2025年6月27日金曜日

イスラム原理主義

 池上 ~前略
イスラム教の創始者ムハンマドの時代、ムハンマドを指導者にして、ムハンマドが伝える「神の言葉」に従って人びとは敬虔な暮らしをしていた、と考える人たちが、その理想の社会を現代に取り戻そうとしているのです。
この考え方を「イスラム原理主義」と呼びます。イスラムの理念を復興させようというものですから、必ずしも過激な武装闘争と結びつくものではありません。平和裡に行動しているイスラム原理主義者も多いのです。
 しかし、武力を用いてでも理想社会を実現させようとする組織があって、テロなどに走るため、「イスラム原理主義者=テロリスト」というイメージが定着してしまいました。

新・戦争論 僕らのインテリジェンスの磨き方
池上 彰(著), 佐藤 優(著)
文藝春秋 (2014/11/20)
P74

新・戦争論 僕らのインテリジェンスの磨き方 (文春新書)

新・戦争論 僕らのインテリジェンスの磨き方 (文春新書)

  • 出版社/メーカー: 文藝春秋
  • 発売日: 2014/11/20
  • メディア: 単行本

 

島根県 島根県立美術館

「スンニ派」と「シーア派」

P117
 池上 ここでまず基本的な知識を整理します。イスラム教徒は大きく「スンニ派」と「シーア派」に分かれます。それは、予言者ムハンマドが亡くなった後の後継者選びに端を発する対立です。

 ムハンマドの後継者は「カリフ」と呼ばれ、予言者の代理人です。
 このカリフには、ムハンマドの血筋を引く者がなるべきだという信者と、ムハンマドの信頼が厚く、信者からも信頼されている人を据えるべきという信者とで意見が分かれたのですが、当初の三代は、血筋重視よりも、ムハンマドの信頼があった方の後継者が続きました。
 四代目でようやくアリーという、ムハンマドのいとこであり、かつムハンマドの娘と結婚した男がカリフになった。その子どもは、ムハンマドの血を引いていることになります。
アリーとアリーの血を引くものこそがカリフにふさわしいと考える信者たちは、「アリーの党派」と呼ばれ、やがてただ「党派」と呼ばれるようになりました。党派のことを「シーア」と呼ぶため、シーア派と称されます。
 一方、血統にこだわらないでイスラムの慣習を守ればいいと考える信者たちは、「慣習(スンナ)派」と呼ばれました。日本や欧米のメディアではスンニ派という呼び方が定着しています。
全世界のイスラム教信者の八五パーセントをスンニ派が占め、シーア派は一五パーセント。スンニ派の大国がサウジアラビア、シーア派の代表的な国がイランです。

P135
佐藤 スンニ派大国サウジアラビアを理解するためにも、われわれはまずスンニ派の大枠を知っておかないといけません。
 スンニ派は四つの法学派から成り立っています。まずハナフィー法学派。これはトルコの多いです。次にシャーフィイー法学派。これはインドネシアと、ロシアの北コーカサスにいる。それからマーリキ法学派で、エジプト、チュニジア、リビアにかけての地域にいる。しかしこの三つは忘れてもいいのです。
各社会の慣習や祖先崇拝と適宜折り合いをつけているからです。過激にはなりにくい。
 過激な運動が出て来るのは、四番目のハンバリー法学派です。これは原理主義そのもの。
コーランとハディース(ムハンマドの伝承集)しか法源として認めない。だからお墓に一切価値をおかないし、聖人を認めない。アメリカが「オサマ・ビン・ラディンの墓ができるとそこが聖地になる危険性がある」と言ったことがありますが、彼らは教義からして、あり得ません。墓に何の価値も認めないからです。
 このハンバリー派の中のかなり急進的なグループがワッハーブ派です。ただしこれは他称で、自分たちでワッハーブ派とはいいません。サウド王家のサウジアラビアの国教が、これなのです。そしてちょっと乱暴に整理すると、ワッハーブ派の中の最大の過激派で武将集団であるのがアルカイダや「イスラム国」です。
~中略~
 問題なのは、今、世界的にハンバリー法学派が増える傾向にあることです。

 

P147
池上 コーランの中にも、最後の最後には自分の身を守りイスラムを守るためなら嘘をついてもいい、というニュアンスの文言が出てきます。
 佐藤 とにかくこの世は暗黒だ、だから嘘をついてもいいという話。嘘もついてもいいというのがルールに入ると、外交も政治もものすごく複雑になる。約束をしたら守る、「合意は拘束する」というのがローマ法の原則として決まっているでしょう。それが西側社会の原理になっている。しかし、「約束はしたけれども、約束を守るとは約束していない」というのが含まれると、メタ理論が入ってきて、ものすごい複雑系になります。
 だからシーア派とつきあうと大変です。常に戦時、非常時だという認識でいるのがシーア派です。シーア派が主流で権力を握っているのは、国家としては、イランとアゼルバイジャンだけです。

新・戦争論 僕らのインテリジェンスの磨き方
池上 彰(著), 佐藤 優(著)
文藝春秋 (2014/11/20)

新・戦争論 僕らのインテリジェンスの磨き方 (文春新書)

新・戦争論 僕らのインテリジェンスの磨き方 (文春新書)

  • 作者: 池上 彰
  • 出版社/メーカー: 文藝春秋
  • 発売日: 2014/11/20
  • メディア: 単行本


鳥取県 植田正治写真美術館

2025年6月26日木曜日

水産物の流通

P97
 まず漁業者が漁獲物を漁港に水揚げします。それを漁協が受け取り、漁港内にある荷捌(にさば)き所で競売(セリか入札)を行います。
競り合うのは「買受人」と呼ばれる業者たちで、干物や缶詰などの原料を仕入れる加工業者、地元の消費者に販売する小売店、他に転売する「仲買人」などがいます。セリでは他の業者よりも高い価格を提示しないと欲しいものが買えないので、彼らの競争はシビアです。
 漁業者はセリで売ったお金をもらい、そのうち5%程度を手数料として漁協に支払います。~中略~ ここまでが「産地卸売市場」になります。
 さて店売目的で水産物を購入した仲買人のうち、消費地に水産物を出荷していく業者を特に「出荷業者」と呼びます。出荷業者はセリで落札した水産物を「目利き」し、それが一番高く売れそうな全国の「消費地卸売市場へと出荷します。彼らは全国各地の消費地卸売市場における相場情報を常時収集し、その魚をどの市場に出荷すれば一番高く売れそうか、を的確に判断します。
 出荷された魚を消費地卸売市場で受け取るのが「荷受」(卸売会社)です。荷受は全国の出荷業者から、消費地で食べられる大量かつ多種多様な水産物を毎日集めています。例えば築地市場は、東京都民のために魚を集める国内最大の消費地卸売市場です。
 そこで二回目の競売が行なわれます。出荷業者はセリで決まった売上金額を手に入れますが、そのうち5~7%程度を、セリの手数料として荷受に支払います。~中略~
 消費地卸売市場での競売に参加する業者の多くは「仲卸」と呼ばれる業種です。仲卸は卸売市場内に小さな店舗を構え、競り落とした水産物をそこで販売します。一般人がそこで買うことは禁じられていて、許可を与えられた「買出人」(小売業者や寿司屋などの飲食店)だけが、仲卸の店舗で水産物を買うことができます。
~中略~
 各業種の中で厳しい競争があることで高い品質と公正な価格が守られ、経路全体としての効率性が高められています。漁師と個々の消費者の双方にとって信頼できる公共インフラと言えるでしょう。多くの食品流通研究者に「近代の傑作」(例えば秋谷重男「中央卸売市場」、日経新書)と称される所以でもあります。

P103
中抜き流通や場外流通は、実際には水産物の豊かさを犠牲にすることで、経営的に効率化を果たそうとするののです。決してそれが優れているわけではないのです。それに対応できる大型産地にはメリットを与えますが、卸売市場流通に依存しないと存立できない零細な沿岸漁業にとってはデメリットとなります。

 

P107
 卸売市場流通では日常的にサンプル検査が行なわれ、衛生的に基準を満たさないものは排除されてきました。またどの業種・業態においても専門知識と的確なハンドリングのノウハウ、高いモラルとプライドを持った魚の専門家が水産物を扱い、刺身で食べることを当然の前提とした迅速な流通と適切な品温管理を行っています。彼らはまた、豊富な知識と柔軟な技能によってどんな魚でも的確に扱うことができます。
 だから、これだけいろんな魚種が刺身で食べられていますが、お腹をこわす人は全国的にも年間を通してほとんどいないのです。これ自体が奇跡的で、世界中ここまで柔軟で高度な流通システムは他にありません。

日本人が知らない漁業の大問題
佐野 雅昭 (著)
新潮社 (2015/3/14)

日本人が知らない漁業の大問題 (新潮新書)

日本人が知らない漁業の大問題 (新潮新書)

  • 作者: 佐野 雅昭
  • 出版社/メーカー: 新潮社
  • 発売日: 2015/03/14
  • メディア: 新書

 

ファストフィッシュ

P137
  ファストフィッシュ(Fast Fish)は「現代の魚のファストフードを目指す。ファストファッションのように、気軽に楽しめるおいしい魚食という意味」と定義されています。
「ガイジン」化する若者に焦点を合わせた消費拡大策は正しいし、そこを何とかしなければなりません。
 しかし、「ファスト○○」というのは、そんなに持てはやされるべきものなのか。グローバル化・大規模化・効率化を徹底的に追及することで低コスト化と企業利益の最大化を図るというのが、ユニクロに代表されるファストファッションでした。それと同じような発想で、水産物の消費拡大を考えるのはどうなのか。
本当に「魚の国のしあわせ」にたどり着けるものでしょうか。
 すでにスーパーの水産物売り場では、「ファストフィッシュ」のロゴマークが付いた商品がたくさん並べられています。これらの中には、「安価な輸入魚を骨取り加工し、冷凍・解凍を経て失われた旨味をチーズやガーリックなどのスパイシーな洋風ソースで補った、電子レンジ加熱用のレトルト食品」などもみうけられます。魚本来の旨味が抜け、骨抜き作業で形崩れしたものを結着剤で形を整えているから、魚には合わない濃いスパイシーなソースやタレが必要になるのです。
 複雑な加工や国際的な物流にはコストがかかります。しかし「ファスト」であるためには、安く売らなければなりません。当然、原料費は余計に低く、抑える必要があります。多くが安価な輸入物を原料としており、国産で質の高いものはなかなか使えません。コストの低い海外での加工も見られます。

P142
大手スーパーの担当者に聞いても、ファストフィッシュは一度は売れるがリピートがない、とこぼしていました。やはり魚は美味しくなければ売れないし、結局は儲からないのです。
「魚の国のしあわせ」を消費者の立場で考えれば、それは輸入魚を安く大量に消費することではありません。

日本人が知らない漁業の大問題
佐野 雅昭 (著)
新潮社 (2015/3/14)

日本人が知らない漁業の大問題 (新潮新書)

日本人が知らない漁業の大問題 (新潮新書)

  • 作者: 佐野 雅昭
  • 出版社/メーカー: 新潮社
  • 発売日: 2015/03/14
  • メディア: 新書

 

ブランド

 ブランド研究の世界的権威、アメリカの経営学ディビッド・A・アーカーは「ブランドとは、歯止めのない価格競争に陥らないための唯一の選択肢である」と述べています。
「ブランド」とは、市場が急速に成熟化する現代の工業製品市場において、信頼感によって差別化と非価格競争が可能となったマーケティング活動の到達点なのです。

日本人が知らない漁業の大問題
佐野 雅昭 (著)
新潮社 (2015/3/14)
P124

日本人が知らない漁業の大問題 (新潮新書)

日本人が知らない漁業の大問題 (新潮新書)

  • 作者: 佐野 雅昭
  • 出版社/メーカー: 新潮社
  • 発売日: 2015/03/14
  • メディア: 新書

 

食育

P180
  給食という食のシーンが、魚を美味しく食べさせるのに適していません。給食には厳しい予算的制約があり、そもそも安い魚しか利用できません。~中略~
 給食で食中毒を起したりすると大問題になります。鮮度劣化が一番怖いので、安心な冷凍品が望ましい。さらに徹底的に加熱すればなお安心です。しかし、加熱し過ぎると水産物は過剰に脱水され硬くなります。冷えた状態ではさらに硬くなります。
 水産物の調理は火加減や食べる温度が重要です。表面はカリッと焼いて、ギリギリのところで火を止め、なるべくジューシーで温かいうちに食べるのが美味しい。しかし何百食も一気に作るのに、そんな細かいことは気にしてはいられません。やはり揚げ物がまとめて大量に調理できて、確実に火を通せるので好まれています。
 冷えて硬くなった魚の揚げ物を、プラスチックや金属の皿の上に載せて、牛乳と一緒に食べる。

P182
 フランスの小学校では、低学年の頃から継続的かつ計画的に味覚教育を行っていると聞きます。何がおいしくて何がまずいか。既存の評価を押しつけるのではなく、経験を重ねて舌を鍛えるのです。
最後の仕上げは全員が正装で本格的なフレンチレストランでフルコースを食べるのだそうです。言葉で教えなくても子供たちはフォーマルな「食」のシーンから勝手に何かを感じとるのでしょう。
理屈ではなく、体育と同じように頭ではなく身体で覚える食育という考え方に私は強く共感します。
 本物を体験させ、その意義を理解させることが真の教育であるなら、骨なし魚や魚ハンバーグなどを食べさせるのは逆効果です。

P190
 いろんな魚の味を自由に楽しむ。それができるのが日本の水産物の良さなのです。未知の味を知りたい、新しいものに触れたい、という好奇心があれば「魚食」は学びの場となります。「魚食」はこうした創造的、教育的なものでもあります。
こうした「学び」はファストフード、ファミレスやコンビニでは絶対に経験できないものです。

 

P187
 マハゼや小アジのような雑魚は、河口や防波堤から簡単に釣ることができます。細い糸一本で自然の生物とつながる興奮、命を獲り自然から食べ物をいただく感覚も知ることができる。
そして自然や環境について真摯に学ぶ身持ちを膨らませます。
釣って遊び、調理して食べ、そして学ぶ。雑魚とは何ともありがたい存在ではないでしょうか。

日本人が知らない漁業の大問題
佐野 雅昭 (著)
新潮社 (2015/3/14)

日本人が知らない漁業の大問題 (新潮新書)

日本人が知らない漁業の大問題 (新潮新書)

  • 作者: 佐野 雅昭
  • 出版社/メーカー: 新潮社
  • 発売日: 2015/03/14
  • メディア: 新書

 

2025年6月25日水曜日

巧言令色少なし仁

子曰わく、巧言令色、鮮( すく )ないかな仁


学而篇


        論語

           孔子 (著), 貝塚 茂樹

          中央公論新社 (1973/07)

           P11

 

 

論語 (中公文庫 D 3)

論語 (中公文庫 D 3)

  • 出版社/メーカー: 中央公論新社
  • 発売日: 1973/07/10
  • メディア: 文庫

二七 子曰わく、剛毅木訥( ごうきぼくとつ )は仁に近し。


~中略~


先生がいわれた。
「 無欲と果敢と訥弁( とつべん )、この四つの性質は仁の徳にかよっている。 」
子路篇


         論語

           孔子 ( 著 ), 貝塚 茂樹

           中央公論新社 (1973/07)

           P379

 

論語 (中公文庫 D 3)

論語 (中公文庫 D 3)

  • 出版社/メーカー: 中央公論新社
  • 発売日: 1973/07/10
  • メディア: 文庫

 「巧言令色少なし仁」とはよくいったものです。優秀なセールスマンは、誠実で寡黙であるとすでに述べました。
本当のことは強調しなくても自然に現れてくるのです。宗教家でも、占い師でも、セールスマンでも、雄弁な人の言葉ほど、あまり信じられないものなのです。他人には現実と事実はみせるだけでいいのです。
饒舌に売り込まねばならないのは、事実が言葉より劣っているからです。

プロカウンセラーの聞く技術
東山 紘久 (著)
創元社 (2000/09)
P114

プロカウンセラーの聞く技術

プロカウンセラーの聞く技術

  • 作者: 東山紘久
  • 出版社/メーカー: 創元社
  • 発売日: 2015/04/01
  • メディア: Kindle版

関門海峡 北九州市

不遜ならんよりは寧ろ固しかれ

三五 子曰わく、奢れば則ち不遜、倹なれば則ち固( いや )し、その不遜ならんよりは寧ろ固しかれ。


~中略~


先生がいわれた。
「 ぜいたくな暮らしをしていると、態度が自然に尊大になる。つつましすぎる暮らしをしていると、態度が自然と野卑になる。 だが尊大なのより野卑なほうがましだ 」
述而篇


           論語

         孔子 (著), 貝塚 茂樹

         中央公論新社 (1973/07)

         P209

 

 

論語 (中公文庫 D 3)

論語 (中公文庫 D 3)

  • 出版社/メーカー: 中央公論新社
  • 発売日: 1973/07/10
  • メディア: 文庫
 
北九州市門司区 和布刈神社

知者は動き、仁者は静かなり

二三 子曰わく、知者は水を楽しみ、仁者は山を楽しむ。


知者は動き、仁者は静かなり。


知者は楽しみ、仁者は寿( いのちなが )し。


~中略~


先生がいわれた。
「知の人は水を愛し、仁の人は山を愛する。知の人は動的であり、仁の人は静的である。知の人は楽しく生き、仁の人は長命である」
雍也篇


           論語

         孔子 (著), 貝塚 茂樹

          中央公論新社 (1973/07)

          P169

 

 

論語 (中公文庫 D 3)

論語 (中公文庫 D 3)

  • 出版社/メーカー: 中央公論新社
  • 発売日: 1973/07/10
  • メディア: 文庫
 
北九州市 関門橋

鍋島斉正


 日本史上最悪のシーボルト台風に襲われた佐賀藩は、一八三〇(天保元)年、満一五歳の新藩主・鍋島斉正を擁立して、藩の立て直しをはじめたが、容易でない。
~中略~
 ただ、困れば、考えもするし、覚悟をきめて行動もする。斉正は、儒者の古賀穀堂と一族の鍋島茂義の二人をブレーンにして必死に改革に乗り出した。
 佐賀につくと、施政方針をだした。根本理念に掲げたのは「論語」の「節用愛人」という言葉であった。「用を節して人を愛す」とよむ。財政を節約して人をいたわる。
年貢収入でやっていけるよう、無駄遣いをやめ、武士と領民に負担を掛けないようにしたい。「少しずつ四民(士農工商)が安堵できるよういしたい」ともいった。被災後に国の立て直しを迫られた時、この少年播種は「四民が安心して暮らせるように」、これが自分に課せられた課題だと、はっきり意識し宣言したのである。
~中略~
なにしろ、斉正を育てた学者古賀穀堂が変わっていた。「西洋諸国は天文・地理・器物・外科等に唐土万国よりも詳しい・・・・治国の制度にも色々面白いことがあって、経済の助けにもなる。肥築両国(佐賀・福岡両藩)は長崎(警備)のお勤めで万国の抑えをなされるから、いずれ蘭学の人がいなくてはかなわない」(「学政管見」)という思想の持ち主。天文・地理など技術的な面はともかく、国を治める統治にも西洋の制度を利用して経済の助けにするなどという、当時としては過激な考えを持っていた。
さらに鍋島の武雄領主の鍋島茂義という蘭学好きがいて、斉正はこの二人をブレーンに改革をすすめていた。
~中略~

 藩主みずからが西洋帆船に乗りその構造をみた段階で、佐賀藩は日本中どこにもない異常な藩になった。
鍋島茂義は火縄でなく火打ち石で点火する西洋銃を購入。オランダ式の銃陣の研究をはじめ、兵の洋式化をすすめた。
以後、戊辰戦争まで佐賀藩は他のどの藩よりも軍事技術で最先端を行った。最新式銃はまず佐賀藩が採用し、佐賀藩で旧式化した銃を他藩が買った。
 一八二八年のシーボルト台風の被害から立ち直るために、佐賀藩に西洋文明を重視する改革派勢力が登場。これが日本国内に佐賀藩というミニ西洋工業国家を誕生させ、この権力体が、のちに東芝の祖となる田中久重(からくり儀右衛門)を雇い、大砲製造を命じるなどあらゆる西洋文物の国産化を試させた。日本中の藩も佐賀藩にならって大砲を鋳造する反射炉(溶解炉)の建設をはじめたのである。未曾有の台風は日本の近代化に絶大な影響を与えた。

天災から日本史を読みなおす - 先人に学ぶ防災
磯田 道史
(著)
中央公論新社 (2014/11/21)
P120

天災から日本史を読みなおす - 先人に学ぶ防災 (中公新書)

天災から日本史を読みなおす - 先人に学ぶ防災 (中公新書)

  • 作者: 磯田 道史
  • 出版社/メーカー: 中央公論新社
  • 発売日: 2014/11/21
  • メディア: 新書
佐賀県 祐徳稲荷