2008年9月13日土曜日

 ジェネリックの光と影/3

記事:毎日新聞社

提供:毎日新聞社【2008年9月9日】


ジェネリックの光と影:/3 「認可条件緩い」と敬遠

 ◇てんかん、心臓病治療…わずかな差で影響も
 国は後発医薬品について、先発品との「同等性」を保証している。ただし「同等」は「同一」ではない。病気の種類や病状によっては、国の保証する同等は幅が広過ぎる恐れがある。後発品の使用に慎重な医師や薬剤師の取り組みを追った。【渋江千春、高木昭午】

 ◇使用感にも違い--患者への説明重要
 国立病院機構静岡てんかん・神経医療センターは多数の後発品を使っている。しかし、井上有史・副院長は、先発品の抗てんかん薬を使って発作を起こさずにいる患者には、処方せんに「(後発品への)変更不可」のサインをする。
 厚生労働省は製薬会社に対し、飲み薬の後発品を認可する際、飲んだ人の血中濃度の測定試験をするよう求めている。認可条件は「後発品の血中濃度が、95%以上の確率で、先発品の濃度の80-125%の範囲に収まる」ことだ。厚労省によると、経験的に決まった許容範囲で、日米欧で採用されている。
 だが井上副院長は「てんかん患者は、微妙なバランスで発作が起きない状態を保っている場合が多い。血中濃度が、認可範囲内の20-25%違っても、発作や副作用を起こす可能性がある」と懸念する。欧米では後発品への切り替えに伴い、患者の1、2割程度が発作の増加や副作用を経験したとの調査が複数報告されている。
 発作が起きれば失職したり交通事故を起こすかもしれない。「範囲を外れる率が5%では高すぎる」と井上副院長は訴える。先発薬から後発薬への変更に限らず、後発から先発、後発同士の変更でも考え方は同じという。
 日本てんかん学会と日本小児神経学会は今年3月、「抗てんかん薬治療では(先発と後発、または後発同士の)切り替えに医師と患者の同意が不可欠」と提言。「発作が抑制されている患者で、服用中の医薬品を切り替えるのは推奨されない」と指摘した。
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 皮膚科で使う塗り薬にも慎重論がある。
 金沢大病院皮膚科(竹原和彦教授)は、アトピー性皮膚炎など塗り薬を長期に使う患者の処方せんに「変更不可」の署名をしている。
 塗り薬には治療に直接働く有効成分のほか、「基剤」と呼ばれる成分が含まれる。基剤は薬を塗りやすくしたり有効成分を吸収されやすくする役割を持つ。先発品と後発品は、有効成分は同じだが、基剤は違ってもよい。
 竹原教授は「有効成分の量が同じ薬でも、基剤が悪ければ理論的に、患部に浸透する薬が減る。実際に患者に使って効果が落ちなかったとのデータがあればよいが、それなしで(後発品を)使えといわれても困る」と訴える。後発品を全否定はせず、抗ウイルス剤などは使うという。
 京都市立病院は、心臓病の薬の「ジギタリス製剤」、ぜんそく治療用の「テオフィリン製剤」、抗精神病薬の「ハロペリドール製剤」、腎不全患者用の「クレメジン」など169品目を、後発品への「変更不可」とした。一方で「変更可」の薬も431品目ある。
 「不可」なのは主に、血中濃度の測定料が、健康保険で支払われる薬だ。今川文典・薬剤科部長は「こうした薬は濃度測定など厳重な管理が必要だと国が認めたものだ。わずかな差でも患者に影響が出かねない」と話す。
 社会保険小倉記念病院(北九州市)も不整脈の薬などを「変更不可」とし、不可の薬の一覧を病院のホームページで公表している。公立豊岡病院(兵庫県豊岡市)は血中濃度を測る薬に加え、外用剤や抗がん剤などが原則「変更不可」だ。
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 効果や副作用以外にも、違いはある。
 武庫川女子大薬学部の内田享弘(たかひろ)教授らは、小児用の抗生物質(粉薬)で先発品と後発品、計10品目を比べた。服用時を想定して水に溶き、5人に飲んでもらった。味覚測定機でも調べて点数をつけた。先発品より大幅に苦い後発品が3品目あった。内田教授は「苦い薬は子供が飲まず、結果的に治療効果に差が出かねない」と指摘する。逆に、味が改善された後発品もある。
 国立医薬品食品衛生研究所の川西徹・薬品部長は「先発品と後発品で味、錠剤の大きさや外観の差で飲みやすさが違う場合がある。ただし、味や飲みやすさは国の保証範囲外。薬剤師が特徴を知り、患者に薦める薬を説明すべきだ」と話す。