2026年6月19日金曜日

心の教育でいじめはなくなるか?

 いじめは現代日本だけに限った現象ではなく、人類共通の現象であるということです。
~中略~
 ところが、今の日本では「心の教育」をすれば、いじめをしない子どもができるという前提で議論が進んでいます。ここに私は、今の日本のおかしさが潜んでいると思うのです。
 改めて言うまでもなく、「いじめをする心」を教育によって修正することができるという発想は、旧ソ連や中国で行われた「イデオロギー教育」と何ら変わるところはありません。

日本の「安心」はなぜ、消えたのか 社会心理学から見た現代日本の問題点
山岸 俊男 (著)
集英社インターナショナル (2008/2/26)
P30

日本の「安心」はなぜ、消えたのか 社会心理学から見た現代日本の問題点

日本の「安心」はなぜ、消えたのか 社会心理学から見た現代日本の問題点

  • 作者: 山岸 俊男
  • 出版社/メーカー: 集英社インターナショナル
  • 発売日: 2008/02/26
  • メディア: 単行本


豊田漁港 愛媛県

安心社会と信頼社会

P239
 本書をここまで読み進めてこられた読者は、すでによくお分かりだと思いますが、この地球上には安心社会と信頼社会という二種類の社会が存在します。
 おさらいになってしまいますが、メンバー同士の相互監視や制裁といった仕掛けを通じて、人間同士の結びつきの不確実さを解消していこうとするのが安心社会んのありかたです。
 このような社会に生きる人たちにとって、集団の外にいる人たち、つまり、「よそ者」との関係を持つことは歓迎されません。外部の人間は彼らにとっては「他人」であり、「泥棒」同然の存在というわけです。
 集団主義社会に暮らす人たちにとっての最優先事項は、集団内部の安定を維持することになります。すなわち、身内と波風を立てずに生きてゆくことがなによりも大切だというわけで、集団内部の人間関係をうまく感知する能力も自然に発達していきます。また、こうした社会では他の仲間から排除されないために、なるべく控え目に行動するという行動原理が自然と身についていくことになるでしょう。
 これに対して、信頼社会とは社会が提供する「安心」に頼るのではなく、自らの責任で、リスクを覚悟で他者と人間関係を積極的に結んでいこうという人々の集まりです。
 このような社会で生きて行くには、他人から裏切られたり騙されたりするリスクはつきものなのですが、そのリスクを計算に入れても、他者と協力関係を結ぶことによって得られるメリットのほうが大きいと考えるのが信頼社会の人々の発想です。

~中略~
 このように、安心社会と信頼社会は全く違う原理で動いている社会であるわけですが、ここでぜひ強調しておきたいことが一つあります。
 それは安心社会と信頼社会はそれぞれに完結した社会であって、一方の社会のほうがもう一方に比べて劣っているとか、遅れているということは全くないということです。安心社会には安心社会の利点があり、信頼社会には信頼社会の利点があって、どちらかだけが正しいということはありえません。
 歴史的に見れば、安心社会のほうがずっと長い伝統を持っていて、信頼社会は比較的新しく生まれた社会ではありますが、だからといってこれからは信頼社会が主流で、安心社会がなくなっていくというわけでもないでしょう。
なぜならば、戦乱が続いたりあるいは飢饉などが起きるといった不穏な状況になれば、信頼社会よりも安心社会のほうがずっと安定した社会を提供できるという利点があるからです。

P241
 さて、おそらくこれからも人類社会は安心社会と信頼社会の二本立てで進んでいくのではないかと予測できるわけですが、こうした二種類の社会がそれぞれに独立した「モラルの体系」を作り出していることを初めて指摘した人がカナダ人の学者ジェイン・ジェイコブズでした。
 彼女は都市論や経済学など、さまざまな分野で優れた著作を何冊も遺して、つい先日なくなったのですが、その彼女が書いた本に「市場の倫理 統治の倫理」(香西泰・訳 日経ビジネス人文庫)という本があります。
 ジェイコブスは古今東西の道徳律を調べていく中で、人類には二種類のモラルの体系があるということを発見しました。それが「市場の倫理」であり、もう一つが「統治の倫理」です。市場の倫理とは分かりやすく言うならば「商人道」、「統治の倫理とはすなわち「武士道」だと理解しておけば、まず間違いないでしょう。
~中略~
 これらの二つのモラル体系を紹介したのち、ジェイコブスはこう言います。
えてして人間は、統治の倫理と市場の倫理という二大モラル体系を合体させれば、最高にして最良のモラルが出来上がると考えてしまうのだが、実はそれこそが大間違いである。それどころか、この二つのモラルを混ぜて使ってしまったとき、「救いがたい腐敗」が始まってしまうのである―と。
 ではいったい、なぜ武士道と商人道の二つのモラルを混用してはいけないのでしょうか。  その理由は、この二つのモラル体系が目指す世界はまったく対立するものであって、その二つのモラルを混ぜることは大いなる矛盾と混乱を社会にもたらすばかりでなく、最終的には「何をやってもかまわない」という究極的な堕落を産み出すことになってしまうからだというのです。
~中略~

 このように「市場の倫理」と「統治の倫理」はけっして組み合わせてはいけないものであるわけですが、身分制が厳密にあった時代には、統治者の社会と商人の社会は別のものであったので問題が起きる心配はほとんどありませんでした。
 しかし、今日のように身分制がなくなった民主制度の時代においては、統治者と商人の境がなくなってしまいました。このために、この二つの道徳律がしばしば混同されるようになったので、さまざまな問題が起きているのだとジェイコブズは指摘しています。

日本の「安心」はなぜ、消えたのか 社会心理学から見た現代日本の問題点
山岸 俊男 (著)
集英社インターナショナル (2008/2/26)

日本の「安心」はなぜ、消えたのか 社会心理学から見た現代日本の問題点

日本の「安心」はなぜ、消えたのか 社会心理学から見た現代日本の問題点

  • 作者: 山岸 俊男
  • 出版社/メーカー: 集英社インターナショナル
  • 発売日: 2008/02/26
  • メディア: 単行本


豊田漁港 愛媛県

精神的に健康であるということ

P100
  まず、自分を受け入れることが一つの条件です。
アドラーはいいます。「大切なことは何があたえられているかではなく、与えられているものをどう使うかである」と(「神経症の諸問題」Problems of Neurosis,P.4)。
自分という道具はたしかに癖があるけれども、大切なことはこれをどうやって使いこなすかということです。そのためにはこの自分という道具を好きになる、あるいは英語の表現でいうと自分を受け入れる(accept)ことができなければなりません。

P104
しかし自分のことを受け入れる、自分のことが好きであるだけでは十分ではありません。
まわりの人は隙があれば自分を陥れようとしている敵である、と考えていたのでは、たとえ自分が好きであっても、そのような人のライフスタイルは健康であるとはいえませんし、幸福であることもできません。人に対して敵対的であり、敵国の中にいていつも危険にさらされている、と感じているからです(「個人心理学講義」九六頁)。

P106
自己受容もできる、他の人も信頼できる・・・・それだけでは十分ではありません。まわりの人はいい人だけれど、自分はまったくの役立たずだ、と思っていると幸福になることはできません。
人から受けるだけではなく他の人に与える、あるいは、他の人から受けるだけではなく返すということがなければなりません。

P110
自己受容、他者信頼、他者貢献はどれ一つ欠くことができません。他の人に貢献できる自分が受け入れられるのであり、貢献するためには他の人を信頼できていなければならないからです。

アドラー心理学入門―よりよい人間関係のために
岸見 一郎 (著)
KKベストセラーズ (1999/09) 

アドラー心理学入門―よりよい人間関係のために (ベスト新書)

アドラー心理学入門―よりよい人間関係のために (ベスト新書)

  • 作者: 岸見 一郎
  • 出版社/メーカー: ベストセラーズ
  • 発売日: 1999/09/01
  • メディア: 新書

 

やまえだの浜 北九州市門司区

可用性バイアス


誰がどういう選択をしたかという話は、私たち全てが自分自身あるいは自分の住む世界をどう理解するかに強力な影響を与える。
こうした心情の形成は、親が話してくれる物語を聞いたり、寝る前に童話を読んだりする子供時代にすでに始まる。
さらに大きくなるにつれ、同僚や友人、知り合いの経験談も耳にするようになってくる。また、本や雑誌、映画、テレビそしてインターネットでも様々な話を見聞きする。
そして、このような話を聞くとき、私たちはその話の中に自分自身を見いだそうとする。同じ状況だったら、自分の人生はどんなだろう、自分だったらどんな選択をするだろう、と想像するのだ。
こうした個々の話が私たちの思考に与える強い影響力のことを、認知心理学者は「可用性バイアス」と呼ぶ。ある種の物語や「クチコミ」は、それがドラマチックで珍しい話であればいっそう、私たちの心にしっかりと刷り込まれる。

決められない患者たち
Jerome Groopman MD (著), Pamela Hartzband MD (著), 堀内 志奈 (翻訳)
医学書院 (2013/4/5)
P19

決められない患者たち

決められない患者たち

  • 出版社/メーカー: 医学書院
  • 発売日: 2013/04/05
  • メディア: 単行本

 

P20
こうした他人の話には安心感を与えるものもあれば、逆に不安感をあおるものもあるが、いずれにしてもその人の志向に与える影響は大きい。
ありありと感じられるそれぞれの話は、起るかもしれない未来の姿を映した鏡のようなものとなる。
おそらく可用性バイアスは、患者が治療の選択をするとき最初にどう判断するかに最も強く、普遍的に影響している力だ。

P148
医療上の決断を下す上で、こうしたアプローチ(住人注;数字よりも、治療してどうだったとかその後の生活についての経験談といったひとの話を判断基準にする)をとることに懸念を抱く研究者もいる。あくまでも経験談は「nは1」の個人に限定した話に過ぎず、これはその強い影響力故に考えが歪められてしまう可能性、すなわちを招く危険がある、というのだ。
だが、将来実際に経験することを予見することがいかに難しいかを示した画期的な研究著作で知られるハーバード大学のダニエル・ギルバートは、他人の個人的な経験を聞くことがこうした決断を下すとき、時に最も有用であることを明らかにしている。
とりわけサイエンス誌に掲載された「隣人のアドバイスの驚くべき力」と題した論説は注目に値する。
その中で、他人の経験を知ることによって自分自身が将来体験するであろうことを正確に予測できる可能性が高くなることをギルバートは示している。そこで鍵となるのは、もちろん、自分と似たような境遇のひとを見つける、ということである。

決められない患者たち

決められない患者たち

  • 出版社/メーカー: 医学書院
  • 発売日: 2013/04/05
  • メディア: 単行本

 

やまえだの浜 北九州市門司区

人は食事中に知った人や物や情報を好きになる

  心理学者グレゴリー・ラズランは一九三〇年代に一連の実験を行い、人は食事中に知った人や物や情報を好きになると発表した。
おいしい食事が人の気持ちをしあわせにし、判断がいつもより早く衝動的になるためらしい。
また最近の研究によると、カフェイン入りのものを飲んだ人は、相手の意見に動かされやすくなるという。
つまり、ひとにおごられたランチやコーヒーは、結局高くつくということだ。

その科学が成功を決める
リチャード ワイズマン (著), Richard Wiseman (原著), 木村 博江 (翻訳)
文藝春秋 (2012/9/4)
P69

その科学が成功を決める (文春文庫)

その科学が成功を決める (文春文庫)

  • 出版社/メーカー: 文藝春秋
  • 発売日: 2012/09/04
  • メディア: 文庫

 

 人間食べている時も原則として人を憎まない。しかし現代人の一つの特徴は、ほとんど人を食事に招くということがなくなったことだ。昔の母たちの世代は、よく家に人を招いて、手料理で食事をしていた。
 喋っている時と、一緒に食べている時には殺さない。この原理は国際的な粉争を防ぐ時にも当てはまるような気がする。

人生の原則
曾野 綾子 (著)
河出書房新社 (2013/1/9)
P93

人生の原則

人生の原則

  • 作者: 曾野 綾子
  • 出版社/メーカー: 河出書房新社
  • 発売日: 2013/01/09
  • メディア: 単行本(ソフトカバー)

 

イノダコーヒ 本店 京都市

自分を愛せ

なんでもっと自分を愛さないのか。
もっと自分の財産を守れ。
それは何もゼニの財産ではないの。
精神の財産かもしれない。自分のプライドも財産でしょ。
自己の主張をしっかり持つことも自分の財産ですよ。
だから、もっともっと自分のことは最低限責任を持たんと。
矢沢永吉

大山 くまお (著)
名言力 人生を変えるためのすごい言葉 
ソフトバンククリエイティブ (2009/6/16)
P229

名言力 人生を変えるためのすごい言葉 (SB新書)

名言力 人生を変えるためのすごい言葉 (SB新書)

  • 作者: 大山 くまお
  • 出版社/メーカー: SBクリエイティブ
  • 発売日: 2009/06/16
  • メディア: 新書

 

誰かのために生きるなんて、もうその発想が間違ってたのね。人間って、まずは自分のために生きなきゃ駄目なの。
親でも子でもない、自分のために自分の人生を生きる。 そうやって自分を生きて初めて、「誰かのため」に生きることができるの。

これは私が介護から学んだ、最大の教訓。
だって、じぶんがいなきゃ相手をしあわせにすることなんてできないでしょ?
 音楽活動を休止したときの私は、まさに「自分」を捨てた状態でした。
綾戸智恵

40歳の教科書NEXT──自分の人生を見つめなおす ドラゴン桜公式副読本『16歳の教科書』番外編
モーニング編集部 (編集), 朝日新聞社 (編集)
講談社 (2011/4/22)
P167

 

40歳の教科書NEXT──自分の人生を見つめなおす ドラゴン桜公式副読本『16歳の教科書』番外編

40歳の教科書NEXT──自分の人生を見つめなおす ドラゴン桜公式副読本『16歳の教科書』番外編

  • 出版社/メーカー: 講談社
  • 発売日: 2011/04/22
  • メディア: 単行本(ソフトカバー)

 

 

001
 自分を尊敬すれば、悪いことなんてできなくなる。人間として軽蔑されるような行為をしなくなるものだ。
 そういうふうに生き方が変わって、理想に近い自分、他の人も見習いたくなるような人間になていくことができる。
「力への意志」

099
 悪い人間には共通点があるのを知っているかな。悪人たちのその共通点とは、自分を憎んでいるということだ。
 自分を憎んでいるから悪いことをするのだ。悪事は自分を傷つけ、かつ罰することができるからだ。
だから、彼らは破壊への道を転がり続けていく。
「曙光」

超訳 ニーチェの言葉
白取 春彦 (翻訳)
ディスカヴァー・トゥエンティワン (2010/1/12)

 

超訳 ニーチェの言葉 (ディスカヴァークラシックシリーズ)

超訳 ニーチェの言葉 (ディスカヴァークラシックシリーズ)

  • 出版社/メーカー: ディスカヴァー・トゥエンティワン
  • 発売日: 2010/01/12
  • メディア: 単行本

 

 

 

自分は究極的には自分のことを考えて生きている、と考えていけない理由はありません。
むしろ、あなたのためを思っていっているという人がいれば本当にそうなのだろうか、と疑いたくなります。
自分が本当に望んでいることは何か、と常に考えてみます。

アドラー心理学入門―よりよい人間関係のために
岸見 一郎 (著)
KKベストセラーズ (1999/09)
P155 

 

アドラー心理学入門―よりよい人間関係のために (ベスト新書)

アドラー心理学入門―よりよい人間関係のために (ベスト新書)

  • 作者: 岸見 一郎
  • 出版社/メーカー: ベストセラーズ
  • 発売日: 1999/09/01
  • メディア: 新書

 

 

日本が過去にしたことがすべて正当化できるわけではありませんから、日本人が自国を批判することも大切です。
しかし「日の丸」掲揚反対、「君が代」斉唱反対などといって、しかもそれが良心的日本人の証しだと思いこんで、日本はたいした国ではないと他人事みたいな口をきいている。
しかし自国に対して自敬の念self-respectのある人こそ、隣人や隣国をも大切にする人ではないでしょうか。

日本人に生まれて、まあよかった
平川 祐弘 (著)
新潮社 (2014/5/16)
P22

 

日本人に生まれて、まあよかった (新潮新書)

日本人に生まれて、まあよかった (新潮新書)

  • 作者: 平川 祐弘
  • 出版社/メーカー: 新潮社
  • 発売日: 2014/05/16
  • メディア: 新書

 

 

 

 

ナディーヌ・ロスチャイルドという人がいます。エドモンド・ベンジャミン・ジェームズ・ロスチャイルド男爵の夫人となった女性です。
 ご存知の方も多いかもしれませんが、ナディーヌは、ユダヤ人でもなく、大富豪でもなく、名家の出でもありませんでした。
もともと貧しい家庭に生まれ育ち、中学卒業と同時に家を飛び出して、印刷所や町工場などで必死に働き、やがて小劇場の女優となるのですが、大人気スターというわけでもなく、誰もが一目置く美人というわけでもありませんでした。
 そんな彼女が、あるとき、世界の大富豪であるエドモンド・ロスチャイルド男爵と出会い、求婚されるのです。
 ロスチャイルド夫人となった彼女は、著書のなかで、こんなふうに語っています。
「あなたがまず心を配るべきなのは、自分自身です」
 さらに彼女は続けます。
「もしあなたがひとり暮らしなら、部屋は常にきれいに片付けるべきです。ひとりでお茶を飲むとしても、ふちのかけたカップなどではなく、いちばん上等なカップを使ってください。
家でひとり夕食をとるなら、帰りにお花とおいしいデザートを自分に買ってあげましょう」と。

脳はどこまでコントロールできるか?
中野 信子 (著)
ベストセラーズ (2014/8/19)
P24

 

脳はどこまでコントロールできるか? (ベスト新書)

 

脳はどこまでコントロールできるか? (ベスト新書)

  • 作者: 中野信子
  • 出版社/メーカー: ベストセラーズ
  • 発売日: 2015/07/17
  • メディア: Kindle版

 

P132
 困難な経験に対処するためには、自己信頼感が重要であるとする多くの研究かあります。しかし近年心理学者のマーク・R・レアリーらは、とくに困難な時期においては、自己信頼感よりも自分に対して思いやりの気持ちをもつほうが効果的であることを発見しました。
自分に対する思いやりとは、つらい思いや感情をそのまま受け入れて、困難な出来事が起こることは仕方ないことだと認め、自分自身を理解し自分に優しくしようとする気持ちのことです。
~中略~
 チベットの伝統的な考え方では自己愛と他者への愛に違いはありません。つまり自分自身に対しては厳しいのに、隣人に対しては寛容だということはないのです。
 ダライ・ラマは、こう述べています。「チベットの伝統的な考え方では、「ツェワ」と呼ばれる思いやりの気持ちは、自分自身に対する思いを他者との関係に広げていくことだとだと考えられています」
思いやりの対象は本当に自分自身であるべきかと問われるとこう答えました。「まず自分です。そしてもっと進化したかたちで、その気持ちが他者に広がっていくのです。ある意味では、深遠な思いやりとは、利己主義が高度に発達した形態にすぎません。
ですから自己嫌悪の強い人は他者に対して真の思いやりの心をもつことは難しいのです。始まりとなるべき土台がないからです」

P135
「「アイ・ラブ・ユー」と言うためには「アイ」を最初に言わなくてはならない」
小説家 アイン・ランド

ハーバードの人生を変える授業
タル・ベン・シャハー(著), 成瀬 まゆみ (翻訳)
大和書房 (2015/1/10)
P98

 

ハーバードの人生を変える授業

 

ハーバードの人生を変える授業

  • 出版社/メーカー: 大和書房
  • 発売日: 2014/03/07
  • メディア: Kindle版

機会コストと信頼社会

P214
古代ローマ帝国が滅びたあと、ヨーロッパ中世の地中海貿易で活躍した商人の中に、二つの対称的なグループがありました。一つは北アフリカを拠点にしていたユダヤ系イスラム教徒のマグレブ人であり、もう一つはイタリア半島のジェノア人たちの二つのグループでした。
 イスラム教徒のマグレブ商人は代理人問題を解決するために、安心社会的なアプローチを用いていました。
 つまり、身内とよそ者とを徹底的に区別し、身内しか信じないというやり方を採用したわけです。といっても、単純に身内をひいきにしたわけではありません。そこには一度でも裏切ったことのある人間とは二度と付き合わないという鉄の掟もあり、それが厳密に守られていたといいます。
 一方のジェノア商人のほうはマグレブ商人のような集団主義とは対照的な形で貿易を行っていました。つまり、身内やよそ者という区別で代理人を選ぶのではなく、その時々で必要な代理人を立てるというやり方にしたわけです。

~中略~
 こうして見ていけば、マグレブ流のやり方のほうが安心で確実のように見え、ジェノアのやり方はいかにも効率が悪いように見えます。
 ところが、現実の歴史を見ていくと、マグレブ商人は地中海貿易から姿を消し、ジェノア商人たちのほうが発展していき、ついには地中海貿易の覇権をジェノアは手に入れたのでした。
 それにしても、いったいなぜマグレブ商人は消えたのでしょうか。
 その理由は機会コストの増大にあったとみるのが妥当でしょう。
~中略~

 すでに述べたように、このような安心社会下は取引において、相手を信じていいかどうかを悩む必要はありません。裏切りが起これば、ただちに、そして間違いなく制裁が行われるのが安心社会の特性なのですから、まず騙されることはありえません。
したがって、相手が身内であれば、それだけで「信頼しても大丈夫」と考えていいわけなのです。
 しかし、信頼社会にはそうしたメカニズムがありません。そのために、人々は他人を信じていいものかと迷ってしまい、信頼関係を結ぶことがむずかしくなってしまします。
 この不安を解消するためにジェノアの商人が出した答えは「制度」を作ることでした。
~中略~

 ジェノアの成功とは「ジェノアは正直な人間を守る」ということを、裁判所を作ったりして具体的に示したことで、それを見た他の人々がジェノア商人と手を組みたいと考えるようになり、その結果、ジェノアの商圏が拡大したことにあった―私は、マグレブとジェノアの物語をそのように解釈しているのです。

日本の「安心」はなぜ、消えたのか 社会心理学から見た現代日本の問題点
山岸 俊男 (著)
集英社インターナショナル (2008/2/26)

日本の「安心」はなぜ、消えたのか 社会心理学から見た現代日本の問題点

日本の「安心」はなぜ、消えたのか 社会心理学から見た現代日本の問題点

  • 作者: 山岸 俊男
  • 出版社/メーカー: 集英社インターナショナル
  • 発売日: 2008/02/26
  • メディア: 単行本


戸ノ上山 北九州市

2026年6月18日木曜日

同調性バイアス

  「お前さんは、どうして息子さんが錯乱しているとわかるのかね。今、天下の人々はみな是非の分別に惑い、利害にくらんでいる。同じ病の者が多いと、それと気づく者はいなくなる。それに、一人の人が錯乱しても、一家をことごとく錯乱させることにはならず、一郷をことごとく錯乱させることにはならず、一郷の者が錯乱しても、一国をことごとく錯乱させることにはならず、天下の者がことごとく錯乱したならば、錯乱させるものは何もないではないか。
もし天下の人々の心がことごとく息子さんのようになっていたとすれば、お前さんのほうこそ、錯乱しているということになるのだ。
そうなれば、哀楽、声色、匂い、是非など、誰が正すことができようか。このわたしの言葉だって、錯乱していないとは言い切れない。まして、魯の君主など、錯乱の最たるものだ。
どうして人の錯乱を解くことができようか。お前さんその食糧を担いで、早く帰るがよい」
(「列子」周穆王)

老荘思想の心理学
叢 小榕 (著)
新潮社 (2013/02)
P152

老荘思想の心理学(新潮新書)

老荘思想の心理学(新潮新書)

  • 作者: 叢小榕
  • 出版社/メーカー: 新潮社
  • 発売日: 2013/08/23
  • メディア: Kindle版


P155
火災が発生していても、津波警報が出ていても、人々は避難しようとせず、現場に止まり、回避できたはずの被害を蒙ってしまうというような事例も報じられている。
「みんなが逃げないから自分も逃げなくて大丈夫だ」という「常識」を信じて疑わないのが原因の一つらしい。
 このように、多数の他者と同一の行動をとる現象を「同調性バイアス」という。
~中略~
 常識に従えば安心だというのは、昔も今も変わらない。しかも、どんなに不条理な常識でも、世間一般に常識として受け入れられれば、それと相反するものは無条件に非常識と見なされる。
だから、老子は「もし天下の人々の心がことごとく息子さんのようになっていたとすれば、お前さんの方こそ、錯乱しているということになるのだ」という。

老荘思想の心理学(新潮新書)

老荘思想の心理学(新潮新書)

  • 作者: 叢小榕
  • 出版社/メーカー: 新潮社
  • 発売日: 2013/08/23
  • メディア: Kindle版


由布岳 大分県

足るを知る

必ずしも福を干( もと )めず。
禍無きを以て福と為す。
必ずしも栄を希( ねが )わず。
辱無きを以て栄と為す。
必ずしも寿を祈らず。
夭( よう )せざるを以て寿となす。
必ずしも富を求めず。
餒( うえ )ざるを持って富となす。

                  「 言志耋録」第一五四条
                 佐藤 一斎 著                        岬龍 一郎 編訳<
                現代語抄訳 言志四録
 
                PHP研究所(2005/5/26)

                  P231

[現代語抄訳]言志四録

[現代語抄訳]言志四録

  • 出版社/メーカー: PHP研究所
  • 発売日: 2005/05/26
  • メディア: 単行本(ソフトカバー)


分を知り、然る後に足るを知る。
            「 言志録」第四二条

    佐藤 一斎 著    岬龍 一郎 編訳
                 現代語抄訳 言志四録
           PHP研究所(2005/5/26)


      P32

[現代語抄訳]言志四録

[現代語抄訳]言志四録

  • 出版社/メーカー: PHP研究所
  • 発売日: 2005/05/26
  • メディア: 単行本(ソフトカバー)


P186
 べつにナムやタマ(住人注;筆者の寺の柴犬と黒トラ猫)に長寿を誘ってみても仕方ないことだが、禅僧はたいてい長生きである。
達磨さんは百五十まで生きたというし、趙州和尚は百二十歳。
日本でも足利紫山老師は百歳を超えたし、わが妙心寺派の古川大航老師は九十八歳まで現役の管長さんだった。
 基本的にはさきほどの「知足」の考え方で自分の年齢も肯定するのが禅僧であり、だからこそ長生きするのだろう。
「この歳になってみたかったんだ。ずっと待ってたんだ。最高だよ」と、幾つになっても今を全面肯定するのである。それはけっして幾つまでは生きたいという欲ではない。あくまで、もたった今の、現状への「知足」の認識なのである。

P207
 松江城主であり、また石州流茶道の創始者でもある松平不昧公は「足ることを知れば、茶をたてて不足こそ楽しみとなれ」と「贅言(むだごと)」に書いている。
たしかにお茶の世界では、「不足」や「歪み」や[不完全さ」や「壊れやすさ」などが愛される。むろんそれも不昧公の言うように、「足ることを知れば」である。
現状を全面肯定しようという意志があればこそそんな嗜好が可能になるのだろう。
~中略~
 本当に望まない「不足」をも楽しめることこそ真の「風流」であり、それができる人が「曲者」と云えるだろう。
 老子は「曲なれば即ち全し」と言うが、幹や枝の曲がった木が伐られずに長寿をマットウするように、曲者こそが人生を長く楽しめるのである。

P210
 白隠さんの「槐安国語」巻一に、「山家の富貴は銀千樹、漁夫の風流は玉一蓑」という言葉がある。
山家とは山暮らしを決めこんだ樵(きこり)さん。その暮らす山が大雪で覆われ、「銀千樹」に見えるというのである。当然「銀千樹」というのは美しい光景として謳われていっる。
樵という仕事をこの山ですることに覚悟が決まっており、しかもとりたてて世間的富貴も名誉も望んでいないから知足している。
だからこうした「困った大雪」でもそうは思わず、美しさを愛でていられるのである。
同様に、漁夫も毎日身につける蓑一つで稼ぐのだと覚悟し、その志が揺るがないからこそ、蓑には「玉」という美称が添えられる。その覚悟の上でなら、押し寄せるさまざまな風、つまり大漁でも一匹も釣れなくても、あるいは嵐や風雪であっても、それは風流として楽しめるというのだ。
~中略~
 また似たようなことばで、「山僧の活計は茶三畝、漁夫の生涯は竹一竿」というのもある。
私の住む寺にもお茶の木が何本か残っており、昔はお寺で飲める段階まで作ったことが偲ばれるが、お茶というのはいわばお寺くらしの必需品である。
漁夫にとっての竹竿もいわば必需品と云えるだろう。現実の暮らしで「無一物」というのは無理だが、必要最低限なものさえあれば、あとはなんとでもやっていけるだろうという鷹揚な気分がこの詩からは漂う。
これも「知足」を知って「不足」を楽しみ、また覚悟を決めて「ゆらぎ」を楽しむという禅的なくらしのスケッチなのである。

禅的生活
玄侑 宗久 (著)
筑摩書房 (2003/12/9)

禅的生活 (ちくま新書)

禅的生活 (ちくま新書)

  • 作者: 玄侑宗久
  • 出版社/メーカー: 筑摩書房
  • 発売日: 2013/08/02
  • メディア: Kindle版


足ることを知る者は富める者である。
                 (「老子」第三十三章)

老荘思想の心理学
叢 小榕 (著)
新潮社 (2013/02)
P127

老荘思想の心理学(新潮新書)

老荘思想の心理学(新潮新書)

  • 作者: 叢小榕
  • 出版社/メーカー: 新潮社
  • 発売日: 2013/08/23
  • メディア: Kindle版

龍安寺 京都市






フェアな社会

 ザッカー(住人注;リン・ザッカー)の研究によれば、信頼社会の典型と思われがちなアメリカも、当初は安心社会としてスタートしていたといいます。
 考えてみれば、それは当たり前のことで、そもそもアメリカはヨーロッパ各地からの移民によって作られた、いわば寄り合い所帯の国です。社会そのものが伝統が浅いわけですから、当初はイタリア移民ならイタリア移民、ユダヤ人ならユダヤ人といった具合に、同じ出身地、同じ宗教を持った人たちが助け合うことからアメリカ社会が始まったというのは、当然の成り行きと言えるでしょう。
つまり、初期のアメリカは人種のモザイクならぬ、安心社会のモザイクによって出来ていた国家だったというわけなのでしょう。

 ところが、こうした「安心の保証」のメカニズムも、移民の大量移入、さらには急速な工業化などの社会変動によって、一九世紀後半あたりから失われていきます。
 つかり、今の日本と似たような状況が起きていたというわけなのですが、ちょうどこの時期にアメリカでは公平で効率的な社会制度の整備が急速に進んだのが、アメリカにとって幸いしたとザッカーは指摘しています。
 細かな話はここでは省略しますが、アメリカ人が誇りにする「フェアな社会」の基本は実はこの時期に作られたものであって、そしてこのときに作られた諸制度こそが、のちのアメリカの繁栄をもたらすものだったのだとザッカーは言います。

日本の「安心」はなぜ、消えたのか 社会心理学から見た現代日本の問題点
山岸 俊男 (著)
集英社インターナショナル (2008/2/26)
P222

日本の「安心」はなぜ、消えたのか 社会心理学から見た現代日本の問題点 (集英社インターナショナル)

日本の「安心」はなぜ、消えたのか 社会心理学から見た現代日本の問題点 (集英社インターナショナル)

  • 作者: 山岸俊男
  • 出版社/メーカー: 集英社
  • 発売日: 2019/05/31
  • メディア: Kindle版