2025年2月22日土曜日

IBS(過敏性腸症候群)

P32
もともと、現在IBS(住人注;過敏性腸症候群(irritable bowel syndrome))と呼ばれるような病気があるのではないかと概念的に考えられ始めたのは、アメリカの南北戦争の時である。
南北戦争の時、兵士の中に極端な腹痛や下痢など強い消化器症状のために前線に出られないという人が続出した。
当時、アメリカ陸軍省の医務官だったダ・コスタが神経が原因で消化器症状が出ることがあることを報告し、神経性の大腸症状という概念が誕生したのである。
 戦争は、通常では考えられないほどに極度のストレスが生じる状況である。このため、戦争を契機として、新しい病気の種類が提案されることがあるのだ。
たとえば、外傷後ストレス障害(Post-traumatic Stress Disorder:PTSD)もベトナム戦争の時に概念化された。

P33
キャノン(住人注:ウォルターキャノン(Walter B.Cannon,1871-1945))は、怒りや恐怖などの情動と同時に消化管運動が変化することを発見したが、その時、彼はまだハーバード大学医学部の学生であった。
 当時、ドイツのレントゲンによってX線が発見されたばかりであったが、キャノンはX線を使えば、生体の内臓の情報が得られるのではないかと考えたのである。~中略~ ネコを使って実験をしていたある日、恐怖によって身をすくめているネコの胃腸の運動が静止していることにキャノンは気づいたのである。
ハーバード大学の図書館に行くと、今もこの時のキャノンの自筆の実験ノートが残されている。

 

P35
 キャノンの時代にアメリカで活躍する二人の日本人がいた。野口英世と高峰譲吉である。野口英世はロックフェラー研究所におり、病原微生物狩人として、多数の実験動物を使っていた。そのため、動物実験に反対する団体の標的にされ、一時は研究者生命の危機に立たされた。
キャノンは野口への攻撃の中に東洋人への偏見が含まれていることを見抜き、適切な動物実験が医学と医療の進歩には必要不可欠であることを説く、堂々とした論陣を新聞に展開し、野口の危機を救った。
 高峰譲吉は消化酵素タカ・ジアスターゼの発見の後、キャノンと副腎髄質ホルモンの抽出競争に入り、二人はいわばライバル関係にあった。しかし、高峰が副腎髄質抽出物のホルモン単離に成功し、これをアドレナリンと命名すると、この業績を素直に認め、むしろその生理作用の解明に心血を注いだのである。

内臓感覚―脳と腸の不思議な関係
福土 審(著)
日本放送出版協会 (2007/09)

内臓感覚 脳と腸の不思議な関係 (NHKブックス)

内臓感覚 脳と腸の不思議な関係 (NHKブックス)

  • 作者: 福土 審
  • 出版社/メーカー: NHK出版
  • 発売日: 2007/09/27
  • メディア: 単行本(ソフトカバー)

 

北海道 青い池

2025年2月21日金曜日

義理と人情の国 トルコ

 この本を書いているとき、トルコの東部ヴァンというところで、かなり大きな地震が発生し、六〇〇人あまりの犠牲者が出ました。
二〇一一年十月のことです。被災者を救援するために、日本のNPO法人「難民を助ける会」の人たちが現地に向かいました。  彼らが支援活動をして間もなく、十一月の初めに、イスラームの犠牲祭が始まりました。~中略~
犠牲祭というのは、その前の月に聖地メッカへの大巡礼を行なったことを神に感謝する祭りです。しかし、解体された犠牲の獣(おもに羊や牛)は、貧しい人びと、困難な状況にある人びとに分け与えられます。神に犠牲をささげるというかたちをとって、富の再分配をする行為なのです。
 日本の援助隊の人たちも、厳しい寒さが迫るなか、牛を一頭買いして被災者に配って歩きました。その姿は、トルコの多くの新聞が報道し、遠方から来た日本人が、イスラーム的な道徳を理解していることに感謝の意を表していました。  それから数日後、再び大きな地震がヴァンを襲い、日本人ボランティアが泊まっていたホテルが一瞬のうちに倒壊してしまいました。 二人のうち、宮崎敦さんは十三時間後にがれきの下から救出され、懸命の手当てがなされましたが亡くなりました。もう一人、近内みゆきさんは、五時間半後に負傷しながらも救出されました。
 それからの数日間にトルコの人びとと政府がとった行動は、イスラームとはどういうものかを示す典型的なものでした。~中略~
政党を問わず、あるいは政治的関心のない若者たちも含めて、被災者の救援のために日本からトルコに来て、一人が命を落とし、もう一人が負傷したことに対して、嵐のように、悲観と同情の声が沸き起ったのです。
 被災者という、困難のなかにある人を助ける行為は、言うまでもなくイスラーム的な善行です。イスラームでは、弱者や貧しい人に対する手助けをことのほか重視します。神が人類に示した道徳的規範のなかでも、もっとも重要なものだからです。 旅人や病人、怪我人なども、もちろん、イスラーム的には弱者となります。しかし、手助けをするにあたって、その意図は、純粋に善意に立っていて見返りを求めるものであってはなりません。
二人は、地震の被災者のために遠く離れた日本から援助に来ていた「旅人」です。善き意志にもとづいて、遠く離れた地からやってきて、弱者救済に奔走したのちに、自らが被災したのです。
 ムスリムとして、いたたまれない思いだったでしょう。トルコ中の人たちが、がれきの下から救出される二人の姿を食い入るように見ていました。トルコのテレビというテレビが、救出の状況を速報で伝え続けました。
 不幸にして宮崎さんが亡くなられたと報じるや否や、トルコのツイッターには、「助けてあげられなくてごめんなさい」、「あなたがたは私たちに道を示してくださいました」、「トルコの人間は恥ずべきです。なぜ善意で救援に来た日本人を犠牲にしてしまったのでしょうか」という書き込みがあふれました。
~中略~
 もちろん、トルコは伝統的に親日国ですから、国家として、たいへん丁寧に礼儀を尽くしたことは間違いありません。しかし、数日のあいだトルコ人たち、トルコ政府の対応をみていると、やはり、そういう「国家としての好意」ではなかったと私は思います。
国中のムスリムから、巨大なうねりのように心から犠牲になった方を追悼することばがあふれ、救助された方には最大限の助力をしなくては、という気持ちがあふれたのです。

イスラームから世界を見る
内藤 正典 (著)
筑摩書房 (2012/8/6)
P231

イスラームから世界を見る (ちくまプリマー新書)

イスラームから世界を見る (ちくまプリマー新書)

  • 作者: 内藤 正典
  • 出版社/メーカー: 筑摩書房
  • 発売日: 2012/08/01
  • メディア: 新書

 

トルコ共和国

P138
 トルコ共和国は、前身のオスマン帝国が崩壊した後、一九二三年に建国されました。オスマン帝国は、最後のイスラーム帝国でしたが、イギリスやフランス、ロシアによって領土を切り刻まれ衰退していきます。
~中略~
 相次ぐヨーロッパ列強の侵攻に猛然と抵抗したのが、軍人のムスタファ・ケマルです。後に、「父なるトルコ人」を意味するアタテュルクの称号を国会から与えられたトルコ共和国の初代大統領です。
 新生トルコ共和国は、前身のオスマン帝国とはまったくちがう性格をもています。 第一に、イスラームを国家から完全に切り離した世俗主義国家になったこと。第二に、「トルコ人」という民族からなる国民国家になった点です。

P149
ここトルコという国にとって最大の難問なのですが、国民の大半はムスリムですから、彼らが望む政治を実現しようとすれば、どうしてもイスラーム的な要素を政治に取り込まざるを得ません。政治だけではありません、公教育、司法、行政のいたること路でムスリムは、敬虔であればあるほど、イスラームに従うことを望みます。

P142
 民族や宗教、宗派構成が複雑に入り組んだ中東で、一民族一国家はありえないことでした。
トルコ共和国の国民はトルコ人であり、国語はトルコ語であると決めてしまいましたが、このことが今までつづくクルド問題の原因となったのです。

P155
 トルコのように、これまで世俗主義者が軍の後ろ盾を利用しながら威張っていた国では、イスラームに傾斜することこそ、自由化と民主化の象徴のようになります。それにしても、世俗主義者の知識人やジャーナリスト、学者たちは愚かでした。かつて、公正・発展等政権が強くなる前、テレビの討論番組などをみていると、スカーフで髪の毛を覆っている女性を、時代遅れ、啓蒙されていないなどと平気で罵倒していました。
 世俗主義を礼賛してきた人たちの間違いは、善悪の判断をイスラームにゆだねる人たちを馬鹿にしてきたことに尽きます。自分たちこそ、西欧的で、近代的、民主的で先進的である、イスラームにしがみつく連中は、後進的で、無知だと公然と言い続けてきました。

P158
女性がスカーフを被って大学にいけるようにすることは、その象徴的な課題でした。ばかげたことですが、二〇一〇年まで、トルコの国立大学は、スカーフを被った女性の登校を禁じていました。 ムスリムのスカーフは、単純な話で、性的羞恥心の対象となる部位を覆っているだけのことです。
コーランには明示的に、スカーフを被れと命じる文言はありません。預言者ムハンマドの慣行をまとめたハディースに出てくるものです。意味するところは、陰部を隠せというだけで、女性の頭髪がセクシュアルなら隠す対象になるだけのことです。

 

P153
 トルコでは、軍と世俗主義政党の弱体化にともなって、あっというまに再イスラーム化が進んでいます。 私も、こんなに早く世俗主義の体制が壊れるとは思っていませんでした。しかも、再イスラーム化の過程と民主化の過程は重なっているのです。ここが、今後の中東・イスラーム世界のゆくえを考えるときに、たいへん重要なポイントになります。

イスラームから世界を見る
内藤 正典 (著)
筑摩書房 (2012/8/6)

イスラームから世界を見る (ちくまプリマー新書)

イスラームから世界を見る (ちくまプリマー新書)

  • 作者: 内藤正典
  • 出版社/メーカー: 筑摩書房
  • 発売日: 2020/09/25
  • メディア: Kindle版

 

「外圧」に対する反応

日本人の「外圧」に対する反応は、いつも同じだ。外国、とくに欧米先進国からの要求には、驚き脅え、そして怒る。
外国の要求は、必ず日本と日本人に損害を与えると思い込み、その実体が何であるか、その結果何が予測されるかを考えない。たとえそれを考えて「正論」を唱える人々がいても、マスコミはあまり報道しない。この国のマスコミは、昔もいまも、読者の不安と不満を最良の市場と心得ているのである。
「日本とは何か」

堺屋太一の見方 時代の先行き、社会の仕組み、人間の動きを語る
堺屋 太一 (著)
PHP研究所 (2004/12/7)
P68

堺屋太一の見方 時代の先行き、社会の仕組み、人間の動きを語る

堺屋太一の見方 時代の先行き、社会の仕組み、人間の動きを語る

  • 作者: 堺屋 太一
  • 出版社/メーカー: PHP研究所
  • 発売日: 2004/12/07
  • メディア: 単行本

 

「清朝(中国)は悲惨である。日本はこの害からまぬがれねばならない」 ということを津々浦々の有志は重い、じつのところ明治維新のエネルギーはこの危機意識に源泉をもつといっていい。
「清朝の悲惨」というのは、ヨーロッパの帝国主義勢力に中国が蚕食されつつあるということであり、その「蚕食」のなかでも最大の衝撃を日本人にあたえたのは、いわゆるアヘン戦争であった。

~中略~
アヘン戦争は、日本でいえばペリー来航の十一年前、天保十三ねんに終結したが、評価のしかたによっては東アジア史上最大の事件であるかもしれない。
~中略~

米国のペリーが東洋艦隊をひきいて浦賀にきたとき、日本史上最大の衝撃波が日本じゅうにひろがるのだが、そのありようは、 「自動的にうごく船がきた」
という衝撃よりも、
「アヘン戦争が日本にもきた」
という、かねてこの一事についての危機感が充満していたときだけに、その揮発性物質に点火し、一大爆発をおこしてそれ以後、歴史そのものが地すべりするごとく大暴走を開始したといっていい。  

花神 (下巻)
司馬 遼太郎 (著)
新潮社; 改版 (1976/08)
P44  

 

花神(下) (新潮文庫)

花神(下) (新潮文庫)

  • 作者: 遼太郎, 司馬
  • 出版社/メーカー: 新潮社
  • 発売日: 1976/09/01
  • メディア: 文庫
長崎県 ランタンフェスティバル 崇福寺

悪い知らせ

P1
 医療における悪い知らせとは「患者の将来への見通しを根底から否定的に変えてしまう知らせ」と定義されている2)。
例えば、交通事故で子どもが亡くなったことを親に伝えることや,精神疾患の診断名を患者に伝えることなどがあげられるが,かん医療においては、がん(とくに難治がん)の診断や再発、積極的抗がん治療の中止といった知らせが含まれる。

P37
 危機的状況に際してがん患者は衝撃を受ける。”頭が真っ白になった”と表現することもある。その後,がんという生命の危機への最初の防衛機制は”信じないこと=否認”である。「何かの間違いではないか!」という否認は,こうして心理的に距離をおいて,危機から自分を守ろうとする合目的的な対処方法である。
そのほか,”もう駄目だ,治療も無駄だ”と絶望感を感じる。
怒り(どうしてあいつでなく自分なんだ)や取り引き(きっといい治療法が間に合うに違いない)といった防衛機制を状況に応じて使って心のバランスを保ち,一貫して希望をもち続ける。がんの臨床経過にそって段階的に心理的過程を踏んで進んでいくというよりは,混在した機制をもっていると理解したほうがよい5)。
 この最初の2~3日間続く衝撃の時期の患者は,医師の説明が理解されていないこともあるので,治療計画などを伝えるには,沈黙を十分にとりながら動揺した気持への対応が必要である。 混乱・不安・恐怖・悲哀・無力感・絶望感などとともに,不眠・食欲不振などの身体症状や集中力の低下が感じられるようになり,一時的に日常生活に支障をきたす場合もある。

P40
 がん患者の約60%は,がんの再発,進行,死の転帰をたどる。再発を告げられた患者の心理過程はがん診断時のそれとほぼ同様である。が,がんの知識が豊富に整理されている分,事態はきわめて深刻で,現実を否認しきれず破局的な打撃を受ける。

P108
 がん医療における悪い知らせは,患者のみならず,がん患者家族にも伝えられる場合が多い。そのため,家族は医療者とのコミュニケーションの充実を望んでいる。また,がんに関連した悪い知らせが患者に告げられると,家族全体に大きな変化が生じる。それらの変化は精神的な面だけではなく,患者の身の回りの世話などの家族の仕事量の増加,家族間の役割の変化,経済的負担の増大など幅広い。
このようなことから,がんは「家族の病」ともいわれている。

P109
1998年に作成されたがん告知のガイドラインでは,「家族には患者より先に伝えない」,すなわち,まずがん患者に伝え,次に患者の了承を得た後に家族にがんを伝えることを推奨している3)。
また,がん診断告知の有無によって患者の精神的苦痛(不安・抑うつ)は変わらないことが示され4),「がん診断を患者に告知することで,患者の精神的苦痛が増すのではないか」という家族の不安は必ずしも真実とはいえないことが示された。
さらに2003年に実施したがん患者を対象とした悪い知らせを伝える際の意向調査では,悪い知らせを家族に先に知らせることを望まない70%,どちらともいえない23%,望む7%であり,患者自身も悪い知らせを家族に先に知らせることを望んでいないことが明らかになった5)(図11-1)。

P110
 医師から悪い知らせが伝えられた後,そのときの場面を思い出すとつらくなるのは,多くの患者や家族が経験することである。またその苦痛がとくに強い場合は,本人の意思に反して,今まさにそのトラウマ体験をしているかのような現実感を伴うフラッシュバックとよばれる侵入症状をはじめとした,PTSD(posttraumatic stress disorder)症状を呈する患者や家族がいることも報告されている。 家族は伝えられた悪し知らせの内容だけでなく,そのときの医師の口調,言葉遣いといった言語的要素や身振り,視線,表情といった非言語的要素を総合的に記憶している。このようなことから,悪い知らせを伝えるときには,患者や家族にできるだけ精神的苦痛を与えない伝え方の技術が必要である。

がん医療におけるコミュニケーション・スキル―悪い知らせをどう伝えるか
内富 庸介 藤森 麻衣子 (編集)
医学書院 (2007/10/1)

がん医療におけるコミュニケーション・スキル[DVD付]―悪い知らせをどう伝えるか

がん医療におけるコミュニケーション・スキル[DVD付]―悪い知らせをどう伝えるか

  • 出版社/メーカー: 医学書院
  • 発売日: 2007/10/19
  • メディア: 単行本

 

湯布院 大分県

世界一薬好きな日本人

 高血圧の薬(降圧剤と血管拡張剤)は、今や年間の売り上げが1兆円超巨大市場である。
1980年の終わりごろは、2000億ほどだったから、この二〇数年で5倍にも膨れ上がったことになる(28ページのグラフ参照)。
 日本は、世界の40%もの薬を消費している。その量はアメリカに次いで第2位だ。一人あたりに換算すると、日本が1位である。
 世界一薬好きな日本人が、最も多く飲んでいるのが降圧剤であることは、あまり知られていない。降圧剤は、潰瘍用剤や鎮痛消炎剤を抑え、医薬品市場のトップを占める(29ページの表参照)。
 私たち日本人は、ものすごい量の降圧剤を飲んでいるのだ。


高血圧はほっとくのが一番
松本 光正 (著)
講談社 (2014/4/22)
P27

高血圧はほっとくのが一番 (講談社+α新書 651-1B)

高血圧はほっとくのが一番 (講談社+α新書 651-1B)

  • 作者: 松本 光正
  • 出版社/メーカー: 講談社
  • 発売日: 2014/04/22
  • メディア: 新書

 

島根県 出雲大社

和によって亡ぶ

P67
人の意見は、一致しないのが普通である。

そこでその是非を互いに論じ合うのは、本来、公事のためのはずである。
ところがある者は自分の足らない所を隠し、その誤りを聞くのを嫌い、自分の意見に対してその是非を論ずる者があれば自分を恨んでいると思う。
これに対してある者は恨まれて私的な不和を生ずることを避け、また「相惜顔面」すなわち互いに相手の面子を潰しては気の毒だと思って、明らかに非であると知っても正さず、そのまま実施に移す者がいる。
一役人の小さな感情を害することをいやがって、たちまち万民の弊害を招く。これこそ、まさに亡国の政治である」と。

P67
前に塩野七生氏と「コンスタンチノープルの陥落」について対談したとき、その国を興隆に導いた要因が裏目に出ると、それがそのまま国を亡ぼす要因となる、と私がいうと、氏は即座に賛成され、間髪入れず、日本の場合はそれが「和」であろうと指摘された。

 

P69
危機の時は、だれでも、判断を誤れば直接身に危険が及ぶという気になるから、必死になって意見をいう。だが平和なときは、不知不識のうちに「これでオレの命が危なくなるわけでもないし・・・・」が前提になっている。
だが、部下が激論してはじめて問題の焦点が明らかになるわけで、太宗にも何もわからなくなる。隋はそのようにして一歩一歩と破滅へと進んでいった。
そして最終的には、小さな摩擦を避けて、これが安全と思っている者が、ひどい目にあった。
それへの太宗の批判を見ると、私は日本の軍部のことをお思い出す。
「軍部内の和を乱すまい」-不思議なことに、国の存亡にかかわるという状態になっても、このことが優先している。
塩野氏の指摘された「和によって亡ぶ」は必ずしも未来のことでなく、過去にすでに経験ずみなのである。

帝王学―「貞観政要」の読み方
山本 七平 (著)
日本経済新聞社 (2001/3/1)

帝王学 「貞観政要」の読み方 (日経ビジネス人文庫)

帝王学 「貞観政要」の読み方 (日経ビジネス人文庫)

  • 作者: 山本 七平
  • 出版社/メーカー: 日本経済新聞出版
  • 発売日: 2001/03/01
  • メディア: 文庫

 司馬さんは、日本国家が誤りに陥っていくときのパターンを何度も繰りかえし示そうとしました。
たとえば、集団のなかにひとつの空気のような流れができると、いかに合理的な個人の理性があっても押し流されていってしまう体質。
あるいは、日本型の組織は、役割分担を任せると強みを発揮する一方で、誰も守備範囲が決まっていない、想定外と言われるような事態に対してはレーダー機能が弱いこと。また情報を内部に貯め込み、組織外で共有する、未来に向けて動いていく姿勢をなかなかとれないといった、日本人の弱みの部分をその作品中に描き出しています。

「司馬遼太郎」で学ぶ日本史
磯田 道史 (著)
NHK出版 (2017/5/8)
P184

「司馬遼太郎」で学ぶ日本史 NHK出版新書

「司馬遼太郎」で学ぶ日本史 NHK出版新書

  • 作者: 磯田 道史
  • 出版社/メーカー: NHK出版
  • 発売日: 2017/06/25
  • メディア: Kindle版

 

2025年2月20日木曜日

マグレ当たりにて儲けし金は、他人の金を預かつたと同じことなり

一、時間は金、忘れてはならぬ。
二、顔をよくするより金を儲けよ、金儲かり家富まば自然と顔もよくなる。
三、何処までも銭のない顔をせよ、銭のある顔をせば贅費多し、仮令( たとえ)銭なき顔をして人に笑はるゝことあるも、後日には誉められる。
四、派手にすべからず出来るだけ質素にせよ、衣服は垢の付かぬ木綿服にて充分なり。
五、身代を減らさぬ考をするには平素交際する人を選べ。
六、一銭の金も骨折って儲けよ、楽して儲けた金は落し易し。br />七、無益の道具類を買ふな、買へば他人に見せたくなり、自然と自分の職業を怠り、時間を費す可し、慎まざる可からず。
八、身代を減らす者は大抵、口先はよくて尻結びの無い、先の見込の付かぬ者なり。
九、弘く人に会して多く知恵を得よ。
十、馬鹿になれば悧口、悧口になれば又た馬鹿、馬鹿になって物事を尋ね、馬鹿になって商売せよ。
十一、出来るだけ人の下風にたちで、頭を下げる者は必ず勝を占む。
十二、人と商売上の話をなすも己れの見込みとする、所謂「キゝメ」一つは決して人に洩らす可からず。
十三、二年先の見留を付くべし、マグレ当たりにて儲けし金は、他人の金を預かつたと同じことなり。
十四、商取引をなすには先方の掛引を見分けるが肝腎なり、之が出来ぬものは商売をするな。
十五、身代を大きくしたいならば、丁稚下女の為る事まで気を付けて差図せよ、小さい事に目を付けぬ者は到底大事は出来ぬ。

 全五十数カ条
     諸戸清六
     山本 眞功 (監修)
     商家の家訓―商いの知恵と掟
      青春出版社 (2005/12)
      P106

 

商家の家訓―商いの知恵と掟 (青春新書インテリジェンス)

商家の家訓―商いの知恵と掟 (青春新書インテリジェンス)

  • 作者:
  • 出版社/メーカー: 青春出版社
  • 発売日: 2005/12
  • メディア: 新書



 金慾の人を過つこと色慾よりも甚(はなはだ)し。
されば黄金は道を以て得べし、不道をもつて得べからず。

鈴木 牧之 (著), 岡田 武松
北越雪譜
岩波書店; 改版 (1978/03)
P40

北越雪譜 (岩波文庫 黄 226-1)

北越雪譜 (岩波文庫 黄 226-1)

  • 作者: 鈴木 牧之
  • 出版社/メーカー: 岩波書店
  • 発売日: 1978/03
  • メディア: 文庫


夫(それ)財宝は天下の生民(せいみん)を養わんために、天地の生じたもうものなれば、かりそめにも貪(むさぼ)り私(わたくし)すべきものにあらず。
廉(れんなる時はきたなき貪心(とんしん)なし。貪(むさぼ)る心なければ、財宝を己(おのれ)一人の使用にせんとの欲心なし。
欲心なければ、たくわえるも施すも皆(みな)道理にしたがい、おのれをも利し人をもすくう公用(こうよう)となって、万物一体の心眜(くら)からず。
(巻之六 廉貧報)

 承応三年(1654)、ひでりと秋の大洪水によって、備前岡山藩は甚大な災害にみまわれた。藩主光政は、これは「余(よ)の政事が不善」であったために、天がいましめたのであるから、ひとりの餓死者もだしてはならない、と命じて災害復興の陣頭指揮をとった。
まずは、藩の米蔵をひらき、一粒のこらず領内の罹災民にあてた。それでも足りないので、大阪の米蔵からも調達した。
いうまでもなく、当時の米は、幕府や藩に納める年貢(税金)であり、小判などの貨幣と同等の価値があった。財宝ともいうべき米は、まさしく天が生み地が育てたものであるがゆえに、それを自分の所有物としてはなならないと藤樹はいう。
飢饉にひんしている領民が目の前で苦しんでいるのに、いろいろの理由をたてに藩の米をだし惜しみするような藩主であったならば、どういう結果をまねくか。
歴史は、己ひとりの財宝という「欲心」におおわれた藩主のほうが結構多かったのではなかろうか。

中江藤樹 人生百訓
中江 彰 (著)
致知出版社 (2007/6/1)
P92

中江藤樹 人生百訓

中江藤樹 人生百訓

  • 作者: 中江 彰
  • 出版社/メーカー: 致知出版社
  • 発売日: 2007/06/01
  • メディア: 単行本
福井県 永平寺

誠心よりいづれば、敢えて多言を用ゐず。


誠心より出(い)づれば、敢えて多言を用ゐず。

(河井継之助「塵壺」安政六年八月八日)

山田方谷のことば―素読用
山田方谷に学ぶ会 (編集)
登龍館 (2007/07)
P8

山田方谷のことば (サムライスピリット 3)

山田方谷のことば (サムライスピリット 3)

  • 出版社/メーカー: 登龍館
  • 発売日: 2007/07/09
  • メディア: 単行本




 中国には「瓶に半分しか入っていない酢はよく揺れる」という俗語がある。中途半端に詰まっている瓶ほど虚勢を張り、大げさな音を立てるという意味である。一方、中身がいっぱい詰まっている瓶は、究極の状態に達しているので、大仰な音を立てることはない。逆に空っぽの瓶は、一滴も入っていないので、これもまた揺れることはない。

老荘思想の心理学
叢 小榕 (著)
新潮社 (2013/02)
P87

老荘思想の心理学 (新潮新書 509)

老荘思想の心理学 (新潮新書 509)

  • 出版社/メーカー: 新潮社
  • 発売日: 2013/02/01
  • メディア: 単行本

親孝行

P214
親孝行とは、「親孝行とはなんだろう?」と考えている瞬間のことである。
松本人志

P215
この世に生をうけたのは親の恩による。
この身体が親の一部であることを決して忘れてはならない。
上杉鷹山

大山 くまお (著)
名言力 人生を変えるためのすごい言葉 
ソフトバンククリエイティブ (2009/6/16)

名言力 人生を変えるためのすごい言葉 (SB新書)

名言力 人生を変えるためのすごい言葉 (SB新書)

  • 作者: 大山 くまお
  • 出版社/メーカー: SBクリエイティブ
  • 発売日: 2009/06/16
  • メディア: 新書

 

  父母の恩はかくあつき事、天地に同じ。父母なければ、わが身なし、其恩、ほう(報)じがたし。孝をつとめて、せめて万一の恩をむくふべし。
身のちから、財のちから、をつくすべし、おしむべからず。是父母につかへて、其のちからをつくすなり。
父母死して後は、孝をつくす事なりがたきを、かねてよくかんがへ、後悔なからん事をおもうふべし。

和俗童子訓 巻之二 
総論 下

養生訓・和俗童子訓
貝原 益軒 (著), 石川 謙 (編さん)
岩波書店 (1961/1/5)
P231

養生訓・和俗童子訓 (岩波文庫)

養生訓・和俗童子訓 (岩波文庫)

  • 出版社/メーカー: 岩波書店
  • 発売日: 2023/02/14
  • メディア: 文庫