記事:毎日新聞社提供:毎日新聞社
【2008年9月2日】 ジェネリックの光と影:/2 効果、安全性に問題の薬も
◇データ非開示…現場に不信感
「効き目や安全性は、先発医薬品と同等です」--。後発医薬品について、厚生労働省はポスターでこう利用を訴えている。だが「効き目が劣る」「副作用が多い」と指摘される薬もあり、医師や薬剤師の間で不信感を招いている。【高木昭午、渋江千春】
◇厚労省が検討会 品質試験し公表へ
「クレメジン」は腎不全患者用の飲み薬だ。尿毒症の原因となる毒素を腸内で吸着し、腎臓の負担を減らす。薬価は1日約800円だ。
岸和田徳洲会病院(大阪府岸和田市)は04年12月、クレメジンを後発品である「メルクメジン」に変えた。薬価は1日約540円。患者負担は月に約2000円安くなる。いずれも粉末状の薬だが、メルクメジンの方がかさばらず、飲みやすいのが魅力だった。
翌年、岡山市で開かれた日本医療薬学会。小西圭子薬剤部長の報告が出席者の注目を集めた。メルクメジンに変えた患者13人のうち9人で、変更前より速いペースで腎不全が進行していたからだ。
調べた患者数が少なく、変更が原因と断定はできなかったが、病院は05年9月から薬をクレメジンに戻した。戻した患者12人のうち7人は悪化が遅くなった。小西部長は「病院で3割の薬剤を後発品にした。だが、後発品にはよい薬も粗悪品もある。是非を判断するデータが不足している」と嘆く。
東邦大薬学部の柳川忠二教授も05年、クレメジンとメルクメジンを分析し論文を出した。メルクメジンは毒素の一つ「インドキシル硫酸」の吸着力がクレメジンの4割程度しかなかった。別の毒素の「インドール」でも8割弱だった。
クレメジンもメルクメジンも直径0・3ミリ強の粒子からなり、その内部に微細な穴がたくさんある。毒素は穴に吸着されると考えられる。穴の容積の合計はクレメジンの方が多かった。国の認可ではこうした構造は審査対象外になっている。柳川教授は論文で「吸着力の差が効果に反映される可能性がある」と指摘している。
メルクメジンの製造・販売元のマイラン製薬は「尿毒症を起こす毒素7種などで、吸着力がクレメジンと同等との実験結果を国に提出し認可された」と主張し、問題ないとの立場だ。だが、実験した毒素の種類など実験データは公表できないという。
*
「ウテメリン」は早産予防薬だ。数カ月も続けて点滴する妊婦もいる。聖マリアンナ医大病院産婦人科の医師らは後発品の「フレムーブ」を206人に使い、05年3月に学会誌で発表した。
点滴の針を刺した周辺が腫れて痛む血管炎などが11人(5・3%)に生じていた。ウテメリンでは0・4%にとどまる。
二つの薬は、有効成分は同じだが添加剤が違う。論文は「(添加剤の違いと)血管障害との関連も否定できない」と指摘した。執筆者の一人、三室卓久講師(現・みむろウィメンズクリニック院長)は「妊婦を守るために論文を書いた。長期間、体内に入れる薬で添加剤の影響が出やすいと考える。後発品は認可時に患者に投与されず、問題があっても分からない。せめて市販後に副作用を調べるべきだ」と訴える。
フレムーブは05年9月に販売中止となった。販売元の田辺三菱製薬(当時は三菱ウェルファーマ)は中止の理由を売り上げ減少と説明し、「論文の内容は社内で評価したが、その結果は言えない」と話す。
これ以外にも、後発品には「先発品と溶け方が違う」「不純物が多い」「薬アレルギーが出た」などの事例が指摘されている。
*
厚生労働省は今年、「ジェネリック医薬品品質情報検討会」(座長、西島正弘・国立医薬品食品衛生研究所所長)の設置を同研究所に委託した。検討会は7月の初会合で、メルクメジンなど指摘の多い10品目を対象に、先発・後発品の品質を独自試験することを決めた。
検討会の川西徹事務局長(同研究所薬品部長)は「医師や薬剤師、患者の間に『後発品は大丈夫か』との声がある。大半は問題ないと考えるが、問題があるものが入り込んでいないとも思わない。結果は薬の名前を明示して公表する」と話す。