辻(住人注;辻嘉一)ほんとの味わいというものは、義(い)れ歯ではちょっとわからんでしょうね。わたしは入れ歯ですけど、ほんとに自分の料理人の死命を制せられたと思うたことがございます。
幸いいい先生に巡り合って、なおしていただいたんです。それは入れ歯の上あごのところをとってあるんです。料理でもお茶でも、上あごにさわればわかるんですね。おおい隠してしまったらあかんですな。
そのいい先生に巡り合ってから、おかげでまた戻ってきましたけれども。
(一九七九年)
幸田文 台所帖
幸田 文 (著) , 青木 玉 (編集)
平凡社 (2009/3/5)
P65

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