2008年9月13日土曜日

Report 京都・武田総合病院:患者の暴力・暴言対応で初の研修会 地元署の支援でアドバイス得る

記事:Japan Medicine

提供:じほう【2008年9月10日】
 武田病院グループの医仁会武田総合病院(森田陸司院長、京都市伏見区、500床)が4日、「病院内暴力の対応について」をテーマとした職員研修会を開いた。所轄する京都府警山科署の担当者からレクチャーを受けるなど、患者や来院者からの暴力・暴言などへの対処を学んだ。武田病院グループが、こうしたテーマで職員研修を行うのは初めて。山科署にとっても病院への講師派遣は初めてで、今後も病院からのこうした要請が増えるのではないかとみている。
増え続けるクレーマー
 今回の研修会は同院・医療安全対策委員会(岸田憲二委員長、医師)が企画したもの。患者とのトラブル回避や事後対応のマニュアルは作成しているが、岸田氏は、「現実には院内での暴言・暴力は増えており、職員に直接的に対応を示す必要があったことが企画の動機」という。最近、患者が医師を突き飛ばすといった事例も起こり、医療担当者としての危機意識が強まっていた。  「まだ暴力はそれほど多くはない」(岸田医師)ものの、職員が対応に苦慮しているのが「暴言の増加」だという。岸田氏は、「かなりひどい暴言を経験することが増えている。月に何回も、いわゆるクレーマーの登場に悩まされるようになった」と話す。  病院側の危機感はかなり強く、医療安全対策委員会が10月にかけて現在ある院内暴力・暴言への対応マニュアルの改訂作業を進めている。さらに、患者に対して、暴言・暴力を起こさないよう求めるメッセージの掲示についても、複数の先行事例を参考にして検討する予定だ。  一方、山科署も病院内での暴力・暴言事件が増えている印象を持っていた。昨年1年間に同署が路上で保護した206人のうち、約半数が認知症患者だったという事情もあって、生活安全課の松清和幸警部補は、高齢化が進む中で医療関連施設と警察の連携を強化することが必要と感じていたという。
放置すれば医療崩壊の一因に
 当日、夕刻から始まった研修会。冒頭に、森田院長が「病院内暴力」をテーマとした研修を初めて開くことの意義を説明した。  森田氏は、「この問題はわれわれにとって非常にたいへんで深刻なテーマだ」と前置きした上で、同院が重視する医療安全確保には終わりがない性質がある点を強調。「人間はミスをすることを前提として、できる限りミスを起こさないシステムづくりは必要だが、一方で医療には不確実性がある」とし、福島県立大野病院事件などを通じて医療の不確実性が国民の間で話題になり始めた段階との現状認識を示した。  さらに、患者の権利意識の高まりにも言及、医療担当者と患者の共同作業は両者の意識向上につながるとした上で、「程度を超えると、医療の“確実性”を要求されるようになる」(森田氏)とも指摘。ある意味で過剰な権利意識の高まりが、暴言や暴力につながっているとの見方を示した。まったく不当な要求を受けることもあり、医療担当者に危険が迫ることもあるという。  森田氏はさらに、対患者関係で医療者は弱い立場に置かれがちなため、長い間対応に苦しむことが多いとし、「ただでさえ、日常診療の忙しさが解決されておらず、(暴力問題を)放置することは確実に医療崩壊の一因になる」と述べて、職員全体が問題意識を共有、同時に対応を考えることの意義を伝えた。
簡単でも院内マニュアル策定を
 講師派遣が初めてだったことから、山科署は一般的な危機管理レベルでの対応を解説した。同署からは、防護術の専門家も参加、暴力に遭ったり、刃物を持った暴漢に襲われたりした時の対処などを実演した。  講師の松清氏は、「病院と患者や付き添い者とのトラブルが増えているという話は聞いている」とした上で、「危機管理は問題が発生する事前と事後に分けて対処を考える必要がある」とし、事前の対応では問題の分析を冷静に進めておく必要を強調した。  事後に関しては、「相手が1人でも、病院側としては組織として対応することが肝要」だとして、決して1対1の関係で処理することがないよう留意を促し、緊急対応組織の例を図式化してレクチャーした。  具体的には、事件発生時の対応を指揮する統括部門を中心に、庶務(情報の収集、伝達、関係機関への通報)、防衛(不審者の隔離など)、救護(負傷者対応)、避難(患者、保護者、来院者、職員の避難誘導)-の4つのセクションを設け、担当者も決めておくのがポイントという。松清氏は「簡単な内容でもよいので、まずマニュアルを作成すること」に理解を求めた。内容を職員に浸透させる必要も指摘し、病院がマニュアルを策定する際には、警察としても積極的に相談に乗る姿勢も強調した。
クレーマー対応でもアドバイス
 問題が深刻なクレーマーや暴言への対応をめぐっては、<1>相手方を別室に連れていき、冷静にだが毅然とした態度で言い分を聞く<2>できれば専門の担当者を決めておき、決して1人で対応しない<3>病室や診察室は狭く、病院のそうした特性を考えた対処を徹底しておく-ことなどをアドバイス。ただ、「言葉の暴力は対処がたいへん難しい。事例ごとに(警察に)相談することも考えてほしい」(松清氏)とした。  暴漢や不審者が刃物などを持って現れた場合の防護術では、「さすまた」と呼ばれる道具で、相手の動きを封じる方法などが実演されたが、迫力がありすぎてリアリティーが感じられない場面も。職員も「ここまでの対応はできるのかどうか」と、やや当惑気味だった。
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