2025年12月16日火曜日

後見制度

 成年後見制度は「任意後見制度」と「法定後見制度」のふたつに分けられます。両者の違いは、どのタイミングで保護、サポートするかにあります。
[任意後見制度]
判断能力が”低下する前に”あらかじめ備えておく制度
 患者さん本人が、十分な判断能力があるうちに、この先、自分の判断能力が低下したときに備えて希望するサポート内容と代理で実行する後見人を決め、公証人の作成する公正証書の形で取り決めておくもの。本人の判断能力が低下した場合、家庭裁判所での手続きを経てから開始されます。
 この制度では本人が締結した契約などを、あとから後見人が取り消すことはできません。
[法定後見制度]
 判断能力が、”低下した後に”対応する制度
 すでに患者さんの判断能力が低下してしまった場合に、家庭裁判所によって選任された代理人が、本人に代わって財産管理や契約の締結などを行なうもの。本人の判断能力が落ちているため、後見人選びは任意後見制度よりも厳しい手続きが必要になります。
 この制度では、本人が交わした不利益な契約などを後見人が取り消すことができます。

家族と自分の気持ちがすーっと軽くなる 認知症のやさしい介護
板東 邦秋 (著)
ワニブックス (2017/1/24)
P100

家族と自分の気持ちがすーっと軽くなる 認知症のやさしい介護 (ワニプラス)

家族と自分の気持ちがすーっと軽くなる 認知症のやさしい介護 (ワニプラス)

  • 作者: 板東 邦秋
  • 出版社/メーカー: ワニブックス
  • 発売日: 2017/01/24
  • メディア: 単行本(ソフトカバー)

76番金倉寺 香川県

介護者主導型介護

家族社会学者の笹谷春美さんは、日本で実際に介護を引き受けた高齢の夫の事例を研究対象にした(家族ケアリングをめぐるジェンダー関係」~略~1999年)。  定年後の夫は、妻が要介護になると、使命感を感じて、「オレの出番!」とがんばる場合がある。
~中略~
 笹谷さんはこういうタイプの夫の介護を「介護者主導型介護」と呼ぶ。つまり、介護が夫主導になり、介護される側の妻がそれに文句もいわず従わなければならない傾向がありということだ。
 介護される側になるということは、立場を問わず不如意なことが多いものだ。
「よい介護」とは、なんといっても介護される側にとって受けたい介護のこと。~中略~
 介護や医療の方針が食いちがったときなど、介護を受けている妻が、夫に異を立てるのはむずかしい。「お父さんのいいように」と、自分を人体実験の材料であるかのようにさしだす妻もいる。
そうなれば、ほとんど「介護されるボランティア」みたいなもの。  いやいや、男の介護に水をかけようというわけではない。介護は、する側とされる側とで、強者と弱者の力関係ができる。

男おひとりさま道
上野 千鶴子 (著)
文藝春秋 (2012/12/4)
P41

男おひとりさま道 (文春文庫 う 28-2)

男おひとりさま道 (文春文庫 う 28-2)

  • 作者: 上野 千鶴子
  • 出版社/メーカー: 文藝春秋
  • 発売日: 2012/12/04
  • メディア: 文庫

P225
 介護保険ができたときに、「親不孝保険」と呼ぶ人がいました。たしかに介護保険を推進した主要なアクターは、介護世代の有権者達でした。
その要求は「ちょっとでも家族介護負担を減らしてほしい」というものですから、ある意味「ウバ捨て」動機だったともいえます。
日本の介護保険は、高齢者自身が自分たちの老後の安心のためにつくってほしいと要求してできたものではありません。
社会保障先進国の高齢者福祉の歴史を見てみると、高齢者福祉は要介護世代の要求によってではなく、介護世代の要求によって推進されてきたことがわかります。

P235
 子どもに迷惑かけたくない・・・・・という動機は、とりわけ壮絶な介護体験の持主ほど、強く感じる傾向があるようです。自分が背負いきれないほどの負担を背負ったゆえに、子どもには同じ思いをさせたくないことはわかります。
それなら、大きな負担ではなく、ほどほどの負担をかけることをためらう理由はなさそうに思えます。家族の介護負担を軽減して、ほどほどに背負える程度にすること、それが介護保険の理念だったはずです。そしてそれこそが、家族を壊すどころか、家族を守る唯一の処方箋でしょう。
 だからこそわたしは、「いっしょに暮らさない?」という子どもからの申し出を[悪魔のささやき」と呼ぶいっぽうで、親世代には、たとえそれに「ノー」と答えたとしても、「おまえの世話にはならないよ」と憎まれ口を叩くのはやめたほうがよい、とアドバイスしてきました。そういうときには、「万が一のときにはよろしくね」と、言っておいたほうがよい、なぜって何があるかわからないのが、老後というものだからです。

おひとりさまの最期
上野千鶴子 (著)
朝日新聞出版 (2015/11/6)

おひとりさまの最期 (朝日文庫)

おひとりさまの最期 (朝日文庫)

  • 作者: 上野 千鶴子
  • 出版社/メーカー: 朝日新聞出版
  • 発売日: 2019/11/07
  • メディア: 文庫

75番善通寺 香川県

生涯現役

上り坂半分・下り坂半分の人生100年時代を迎えたのに、「降りる」のをどうしても拒否するひとたちがいる。
昔から長寿は人間の切なるのぞみだったのに、それを実現した社会で、どうして老いを拒否し、嫌悪しなければならないのだろうか。
PPK(ぴんぴんころり。死の直前までぴんぴんしていて、ころりと逝くことを理想とする考え方)と聞くたびに、私は老いを拒否する思想を感じ取ってしまう。老いを見たくない、聞きたくない、避けたい否認し、老化に抵抗するひとにとっては、ある朝ぽっくり、は理想だろう。
 サクセスフル・エイジング(成功加齢と訳す)は、アメリカ生まれの概念。 老いを拒絶する際たる思想だ。定義は「死の直前まで中年期を引き延ばすこと」と、ジェロントロジスト(老年学者)の秋山弘子さんが教えてくれた。
死ぬ直前まで[中年期」を引き延ばすことができるなら、そもそも「老年期」など存在しないといってよい。
それに、齢のとり方まで、成功だの失敗だのと、他人から言われたくない。「生涯現役」しそうもそのひとつ。

男おひとりさま道
上野 千鶴子 (著)
文藝春秋 (2012/12/4)
P86

男おひとりさま道 (文春文庫)

男おひとりさま道 (文春文庫)

  • 作者: 上野 千鶴子
  • 出版社/メーカー: 文藝春秋
  • 発売日: 2012/12/04
  • メディア: 文庫


74番甲山寺 香川県

雑草として生きる

P68
 地上の植物には人間社会との関わり方から見て、二つの種類がある。作物と雑草、または、植木と雑木である。
 前者は、耕作者が育ちやすいように用意した土地に種蒔かれ、耕作者の庇護のもとに育ち、やがて実りをつけて刈穫られ、耕作者の用に供される。その生涯はすべて耕作者によって管理され、計画的人工的に予定のコースを歩まされる。
 これに対し、後者の雑草・雑木は、人工的に種蒔かれることなく、自ら芽生え、自ら育つ。生涯、人間の関心と注目を集めることもないのが多い。中には刈り穫られて飼料や作物の肥料にされることで人のために役立つこともある。ごくまれな例だが、自然に生え育った雑草・雑木であるが故に、人工的な育成以上に珍重がられるものもある。
 だが逆に、耕作者の意に反して耕地のなかで繁茂し、憎しみを買い弾圧を受けることもある。
雑草にとって、人間の役にたつか憎しみを買うかは、重要な違いではない。いずれにしろ、雑草の成長は耕作者の予定外のことであり、雑草にとっても不本意なことであろう。
 この世の人間にも、社会体制との関わりにおいて、同じような二分類ができる。いわば体制の作物的人間と雑草的人間である。
 作物的人間は、有力な親や先輩によって育ちやすく耕された環境に植え付けられ、その庇護のもとに苦労なく優れた教育を受け、親譲りの資産や地位を肥料として既成の体制のなかで、ぬくぬくと伸び、やがて人々の期待通りの秀才となって機能を発揮し、自らを育成した耕作者、つまり現体制のために役にたつ。
 幼少期から未来が約束されている良家の子女や有力者の子弟、またはその養子や女婿(じょせい)など「プリンス」といわれる者がそれである。その典型は累代作物人間を続けて品種改良された門閥たちだ。欧米の言葉でいうエスタブリッシュド(確立された階級)がそれに当たるだろう。

~中略~
 こうした品種改良の純粋作物のほかにも作物人間はいる。まだ一人前に育たぬ前に実りよい将来を見越して選別され、保護育成の対象に加えられた人々だ。
 欧米人はこれを、多少の皮肉と軽蔑の意味をこめて「選ばれた人」、つまりエリートと呼ぶ。本格的なエスタブリッシュドのいない日本では、このエリートが作物人間の主流をなしている。
 累代の育成で品種改良を経ていないエリートは、いわば促成作物だ。その代わり、選別競争に勝ち抜くために幼少期から厳しい矯正を受けねばならない。おそらく、受験勉強がそれだろう。
~中略~ 
 しかし、耕され肥料を置かれた豊かな土地での競争はあくまでも作物同士の争いである。耕作者が勤勉有能である限り、彼らは雑草の侵害からは守られている。そして、ここで勝ち抜くものは、常に耕作者によって選ばれたもの、つまり既成の体制のお気に入りたちである。
~中略~
 当然、伸びすぎるエリート、個性的なエリートは間引き捨てられる運命にある。作物の田畑で生き残りを実をつけるエリートは、平均的な優良性と秩序に対する従順さを持っていなければならないでのである。
 これに対して雑草・雑木の世界は全く違う。ここでは耕作者の庇護は全くない。彼らは品種としても個人としても、耕作者、つまり耐性によって選別されたわけではない。~中略~
 当然、雑草が生き続ける実ることは、作物よりも難しい。世の人間どもがエリートに選ばれようとして幼少期からあくせく受験勉強をするのは当然である。
 しかし、雑草には雑草の楽しみと誇りがある。雑草の世界の競争は、作物社会のそれと全く異なっている。自らの力だけを頼りに生き残り実ればよいのであって、耕作者、体制の気に入られようとする必要はない。

 雑草は、自らの個性と意志と実力を思う存分発揮することができるし、限りなく巨大になることも可能である。それ故、雑草は、エリート作物の持つ呼息さと従順さを必要としない。 

歴史からの発想―停滞と拘束からいかに脱するか
堺屋 太一(著)
日本経済新聞社 (2004/3/2)

歴史からの発想 停滞と拘束からいかに脱するか (日経ビジネス人文庫)

歴史からの発想 停滞と拘束からいかに脱するか (日経ビジネス人文庫)

  • 作者: 堺屋 太一
  • 出版社/メーカー: 日経BP
  • 発売日: 2012/10/13
  • メディア: Kindle版

 

73番出釋迦寺 香川県

人生百年

 「五十歳になった。あと十年もしたらリタイアしてゆっくり老後を過ごし、お迎えがくるのを待てばいい」
 という時代は過ぎ去りました。五十歳になった。あと五十年ある、という人生行路が待っているのです。
 そこにあるのは、悠々自適の、静かな老後といった牧歌的な世界ではなく、あとの五十年をどう生きるかという、人によっては重くくるしさにとらわれるような、歴史が体験したことのない、未踏の世界なのです。
 これまでのように、人生の第一線からリタイアしたら、子どもや孫に囲まれて、のんびり余生を過ごすというようなシナリオは、もう成り立たないと考えたほうがよいでしょう。

百歳人生を生きるヒント
五木 寛之 (著)
日本経済新聞出版社 (2017/12/21)
P52

百歳人生を生きるヒント

百歳人生を生きるヒント

  • 作者: 五木 寛之
  • 出版社/メーカー: 日経BPマーケティング(日本経済新聞出版
  • 発売日: 2017/12/01
  • メディア: 新書

72番曼荼羅寺 香川県

おひとりさまは時間持ち

 おひとりさまは、「時間持ち」だ。
 浮世の義理も職場の拘束もない、ありあまる自由な時間。
 その時間はもはや「会社時間」でもなく、「家族時間」でもなく、「自分時間」だ。
だが、なにもすることのないありあまる時間は地獄。時間というものは、たんにあればよいものではなく、どうやって使うかが問われる。
1日24時間はだれにも平等だが、それを気ぜわしく動いてあっとううまと感じる人もいるし、無聊(ぶりょう) をかこって眠れぬ長い夜を過ごすひともいる。
「時間持ち」は、ただ時間があるということだけではじゅうぶんではない。そのなかで可処分時間、つまり自分の裁量で豊に使える時間がどれだけあるか、による。
カネ持ちがたんにカネをためこんでいるひとのことではなく、可処分所得、つまり自分の裁量で使えるおカネがどれだけあるか、どんな使い方をしているか、で問われるように。

男おひとりさま道
上野 千鶴子 (著)
文藝春秋 (2012/12/4)
P208

男おひとりさま道 (文春文庫 う 28-2)

男おひとりさま道 (文春文庫 う 28-2)

  • 作者: 上野 千鶴子
  • 出版社/メーカー: 文藝春秋
  • 発売日: 2012/12/04
  • メディア: 文庫

 

71番弥谷寺 香川県

生きがい症候群

P34
 みなが「立派ねえ」と目を見張るようなことをしていなければ、生きがいを持っているとは言えないというのは、根本的に誤った思い込みだろう。
そんな思い込みにとらわれ、肩肘張っていると、老後が重たくて仕方がなくなる。精神的にもいいことは一つもない。 

P35  老後は新しい目標を持ち、充実して生きていかなければならない。そんな思い込みが強過ぎるのである。  そのうちに、うつに陥ったり、パチンコやマージャン、ゲームにのめり込んでいってしまうことも珍しくない。近年、高齢者の間にうつやパチンコ依存症、アルコール依存症などが急増し、社会問題となっているくらいなのである。 最近の報道によれば、六十五歳以上の高齢者の万引きが二〇年連続で増加しているそうだ。万引きをしてしまう理由は、経済的な理由だけでなく、孤独感や所在感のなさからだというから、胸が詰まる

精神科医が教える50歳からの人生を楽しむ老後術
保坂 隆 (著)
大和書房 (2011/6/10)

精神科医が教える50歳からの人生を楽しむ老後術 (だいわ文庫)

精神科医が教える50歳からの人生を楽しむ老後術 (だいわ文庫)

  • 作者: 保坂 隆
  • 出版社/メーカー: 大和書房
  • 発売日: 2011/06/10
  • メディア: 文庫

 

70番本山寺 香川県