かつて、大正の中頃のこと、「とてもきれいだ」というような言い方が始まって、心ある人は心を痛めたという。「とても」は、あとに否定のことばを伴うものときまっていて、「とても考えられない」のようになるのが普通であるのに、「とてもうまい」のように、肯定で結ぶのは、文法上、破格でおかしいのである。
もともとことばはデモクラティックなものだから、変でも、おかしくても、みんなが使っていれば、そのうちに文法でも許容されるようになる。
いまどき「とても美しい」をおかしいと言う人はいない。もっとも、文章では、なお、そういう言い方を避ける人は少なくない。新聞の文章でも使われない。
戦後になって、「ぜんぜん」が肯定を伴って、「ぜんぜんイカす」「ぜんぜん愉快だ」などという言い方があらわれた。~中略~ さすがに、これはまだ完全に許容されているとは言えない。紳士淑女は使用を慎んだ方が無難。
日本語の作法
外山 滋比古 (著)
新潮社 (2010/4/24)
P18

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