「前代未聞のミス」、大阪府医師会が近畿厚生局に抗議
近畿厚生局が事務処理の不手際で、集団的個別指導の対象を誤通知
2009年8月19日 橋本佳子
「前代未聞のミス。集団的個別指導の通知を受け取った医療機関は非常に不安に思い、プレッシャーを感じただろう。本来なら、慎重を期して事前にチェックして、通知を送付すべきなのに、それを怠った」。こう指摘し、近畿厚生局の対応を問題視するのは、大阪府医師会理事の山本時彦氏だ。
近畿厚生局は7月27日、今年度の集団的個別指導に関する通知を大阪府の643施設に送付。ところが、その半数以上の351施設が同局の事務処理上の選定ミスで、本来対象でない施設にも誤って通知されるという事態が起こった。
その直後から、府医師会には会員から「高点数でないのに、なぜ指導の対象になるのか」など問い合わせが寄せられた一方、近畿厚生局にも電話が入るなどして、選定ミスが発覚。8月4日に、近畿厚生局が府医師会に事情を説明、翌5日に近畿厚生局がお詫びの連絡を医療機関に送付した。8月7日に府医師会は、原因究明とその公表などを求める抗議文を近畿厚生局に送付したが、「これに対する回答は現時点(8月18日の取材時点)ではない」(山本氏)という。
選定ミスがなかった医療機関に対しては、既に集団的個別指導が開始している。再計算し、集団的個別指導の対象を追加するかどうかは現時点では未定だ。
「内科の場合、約9割に選定ミスがあった。しかも、近畿厚生局が4日に府医師会に説明に来た際には、事務的な処理作業上の人為的なミスと説明していたが、5日の医療機関への説明文には、『対象医療機関を選定する過程において、使用したデータの一部に不具合が生じていることが確認された』とあり、コンピュータのシステムの不都合によるものと受け取れるようで内容で、説明にも食い違いがある」と山本氏は信感を募らせる。
厚生局への業務移管に伴い、「大阪ルール」も廃止
集団的個別指導とは、「指導大綱」に基づく行政指導の一形態。レセプト1件当たりの平均点数が、類型区分ごと(病院4区分、診療所11区分)の都道府県別の平均点数の一定割合(病院1.1倍、診療所1.2倍)を超える施設を対象に実施される。前年度と前々年度に集団的個別指導または個別指導を受けた施設は対象外となることから、おおむね上位約8%の医療機関が対象になる。2008年10月に社会保険事務局から地方厚生局に業務が移管された。
大阪府では従来、診療所(約8000)、病院(約550)と医療機関数が多いことから、上位約8%ではなく、上位約4%としていたほか、府医師会が年1回各地区医師会で実施する「社会保険指導講習会」の参加者は、集団的個別指導の対象に選定されても、その受講が任意になるとしていた。こうしたやり方は、「大阪ルール」とも呼ばれていた。
「指導は、本来、適切な保険診療を行うために教育的観点から実施するもの。決して医療機関を甘やかすのではなく、指導すべきことは指導するという府医師会のスタンスだ。長年、社会保険事務局と府医師会は協同して指導に取り組んできた。ところが近畿厚生局への業務移管に伴い、この大阪ルールはなくなり、地域の実情や経緯が無視されてしまった」と山本氏は指摘する。集団的個別指導は対象数が多いことから、本来、実施すべき個別指導が滞る場合もあるという。
昨秋以降、府医師会は近畿厚生局と何度か協議の場を持ったが、「近畿厚生局は自分たちで実施する、の一点張りだった」(山本氏)。その矢先の不手際だっただけに、府医師会の近畿厚生局の不信感は高まった。
集団的個別指導の対象は、その前年の医療機関別のレセプトの平均点数を基に決定される。支払基金と国保連合会のレセプトデータは別であるため、平均点数算出の際には両者のデータを合わせる必要があるが、ミスが生じたのはこの作業時だったようだ。
そのほか、(1)従来は類型区分ごと平均点数が公表されたが、今年度から公表されず、(2)指導を行う会場も医師会館から公共の会議場に変更、など、近畿厚生局への業務移管に伴い、変更された点は多い。「個別指導についても、その理由などを聞くなど情報交換を行い、社会保険指導講習会の指導内容を検討するなどしていたが、それもできなくなった」(山本氏)。
そもそも、大阪府医師会では、以前から集団的個別指導には意味がなく、指導大綱を見直し、撤廃すべきだと働きかけている。
「集団的個別指導の場合、2年連続、高点数が続けば、個別指導の対象になる。個別指導になれば、医療機関の心理的ストレスはより高まる。そもそもレセプトの平均点数は診療内容・形態などによって異なるものであり、単に点数が高いからと言って、即、請求に問題があるわけではない。点数の高さではなく、その請求の中身を問題視すべきだが、行政は、単に個別指導につなげたいために、実施しているにすぎない」(山本氏)