2010年10月26日火曜日

日本の四季と宗教観 Dr.中川のがんから死生をみつめる/79

2010年10月24日 提供:毎日新聞社
Dr.中川のがんから死生をみつめる:/79 日本の四季と宗教観

 このところめっきり冷え込んできました。あの猛暑がうそのようです。もし、日本に四季がなかったらどんなにさびしいことでしょう。
 「春は花 夏ほととぎす 秋は月 冬雪さえてすずしかりけり」。良寛や川端康成も愛した道元の作です。夏に大汗をかき、冬の寒さに凍える思いをする。このような日本人の暮らしが、世界一の長寿の理由の一つではないかと思います。
 日本人の死生観の特徴として、一神教的な「絶対者」や「死後の世界」の不在があげられます。私たち日本人の多くが、「死んだらそれまで」という感覚を持っていると思いますし、「現世重視」という傾向は否定できないように感じます。このことも、四季の存在と無関係ではない気がします。
 世界では、宗教を持つことが当たり前です。もう20年前のことになりますが、湯川秀樹博士が存在を予言した「パイ中間子」を利用したがん治療の研究で、スイスの研究所に留学したことがありました。私の「雇用主」はスイス政府でしたから、それほどあやしい外国人ではなかったはずです。しかし、入国関係の書類の宗教の欄に、なにげなく「無」と書いたら、研究所の事務員が血相を変えて飛んできました。
 「宗教がない」と対外的に宣言すれば、テロリストとまではいかないでしょうけれど、変人に思われるから何か書いてくれというわけです。しぶしぶ「仏教」と記入したことを覚えています。研究所には、「自分は無神論者だ」という人もたくさんいましたが、彼らも、公的書類には「キリスト教」と書いていたのだと思います。
 キリスト教徒は約20億人、イスラム教徒は約13億人以上いるといわれます。世界の人口の半数近くがこの2大宗教を信仰していることになります。私たち日本人にとって理解しにくい一神教の世界観ですが、四季と美しい自然に恵まれた私たち日本人には、「一神教の神」は必要なかったのかもしれません。
 しかし、宗教は医療、とりわけがん治療に大きな影響を与えます。深まる秋に染まりながら、次回もこの問題を考えていきたいと思います。(中川恵一・東京大付属病院准教授、緩和ケア診療部長)

0 件のコメント: