http://www.mhlw.go.jp/shingi/2009/04/dl/s0430-4c.pdf
平成21年4月16日社会保障カード(仮称)の在り方に関する検討会作業班
2010年4月23日金曜日
2010年4月22日木曜日
新型インフルエンザの失策を合法化する厚労官僚たち
予防接種法改正は誰のため? - 医師・村重氏
新型インフルエンザの失策を合法化する厚労官僚たち
2010年4月21日 村重直子(医師)
新型インフルエンザのワクチンで注目を集めた予防接種法について、厚生労働省が今国会に提出した改正法案(PDF:151KB)は、4月13日参議院で可決され、4月14日から衆議院で審議中です。
参議院での投票結果を見ると(参議院のホームページを参照)、どの党でも、あまりにも完璧な党議拘束がかかっており、この国には言論の自由がないのかと改めて実感します。
これで、官僚が作った法案の内容を、国会議員が審議したことになってしまうのですから、官僚主導になるのも当然とうなずけます。
予防接種法は、ワクチン接種の対象疾患を一類疾病と二類疾病に分けていますが、「その発生及びまん延を予防することを目的」「個人の発病又はその重症化を防止し、併せてこれによりそのまん延の予防に資することを目的」という区別は、医学的にも現実的にも分けられないものを、机上のロジックで無理に分けているとしか思えません。
厚労官僚は、なぜこんな無理をしてまで、この二つを分けたのでしょうか。
実は、この区分が分けているものは、ワクチン接種後の重篤な副反応に対する無過失補償の金額なのです。
つまり、厚労省が払う補償金額を下げるために、二類を作ったわけです。国民にとっては、二類を作られたこと自体が、不利益となっているとも考えられます。
さらに、一類と二類という非現実的な区別が存在するために、以下のような、議論のための議論が不毛に繰り返されています。
予防接種法では、定期接種のほかに、臨時接種という類型を設けています。突発的に起こる新型インフルエンザのように、緊急的に政府がワクチン対策をしなければならないもののために、臨時接種があると言えます。
国の責任で対応できるように、予防接種法の一類疾病の項に、次の条文があります。
「前各号に掲げる疾病のほか、その発生及びまん延を予防するため特に予防接種を行う必要があると認められる疾病として政令で定める疾病」
新型インフルエンザにこれを適用すれば、今回のような法改正の必要はなく、政令で迅速に一類に追加し、臨時接種とすることができるのですが(2条2項8号、6条)、昨年、これをしなかった理由を、厚労官僚は国民に対してきちんと説明するべきです。
仮に、百歩譲って新型インフルエンザを二類とするとしても、「インフルエンザ」はもともと二類に規定されており、臨時接種が可能でした(6条)。昨年、新型インフルエンザにこのスキームを適用しなかった理由も、厚労官僚は国民に対して説明しなければなりません。
2010年1月27日の厚生科学審議会感染症分科会予防接種部会において、厚労官僚は「病原性が季節性インフルエンザと同程度のものであったため接種対象者に接種の努力義務を課すほどのものではないと判断」したため、臨時接種としなかったと説明しました(PDF:324KB)。
つまり、弱毒性だから努力義務を課すほどのものではないという説明ですが、努力義務というのは、本質的に国民の権利義務に影響はありません。
努力義務があってもなくても、接種をするかどうかは、本人の意思で決めることができます。
逆に、臨時接種にしなかった結果、副反応が起きた場合の国の補償制度の対象から外されてしまったことの方が、国民の権利を損ねる方向へ、大きな影響があったと言えます(2009年12月の特別措置法で、二類相当の補償を作りましたが、国民が受け取れる補償金額は一類よりもはるかに少ないのです)。
こうしたことも、厚労官僚が一方的に「臨時接種にしない」という判断を下してよいのではなく、意思決定プロセスをオープンにして、国民のメリット・デメリットをきちんと議論するべきではないでしょうか。
予防接種部会の厚労官僚の説明では、弱毒性の新型インフルエンザに対応する枠組みがなかったから、対応するため新たな枠組みを作るという趣旨でしたが、新たに作るのは二類の臨時接種です。つまり、弱毒性の新型インフルエンザは、二類の「インフルエンザ」(2条3項)に含まれることになります。昨年、二類の「インフルエンザ」には含まれないとして、新型インフルエンザを臨時接種にしなかったことと矛盾します。
今後、別のタイプの新型インフルエンザが発生した時、日本政府はワクチン対策をどうするつもりなのでしょうか。
これまでの厚労官僚の説明を聞いている限り、新型インフルエンザは、強毒性なら一類、弱毒性なら二類とする、という意味になります。
医学的にも現実的にも、この区別は不可能ですし、合理性がありません。
それに、致死率やどの程度重症化するか(強毒性か弱毒性か)は、感染拡大した後でしか分かりません。
それを待ってから一類か二類か決めるのでは手遅れになります。
感染拡大する前に、ワクチンを広く接種することが、政府として取るべき対策ではないでしょうか。
新型インフルエンザ発生時の混乱を助長し、ワクチン接種が手遅れとなる要因となるので、シンプルに、区別せず一つにまとめるべきではないでしょうか。
今回の法改正の主旨は、予防接種部会での厚労官僚の説明を聞いていた方はお分かりの通り、二類の臨時接種を作ることだったのですが、実はもともと二類の臨時接種はありました。
ではいったい、この法改正は何のためなのでしょうか。厚労官僚の説明によれば、この区別が分けるものは、無過失補償の金額を一類よりも低くすることなのです。
加えて、これまで公費負担だった臨時接種を、費用徴収(自己負担)可能としたのです。費用徴収するかどうかは、自治体の判断となります。
こうしてみると、今回の法改正は、政府として行うべき法定の臨時接種でありながら、国民が受け取れる無過失補償金額を下げ、接種費用は自己負担にできる枠組みを作った。つまり国民の権利を損ねる法改正であると言うこともできます。
それだけではありません。必要なワクチン接種を推進するためには、フィードバックが必要です。接種を始めた後も、副作用報告などのデータが集まっていますから、そのデータベースを多くの人々が利用できるように、公開しなければなりません。
そうすれば、多様な視点から、臨床的有効性や副作用頻度などの分析結果がたくさん発表され、検証や改善が進むでしょう。
さらに、副作用が起きてしまった人々をみんなで支えていくための、十分な無過失補償と免責制度も必要です。
一類か二類かという不毛な議論に振り回されるのではなく、データベース公開や無過失補償・免責制度など、本当に必要なことを、皆さんに広く議論していただきたいと思います。
筆者プロフィール 村重 直子(むらしげ なおこ)氏
1998年東京大学医学部卒業。横須賀米海軍病院、ベス・イスラエル・メディカルセンター内科(ニューヨーク)、国立がんセンター中央病院を経て、2005年厚生労働省に医系技官として入省。
2008年3月から舛添前厚労大臣の改革準備室、7月改革推進室、2009年7月から大臣政策室。
2009年10月から仙谷大臣室(行政刷新担当、当時)、2010年3月退職)。
新型インフルエンザの失策を合法化する厚労官僚たち
2010年4月21日 村重直子(医師)
新型インフルエンザのワクチンで注目を集めた予防接種法について、厚生労働省が今国会に提出した改正法案(PDF:151KB)は、4月13日参議院で可決され、4月14日から衆議院で審議中です。
参議院での投票結果を見ると(参議院のホームページを参照)、どの党でも、あまりにも完璧な党議拘束がかかっており、この国には言論の自由がないのかと改めて実感します。
これで、官僚が作った法案の内容を、国会議員が審議したことになってしまうのですから、官僚主導になるのも当然とうなずけます。
予防接種法は、ワクチン接種の対象疾患を一類疾病と二類疾病に分けていますが、「その発生及びまん延を予防することを目的」「個人の発病又はその重症化を防止し、併せてこれによりそのまん延の予防に資することを目的」という区別は、医学的にも現実的にも分けられないものを、机上のロジックで無理に分けているとしか思えません。
厚労官僚は、なぜこんな無理をしてまで、この二つを分けたのでしょうか。
実は、この区分が分けているものは、ワクチン接種後の重篤な副反応に対する無過失補償の金額なのです。
つまり、厚労省が払う補償金額を下げるために、二類を作ったわけです。国民にとっては、二類を作られたこと自体が、不利益となっているとも考えられます。
さらに、一類と二類という非現実的な区別が存在するために、以下のような、議論のための議論が不毛に繰り返されています。
予防接種法では、定期接種のほかに、臨時接種という類型を設けています。突発的に起こる新型インフルエンザのように、緊急的に政府がワクチン対策をしなければならないもののために、臨時接種があると言えます。
国の責任で対応できるように、予防接種法の一類疾病の項に、次の条文があります。
「前各号に掲げる疾病のほか、その発生及びまん延を予防するため特に予防接種を行う必要があると認められる疾病として政令で定める疾病」
新型インフルエンザにこれを適用すれば、今回のような法改正の必要はなく、政令で迅速に一類に追加し、臨時接種とすることができるのですが(2条2項8号、6条)、昨年、これをしなかった理由を、厚労官僚は国民に対してきちんと説明するべきです。
仮に、百歩譲って新型インフルエンザを二類とするとしても、「インフルエンザ」はもともと二類に規定されており、臨時接種が可能でした(6条)。昨年、新型インフルエンザにこのスキームを適用しなかった理由も、厚労官僚は国民に対して説明しなければなりません。
2010年1月27日の厚生科学審議会感染症分科会予防接種部会において、厚労官僚は「病原性が季節性インフルエンザと同程度のものであったため接種対象者に接種の努力義務を課すほどのものではないと判断」したため、臨時接種としなかったと説明しました(PDF:324KB)。
つまり、弱毒性だから努力義務を課すほどのものではないという説明ですが、努力義務というのは、本質的に国民の権利義務に影響はありません。
努力義務があってもなくても、接種をするかどうかは、本人の意思で決めることができます。
逆に、臨時接種にしなかった結果、副反応が起きた場合の国の補償制度の対象から外されてしまったことの方が、国民の権利を損ねる方向へ、大きな影響があったと言えます(2009年12月の特別措置法で、二類相当の補償を作りましたが、国民が受け取れる補償金額は一類よりもはるかに少ないのです)。
こうしたことも、厚労官僚が一方的に「臨時接種にしない」という判断を下してよいのではなく、意思決定プロセスをオープンにして、国民のメリット・デメリットをきちんと議論するべきではないでしょうか。
予防接種部会の厚労官僚の説明では、弱毒性の新型インフルエンザに対応する枠組みがなかったから、対応するため新たな枠組みを作るという趣旨でしたが、新たに作るのは二類の臨時接種です。つまり、弱毒性の新型インフルエンザは、二類の「インフルエンザ」(2条3項)に含まれることになります。昨年、二類の「インフルエンザ」には含まれないとして、新型インフルエンザを臨時接種にしなかったことと矛盾します。
今後、別のタイプの新型インフルエンザが発生した時、日本政府はワクチン対策をどうするつもりなのでしょうか。
これまでの厚労官僚の説明を聞いている限り、新型インフルエンザは、強毒性なら一類、弱毒性なら二類とする、という意味になります。
医学的にも現実的にも、この区別は不可能ですし、合理性がありません。
それに、致死率やどの程度重症化するか(強毒性か弱毒性か)は、感染拡大した後でしか分かりません。
それを待ってから一類か二類か決めるのでは手遅れになります。
感染拡大する前に、ワクチンを広く接種することが、政府として取るべき対策ではないでしょうか。
新型インフルエンザ発生時の混乱を助長し、ワクチン接種が手遅れとなる要因となるので、シンプルに、区別せず一つにまとめるべきではないでしょうか。
今回の法改正の主旨は、予防接種部会での厚労官僚の説明を聞いていた方はお分かりの通り、二類の臨時接種を作ることだったのですが、実はもともと二類の臨時接種はありました。
ではいったい、この法改正は何のためなのでしょうか。厚労官僚の説明によれば、この区別が分けるものは、無過失補償の金額を一類よりも低くすることなのです。
加えて、これまで公費負担だった臨時接種を、費用徴収(自己負担)可能としたのです。費用徴収するかどうかは、自治体の判断となります。
こうしてみると、今回の法改正は、政府として行うべき法定の臨時接種でありながら、国民が受け取れる無過失補償金額を下げ、接種費用は自己負担にできる枠組みを作った。つまり国民の権利を損ねる法改正であると言うこともできます。
それだけではありません。必要なワクチン接種を推進するためには、フィードバックが必要です。接種を始めた後も、副作用報告などのデータが集まっていますから、そのデータベースを多くの人々が利用できるように、公開しなければなりません。
そうすれば、多様な視点から、臨床的有効性や副作用頻度などの分析結果がたくさん発表され、検証や改善が進むでしょう。
さらに、副作用が起きてしまった人々をみんなで支えていくための、十分な無過失補償と免責制度も必要です。
一類か二類かという不毛な議論に振り回されるのではなく、データベース公開や無過失補償・免責制度など、本当に必要なことを、皆さんに広く議論していただきたいと思います。
筆者プロフィール 村重 直子(むらしげ なおこ)氏
1998年東京大学医学部卒業。横須賀米海軍病院、ベス・イスラエル・メディカルセンター内科(ニューヨーク)、国立がんセンター中央病院を経て、2005年厚生労働省に医系技官として入省。
2008年3月から舛添前厚労大臣の改革準備室、7月改革推進室、2009年7月から大臣政策室。
2009年10月から仙谷大臣室(行政刷新担当、当時)、2010年3月退職)。
2010年4月5日月曜日
医師が国に勝訴、「保険医登録取消処分は違法」
山梨地裁、小児科医の訴え認める、「行政の裁量にも限度あり」
2010年3月31日 橋本佳子(m3.com編集長)
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みぞべこどもクリニック(山梨県甲府市)院長の溝部達子氏が、保険医療機関の指定取消と保険医登録取消という二つの処分の取り消しを求め、国を提訴していた裁判で、山梨地裁は3月31日、原告の訴えを認める判決を下した。ただし、国に求めていた損害賠償(10万円)は認められなかった。
溝部氏は、無診察投薬等で監査を受け、41万7845円(不正請求34万2176円、不当請求7万5669円)、2005年11月に二つの取消処分を受けていた。溝部氏は同月に提訴、翌2006年2月に裁判所は処分の執行停止を決定している(溝部氏はその後、保険診療を再開)。みぞべこどもクリニックの存続を求めた患者らによる「山梨の小児医療を考える会」が発足、2万8000人分以上の署名を集め、行政に働きかけるなどの動きもあった。
判決で取消処分が違法だとした理由について、代理人の石川善一弁護士は、「判決は、健康保険法に基づく指導・監査には、行政の大きな裁量権があるとしながらも、その裁量権には限度があるとしている。今回の取消処分は、社会通念上、著しく妥当性を欠くことが明らかであり、裁量権の範囲を逸脱していると判断された」と説明。
溝部氏は判決の感想について、「ほっとしているが、国は控訴すると思う。保険の審査、指導、監査については、合理的かつ明確なルールがなく、行政の裁量権は大きい。今回、提訴したのは、こうした事実を明らかにし、この問題を広く知ってもらい、行政庁、医療者、患者などに考えてもらうことが目的。医療を崩壊させずに、患者本位の医療ができるようなルールを作ってもらいたい」と語った。
関東信越厚生局では、「判決を精査して控訴するかどうかを決定する」としている。
判決後、自院で記者会見する溝部達子氏(左)と代理人の石川善一弁護士(右)。裁判所の傍聴席と記者会見には、患者家族が多数訪れていた。
「個別指導は、取り調べ・捜査だった」
溝部氏は、2004年9月、2005年1月、同年2月の3回、個別指導を受けた。その内容は、「指導ではなく、取り調べ・捜査だった」と溝部氏は裁判の陳述書で述べている。2005年3月に監査を受け、同年11月に取消処分を受けた。
溝部氏は、夜10時、11時まで診察することも多かった上に、病児保育を手がけていた。1回目の個別指導では、点滴の本数や薬の量などが問題にされたが、2回目以降は無診察投薬などが問題視された。例えば、兄弟の一方が受診し、同様の症状を持つ患者家族に診察をせずに抗インフルエンザウイルス薬を処方するケースなどがあった。
判決では、「(保険医あるいは保険医療機関の指定の取り消しに関する)国の裁量にも限度があるというべきであって、処分理由となった行為の態様、利得の有無とその金額、頻度、動機、他に取りうる措置がなかったかどうか等を勘案して、違反行為の内容に比してその処分が社会通念上著しく妥当性を欠くことが明らかである場合には、裁量権の範囲を逸脱しまたはその濫用があったものとして違法となる」としている。
その上で、溝部氏の処分について、「原告の行為は、いずれも保険診療上許容されるべきものではなく、長期間にわたっている」と厳しい判断を下しつつ、(1)患者のためを思っての行為であり、悪質性が高いとまでは言えないものが占める割合が多い、(2)金額は多額ではない、(3)不正・不当請求も、原告自らの利益のみを追求するものではなく、患者の希望や要請に基づいて診察・処方している、(4)個別指導を行った上で、経過観察したり、再度指導をするなどの方法や、監査を行った上で他の処分も行うことも可能だった、などとした。
石川氏の知る範囲では、同様に保険医登録等の取消処分の取り消しを求めた裁判は2件あるという。いずれも地裁では、取消処分の取り消しが認められたものの、1件は高裁で逆転判決(確定)、もう1件は高裁で係争中だ。高裁で確定した判決は、溝部氏の判決と同様に、行政の裁量権が問題になり、ほぼ同じ考え方で処分の違法性が判断されたという。
曖昧な処分基準の見直しが不可欠
溝部氏が一番問題視していたのは、無診察投薬の有無ではなく、監査を受け、保険医登録の取り消し等を受けた点だ。「指導・監査を経て、私の診療上の問題点が明らかになってからは、社会保険事務局の言う無診察処方、その他の不正・不当とされる診療はしていない」(溝部氏)。
保険医療機関や保険医に対する、健康保険法に基づく指導・監査は、指導大綱・監査要綱に基づき実施される。
監査の対象となるのは、診療内容または診療報酬の請求に不正または著しい不当があったことを疑うに足る理由があるとき、度重なる個別指導でも診療内容または診療報酬の請求に改善が見られないときなど。監査の結果、保険医登録あるいは保険医療機関指定の取消・戒告・注意の処分が行われる。
もっとも、溝部氏の指摘のように、処分の基準は明確ではない。保険の取消は、「故意に不正または不当な診療を行ったもの」「重大な過失により、不正または不当な診療をしばしば行ったもの」など、戒告の対象は「重大な過失により、不正または不当な診療を行ったもの」「軽微な過失により、不正または不当な診療をしばしば行ったもの」など、注意は「軽微な過失により、不正または埠頭な心労を行ったもの」などと定められているだけだ。
何が監査の対象になるのか、さらに「故意」「重大な過失」「軽微な過失」に該当するか、また「しばしば」の程度などは明確ではない。換言すれば、行政の裁量範囲は広い。
前述のように今回の判決は、「行政に大きな裁量権がある」ことを前提に判断している。石川氏は、「健康保険法の裁量権の範囲自体を問題視するのは、立法論になるため、今回の裁判では踏み込んでいない」としながらも、「健康保険法の改正は必要」と求めている。
2010年3月31日 橋本佳子(m3.com編集長)
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みぞべこどもクリニック(山梨県甲府市)院長の溝部達子氏が、保険医療機関の指定取消と保険医登録取消という二つの処分の取り消しを求め、国を提訴していた裁判で、山梨地裁は3月31日、原告の訴えを認める判決を下した。ただし、国に求めていた損害賠償(10万円)は認められなかった。
溝部氏は、無診察投薬等で監査を受け、41万7845円(不正請求34万2176円、不当請求7万5669円)、2005年11月に二つの取消処分を受けていた。溝部氏は同月に提訴、翌2006年2月に裁判所は処分の執行停止を決定している(溝部氏はその後、保険診療を再開)。みぞべこどもクリニックの存続を求めた患者らによる「山梨の小児医療を考える会」が発足、2万8000人分以上の署名を集め、行政に働きかけるなどの動きもあった。
判決で取消処分が違法だとした理由について、代理人の石川善一弁護士は、「判決は、健康保険法に基づく指導・監査には、行政の大きな裁量権があるとしながらも、その裁量権には限度があるとしている。今回の取消処分は、社会通念上、著しく妥当性を欠くことが明らかであり、裁量権の範囲を逸脱していると判断された」と説明。
溝部氏は判決の感想について、「ほっとしているが、国は控訴すると思う。保険の審査、指導、監査については、合理的かつ明確なルールがなく、行政の裁量権は大きい。今回、提訴したのは、こうした事実を明らかにし、この問題を広く知ってもらい、行政庁、医療者、患者などに考えてもらうことが目的。医療を崩壊させずに、患者本位の医療ができるようなルールを作ってもらいたい」と語った。
関東信越厚生局では、「判決を精査して控訴するかどうかを決定する」としている。
判決後、自院で記者会見する溝部達子氏(左)と代理人の石川善一弁護士(右)。裁判所の傍聴席と記者会見には、患者家族が多数訪れていた。
「個別指導は、取り調べ・捜査だった」
溝部氏は、2004年9月、2005年1月、同年2月の3回、個別指導を受けた。その内容は、「指導ではなく、取り調べ・捜査だった」と溝部氏は裁判の陳述書で述べている。2005年3月に監査を受け、同年11月に取消処分を受けた。
溝部氏は、夜10時、11時まで診察することも多かった上に、病児保育を手がけていた。1回目の個別指導では、点滴の本数や薬の量などが問題にされたが、2回目以降は無診察投薬などが問題視された。例えば、兄弟の一方が受診し、同様の症状を持つ患者家族に診察をせずに抗インフルエンザウイルス薬を処方するケースなどがあった。
判決では、「(保険医あるいは保険医療機関の指定の取り消しに関する)国の裁量にも限度があるというべきであって、処分理由となった行為の態様、利得の有無とその金額、頻度、動機、他に取りうる措置がなかったかどうか等を勘案して、違反行為の内容に比してその処分が社会通念上著しく妥当性を欠くことが明らかである場合には、裁量権の範囲を逸脱しまたはその濫用があったものとして違法となる」としている。
その上で、溝部氏の処分について、「原告の行為は、いずれも保険診療上許容されるべきものではなく、長期間にわたっている」と厳しい判断を下しつつ、(1)患者のためを思っての行為であり、悪質性が高いとまでは言えないものが占める割合が多い、(2)金額は多額ではない、(3)不正・不当請求も、原告自らの利益のみを追求するものではなく、患者の希望や要請に基づいて診察・処方している、(4)個別指導を行った上で、経過観察したり、再度指導をするなどの方法や、監査を行った上で他の処分も行うことも可能だった、などとした。
石川氏の知る範囲では、同様に保険医登録等の取消処分の取り消しを求めた裁判は2件あるという。いずれも地裁では、取消処分の取り消しが認められたものの、1件は高裁で逆転判決(確定)、もう1件は高裁で係争中だ。高裁で確定した判決は、溝部氏の判決と同様に、行政の裁量権が問題になり、ほぼ同じ考え方で処分の違法性が判断されたという。
曖昧な処分基準の見直しが不可欠
溝部氏が一番問題視していたのは、無診察投薬の有無ではなく、監査を受け、保険医登録の取り消し等を受けた点だ。「指導・監査を経て、私の診療上の問題点が明らかになってからは、社会保険事務局の言う無診察処方、その他の不正・不当とされる診療はしていない」(溝部氏)。
保険医療機関や保険医に対する、健康保険法に基づく指導・監査は、指導大綱・監査要綱に基づき実施される。
監査の対象となるのは、診療内容または診療報酬の請求に不正または著しい不当があったことを疑うに足る理由があるとき、度重なる個別指導でも診療内容または診療報酬の請求に改善が見られないときなど。監査の結果、保険医登録あるいは保険医療機関指定の取消・戒告・注意の処分が行われる。
もっとも、溝部氏の指摘のように、処分の基準は明確ではない。保険の取消は、「故意に不正または不当な診療を行ったもの」「重大な過失により、不正または不当な診療をしばしば行ったもの」など、戒告の対象は「重大な過失により、不正または不当な診療を行ったもの」「軽微な過失により、不正または不当な診療をしばしば行ったもの」など、注意は「軽微な過失により、不正または埠頭な心労を行ったもの」などと定められているだけだ。
何が監査の対象になるのか、さらに「故意」「重大な過失」「軽微な過失」に該当するか、また「しばしば」の程度などは明確ではない。換言すれば、行政の裁量範囲は広い。
前述のように今回の判決は、「行政に大きな裁量権がある」ことを前提に判断している。石川氏は、「健康保険法の裁量権の範囲自体を問題視するのは、立法論になるため、今回の裁判では踏み込んでいない」としながらも、「健康保険法の改正は必要」と求めている。
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