す…10年で2.4倍に

うつ病100万人超す…10年で2.4倍に
2009年12月4日 提供:読売新聞

軽症者の受診増加も一因
 抑うつなどの症状が続くうつ病の患者数(躁(そう)うつ病を含む)が、初めて100万人を超えたことが3日、厚生労働省が3年ごとに実施している患者調査でわかった。
 長引く不況などが背景とみられる一方、新しい抗うつ薬の登場が患者増につながっていると指摘する声もある。
 患者調査によると、うつ病が大半を占める「気分障害」の患者数は、1996年に43万3000人、99年は44万1000人とほぼ横ばいだったが、2002年調査から71万1000人と急増し、今回の08年調査では、104万1000人に達した。
 10年足らずで2・4倍に急増していることについて、杏林大保健学部の田島治教授(精神科医)は、「うつ病の啓発が進み、軽症者の受診増も一因」と指摘する。
 うつ病患者の増加は、新しいタイプの抗うつ薬が国内でも相次いで発売された時期と重なる。パナソニック健康保険組合予防医療部の冨高辰一郎部長(精神科医)は、「軽症のうつは自然に治るものも多い。しかし日本ではうつを早く発見し、薬を飲めば治るという流れが続いており、本来必要がない人までが、薬物治療を受けている面があるのではないか」と話す。

2010年度は国立の8割が赤字と予測

中央社会保険医療協議会
「大学病院は、国立も私立も死んでいる!」-山形大・嘉山氏
特定機能病院の危機を訴える、2010年度は国立の8割が赤字と予測
2009年12月10日 村山みのり


嘉山孝正氏(山形大学医学部長)
 11月27日の中医協において、委員の嘉山孝正氏(山形大学医学部長)は特定機能病院の現状について、約30分にわたりプレゼンテーションをした。中医協でこうしたヒアリングを行うのは異例のこと。
 嘉山氏は、特定機能病院が担っている医療とそれに必要な人員、収支の実態などについて解説し、「2010年度、8割の大学病院が赤字になる。このままだと大学病院は倒産する。それを避けるためには、特定機能病院の入院料を0.5倍増、DPC係数を1.9にして、2996億円(医療費総額の0.88%に相当)増やすことが必要」と訴えた。(嘉山氏の資料はこちら:『医療の最後の砦の現状』)
 「大学病院の低い人件費でも手術は赤字」
 プレゼンテーションの冒頭で、嘉山氏は日本の医療が世界的に非常に高いレベルであることを紹介。また、特定機能病院が、高難易度の手間のかかる医療を最後の砦として行っている現状について、データを示しつつ、「難しい医療を大学病院が赤字覚悟で背負っている」と強調した。例えば、山形大学では、脳腫瘍の開頭手術でも、患者と話をしながら、言語機能を確認しつつ行う、覚醒下脳手術を実施している。この手術を安全に行うためには、術者、多くの助手、麻酔科医、看護師、臨床工学技士がかかわるほか、学生も臨床実習の一環として参加していると説明した。
 このような手厚い人員配置の一方で、嘉山氏は「ここにお金は一銭もついてない」と指摘。そのため、多くのスタッフが関わることにより不採算・赤字となる。例えば、頭蓋内脳腫瘍摘出術の手術料は、8万2000点(82万円)。一方、機器使用料、人件費、消耗治療材料を合わせると、97万8013円。これは、大学病院の低い人件費で見積もった数字だが、それでも15万8013円(19.3%)の赤字になると試算した。
 通常の病院では、これほど難しい手術は行わないため、スタッフ数はより少なく済みながら同じ医療費になるとの実態があり、それが大学病院の問題として強調すべきことの一つだという。「低賃金長時間労働」の実態も大きな問題だとした。
 「大学病院の医師の人件費は医療費で賄われていない」
 2008年度の医療費の施設別割合を見ると、特定機能病院は全体の4.6%、1.57兆円となっている。しかし、嘉山氏は「実際はこの金額でやっているわけではない」と指摘する。大学病院の医師は文部教官であり、人件費は医療費ではなく、文部科学省による補助金等で賄われているためだ。例えば、東京大学病院の医療費の半分近くは補助金だったという。しかし、2004年度の国立大学の法人化により、この補助金が大幅に削減されたため、「大学がほとんど崩壊している」という。
 運営費交付金は、国立大学附属病院全体で2004年度は584億円だったが、2009年度は207億円にまで減少。法人化当初、大学病院の診療報酬収入を2%上げ、その代わりに交付金を減らす計画が立てられたが、実際には減額が増益をはるかに上回っており、国立大学法人は2009年度予算全体で197億円の赤字。私立医科大学についても、2008年度決算で80億円の赤字となっている。
 嘉山氏は「大学病院は、国立も私立ももう死んでいる。赤字部分は、大学本体からも補填している。私も病院長として様々な改革を行ったが、もうその限界を超えた。患者数もついに減った。ここまで大学は追い込まれている」と危機を訴える。また、同時に大学病院の建物について、スタッフが働いて得た医療費で借金を返しているとの実態にも触れ、「全部で1兆円の借金がある。財務省は、『大学病院は教育だ』と言うのならば、これを払うべきだ」と主張した。
 「約3000億円あれば、大学病院の窮状をなんとかできる」
嘉山氏資料より
 大学病院の財政状況のデータから、嘉山氏は「2010年度、8割の国立大学病院が赤字になる。現在大学は法人化されているので、不渡り手形を出すことになる。このままでは大学病院は倒産する。このような状況にあるのは、我々が大学で不採算部門をやってきた結果であり、良い悪いではなく、それが実態」と警鐘を鳴らす。
 この対応策として、嘉山氏は「大学病院が健全に医療費で自立するために、特定機能病院の入院料を0.5倍増、DPC係数を1.9にして、2996億円(医療費総額の0.88%に相当)増やせば、大学病院は何とかやっていける」と試算。「このような対策を講じずに“最後の砦”である大学病院が崩壊すると、医療難民が発生する。今日お話ししたこともデータ、エビデンスに基づいたもの。ここできちんと議論しなければならない」と主張した。
 最後に、嘉山氏は「今でも医療機関で医療費以外の税金を使っている部分はある。大学病院には文部科学省が、自治体病院には市町村がお金を投入してやっている。しかし、医療機関の健全な経営のためには、医療費で自立できるようにすることが重要だ」と結んだ。