2009年8月28日金曜日

新型インフル流行 10月にも第1波ピーク

2009年8月27日 提供:毎日新聞社
クローズアップ2009:新型インフル流行 10月にも第1波ピーク

 <世の中ナビ NEWS NAVIGATOR>
 全国的に流行の勢いが止まらない新型インフルエンザ。厚生労働省は、集団感染の発生件数は23日までの1週間で前週から2割も増えたと発表した。新学期が始まった直後に休校する学校も相次いでいる。新型インフルはどこまで拡大するのか。流行拡大に伴い、重症患者が増え続けると、医療機関の受け入れが困難になったり、患者同士の接触で感染が広がることも懸念される。
 ◇沈静化後、第2波も 専門家「春までに3600万人」
 「10月が流行第1波のピークかもしれない」。冬とみられていた新型インフル流行のピークが大幅に前倒しになる可能性を、専門家が指摘し始めた。国立感染症研究所の安井良則・感染症情報センター主任研究官は「秋に感染者数が減る要素がない」と説明する。
 浦島充佳・東京慈恵会医科大准教授(疫学)によると、過去の新型インフルのパンデミック(大流行)は、流行期入りからピークまで約1カ月半。厚労省は今回、今月21日に流行開始を宣言したためこれを当てはめると10月にもピークを迎えることになる。厚労省は10月下旬にも新型用ワクチン接種を始める方針だが、ピークに間に合わない恐れが出てきた。しかもこれは第1波のピークで、いったん沈静化した後に第2波があるとの見方も強い。
 では最終的にはどこまで拡大するのか。
 季節性インフルエンザは毎年、約1000万人が感染し、流行期は12-3月。昨秋-今春に定点医療機関から国立感染症研究所に報告された患者数は、1月19-25日に1施設当たり37・45人に達し流行のピークとされた。これは厚労省が新型流行を宣言する根拠となった8月10-16日の同1・69人(全国患者推定数は約11万人)の約22倍に当たる。
 ほとんどの国民は新型ウイルスに対する免疫を持たないため感染は容易に広がり、新型が流行のピークを迎えれば、季節性の数倍規模になるとされる。
 東京大医科学研究所の河岡義裕教授(ウイルス学)は「この冬、必ず日本で大流行する」とし、季節性の3倍以上の規模となり、来春までに国民の約30%、約3600万人が感染すると予測する。浦島准教授は最大約5000万人の感染可能性を指摘。押谷仁・東北大教授(ウイルス学)は「11年春までに約8000万人が感染し、患者は5000万人に達するのではないか」と警鐘を鳴らす。世界保健機関(WHO)は8月、大流行が終わるまでに世界の人口の約3割、約20億人が感染するとの予測を公表した。【江口一、関東晋慈】
 ◇重症患者対策が急務
 新型インフルの症状は季節性とほぼ同じだ。だが感染者が多くなれば、季節性に比べ重症患者も増加するとみられる。
 21日朝、救急車が千葉県東部の中核病院、県立東金病院(東金市)に到着した。運ばれたのはぜんそくの既往症を持つ50代の糖尿病の女性。体温は40度、胸の痛みを訴えていた。簡易診断キットでA型インフルと判明、多臓器不全の恐れがあり血圧も低下し始めた。
 「新型かもしれない。集中治療が必要だ」。内科医が付き添い、集中治療室(ICU)のある千葉市内の病院へ転院した。女性は5月を最後に通院しておらず、過去1-2カ月の平均的な血糖状態を示すヘモグロビンA1cは10%(正常値は4・3-5・8%)を超えていた。糖尿病をはじめ腎臓病、心疾患、呼吸器疾患などの持病がある人は、新型インフルに感染すると重症化しやすい「ハイリスク」とされる。
 東金病院の平井愛山院長は「非常に厳しい状態だった。流行のピーク時にはICUはどこも満床になるだろう。その時はここで診るしかない」と話す。とはいえ、常勤医師はわずか14人。医師らが感染すれば、十分な診療ができなくなり得る。地域の重症患者発生をできるだけ減らすことを目指し▽ハイリスク者への注意喚起の通知発送▽糖尿病治療中断者の把握と早期受診の勧奨▽細菌性肺炎を防ぐワクチン接種--などを始める。
 死亡者が出た名古屋市内の病院では、看護師ら6人への感染が疑われた。医療施設では院内感染防止が極めて重要だ。
 東京都内の人工透析クリニック。仕切りのない部屋に20床を超えるベッドが並び、腎不全で人工透析を受ける患者でいっぱいだ。治療は4-5時間で週3日ほど。院長は「新型インフルの患者でも透析は中止できないから受け入れる」と話す。

2009年8月11日火曜日

自民、民主党ともに“医療崩壊”の本質を理解せず

2009年8月10日 原中勝征(茨城県医師会会長)

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 今度の総選挙に臨む各政党の医療・介護に対するマニフェスト読むと、文章的には大変似ていることを感じる。裏を返せば、現在の「医療崩壊」を認め、国民の最も不安に感じている年金問題を含めた「国民の生活保障」が争点になっていると言える。
 自民党は7月30日、民主党(7月27日)より遅れてマニフェストを発表した。「生活を支えるしくみのマイナスを改め、プラスへ」の項に、(1)70歳現役時代―生涯現役社会の実現へ 、(2)老後の安心を支え続ける年金制度の充実強化へ、(3)医療・介護サービスを、もっと身近に。安心と満足が、全国どこでも受けられる健康長寿社会へ、という文字が記されている。医師の増員も挙げている。さらに、民主党と同様、大学病院、社会保険病院、厚生年金病院については地域医療における重要性を述べ存続すること、診療報酬は「骨太の方針」を凍結して増額改定すると述べているが、その目的は従来通り救急、産科および地域医療を確保するためとしている。しかし、数字などの具体策が全く見えない。
 4年前の総選挙時の「自民党公約2005」、いわゆる小泉改革の120項目の4つの大きな柱として、「官のスリム化により少子高齢化の下でも、年金・医療など社会保障の充実を可能に」が掲げたが、実際には全く反対の政策を実行し、「消えた年金」、「医療崩壊」を生じさせた。しかし、今回のマニフェストで、政府の最優先政策として位置づけられた社会保障費年2200億円削減をはじめ、医師増員、医療費の凍結や増額を掲げたのは、従来の自民党の政策と正反対になっている。この方向転換は選挙対策のためか、従来の医療政策の間違いを認めたのか、説明がほしいものである。
 すなわち、このたびのマニフェスト合戦は、自民党政権が作ってきた社会保障や「医療崩壊」の修正案である。ただし、政治家が官僚任せの結果であったことの反省が全く見られない。一方、野党はすべて「後期高齢者医療制度」は年齢による人間差別として廃止を掲げており、廃止による国民保険への資金援助を盛り込んだことは大切なことである。
 次に、民主党のマニフェストの内容を見ると、党を挙げて議論されたとは思えない。医療の現状は複雑であり、現場の一部を強調しても医療は良くなるどころか、かえって混乱してしまう。誤解に満ちた中央社会保険医療協議会(中医協)の改革案、地域医療が病院だけで持っているような内容や米国的なメディカルスクール案などである。期待される民主党である。もっと広く深い知識で政策を作ってほしいものである。
 また、民主党はキャッチフレーズ「誰もが安心して暮らせる社会」の中で、年金について一元化して月額7万円を最低保障することと、社会保障費2200万円削減をしないことを明示している。医療介護については、国民皆保険の堅持からすれば、7万円は現在の特別養護老人ホームの自己負担分に相当し、最低の生活保障かと思われる。医学部定員を1.5倍にして医師数を先進国並みにすることと看護職員などの増員、介護職員の処遇改善を述べているが、この数がわが国に本当に必要な数なのか、医療費や現場検証を検証しつつ見直しが必要になると思われる。
 さらに主要政策のポイントを見ると、救急、産科、小児、外科、そしてへき地の医師不足の解消とその方策、地域医療崩壊を防ぐための医療費増額、医師派遣センターの設置、そして厚生年金・社会保険病院の地域医療に重要な病院として原則公的病院として存続、国民健康保険財政の地域格差の是正などが盛り込んである。自民・公明党、そして民主党双方とも、これらは現在の問題点の指摘であり、地域医療の将来像が見られないことが残念である。すなわち、地域医療の中核ともいえる診療所、中小・慢性期病院について一行も記されていないことは不安を感じる。マニフェストにおける「地域医療」の意味は、急性期病院と同意語と感じられる。地域医療は急性期病院だけでなく、慢性期病院、そして診療所すべての医療機関が連携して成り立つものであり、現在すべての医療機関が崩壊の危機に瀕していることへの配慮が見えない。自民・公明党、民主党の双方とも、「医療崩壊」の本質を理解していないのではないかと思われてならない。
 そのほか、民主党は、医療費の包括化について述べているが、例外規定を設けることも今後必要だろう。自民・公明党、民主党の大きな違いとして、医療費の財源が挙げられる。将来は消費税を含めた国民の負担増は避けられないことは明らかだと思う。しかし、現在国民の多くは、消えた年金、官僚の天下り、特別会計の存在、雇用法拡大による生活不安が解消されない限り、増税には否定的であると思われる。今回の総選挙で期待されている政権交代の意味がここにあるとすれば、当面民主党が公約している、この困難な改革の実行を支持したいと思う。
 政権の担当経験のない民主党、さらに新人が多く入る新しい与党が誕生したとき、いくら立派なマニフェストを掲げようとも必ず壁に突き当たるに違いない。そのときこそ国民の英知を求める姿勢が最も大切であり、政治が国民のものであることの原点に帰することが、国民から期待された政権交代であると評価されるであろう。
 最後に、他の政党のマニフェストを見ると、公明党は結党以来、生活重視を掲げている。また、社民党はセフティーネットの中に具体的数値はないが医師・スタッフの増員、療養病床やリハビリの制限の中止などが入れている。そして、共産党の主張は医師会の主張に近いと思われる。二大政党の流れの中で、党の存亡をかけて書いたマニフェストと思われた。