2026年4月13日月曜日

共助

  日本の高齢者福祉は、以下の三点セットで成り立っていることを前章で論じました。年金、医療、介護です、それに居住が加わって4点セットになります。それぞれに年金保険、健康保険、介護保険という制度が対応しています。いずれも保険という共済制度です。
これがほんらいの意味の「共助」です。お互いに自分のフトコロからおカネを出し合って、困ったときに困ったひとに配分するという社会連帯の原理です。
病気知らずのひとは健康保険を払いつづけていても一生使わないこともあるでしょうし、介護保険も保険料が年金から天引きされているのに、ぽっくり逝ったらお世話にならずにすむでしょう。その反対に病気がちで払った以上の医療費の給付を受けているひともいるでしょうし、介護保険をめいっぱい使っているひともいるでしょう。トラブルのないひとにとっては、共済制度というものは不公平なものです。ですが、困ったときの助け合い、これが「共助」の原理です。
 アメリカはそうではありません。アメリカは主として「自助」に期待する社会です。だからオバマ大統領が登場するまで、国民健康保険というものが存在しませんでした。

おひとりさまの最期
上野千鶴子 (著)
朝日新聞出版 (2015/11/6)
P63

おひとりさまの最期 (朝日文庫)

おひとりさまの最期 (朝日文庫)

  • 作者: 上野 千鶴子
  • 出版社/メーカー: 朝日新聞出版
  • 発売日: 2019/11/07
  • メディア: 文庫

乗鞍岳

学問は米を搗きながらも出来るものなり。

  生計難しと雖ども、よく一家の世帯を計れば、早く一時に銭を取りこれを費やして小安を買わんより、力を労して倹約を守り大成の時を待つに若かず。
学問に入らば大いに学問すべし。農たらば大農となれ、商たらば大商となれ。
学者小安に安んずるなかれ。
粗衣粗食、寒暑を憚らず、米も搗くべし、薪も割るべし。
学問は米を搗きながらも出来るものなり。
人間の食物は西洋料理に限らず、麦飯を喰い味噌汁を啜り、もって文明の事を学ぶべきなり。

福沢 諭吉 (著)
学問のすすめ
岩波書店; 改版版 (1978/01)
P112

学問のすゝめ (岩波文庫)

学問のすゝめ (岩波文庫)

  • 作者: 福沢 諭吉
  • 出版社/メーカー: 岩波書店
  • 発売日: 1978/01/17
  • メディア: 文庫

 

日本人は学問といえば、学校で先生が切り口上か何かで講和するのを、固い冷たい椅子の上で聞くものとばかり思い、その他の場合に聞いたことは有益なことでも、活きた実際問題でも、ただ聞き流して、ただ聞き流して、学問とは思わぬらしい。
しかし、慈母の温和な談話も、厳父が冗談交じりに語ることにも、有益な学問となることがたくさんある。

修養
新渡戸 稲造 (著)
たちばな出版 (2002/07)
P278

修養 (タチバナ教養文庫)

修養 (タチバナ教養文庫)

  • 作者: 新渡戸 稲造
  • 出版社/メーカー: たちばな出版
  • 発売日: 2002/07/01
  • メディア: 新書
奈良県 飛鳥大仏

聖人の声にも覚めず

P148
 いかんせん聖(ひじり)の高く呼(よび)さます
                 声にも覚(さ)めぬ世の中のゆめ
(翻歌)
P149
今から二千五百年前に生まれた孔子は、当時の人たちに、人間すべからく「君子」たるべきことを説かれた。
そして、私意の病気におかされているのが小人であり、君子は明徳を明らかにしているゆえに、万欲の根を切り払い、つねにこころ平かで広々としている。
孔子などの聖人は、小人の凡夫のために経書をあらわしたが、一向まなぼうとはしない。

中江藤樹 人生百訓
中江 彰 (著)
致知出版社 (2007/6/1)

中江藤樹人生百訓

中江藤樹人生百訓

  • 作者: 中江 彰
  • 出版社/メーカー: 致知出版社
  • 発売日: 2007/06/01
  • メディア: 単行本

京都府 法然院

哲学者はいなくなった

 ソロー(住人注;ヘンリー・ディヴィッド・ソロー)は、哲学者を、哲学教授から区別して、つぎのようにいった。

 近頃は哲学教授はざらにいるが、哲学者はいなくなった。
たにんの哲学を教えることも称賛すべきことだ。かつてその人々がその哲学を生きたことをあかしするのは称賛に価するからだ。
哲学者であるということは、単に玄妙な思想を持つということではない。
学派を創立するということでさえもないのだ。それは、知恵を愛し、知恵を命ずるところによって生きることである。
それは、簡素と、独立と、寛容と、信頼の生活を送ることである。
それは、理論的にだけでなく、実践的に、いくばくかの生活の問題を解くことである。

南方熊楠 地球志向の比較学
鶴見 和子 (著)
講談社 (1981/1/7)
P233

南方熊楠 地球志向の比較学 (講談社学術文庫 528)

南方熊楠 地球志向の比較学 (講談社学術文庫 528)

  • 作者: 鶴見 和子
  • 出版社/メーカー: 講談社
  • 発売日: 1981/01/07
  • メディア: 文庫

 

京都府 銀閣寺

「ごまかす気持ち」は感染する

P231
 以上の結果を考え合わせると、ごまかしがごくあたりまえに行われること、そしてごまかしには感染性があり、周りの人の問題行動を目撃することで量が増える場合がることがわかる。
具体的言うと、わたしたちをとり巻く社会的な力は、二つの方法で作用するように思われる。ごまかしをする人が自分と同じ社会集団に属しているとき、わたしたちはその人を自分と重ね合わせ、ごまかしが社会的により受け入れられやすくなったと感じる。
だがごまかしをする人がよそ者だと、自分の不品行を正当化しにくくなり、その不道徳な人物や、その人が属するほかの(ずっと道徳性の低い)外集団から距離を置きたいという願望から、かえって倫理性を高めるのだ。
 より一般的には、わたしたちが自分の行動(ごまかしをふくむ)の許容範囲をきめるうえで、他人の存在がとても重要だということを、これらの結果は示している。
わたしたちは自分と同じ社会集団のだれかが、許容範囲を逸脱した行動をとるのを見ると、それに合わせて自分の道徳的指針を微調整し、彼らの行動を規範としてとり入れるのだろう。その内集団のだれかが、権威のある人物―親や上司、教師、その他尊敬する人―であれば、引きずられる可能性はさらに高くなる。

P275
だれもがごまかしをする能力をもっている。またごまかしをする自分がなぜ不正直でも不道徳でもないのか、その理由を説明する物語を自分に語るのがとてもうまい。
さらに始末の悪いことに、わたしたちは他人のごまかし菌に「感染」しやすく、またいったん不正なことをし始めると、同じ方法で不品行を続ける可能性が高い。

ずる―嘘とごまかしの行動経済学
ダン アリエリー (著), Dan Ariely (著), 櫻井 祐子 (翻訳)
早川書房 (2012/12/7)

ずる 嘘とごまかしの行動経済学

ずる 嘘とごまかしの行動経済学

  • 出版社/メーカー: 早川書房
  • 発売日: 2013/01/25
  • メディア: Kindle版

 

村の鍛冶屋

私の知識では鍛冶屋というのは大正時代ぐらいまでどの村にもあって、村人のために鎌や包丁などを打っていた。江戸時代は刀鍛冶に対して野鍛冶と言い、ともかくも職業としての伝統は医師と同様に古いのである。
ところがそれらの生産と販売は次第にメーカーの仕事になり、戦後は井関農機といったような大メーカーが農村をつつみこんでしまって、一郷一村にかならず存在した鍛冶屋というものが滅びてしまった。

街道をゆく (3)
司馬 遼太郎(著)
朝日新聞社 (1978/11)
P123

街道をゆく〈3〉陸奥のみちほか (1978年)

街道をゆく〈3〉陸奥のみちほか (1978年)

  • 作者: 司馬 遼太郎
  • 出版社/メーカー: 朝日新聞社
  • 発売日: 2021/03/01
  • メディア: -

 

 刀鍛冶や野鍛冶は、鋼(はがね)のもとになる玉鋼を買って来なければならない。玉鋼は、砂鉄を採掘してそれを熔かしてつくる。そういう製鉄業者(たたらもの)が吉井川の上流(たとえば作州の加茂盆地付近)に居て、供給する。
刀鍛冶・野鍛冶は、上古は製鉄現場の山のそばに寄り添うようにして住んでいたろうが、鎌倉期あたりから商品経済や運輸業がさかんになるにつれ、玉鋼の流通はかれらにまかせ、鍛冶たちは製品の販売の容易な下流あたり(山陽道ぞい)の平野に住むようになったのであろうか。

街道をゆく (7)
司馬 遼太郎(著)
朝日新聞社 (1979/01)
P279

街道をゆく〈7〉大和・壷坂みちほか (1979年)

街道をゆく〈7〉大和・壷坂みちほか (1979年)

  • 作者: 司馬 遼太郎
  • 出版社/メーカー: 朝日新聞社
  • 発売日: 2021/03/01
  • メディア: -

 

奈良県 橘寺

「エコ」じゃなく「エシカル」かどうか

 地デジのせいで、列島の何台のテレビが捨てられただろうか。
 政府は「地球温暖化防止」という旗を振りつつ、こんな地球に優しくない愚策も同時に進めている。首をかしげる。  自動車業界も、「エコ替え」などと言って、買い替えブームを演出しようと懸命である。  しかし、ハイブリッド車を「これで二酸化炭素削減!」と宣伝するのはやりすぎだ。
~中略~
 これからは「エコ」じゃなく「エシカル(論理的)」かどうかで企業を選ぶことをお勧めする。
かわいこちゃんが出てきていいことばかり言うコマーシャルだけ見てても、それはわからない。企業のウェブサイトや商品サイトを、目を皿のようにしてチェックして、都合の悪い情報も公開しているか見るべきだ。

気になる科学 (調べて、悩んで、考える)
元村有希子 (著)
毎日新聞社 (2012/12/21)
P82

気になる科学 (調べて、悩んで、考える)

気になる科学 (調べて、悩んで、考える)

  • 作者: 元村有希子
  • 出版社/メーカー: 毎日新聞社
  • 発売日: 2012/12/20
  • メディア: 単行本

 

京都府 大原

美を維持するにはお金がかかる

 明治六年の暑い時期、東京の情勢が征韓論のために沸騰しはじめたころのことである。
反征韓論の立場にある大久保利通は東京の過熱した空気から脱すべく近畿地方の遊覧の旅に出かけた。
その京都滞在中、土地のものが陳情に来て、
「ご一新になってから京都の名称は荒れはてております。嵐山などはひどいもので」
と言い、なんとか金を出してもらいたい旨を懇願した。陳情者たちは旧幕時代にはこういうことはございませんでした、というのである。
 大久保はこのころ欧州から帰ったばかりで、文明の政策をおこなうべく意気ごんでいた。
かれはおもに法制面から欧州諸国を見学し、法制をまねれば日本もいつかは欧州なみの文明に対することができるとおもっていたのだが、しかし、欧州諸国からその都市美や自然美の保存のためにいかに金をかけているかということまでは見て来なかった。この陳情を聞き、
(江戸幕府というのはそういう面にまで金をかけていたのか)
 と内心よほど衝撃をうけ、政治とか文明とかいうものが決して単純なものではなさそうだということに気がついた。

街道をゆく (3)
司馬 遼太郎(著)
朝日新聞社 (1978/11)
P161

街道をゆく 3 陸奥のみち、肥薩のみちほか (朝日文庫)

街道をゆく 3 陸奥のみち、肥薩のみちほか (朝日文庫)

  • 作者: 司馬 遼太郎
  • 出版社/メーカー: 朝日新聞出版
  • 発売日: 2008/08/07
  • メディア: 文庫

 

「なぜ、私は移ろい易いのですか。おお、ジュピターよ」と、美が尋ねた。
「移ろい易いものだけを美しくしたのだ」と、神は答えた。
(「四季」夏の部から))

ゲーテ格言集
ゲーテ (著), 高橋 健二 (翻訳)
新潮社; 改版 (1952/6/27)
P73

 

ゲーテ格言集 (新潮文庫)

ゲーテ格言集 (新潮文庫)

  • 出版社/メーカー: 新潮社
  • 発売日: 2021/07/16
  • メディア: 文庫
京都府 南禅寺

何かを維持するにはエネルギーが必要

なぜ、自然豊かな環境空間は権力者がつくってきたのか?
 答えは簡単だ。権力者は広大な土地を獲得できたからからだ。広大な土地を獲得するだけではない。
その広大な土地を何十年、何百年も保持できたからだ。庶民は広大な土地など獲得できない。もし獲得できたとしても、その土地を何十年も何百年も保持などできない。
 江戸期から明治時代になると同時に、日本から権力者は消えていった。
権力者が不在の近代日本で、広大な土地を何十年もそのまま保持することは不可能であった。それは、江戸古地図を見れば分かる。
 かつては広大な大名の屋敷跡も、今ではビルが林立する空間となっている。
~中略~
 近代日本では資本経済がすべてを呑み込んでいく。歴史の記憶や緑の自然環境は土地とともに資本経済に呑み込まれていった。相続制度もそれに輪をかけて広大な土地、つまり史跡や自然の空間の存在を許さなかった。

日本史の謎は「地形」で解ける
竹村 公太郎 (著)
PHP研究所 (2013/10/3)
P334

日本史の謎は「地形」で解ける (PHP文庫)

日本史の謎は「地形」で解ける (PHP文庫)

  • 作者: 竹村 公太郎
  • 出版社/メーカー: PHP研究所
  • 発売日: 2013/10/03
  • メディア: 文庫


奈良県 飛鳥大仏

可能性はゼロではない

 原子力安全委員会の委員長で、原子力工学の専門家である斑目(まだらめ)春樹・元東大教授は四年前、「(あらゆる事態を想定していたら)原発は作れない」と国会で答弁した。
 それを言っちゃあ、おしまいよ、とつっこみを入れたくなるが、まさに人間の営みの限界を言い当てている。
 人間とはしょせんその程度であって失敗するものなのだ、という思想において、欧州の人たちは日本人より賢明だ。 「ネバー・セイ・ネバー」(絶対ない、とは絶対言うな)。これが、人工的なシステムを構築する時の命題になっている。
 日本だって、科学者や技術者全員が「100パーセント安全も、リスクゼロもない」ことを知っている。だが、それが社会に根付く過程で「安全神話」になるのは不思議だ。
 たとえば自分の街に原発を建てたいという電力会社の人がこんな説明をしたら、真っ先に反対する。
「この原発は、一定の確率で必ず事故を起こします」
 だが、「絶対に事故を起こさないとは言えませんが、あり得る事態を想定して、全力で安全対策を講じます」と言われたら、少しは考えてみようかなと思うだろう。
 しかし、その言葉を裏返せば「想定外のことが起きたら保証の限りではありません」という事実が隠れている。それが今回の本質だ。
 彼らが「想定外」を免罪符にするのは論外だが、私たちも「想定外の事態が手に負えなくなるようなことには手を出さない」という賢明さを求められている。それも甘受するというなら別だけれども。

気になる科学 (調べて、悩んで、考える)
元村有希子 (著)
毎日新聞社 (2012/12/21)
P204

気になる科学 (調べて、悩んで、考える)

気になる科学 (調べて、悩んで、考える)

  • 作者: 元村有希子
  • 出版社/メーカー: 毎日新聞社
  • 発売日: 2012/12/20
  • メディア: 単行本

 

奈良県 安倍文殊院