2026年4月24日金曜日

自分をだましてはならない

P177
このように、人は自分のはったりを自分で信じるようになることが多い。このような行動を食い止めるか、少なくとも軽減することはできないだろうか?
実権で成績を正確に予想することに報酬を与えても、自己欺瞞 をとり除くことはできなかった。

P179
 では自己欺瞞について、私たちはどういう立場をとるべきだろう?そのままにしておく?それとも排除した方がよいのだろうか?
自己欺瞞は、自信過剰や楽観主義に近いもので、この種のいろいろなバイアスの例に漏れず、よい面もあれば悪い面もある。よい面としては、根拠のない自信のおかげで、ストレスにうまく対処できるようになり、全体的な健康感が高まる、困難な仕事や退屈な仕事にとりくむ根気が出てくる、まったく新しいことを試す意欲がわいてくる、といったことがあげられる。
 わたしたちがこうしてまで、自分を欺くのは、一つには好ましい自己イメージを保つためだ。だからこそわたしたちは自分の失敗をごまかし、成功をアピールし(完全に自力によるものでなくても)、否定しようのない失敗をしたときには、他人や環境のせいにしようとする。
~中略~
 悪い面としては、人生をあまりにも楽観視して甘い考えで行動していると、万事がうまくいくと誤って思い込み、よりよい決定を積極的に下そうとしなくなるかもしれない。また自己欺瞞のせいで、著名大学を卒業したなどと偽って、自分の人生を「美化」していると、いずれ真実が明るみに出たとき大変なことになる。それにもちろん、一般的な欺瞞というものの代償がある。 自分や周りの人が不正直だと、だれもが疑心暗鬼になる。信頼のない場所では、生きていくのが何かと大変だ。
 人生のほかの側面と同じで、ここでもやはりバランスが大事だ。幸福(自己欺瞞のおかげでいくぶん増す)を求めつつも、将来のための最善の決定積極的に下す(かつ、現実的な自己イメージをもつ)必要がある。 バラ色の未来を夢見て、希望に胸をふくらませるのはもちろんすばらしいことだ。だがこと自己欺瞞に関する限り、過大な思いこみをもっていると、現実が押し寄せてきたとき、深く傷つくことになる。

 

P186
 カリフォルニア工科大学の一九七四年の学位授与式で、物理学者のリチャード・ファインマンは、卒業生に対するはなむけのスピーチでこう言った。
「第一の原則は、自分をだましてはならないということだ。自分というのは、最もだましやすい人なのだ」。
ここまで見てきたように、わたしたち人間は、根本的な葛藤に引き裂かれている。自分や他人を欺こうとする根深い傾向と、自分を善良で正直な人間と思いたいという欲求との葛藤だ。
そこでわたしたちは、自分の行動がなぜ妥当で、ときには称賛に値さえするのかを説明する物語を語ることで、自分の不正直さを正当化する。実際、わたしたちはじぶんをだますのがとてもうまいのだ。

ずる―嘘とごまかしの行動経済学
ダン アリエリー (著), Dan Ariely (著), 櫻井 祐子 (翻訳)
早川書房 (2012/12/7)

ずる 嘘とごまかしの行動経済学

ずる 嘘とごまかしの行動経済学

  • 出版社/メーカー: 早川書房
  • 発売日: 2013/01/25
  • メディア: Kindle版

 

人は想像によって、人生から完全な満足を得られぬことの埋め合わせをする。
人間の避けがたい運命と考えて、もっとも根本的な本能の多くを満足させることを諦めるのだが、諦めるのはなかなか辛い。
そこで、名誉欲、権力欲、愛欲などが阻まれると、人は空想を用いて自分を欺く。現実に背を向けて、何のさまたげなしに欲望を満足させるような作り物の楽園に向かう。
そして虚栄心からこの心的作用に特別な価値を持たせ、想像力の駆使は人間の最も崇高な行為であるように思い込む。
しかし、想像することは失敗である。現実に直面して敗北したことを承認することだからだ。
(「作家の手帳」一九三三年)

モーム語録
行方 昭夫 (編集)
岩波書店 (2010/4/17)
P1

モーム語録 (岩波現代文庫)

モーム語録 (岩波現代文庫)

  • 出版社/メーカー: 岩波書店
  • 発売日: 2010/04/17
  • メディア: 文庫
乗鞍岳

健全な精神を体験する権利

 精神疾患であることの権利を主張する人もいますが、わたしはこう思います。たとえ、彼らの脳の病や外傷の原因が何であれ、健全な精神を体験して共通の現実を分かち合うことは、万人に与えられた平等な権利なのです!

奇跡の脳―脳科学者の脳が壊れたとき
ジル・ボルト テイラー (著), Jill Bolte Taylor (原著), 竹内 薫 (翻訳)
新潮社 (2012/3/28)
P258

奇跡の脳―脳科学者の脳が壊れたとき (新潮文庫)

奇跡の脳―脳科学者の脳が壊れたとき (新潮文庫)

  • 出版社/メーカー: 新潮社
  • 発売日: 2012/03/28
  • メディア: 文庫

乗鞍岳

人間はこわれものだ

歳をとるにつれて、人間はこわれものだという感覚が身にしみてきた。こわれものだから、取り扱いを乱暴にすると、「こわれてしまう。無理をすれば、カラダもこわれるし、ココロもこわれる。
こわれるものはこわれものらしく、大事に扱わなくては、と思うようになった。

男おひとりさま道
上野 千鶴子 (著)
文藝春秋 (2012/12/4)
P91

男おひとりさま道 (文春文庫)

男おひとりさま道 (文春文庫)

  • 作者: 上野 千鶴子
  • 出版社/メーカー: 文藝春秋
  • 発売日: 2012/12/04
  • メディア: 文庫

この章を読んで、ごく健康に生きているように見えていても、我々は、我々の臓器は、そして、我々の細胞は、常に外部からなんらかの攻撃をうけていることがおわかりいただけたかと思います。
そして、そのれに対応して、「人みな骨になるけれど」、なんとか正常な状態を保とうと、いろいろなメカニズムを駆使してやりくりしている、というのが、生きているということなのです。
 病気というのは細胞の働きがいろいろな傷害をまかないきれなくなって破綻した状態、という言い方ができます。しかし、そのような状態になってもすぐ死ぬわけではありません。
細胞たちは、正常とは少し違った状態で、ちょっと専門的な言葉になりますが「病態生理」的に新しい平衡状態で生きていくようになるのです。ある意味、だましだまし、というところでしょうか。
なんだか、細胞の生きざまって人生といっしょみたいな気がしませんか?
 精神は「人みな骨になるならば」と達観しながら、肉体は「人みな骨になるけれど」と踏ん張っていく。そんなおとなにわたしはなりたい。って、もう還暦ですけど。

こわいもの知らずの病理学講義
仲野徹 (著)
晶文社 (2017/9/19)
P101

こわいもの知らずの病理学講義

こわいもの知らずの病理学講義

  • 作者: 仲野徹
  • 出版社/メーカー: 晶文社
  • 発売日: 2017/09/19
  • メディア: 単行本

人間は社会人である以前に自然人であったはず

「人間は本来、社会人である以前に自然人であったはずだ」

これが僕の基本姿勢だ。科学技術が発達し、都市化が進み、本体自然なくしては生きてはいけなかったはずの人間が、都市に生まれ自然と接することなく生きていける異常な事態になってしまった。自然と一体だったはずの人間が自然人でなくなったがゆえに叡智を失い、温暖化などの地球破壊行為が行われてきた。叡智とは自然とともに生きてゆくための哲学を有した知識のことをいう。
加藤則芳

季刊 のぼろ vol.3
西日本新聞社 (編集)
西日本新聞社 (2013/12/16)
P74

季刊 のぼろ vol.3

季刊 のぼろ vol.3

  • 出版社/メーカー: 西日本新聞社
  • 発売日: 2013/12/16
  • メディア: 大型本

 


 なんとなく気分がくさくさする時、人のことがうらやましく見えて仕方ない時、身近な自然の中に出かけてみてください。山でも海でもかまいません。
煩わしいしがらみから離れて、大きな自然に身をゆだねてみるのです。
 打ち寄せる波音を聞き、ひとすくいの砂の手触りを楽しみ、潮風に吹かれながら散歩する。山道を一歩一歩踏みしめ汗を流し、山頂の景色を堪能しながらおにぎりをほおばる。疲れているなら、眼前の景色を眺めつつ、時間を忘れてただひたすらボーッとする。
それだけでも十分です。
 普段の生活では決して味わえない、何ともいえない解放感が湧いてきて、卑屈な心や頑なな気持ちが解きほぐれていくでしょう。
 本来、私たちの先祖は、昇る朝日に手をあわせ、満ちては欠ける月を愛で、自然と一体となって暮らして来ました。四季の移り変わりを敏感に感じ取り、繊細な感性を育んできたのです。

怒らない 禅の作法

枡野 俊明 (著)
河出書房新社 (2016/4/6)
P74

怒らない 禅の作法 (河出文庫)

怒らない 禅の作法 (河出文庫)

  • 作者: 俊明, 枡野
  • 出版社/メーカー: 河出書房新社
  • 発売日: 2016/04/06
  • メディア: 文庫
大分県杵築市・豊後高田市 田原山(たわらやま)鋸山

「人」は「機械」ではない

生きたものを認識し記述しようとするものは、
まず、執拗に生きものから魂を取り除く。
次に、手に入れた各部分を分類する。
しかし、気の毒なことに、精神的なつながりは欠けている。
科学ではそれを「自然の働き」と呼ぶ。
それがどれほど、みずからをあざけり侮辱するものであろうとも。
ゲーテ「ファウスト」第一部

小阪裕司 (著)
リーダーが忘れてはならない3つの人間心理
フォレスト出版 (2010/3/10)
P109

リーダーが忘れてはならない3つの人間心理 (Forest2545Shinsyo 10)

リーダーが忘れてはならない3つの人間心理 (Forest2545Shinsyo 10)

  • 作者: 小阪裕司
  • 出版社/メーカー: フォレスト出版
  • 発売日: 2010/03/10
  • メディア: 新書

「アインシュタインの理論的思考能力と、ガンジーの忍耐力と、電子計算機の計算能力を持ち、すべて合理的に判断して行動するホモエコノミクス」ととらえれば、このようなソリューション(住人注;休憩場所に自然物(緑、魚など)を置く、座ってタバコを吸える環境を提供する、騒音を減らす)を実施することはナンセンスであろう。
 しかし、ほとんどすべての人間はホモエコノミクスではない。合理性とは別のセオリーに基づいて行動しているので、右のようなソリューションは有効である。
ホーソン効果という言葉を聞いたことがある人も多いかもしれない。これは、働く人たちの作業効果は、労働時間と賃金ではなく、周り関心と上司の注目に最も大きな影響を受けるという理論である。
~中略~
「労働環境に配慮するほど、会社は私たちのことを考えてくれている」というメッセージが伝わることが、モチベーションの面で非常に重要である。

ビジネスマンのための「行動観察」入門
松波 晴人 (著)
講談社 (2011/10/18)
P225

 

ビジネスマンのための「行動観察」入門 (講談社現代新書)

ビジネスマンのための「行動観察」入門 (講談社現代新書)

  • 作者: 松波晴人
  • 出版社/メーカー: 講談社
  • 発売日: 2012/09/28
  • メディア: Kindle版

 

 

山折 ~前略~ だけどね、DNAの存在を自分の中に本当に実感した人はそんなにいないのではないか。理屈ではその実在を信じているけれども、実感はしていない。
ところがそれとは反対に、たとえば映画を観て感動するとか、スポーツをしていて身体の高揚を感じるとか、そんな時人間は得体の知れないエネルギーを身内に実感する。霊的なパワーといってもいいかな。
これは実感はできても、おそらく客観的にその存在を証明することはできないでしょう。

客観的に実在が証明されたDNAは実感できないのに、実在を証明できないものの方が実感できる。
人間の持つこのような矛盾が、そもそも生命の実体ではないかと私は思うんです。
やはり曖昧ですよね
山折 哲雄

玄侑 矛盾を肯定的に認めるのは、思想を先鋭化させない一つの手段じゃないでしょうか。矛盾とか曖昧さを肯定できれば、戦争も起きないかもしれませんね。

玄侑 宗久 (著)
多生の縁―玄侑宗久対談集
文藝春秋 (2007/1/10)
P46

多生の縁 玄侑宗久対談集

多生の縁 玄侑宗久対談集

  • 作者: 玄侑 宗久
  • 出版社/メーカー: 文藝春秋
  • 発売日: 2004/03/24
  • メディア: 単行本
 

P69
 もし食物を飲み損ねて胸でずるずるいっているときは、目をつぶって待っているか、気を紛らわすために、テレビの前で待つ。もちろん何をやっているかは問題でない。
運がよければついには咳とともに大量の痰がでてケロリと楽になる。でも運が悪いと苦しみは二、三時間は続く。その間は、祈るような気持ちでひたすら待たなければならない。食うということがこんなに大変なことかを思い知った。
 解剖の本を開いて、飲み込むために必要な筋肉と神経を調べたが、複雑すぎてわからない。私たちはこんなに複雑な機構を駆使して、ものを食べていたのだ。摂食というあまりにありふれた行動が、これほど複雑な神経支配と沢山の筋肉の共同作業で行われていることの発見は、生命の神秘にさえ見えた。
 同時に、こんなところまで壊れてしまったとは、機械としての人間がもう用をなさなくなったと絶望した。
同じことは発音、発声、構音にもいえる。私は原音は作れるが、それを加工して言葉にすることができない。
いままで当然のこととして会話していたのが、やはり多くの筋肉が、異なった神経によって動かされ、しかも感情の赴くままに声になっていたのだ。
生命活動はこうして統合されて一つの行動になる。大変なことだ。

P130
身体についても新しい発見がある。たとえば頬の痒みを掻くと麻痺した手が不随意に動く。あくびと同時に、麻痺した腕の筋肉が緊張する。猫のあくびと同じだ。
いわゆる錐体外路の神経が活動するからだろうか。麻痺で不随意になっても、人間の運動系は一体になって動いていることが実感としてわかる。

こんなことも健康なときは気づかないで、何でも細分化すれば理解できると思っていた。
医学を学んだ身として愚かなことだった。  

寡黙なる巨人
多田 富雄 (著), 養老 孟司 (著)
集英社 (2010/7/16)

寡黙なる巨人 (集英社文庫)

寡黙なる巨人 (集英社文庫)

  • 作者: 多田富雄
  • 出版社/メーカー: 集英社
  • 発売日: 2014/10/03
  • メディア: Kindle版

 人間のあやまちこそ人間をほんとうに愛すべきものにする。
   (「格言と反省」から)

ゲーテ格言集
ゲーテ (著), 高橋 健二 (翻訳)
新潮社; 改版 (1952/6/27)
P7

ゲーテ格言集(新潮文庫)

ゲーテ格言集(新潮文庫)

  • 出版社/メーカー: 新潮社
  • 発売日: 2016/04/22
  • メディア: Kindle版

考え続けること

 自分なりに腑に落ちると、人はついそこで考えるのをやめにしちゃう。
でも、答えが分らないといつまでも考えるだろう。肝心なのは答えを得ることじやなく、考え続けることなんだな。

天台宗大阿闍梨 酒井 雄哉 (著)
一日一生
朝日新聞出版 (2008/10/10)
P84

一日一生 (朝日新書)

一日一生 (朝日新書)

  • 作者: 天台宗大阿闍梨 酒井 雄哉
  • 出版社/メーカー: 朝日新聞出版
  • 発売日: 2008/10/10
  • メディア: 新書

 

  生きた魚を手にするためには、自分で出かけていきうまく魚を釣り上げなければならない。これとおなじように、自分の意見を持つためには、みずから動いて自分の考えを掘り下げ、言葉にしなければならない。
 そしてそれは、魚の化石を買う連中よりもましなことだ。
自分の意見を持つことを面倒がる連中は、金を出してケースに入った化石を買う。この場合の化石とは、他人の昔の意見のことだ。
 そして彼らは、買った意見を自分の信念としてしまう。そんな彼らの意見はいきいきとしておらず、いつまでたっても変わらない。
けれども、この世にはそういう人間が数多くいるのだ。
「漂泊者とその影」

超訳 ニーチェの言葉
白取 春彦 (翻訳)
ディスカヴァー・トゥエンティワン (2010/1/12)
088

超訳ニーチェの言葉

超訳ニーチェの言葉

  • 出版社/メーカー: ディスカヴァー・トゥエンティワン
  • 発売日: 2012/10/18
  • メディア: Kindle版

大分県杵築市・豊後高田市 田原山(たわらやま)鋸山

真理は単純だが、事実は複雑

科学上の理論は、しばしば美しいとされる。「真理は単純で、単純なものは美しい」。
よくそう言われる。ただし私はたえず反論する。真理は単純で美しいかもしれないけれど、事実は複雑ですよ、と。

遺言。
養老 孟司 (著)
新潮社 (2017/11/16)
P111

遺言。(新潮新書) 「壁」シリーズ

遺言。(新潮新書) 「壁」シリーズ

  • 作者: 養老孟司
  • 出版社/メーカー: 新潮社
  • 発売日: 2017/11/24
  • メディア: Kindle版

大分県杵築市・豊後高田市 田原山(たわらやま)鋸山

時間厳守

  「時間」の問題というものは、もう一つ大事なことがある。
それは、自分の人生が一つであると同時に、他人の人生も一つであるということだ。
自分と他人のつき合いでもって世の中は成り立っているんだからね。だから、時間がいかに貴重なものかということを知っていれば、
他人に時間の上において迷惑をかけることは非常に恥ずべきことなんだ。

池波 正太郎 (著), 柳下 要司郎 (編集)
新編 男の作法―作品対照版
サンマーク出版 (2004/05)
P147

新編 男の作法―作品対照版

新編 男の作法―作品対照版

  • 作者: 池波 正太郎
  • 出版社/メーカー: サンマーク出版
  • 発売日: 2004/05/01
  • メディア: 単行本


 連絡もなしに人を待たせるのはよくない。マナーや約束の次元だけの問題ではない。
待っている間にその人は、あれこれと良からぬ想像をめぐらせ、心配し、次には不快になり、だんだんと憤慨してくるものだ。

 つまり、人を待たせるのは、何も使わずにその人を人間的に悪くさせてしまう不道徳きわまりない方法なのだ。
「人間的な、あまりに人間的な」

超訳 ニーチェの言葉
白取 春彦 (翻訳)
ディスカヴァー・トゥエンティワン (2010/1/12)
145

 

超訳 ニーチェの言葉

超訳 ニーチェの言葉

  • 作者:
  • 出版社/メーカー: ディスカヴァー・トゥエンティワン
  • 発売日: 2010/01/12
  • メディア: 単行本


大分県杵築市・豊後高田市 田原山(たわらやま)鋸山

人格

P132
そもそも「人格」とは何でしょうか。G・Wオルポートの有名な定義では、「人格とは、個人の環境に対する特徴的な行動と考えを決定している複数の心理・生理系の、個人内にある力動的体制である」とされています。  この定義について注目すべきことが二つあります。まず、ある個人の言動を観察している、つまり外から「私」を見ていること。次に「個人内にある力動的体制」は、経時的に別人格が現れる可能性を否定していないことです。

P143
 その「体制」の基本的役目とは環境に適応することであり、換言すれば、ヒトの「いのち」を、その環境で苦痛を少なく存続させることである、とお思います。

 

P157
 今までの「私」や「人格」についての議論を総括すると、「私」「人格」もある現象であって、条件が整っている限り、種々の因子がおたがいに関係しあってその現象を生ぜしめている、ということです。
つまり、仏教でいう、すべては「因縁」によって生起しているという法則にまとめることができるように思います。
換言すれば、「実体的自我」は、ヒトの発育過程でも、死に近い老いの過程でも観察できないのでした。

「痴呆老人」は何を見ているか
大井 玄 (著)
新潮社 (2008/01)

「痴呆老人」は何を見ているか (新潮新書)

「痴呆老人」は何を見ているか (新潮新書)

  • 作者: 大井 玄
  • 出版社/メーカー: 新潮社
  • 発売日: 2008/01/15
  • メディア: 新書

滋賀kenn 日吉大社

ありのままの~♪姿見せていいの?

P200
 わたしたちはよく、自分を受け入れることで成長できると聞かされる。「ありのままの自分を愛しなさい。この瞬間の自分という人間を受け入れて心安らかでありなさい」と言われる。自己受容は自分自身だけでなく、自分の人生をも受け入れることにつながり、それによって、ある程度の平静さが得られる。

 しかし、本書の哲学者のひとりは、このような自己受容を憂慮したことだろう。紀元前三一〇年生まれの儒家、荀子は、自分をありのまま受け入れるべきだとは考えなかった。
むしろ、自分にとって自然だと思えるものをいい気になって受け入れるべきではないと論じた。 ~中略~
荀子はつぎのように書いている。
 人の本性は悪であって、それを善にするのは人為によるものだ。今、人の本性には生まれつき利益を好む傾向がある・・・・・・また、生まれつき人をねたみ憎む傾向がある・・・・・・そうだとすれば、人の本性に従い、感情のまま行動すると、かならず争い奪い合うことになり、社会の秩序が乱れ、ついには天下に混乱をきたす。【44】
※44 人の性は悪にしてその善なる者は偽(ぎ)なり。今、人の性は生まれながらにして利を好むことあり・・・・・・生まれながらに疾(ねた)み悪(にく)むことあり・・・・・しからずば人の性に従い人の情に順(したが)えば、かならず争奪に出(い)で、犯文乱理(はんぶんらんり)に合いて、暴(ぼう)に帰す。  

P204
 荀子は、自然へのどんな忠誠も、それがわたしたち人間の自然な本性であれ外界の自然であれ、とにかく自然を「あるがまま」に受容することは本来的に極端で有害だと考えた。

P206
荀子が自著のなかで、人の本性をねじ曲がった木にたとえ、外から力ずくで真っすぐにしなければならないものととらえていたことはよく知られている。しかし、人の本性について批評するほかの人たち(たとえばカントは、何世紀ものちに、”人間性というねじ曲がった材木からは、真っすぐなものなどつくられたためしがない”と主張している)と違って、荀子は、ねじ曲がった木である人の本性も真っすぐにできると考えた。
そのためには〈偽〉、すなわち礼を生じさせる「人為」が必要になる。  とはいえ、人為はうまく用いなければならない。わたしたちは、人為的でつくりものっぽい人を信用しない傾向がある。しかし、わたしたちの個々のペルソナ、すなわち人格という仮面もつくられたものだと荀子なら指摘するだろう。
たとえ自分では自然で「本物」だと思っていても、実際はそうあることを選択した結果であり、だから一種の人為といえる。
荀子にとって、人為的なことはよいことだ。ただ、自分が人為的なことをしていると自覚して、それをうまくやる必要があるというだけだ。
 人為は無意識の本性や手におえない感情をコントロールするのに役立つ。幼い子どもは、疲れたり、お腹がすいたり、今すぐお気に入りのおもちゃで遊べなかったりすると、ひどいかんしゃくを起こす。しかし、わたしたち大人はちょっと自制心がある。

P208
 自然に生まれ、そのままの状態にあるものを性という。・・・・・・あるがままに感応して、干渉を受けることなく自然なままの状態にあるものを性という。性の好悪喜怒哀楽を情という。
 情がそのような状態のとき、心が作用してどれかを選択することを慮という。心が思慮したうえで、体がそれを動作にあらわすことを偽(ぎ)すなわち人為という【46】
 荀子は、意識的に自分の本性に働きかけて、感情や衝動を修め律するべきだと説いた。

P209
 そもそも礼儀というものは、聖人の人為から生じるものであって、もともと人の本性から生じるものではない。
陶工は粘土をこねて器をつくる。そうであれば、器は陶工の人為によってできるのであって、もともと陶工の本性によってできるのではない・・・・・聖人は思慮を重ね、多くの人為を繰り返したうえで、礼儀をつくりあげ法規を起こす。
そうであれば、礼儀や法規というものは聖人の人為によってできるのであって、もともと人の本性によってできるものではない。【47】

 

P210
 人の本性というものは、そもそも出発点であり、素朴な素材だ。人為というものは、修飾性と合理性のある盛大なものだ。本性がなければ、人為を施すべき素材もない。
しかし、人為がなければ、本性はそれ自体で美しくなれるわけではない・・・・・・人の本性と人為が一体に合わさったとき、天下が治まる。【48】
※47 生のしかる所以(ゆえん)のものはこれを性といい・・・・・精合し感応じて事とせずして自らしかるものもこれを性という。性の好悪喜怒哀楽はこれを情という。
  情のかくごとくして心これが択をなすはこれを慮(りょ)という。心慮(はか)りて能これが動をなすはこれを偽(ぎ)といい・・・・・・
※48 性なる者は本始材木なり、偽なる者は文理隆盛なり。性なければすなわち偽の加うる所なく、偽なければすなわち性は自らは美なることあたわず・・・・・性と偽と合して天下治まる。  

ハーバードの人生が変わる東洋哲学──悩めるエリートを熱狂させた超人気講義
マイケル・ピュエット (著), クリスティーン・グロス=ロー (著), 熊谷淳子 (翻訳)
早川書房 (2016/4/22)

ハーバードの人生が変わる東洋哲学 悩めるエリートを熱狂させた超人気講義 (早川書房)

ハーバードの人生が変わる東洋哲学 悩めるエリートを熱狂させた超人気講義 (早川書房)

  • 出版社/メーカー: 早川書房
  • 発売日: 2016/04/28
  • メディア: Kindle版

京都市 新日吉神宮