いにしへ、女子の嫁する時、其母、中門まで送りて、いましめて曰「なんぢが家にゆきて、必(ず)つつしみ、必(ず)戒めて、夫の心にそむく事なかれ。」といへり。
是古の、女子の稼する時、をやのをしゆる礼法なり。女子の父母、よく此理を云きかせ、いましむべし。女子も又、よく此理を心得て、まもり行なふべし。
養生訓・和俗童子訓
貝原 益軒 (著), 石川 謙 (編さん)
岩波書店 (1961/1/5)
P273
また、女子の稼する時、かねてより父母のをしゆべき事十三条あり。
一に曰、わが家にありては、わが父母にもはら(専)孝を行なふ理なり。されども夫の家にゆきては、もはらしうと・しうとめを、吾二(わがふた)をやよりも、猶(なお)おもんじて、あつく愛(いつくし)み敬ひ、孝行をつくすべし。
をやの方をおもんじ、しうとの方をかろんずる事なかれ。~略
二に曰、婦人は別に主君なし。夫をまことに主君と思ひて、うやまひつつしみて、つかふべし。~略
三に曰、こじうと・こじうとめは、夫の兄弟なれば、なさけふかくすべし。~略
四に曰、嫉妬の心、ゆくゆくをこ(起)すべからず。夫淫行あらば、いさむべし。いかりうらむべからず。
嫉妬はなはだしければ、其けしき(気色)・ことばもおそろしく、すさまじくして、かへりて、夫にうとまれ、すさめらるるものなり。~略
五に曰、夫もし不義あり、あやまちあらば、わが色をやはらげ、声をよろこばしめ、気をへり下りていさむべし。
いさめをきかずして、いからば、先ずしばらくやめて、後におつとの心やはらぎたる時、又いさむべし。~略
六に曰、ことばをつつしみて、多くすべからず。かりにも人のそしり、いつはりを云べからず。
人のそしりをきく事あらば、心にをさめて、人につたへかたるべからず。~略
七に曰、女は、つねに心づかひして、その身をかたくつつしみまもるべし。
つとにをき、夜わにいね、ひるはいねずして、家事に心を用ひ、おこたりなくつとめて、家をおさめ、をりぬひ、うみつむぎ、をこたるべからず。~略
八に曰、巫(みこ)・かんなぎなどのわざにまよひて、神仏をけがし、ちかずき、みだりにいのり、へつらふべからず。~略
九に曰、人の妻となりては、其家をよくたもつべし。妻の行いあしく、放逸なれば、家をやぶる。
財を用るに、倹約にして、ついえをなすべからず。をご(奢)りをいましむべし。衣服、飲食、器物など、其分にしたがひて、あひにはい(相似合)たるを用ゆべし。みだりに、かざりをなし、分限にすぎたるを、このむべからず。~略
十に曰、わかき時は、夫の兄弟、親戚、朋友、或(は)下部などのわかき男来らんに、なづさ(なれ)ひちかづきて、まつはれ、打とけ、物がたりすべからず。~略
十一に曰、身のかざりも、衣服のそめいろ、もやう(模様)も、目にたたざるをよしとす。
身と衣服とのけがれずして、きよ(清)げなるはよし。~略
十二に曰、わが里のをやの方にわたくしし、わがしうと、しうとめ、をつとの方をつぎにすべからず。
正月佳節などにも、まづおつとのかたの客をつとめて、をやの里には、つぎの日ゆきて、まみゆべし。~略
十三に曰、下女をつかふに、心を用ゆべし。~略
和俗童子訓 巻之五
総論 下
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