2010年11月30日火曜日

診断めぐり遺族が逆転敗訴 「当直医に専門判断は酷」

診断めぐり遺族が逆転敗訴 「当直医に専門判断は酷」2010年11月29日 提供:共同通信社

 大分県宇佐市の佐藤第一病院を受診した男性会社員=当時(42)=が帰宅途中に急性心筋梗塞(こうそく)で急死したのは診断ミスが原因として、遺族が同病院を経営する医療法人明徳会(宇佐市)に損害賠償を求めた訴訟の控訴審判決で、福岡高裁は26日、約5100万円の支払いを命じた一審大分地裁中津支部判決を取り消し、請求を棄却した。

 広田民生(ひろた・たみお)裁判長は判決理由で、男性を診断した当直医の専門が一般内科で、急性心筋梗塞の治療に携わった経験がないと指摘。「循環器専門医と同等の判断を要求するのは酷で、心電図で急性心筋梗塞の疑いを見逃したことはやむを得ない」と遺族の主張を退けた。

 一審判決は「心電図が急性心筋梗塞の所見を示しており、当直医が見落とした」として、病院側の過失を認めていた。

 判決によると、男性は2005年11月18日夕、胸の痛みを訴えて佐藤第一病院を受診。当直医が心電図検査で逆流性食道炎の疑いがあると診断し、男性を帰らせた。男性は帰宅中に倒れ、別の病院に搬送されたが、急性心筋梗塞で死亡した。

2010年11月29日月曜日

自覚症状ないまま進行 歯周病

2010年11月22日 提供:毎日新聞社
あなたの処方せん:/34 歯周病/1 自覚症状ないまま進行

 国民の半数以上がかかっているとも言われる歯周病。自覚症状がないまま進行し、最終的に歯が抜けてしまう病気だ。だが日々の手入れで進行を遅らせることは可能。できるだけ長く歯を保つための知恵を紹介する。

 歯周病の原因となるのは、歯周病菌と呼ばれる細菌だが、誰もが口の中に持っており、それだけでは病気にはならない。だが、口の中に食べかすなどが残っていると、そこに細菌が集まって塊となり、「プラーク(歯垢(しこう))」になる。プラークは、きちんと歯磨きをすれば取り除くことができるが、歯と歯茎の間など、磨き残しの部分があると、徐々に蓄積されていく。
 プラークは黄色がかった白色で、歯の色と区別がつきにくい。だが指で触るとぬるっとしている。大阪大医学部付属病院の歯科衛生士、森川友貴さん(30)は「食べ残しと思う人も多いが、8割方は細菌に置き換わっている。食べ物がだんだん腐って生ゴミになるようなもので、口臭のもとにもなる」。

 プラークがたまると歯茎が炎症反応を起こして腫れるため、歯と歯茎のすき間に「歯周ポケット」が形成されていく。これが歯周病への第一歩だ。歯茎の内部で細菌から体を守ろうと白血球が集まってくる。歯磨きの時に歯茎から血が出やすくなるのはこのためだ。
 この状態が長く続くと、プラークがさらにたまってカルシウムやリンなどを蓄えて歯石になり、炎症反応によって歯を支えている歯根膜や歯槽骨などの歯周組織が破壊され始める。さらに進むと、歯周組織の破壊とともに歯周ポケットはさらに深くなり、歯を支えることができなくなる。こうなると末期症状で、最終的に歯が奪われてしまう。(野田武、林田七恵が担当します)=つづく

菌が体内侵入、多様な病気の引き金に 歯周病

2010年11月23日 提供:毎日新聞社
あなたの処方せん:/35 歯周病/2 菌が体内侵入、多様な病気の引き金に

 歯周病が怖いのは、歯が奪われるだけでなく、体のさまざまな場所で病気などの引き金となる点だ。
 歯周病の原因となるプラーク(歯垢(しこう))は、歯と歯茎の間の歯周ポケットに蓄積され、歯周病菌が塊になった「バイオフィルム」という状態で存在している。バイオフィルムは、外部から糖類などの栄養源を取り込んで徐々に大きくなっていく。抗菌薬などへの耐性も強いため、歯磨きなど物理的な方法でないと除去が難しい。

 こうして増えた歯周病菌が、血液や唾液(だえき)などとともに侵入すると、さまざまな悪影響を及ぼす。まず気を付けたいのが、高齢者などに多い「誤嚥(ごえん)性肺炎」だ。唾液に含まれる歯周病菌が気道に入り、感染防御機能が落ちているため感染症を起こしてしまうのだ。

 東京歯科大(千葉市)の奥田克爾(かつじ)名誉教授(微生物学)によると、歯周病菌は就寝中に口から気道へと流れ込むことが多いといい、「寝る前に歯を磨いて、できるだけ口の中を清潔にしておくのが予防のために大事」と指摘する。

 一方、動脈硬化などによって起きる心筋梗塞(こうそく)にも、歯周病菌がかかわっていることが近年わかってきた。奥田名誉教授らは、動脈硬化によって詰まった心臓の周囲の冠状動脈に存在する細菌の遺伝子が、歯周病菌の遺伝子と一致することを発見し、04年に論文発表した。
 また妊娠中の女性にとっては、歯周病が早産や低体重児出産などのリスクともなる。96年に米国の研究者が関連性を初めて報告。その後も同様の報告が相次ぎ、07年には、歯周病菌が早産した妊婦のうち3割の人の羊水中から検出されたとの内容の論文も出ている。
 歯周病菌が早産などを引き起こす仕組みは解明されていないが、血流に乗った歯周病菌が胎盤まで達し、陣痛促進剤にも含まれるプロスタグランジンなどの炎症性物質が作られて、早産につながるのではないかと考えられている。=つづく

喫煙が環境面で最大の危険因子 歯周病

2010年11月24日 提供:毎日新聞社
あなたの処方せん:/36 歯周病/3 喫煙が環境面で最大の危険因子

 歯周病には、生活習慣やストレスなどの環境も影響することが知られている。中でも最大の危険因子とされるのが喫煙だ。NPO法人・日本歯周病学会(東京都豊島区)によると、たばこを吸う人が歯周病になるリスクは、吸わない人の2~8倍で、吸う本数が多い程危険も増える。

 同学会禁煙推進委員長の上田雅俊・大阪歯科大教授(歯周病学)によると、喫煙は、歯周病の症状を進行させる面と、早期発見を妨げる面がある。
 たばこに含まれるニコチンや、煙の成分の一酸化炭素には、歯茎内の毛細血管を収縮させたり、酸素の運搬を邪魔する働きがある。そのため、煙を吸うと歯茎や歯を支える歯槽骨に栄養や酸素が行き届かず、炎症を起こしやすくなる。またニコチンは白血球を傷つけるなどして、免疫機能を低下させる。本来歯茎内に存在して、傷ついた組織の修復を助ける線維芽細胞も、ニコチンにさらされると成長を妨げられる。
 また、喫煙による血管の収縮が、歯周病の早期発見をも妨げる。歯周病は自覚しにくいが、歯茎からの出血がそのサインとなる。だが血管の収縮によって出血が抑えられてしまい、気付かない間に重症化することもあるのだ。

 禁煙すると5~10年で歯周病になるリスクは非喫煙者並みに下がる。歯茎の血流は数日~数週間で正常に戻るため、既に歯周病にかかっている場合は一時的に出血したり赤くなることもあるが、炎症そのものの悪化ではない。
 上田教授は「たばこが怖いのは、本人だけでなく、他人のたばこの煙を吸い込む『受動喫煙』で、周囲まで歯周病になるリスクが増大することだ」と警告する。=つづく

歯磨きで進行を防ぐ 歯周病

2010年11月25日 提供:毎日新聞社
あなたの処方せん:/37 歯周病/4 歯磨きで進行を防ぐ

 歯周病は自覚症状がないまま少しずつ進行し、歯がぐらぐらするなどの症状が出た時には、既に相当悪化した状態だ。しかし症状が出る前でも、歯磨きなどで口の中を常に清潔にすることで、進行を防ぐ、あるいは遅らせることができる。日ごろの心がけ次第で、症状が大きく左右される病気でもあるのだ。大阪大医学部付属病院の歯科衛生士、森川友貴さん(30)に教えてもらった方法を、2回に分けて紹介する。

 まずは歯ブラシの選び方。「毛先が柔らかく、毛の束が3列ほどで幅が狭めのものがお勧め」という。毛先が硬いと、歯茎が必要以上に強い力で磨かれて、だんだんすり減ってしまう。また幅が広いと、歯周病の原因となるプラーク(歯垢(しこう))がたまりやすい歯と歯茎の間に毛先を当てにくく、奥歯も磨きにくい。

 注意がいるのは、歯と歯のすき間が広くて磨きにくい奥歯だ。ここは毛先の角の部分を歯のすき間に埋め込むようにすると効率がよいという。「消しゴムで字を消すのに、角を使うと力が小さくて済むのと同じ感覚です。毛先を歯のすき間に埋めたら、大きく動かさなくても、そのまま毛先を小刻みに震わせる程度で磨けます」

 また同じように磨きにくい前歯の裏側は、歯ブラシを縦にすると毛先が当たりやすい。こうして1本ずつ順番に磨くように歯ブラシをかければ、磨き残しが少なくて済むという。=つづく

歯間ブラシやフロスを使って

2010年11月26日 提供:毎日新聞社
あなたの処方せん:/38 歯周病/5止 歯間ブラシやフロスを使って

 歯周病の進行を防ぐには、口の中を常に清潔にしておくことが重要だ。そのためには日々の手入れが欠かせない。前回に引き続き、大阪大医学部付属病院の歯科衛生士、森川友貴さん(30)に教わったポイントをまとめた。

 前回は歯ブラシの選び方や、歯磨きのコツを紹介した。磨き残しがあるかどうかは、舌で歯を触ってみると分かる。「歯の表面は、ガラスのようにつるつるしているのが本来の姿。舌で触ってざらざらしているのは、汚れている証拠です」
 だが、どれだけ歯磨きを徹底しても、取ることのできる口の中の汚れは60~70%と言われる。これを補うのが歯間ブラシだ。歯と歯のすき間の大きさに合わせて、さまざまな太さのものがあり、いずれも薬局やドラッグストアで購入できる。
 また、歯の表面に付いた汚れをふき取る「フロス」という糸状の道具もある。歯間ブラシが入らないような、狭いすき間でも使うことができ、「歯と歯茎の間に糸を当てて汚れを取ることを意識して」とアドバイスする。

 さまざまな道具で歯や歯茎に付いたプラーク(歯垢(しこう))を取ることで、歯周病の進行は防げる。さらに森川さんは「半年から1年に1度ほど、歯科で歯の清掃を受けてほしい」と勧める。歯痛でもないのに歯科に行くのは抵抗があるかもしれないが、「歯の掃除をしてほしいと頼んでもらえれば。磨き残しの部分も指摘してもらえる」と話している。
=おわり(野田武、林田七恵が担当しました。29日からは「白内障」です)

「患者が治療中断」5割 経済的理由背景に 埼玉県保険医協医師アンケート

2010年11月26日 提供:毎日新聞社
県保険医協医師アンケ:「患者が治療中断」5割 経済的理由背景に /埼玉

 ◇未収金も7千万円超
 県保険医協会(青山邦夫理事長)が会員を対象にしたアンケートで、回答した医師の半数がここ半年の間、患者の経済的な理由で診療や治療を中断せざるを得なかったケースがある、と答えていたことが分かった。また未収金があると回答した医師が半年に支払われていない診療費は計7069万4485円に上る。同会は「経済的な格差により医療機関にかかれない患者が相当数いる。国に患者の窓口負担軽減を求めたい」と話している。【西田真季子】

 アンケートは8~10月に、同会が会員の開業医ら3481人を対象に実施した。病床20床以上の「病院」、19床以下の「医科診療所」、歯科診療所の医師758人から回答があった。
 このうち、48%にあたる365人から「(治療を)中断された経験がある」との答えがあった。理由としては「会社をクビになり保険証がなくなってしまうので、検査を待ってほしいと必要な検査を拒否された」「糖尿病は症状が出にくいので治療しなくていいと言われ治療できなかった」など。苦しい経済状況のため患者が医療費を切りつめる実態が分かった。

 治療中断した病名で最も多かったのは糖尿病や高血圧など慢性的疾患で、同会の山崎利彦理事は「初めは軽くても、症状が出た時には治療が大変になる病気」と懸念する。高血圧治療を中断したため脳出血となり、半身マヒの後遺症が残った患者もいたという。
 また、こうした患者の経済状況の悪化で医療機関への未払い金の影響も大きい。
 回答した医師のうち、この半年に患者に支払われていない負担金があるとの回答が36%に上った。中でも「病院」での未収が935件計5257万5630円と高額となっている。

2型糖尿病、新薬に光 インスリン抑制のたんぱく質発見 京大研

2010年11月26日 提供:毎日新聞社
2型糖尿病:新薬に光 インスリン抑制のたんぱく質発見--京大研

 京都大ウイルス研究所の増谷弘准教授らの研究グループは、糖尿病患者の大半を占める2型糖尿病でインスリンの分泌や効きやすさの鍵を握るたんぱく質を突き止め、英科学誌「ネイチャー・コミュニケーションズ」電子版に発表した。新たな治療薬の開発が期待されるという。
 2型糖尿病は、糖に対するインスリンの分泌が足りず、効き方も悪いのが特徴。しばしば肥満を伴う。
 研究グループは、糖や脂質の代謝調整に関与するたんぱく質「TBP-2」に注目。これを持たないマウスと糖尿病の肥満マウスを交配した。この結果、生まれてきたTBP-2を持たないマウスは、太っているのに血糖値は健康なマウスとほぼ同じで、TBP-2がないと血糖値が改善される関係がうかがえた。
 そこで研究グループは遺伝子を分析。TBP-2がない場合、インスリンを働かせる遺伝子が筋肉内で増加して効きやすくなり、すい臓でのインスリンの分泌も多いことを突き止めた。【広瀬登】

子供を守りたいお母さん、おとうさんへ 子供のからだと、感染症

肺炎球菌について
細菌性髄膜炎について

http://haienkyukin.jp/

花粉症、来春増える花粉に注意を

2010年11月26日 提供:毎日新聞社
花粉症:来春増える花粉に注意を

 来春は、花粉症の人にとって憂うつな季節になりそうだ。気象情報会社などが発表した、来春のスギ・ヒノキの花粉飛散予測によると、今年より飛散量がかなり多くなりそうだからだ。「日本人の3割が花粉症」とのデータもあり、多くの人が花粉飛散に備える必要があるが、本格的な飛散前の対策がポイントといえそうだ。【永山悦子】
 ◇今年の10倍予想も
 今春のスギ・ヒノキの花粉飛散量は全国的に少なく、花粉症の人には過ごしやすいシーズンだった。ところが、来春は一転して増加するとの予測が出ている。気象情報会社「ウェザーニューズ」は、全国平均で今年の5倍(関東7-8倍、近畿10倍)、日本気象協会も「全国で今春のおよそ2-10倍になる」と予想する。
 花粉飛散予測に詳しい佐橋紀男・東邦大理学部訪問教授(花粉学)は「7月の日照時間が長いと、花芽(かが)がたくさんできる。今年の夏は猛暑だったため花芽が多く、今春の飛散量を上回るのは間違いない」と話す。一方、猛暑が長引いた結果、一部の花芽が枯れるなど成長に遅れが見られるという。「飛散量は、過去10年で最多の05年春より少なく、例年並みかやや多い程度。飛散開始も例年並みかやや遅いのではないか」と分析する。
 ◇発症者増える恐れ
 佐橋さんも参加するNPO花粉情報協会の全国調査によると、スギ・ヒノキの花粉飛散量は過去10年、増加傾向が続く。全国の耳鼻咽喉(いんこう)科医と家族を対象にした調査では、花粉症の人が過去10年で1・5倍の3割に増えた。今井透・東京慈恵会医大柏病院耳鼻咽喉科診療部長は「飛散量が多くなる年には、新たな発症者が増えることが分かっている。これまで症状のない人も、花粉に触れる機会が多ければ発症する恐れがある」と注意を促す。
 ◇黄砂の刺激で症状悪化
 最近は黄砂の影響も指摘される。今年は、5年ぶりに11月に黄砂の飛来が各地で観測された。福井大の研究チームが今年、花粉症患者約150人の日記を分析したところ、黄砂が飛来した日に症状が悪化する傾向が明らかになった。黄砂に含まれる化学物質の刺激が加わって症状が悪化するとみられ、花粉症の人は、黄砂対策も必要になりそうだ。
 ◇初期療法が重要 症状に合った薬選びも
 「鼻アレルギー診療ガイドライン(2009年版)」によると、花粉症対策の大前提は「抗原回避」だ。「抗原」とはアレルギーを起こすもと、つまり「花粉」のことだ。
 さらに花粉症の治療では、症状が出る前やごく軽い時期の「初期療法」が、重症化するかどうかを左右する。初期療法は、花粉飛散の初観測日から本格飛散が始まるまでの間の治療をいい、毎年強い症状が出る花粉症患者に勧められる。完全に症状を止めることは難しいものの、花粉症の症状を起こす炎症の進行を遅らせ、重症化が抑えられるという。
 初観測日は地域によって1-3月と異なり、例年では関東地方など早いところで1月初旬。本格飛散は、関東以西で主に2月中旬から、東北以北で3月以降とされる。
 診療ガイドラインによると、初期療法では抗ヒスタミン剤など5種類の薬のうち一つを服用する。これらには保険が適用される。服用開始時期は、飛散開始予測日か少しでも症状が出た時から飲むものや、予測日の1-2週間前から飲むものなどがある。
 症状に合った薬選びも大切だ。大久保公裕・日本医大教授(耳鼻咽喉科)は「鼻水やくしゃみを抑えるのに適した薬、鼻づまりを起こしにくくする薬など、薬には『得意分野』がある。患者一人一人が、どの症状を改善したいかを正確に医師に伝えることが必要」と話す。
 また、大久保教授らは現在、花粉症の新治療法の臨床試験に、東京都とともに取り組んでいる。スギ花粉エキスを染み込ませた食パンを舌の下に置き、アレルギーの原因物質を取り込んで、症状が出ない体質に改善する「減感作療法」だ。これまでの試験で約7割の症状が改善した。大久保教授は「13年には承認申請が可能だろう」と話す。
 一方、正常な免疫機能や鼻粘膜の状態を保つため、日ごろからストレスや睡眠不足、酒の飲み過ぎを避け、喫煙を控えるなど、生活習慣を見直すことも大切だ。

2010年10月26日火曜日

日本の四季と宗教観 Dr.中川のがんから死生をみつめる/79

2010年10月24日 提供:毎日新聞社
Dr.中川のがんから死生をみつめる:/79 日本の四季と宗教観

 このところめっきり冷え込んできました。あの猛暑がうそのようです。もし、日本に四季がなかったらどんなにさびしいことでしょう。
 「春は花 夏ほととぎす 秋は月 冬雪さえてすずしかりけり」。良寛や川端康成も愛した道元の作です。夏に大汗をかき、冬の寒さに凍える思いをする。このような日本人の暮らしが、世界一の長寿の理由の一つではないかと思います。
 日本人の死生観の特徴として、一神教的な「絶対者」や「死後の世界」の不在があげられます。私たち日本人の多くが、「死んだらそれまで」という感覚を持っていると思いますし、「現世重視」という傾向は否定できないように感じます。このことも、四季の存在と無関係ではない気がします。
 世界では、宗教を持つことが当たり前です。もう20年前のことになりますが、湯川秀樹博士が存在を予言した「パイ中間子」を利用したがん治療の研究で、スイスの研究所に留学したことがありました。私の「雇用主」はスイス政府でしたから、それほどあやしい外国人ではなかったはずです。しかし、入国関係の書類の宗教の欄に、なにげなく「無」と書いたら、研究所の事務員が血相を変えて飛んできました。
 「宗教がない」と対外的に宣言すれば、テロリストとまではいかないでしょうけれど、変人に思われるから何か書いてくれというわけです。しぶしぶ「仏教」と記入したことを覚えています。研究所には、「自分は無神論者だ」という人もたくさんいましたが、彼らも、公的書類には「キリスト教」と書いていたのだと思います。
 キリスト教徒は約20億人、イスラム教徒は約13億人以上いるといわれます。世界の人口の半数近くがこの2大宗教を信仰していることになります。私たち日本人にとって理解しにくい一神教の世界観ですが、四季と美しい自然に恵まれた私たち日本人には、「一神教の神」は必要なかったのかもしれません。
 しかし、宗教は医療、とりわけがん治療に大きな影響を与えます。深まる秋に染まりながら、次回もこの問題を考えていきたいと思います。(中川恵一・東京大付属病院准教授、緩和ケア診療部長)

WRAP 「自己管理法」知り、元気に 米国発の行動プラン

WRAP 「自己管理法」知り、元気に 米国発の行動プラン
2010年10月25日 提供:毎日新聞社

 ◇好・不調時の状態観察→立て直し方、考え実践
 いつも元気に自分らしく、人生を楽しみたい。そんな願いをかなえる自己管理法がある。WRAP(ラップ、元気回復行動プラン)と呼ばれ、精神疾患から回復した人たちの生活調査から生まれた。健康な人にも役に立つというが、どんなものなのか。【中村美奈子】
 「ここは皆さんの生活の工夫を交換し合う場所です。元気な時の自分を思い浮かべて、どんな状態か教えてください」
 8月にオープンした精神障害者の地域活動支援センター「はるえ野」(東京都江戸川区)で、週1回のWRAPのワークショップが始まった。テーブルにはバナナや大福が並び、参加者が手を伸ばす。ファシリテーター(進行役)として説明するのは、過眠症を抱える増川信浩さん(36)だ。
 「好きなことに没頭している」「人とよくおしゃべりをする」「ゆっくり話せる。早口の時はイライラしている」「くよくよしない」。いい感じの時の自分のイメージを一人ずつ挙げていく。
 統合失調症などの精神障害者とスタッフ、ボランティアら17人が参加した。スタッフは挙がった回答を白板に書き、みんなで共有していく。
 次に「元気でいるために毎日すべきことのリスト作り」に入った。毎日できる範囲に数を絞り、具体的な行動にすることが大切だ。
 「鏡に向かって笑顔の練習をする」「アイスコーヒーを飲んでストレッチする」「朝6時に仏壇にお線香とお茶、ご飯を供える」。場が和むにつれ、次々に声が上がる。「毎朝、家中の窓を開けて換気する」は実践者が多かった。
 元気になる方法として増川さんが「時々、木に抱きついてる。決まった木があって、春に桜だとわかった」と言うと「私もやってる」と声が上がり、盛り上がった。
 うつ病と知的障害を抱える都内の島田猛さん(44)は2回目の参加だ。「自分も毎朝、窓を開けてみようと思った。うつ病の改善には光を浴びるのが大事。障害を持つ仲間と時間を分かち合えるのがうれしい」と喜ぶ。
     *
 WRAP(Wellness Recovery Action Plan)とは、そううつ病などを患った米国人女性メアリー・エレン・コープランドさんが、精神疾患から立ち直った人々を調査し、闘病中の生活の工夫や考え方を仲間とまとめた自己管理法だ。
 (1)元気な日常の生活管理(2)状態を悪化させる引き金(3)悪化した時起きる兆候(4)状態が悪化中(5)緊急状況(6)緊急状況を脱した時――の6段階で、その時の感じ方や、状態を立て直すための行動計画を患者自身が考える。
 ポイントは日ごろの自分を観察し、自分をよく知ることだ。
 健常者のWRAP名古屋ファシリテーター、森和美さん(59)は昨年8月、精神保健福祉士として勤めたデイケアを退職し、自宅にいるうちに気分が沈んだ。(1)に挙げた「歩数計をつけて1時間近く歩く」「野菜、魚、旬のものを取り入れたバランスのいい食事を取る」を毎日意識的に実践し、数週間すると元気になってきたという。
 「WRAPには自分の元気は自分次第という考え方がある。何度も講座に出て自分について振り返るうち、立ち直りが早くなり、自分を大事に思えるようになった」と話す。
 先月来日し、精神障害者の回復を考えるシンポジウムで講演したコープランドさんは「米国では禁煙や禁酒、ダイエット、がんや糖尿病の患者も使っている。人間関係改善やポジティブシンキング、自信回復にも役立つ。充実した生活を送り、人生を楽しむために使ってほしい」と話す。
 ■詳しく学べる本や講演
 WRAPの実践法がわかる本「元気回復行動プラン WRAP」(1000円)はコンボ(047・320・3870)で購入可。同名の冊子(500円)の購入先はWRAP研究会(wrap_genki@yahoo.co.jp)。講演会などの開催団体は、WRAPプロジェクトZ(http://wrapprojez.exblog.jp/i4/)を参照。

清涼飲料水「がんに効く」 薬事法違反容疑で社長逮捕

清涼飲料水「がんに効く」 薬事法違反容疑で社長逮捕
2010年10月25日 提供:共同通信社

 徳島県警生活環境課は23日、医薬品の承認を受けていない清涼飲料水を「がんに効く」などとうたって販売したとして、薬事法違反の疑いで、香川県さぬき市長尾東、会社社長宮西清恵(みやにし・きよえ)容疑者(70)を逮捕し、会社事務所など関係先7カ所を家宅捜索した。
 県警によると、「健康補助食品として売った」と容疑を否認している。同容疑者は下着・健康食品販売の「シャンロワール」社(徳島市南末広町)の販売代理店「雅」の社長。香川を中心に愛媛や徳島でも営業していた。清涼飲料水は同社から仕入れ、製品概要を説明する研修にも参加していた。県警は今年2月に同社を薬事法違反容疑で家宅捜索していた。
 逮捕容疑は2009年5月、愛媛県新居浜市内の喫茶店で「がんの治療や予防に効果がある」などとうたい、同市の50代の女性に厚生労働省から医薬品として承認を受けていない清涼飲料水4本と錠剤の瓶詰3点を約15万円で販売した疑い。
 シャンロワールはこれまでの取材に対し回答していない。
 民間の信用調査会社によると、シャンロワールは1988年設立。資本金は3千万円で2005年9月期の売上高は68億円。女性用の下着や健康食品を販売している。

癌学会など朝日記事に抗議…がんワクチン問題で

癌学会など朝日記事に抗議…がんワクチン問題で2010年10月22日
提供:読売新聞

 東京大医科学研究所が開発したがんペプチドワクチンの臨床試験で、医科研付属病院の患者が消化管出血を起こした情報をワクチンを提供する他の病院には知らせていなかったと朝日新聞が報じた問題で、日本癌(がん)学会(野田哲生理事長)と日本がん免疫学会(今井浩三理事長)は22日、朝日新聞社に対する抗議声明を公表した。
 問題になっているのは、今月15、16日に掲載された一連の記事。出血は医科研単独の臨床試験で起き、これとは別の臨床試験を行っていた他の病院の医師には伝える義務がなかったにもかかわらず、これを批判するなどした。これに対し、癌学会ホームページに掲載された抗議声明では、「大きな事実誤認に基づいて情報をゆがめ、読者を誤った理解へと誘導する内容」と批判。同社に速やかな記事の訂正と謝罪を求めた。
 一方、記事で触れられたオンコセラピー・サイエンス社(本社・川崎市、角田卓也社長)も22日、誤った記事によって「株価が一時ストップ安となり、約83億円の損失となった」として、朝日新聞社に抗議文を送った。

25年度の医療費52兆円 1・4倍、伸び率年2% 厚労省が推計

25年度の医療費52兆円 1・4倍、伸び率年2% 厚労省が推計 【1】
2010年10月25日 提供:共同通信社

 厚生労働省が将来の国民医療費を推計したところ、10年度の37兆5千億円が25年度には1・4倍に膨らみ、14兆8千億円増の52兆3千億円に達することが22日分かった。
 医療機関への報酬改定などの影響を除くと医療費は例年3%台で伸びているが、今後は高齢化による増加が鈍り、25年度までの伸び率は年2・2%にとどまるとしている。推計には13年度に導入予定の新たな高齢者医療制度の影響を織り込んでおり、25日の高齢者医療制度改革会議に示す。
 厚労省は06年時点では、25年度の国民医療費を56兆円と推計していたが「医療費を抑えたい政府が過大に試算している」との指摘が続出した。前回の推計を下回る結果となったことで、政府、与党が進めている税制と社会保障の一体改革の議論にも影響を与えそうだ。
 国民医療費は病気やけがの治療で医療機関に支払われる1年間の総医療費。15年度では10年度比約5兆円増の42兆3千億円、20年度では47兆2千億円と推計した。医療費の伸びが鈍化するのは、02年度に長期投薬の規制が緩和され、受診回数が減っていることなどが要因とみられる。
 このうち75歳以上の医療費は、後期高齢者医療制度を廃止して新制度を導入する予定の13年度では、10年度比2兆円増の14兆8千億円。25年度には10年度の倍近い24兆1千億円と見込んでいる。
 患者の窓口負担を除き、保険料や税金で賄う「医療給付費」は、全年齢で10年度の31兆9千億円が25年度に45兆円となる見通し。
 今回の推計に反映させた新制度では、70~74歳の窓口負担引き上げや現役世代の負担増、税投入拡大などの厚労省方針が既に判明している。
※国民医療費と医療給付費
 病気やけがの治療で医療機関に支払われる1年間の医療費の総額が国民医療費。医療費全体の指標として一般に使われる。薬の調剤費や入院時の食事療養費は含まれるが、美容整形などの自由診療、正常な分娩(ぶんべん)や健康診断などは除かれる。医療給付費は、国民医療費から患者の窓口負担を除いた分で、保険料と税金(公費)で賄われる。

2010年10月21日木曜日

「糖尿病連携手帳」作成 医科歯科連携の推進へ

 糖尿病患者に対して糖尿病における療養上の指導や記録等に使われていた「 糖尿病健康手帳」が本年8月、「糖尿病連携手帳」(日本糖尿病協会編)として リニューアルされ、糖尿病における医科歯科連携の推進に向けて、歯周病や「 かかりつけ歯科医」に係る事項などが明記された。
今後、希望者に対して無償 で配布される。  本連携手帳の特徴は、病院とかかりつけ医などの連携による質の高い糖尿病 治療の実現を目的に、「糖尿病連携パス」として活用するための改訂を加えて いること。
歯科関係では、患者説明用に歯周病の説明が他の合併症と同列に記 載された。また、連携先として「かかりつけ歯科医」がかかりつけ医、かかり つけ眼科医などと並んで明記され、かかりつけ歯科医の受診時に本連携手帳を 提示するよう求めるとともに、基本情報や検査結果欄には歯周病の結果記載欄 が設けられている。
 連携手帳の問い合せ先は日本糖尿病協会(〒102-0083東京都千代田区4-2-1 MK麹町ビル5階、
TEL:03-3514-1711
HP: http://www.nittokyo.or.jp/ )。

歯科医療費2兆5473億円 前年度比200億円、0.7%減

歯科医療費2兆5473億円 前年度比200億円、0.7%減
 構成割合は7.2%に減少  平成21年度医療費の動向

 平成21年度の医療費の動向(概算医療費)が8月16日、厚労省より公表され、 歯科医療費は前年度比200億円減(▲0.7%、休日等補正後▲0.6%)の2兆5473億 円で、構成割合は前年度の7.5%から7.2%に下がった。
医科が入院で4300億円増 (3.1%、同3.2%)の14兆324億円、入院外で3500億円増(2.8%、同2.9%)の12兆 7291億円、調剤が4300億円増(7.9%、同8.1%)の5兆8695億円とそれぞれ増加 する中、歯科医療費だけが減少した。
 歯科の受診延日数は4億1千万日で、前年度より200万日、0.5%減少した。1日 当たり医療費は6200円で、横ばいであった。
 平成21年度の医療費は35兆2501億円で、前年度より1兆1900億円増加。70歳 以上で15兆5千億円と全体の44.0%を占めた。70歳未満は18兆1千億円で51.2%、 公費は1兆7千億円で4.8%。75歳以上だと12兆円で34.2%であった。医療費の増 加傾向は続いており、7年連続で過去最大を更新している。
 1人当たり医療費は27万6千円で前年度より1万円増加。70歳以上は77万6千円 で1万9千円増え、そのうち75歳以上は88万2千円で1万9千円増えた。70歳未満は 16万8千円で4千円増加した。
 概算医療費は、社会保険診療報酬支払基金及び国民健康保険団体連合会にお ける審査分の医療費で、国民医療費の約98%を占める。

2010年10月20日水曜日

日本の1人当たり医療費は、OECD加盟31ヵ国中20位

2010年10月19日 提供:WIC REPORT(厚生政策情報センター)

医療保障制度に関する国際関係資料(10/18)《厚労省》 
厚生労働省は10月18日に、医療保障制度に関する国際関係資料について発表した。
(1)2008年におけるOECD加盟国の医療費の状況(p1参照)
(2)2007年の、G7諸国における総医療費(対GDP比)と高齢化率の状況(p2参照)
(3)2007年時点の、医療分野についての国際比較(p3参照)
(4)主要国の医療保険制度概要(p4参照)-が整理されている。 

このうち(1)のOECD(経済協力開発機構)加盟国における医療費の状況を見てみると、日本は総医療費の対GDP(国内総生産)比は8.1で31ヵ国中22位、1人当たり医療費は2729ドルで31ヵ国中20位となっている。
ちなみに、総医療費(対GDP比)、1人当たり医療費とも、1位はアメリカで、それぞれ16.0、7538ドル(p1参照)。 
また、(3)の国際比較からは、「人口1000人当たり総病床数が際立って多い」「病床100床当たり医師数・看護職員数は逆に非常に少ない」「急性期、医療全体で見ても、平均在院日数は極端に長い」「1人当たり外来診察回数が多い」などの特徴が日本の医療には存在することが分かる(p3参照)。

(その1:0.4M)

2010年10月13日水曜日

70~74歳、窓口負担2割に 現行1割から引き上げ

70~74歳、窓口負担2割に 現行1割から引き上げ 13年度から5年かけ 新高齢者医療で厚労省方針
2010年10月4日 提供:共同通信社

 厚生労働省は2日、2013年度に導入予定の新たな高齢者医療制度で、医療機関の窓口で支払う患者の自己負担割合について、現在は暫定的に1割となっている70~74歳の負担を見直し、早ければ13年度から段階的に2割負担に引き上げる方針を固めた。
 新制度では現役世代の負担増が避けられない見通しとなったことから、厚労省は高齢者にも応分の負担を求める考え。高齢者の窓口負担は総額で1700億円増える一方、公費投入は同程度減ると試算している。ただ、負担増には政府、与党内にも慎重な意見があり、調整は難航しそうだ。
 厚労省の方針では、早ければ13年度に70歳を迎えた人(10年度に67歳)から引き上げを開始。5年間かけて年度経過ごとに順次、70歳になる人へ対象を広げ、70~74歳の全体が2割負担となるのは17年度の見通しだ。現在68歳以上の人は1割負担のまま。
 方針通り見直されれば、高齢者の窓口負担は、一般的な所得の人で(1)75歳以上が1割(2)70~74歳が2割(3)69歳以下は3割-と整理される。
 ただ、70歳以上でも課税所得が145万円以上で、かつ夫婦の合計年収が520万円以上(単身は年収383万円以上)の世帯は「現役並み所得」と扱われ、現行通り3割負担だ。
 70~74歳の窓口負担は本来、自公政権の法改正に基づき08年度から2割になる予定だった。だが同年度の後期高齢者医療制度開始に伴う高齢者の負担軽減策の一環で、それまでの1割を維持し引き上げを凍結していた。
 後期医療制度廃止後の新制度では、75歳以上は国民健康保険か、健康保険組合など被用者保険に移る予定。高齢者医療の枠組みが変わるのに合わせ、厚労省は現在の負担軽減策を見直し、本来の規定に戻すことにした。
※新高齢者医療制度
 後期高齢者医療制度を2012年度末に廃止し、13年度から75歳以上は国民健康保険(国保)か被用者保険に加入。国保に約1200万人、被用者保険に約200万人が後期医療から移る。75歳以上の国保は都道府県単位の運営とし、財政も区分し別会計とする方向。厚生労働省は、一連の見直しを盛り込んだ関連法案を11年の通常国会に提出することを目指している。

2010年7月16日金曜日

「豊かな死」1位は英国 日本は23位、医療費高で

2010年7月15日 提供:共同通信社

 【シンガポール共同】世界で最も「豊かな死」を迎えられるのは英国-。英調査会社が14日、終末医療の現状などを基準にした40カ国・地域の「死の質ランキング」を発表。日本は高額な医療費と医療に従事する人員の不足がたたり、23位と低い評価だった。
 調査したのは、ロンドンが拠点のエコノミスト・インテリジェンス・ユニット。終末医療や苦痛を和らげる緩和医療について各国の医療関係者に聞き取りを行い、普及状況や質、医療費など複数の観点から評価した。
 トップは英国で、ホスピス普及率の高さに加え、専門家養成の環境が整備されていることなどが評価された。2位以下はオーストラリア、ニュージーランドが続いた。
 高齢化が著しい日本について、調査に当たったトニー・ナッシュ氏は「医療システムは高度だが、在宅医療など患者や家族に寄り添うケアが難しいようだ」と分析した。
 施設の整備度が評価される一方、医療保険の不備が問題視された米国は9位。中国(37位)、ブラジル(38位)など新興国は軒並み評価が低く、人口増大に医療普及が追いつかないと指摘されたインドは最下位だった。

2010年7月13日火曜日

参議院議員選挙2010

参院選の医師候補ら厳しく、37人中26人が落選
第22回参議院議員選挙の開票結果、医療関係候補者の当落まとめ(2010/7/12、2010/7/13 訂正)
2010年7月12日 星 良孝(m3.com編集部)


第22回参議院議員選挙が7月11日に投開票され、自民党が51議席を獲得し改選第1党となり、民主党を含む与党が過半数割れする結果となった。今回の選挙では、医師や薬剤師などの医療者、元厚労省幹部、患者団体の非営利組織(NPO)役員などを含めると、37人の医療関係者が立候補したが、26人が落選するという厳しい結果に終わった。新人医師候補に限ると、14人中13人が落選した。選挙区で新人医師の当選なし


 まず選挙区を見ると、民主党公認候補のうち当選したのは、宮城県選挙区(定数2)の現職、政策審議会会長で医師の桜井充候補、大分選挙区(定数1)の現職、厚生労働省政務官で医師の足立信也候補の二人に限られた。
 医療関係の新人候補は軒並み落選を強いられた。福島県選挙区(定数2)では、医師の新人、岡部光規候補が次点で落選したほか、鳥取選挙区(定数1)から同じく医師の新人、坂野真理候補が自民候補との事実上の一騎打ちで敗れた。医師以外の候補でも、埼玉選挙区(定数3)において、歯科医師の現職、島田智哉子候補が落選したほか、兵庫県選挙区(定数2)において、元厚労省職員の新人、三橋真記候補が落選し、広島県選挙区(定数2)で、非営利団体の「乳がん患者友の会きらら」世話人代表の中川圭候補が落選した。徳島選挙区(定数1)では薬剤師の吉田益子候補が競り負けた。
 選挙区と比例区を合わせて10議席を獲得したみんなの党は、医療関係者3人を新人候補として擁立していたが、いずれも落選した。選挙区で落選したのは、愛知県選挙区(定数3)の薬師寺道代候補、三重選挙区(定数1)の矢原由佳子候補のほか、熊本選挙区(定数1)の薬剤師、本田顕子候補である。新党改革の医師候補も落選した。千葉選挙区(定数3)の新人、古閑比佐志候補、大阪府選挙区(定数3)の新人、山分ネルソン祥興候補だ。千葉選挙区では、新人で薬剤師の清水哲候補も落選した。
 議席数を大幅に増やした自民党において選挙区の医療関係者は2人で、埼玉県選挙区(定数3)では関口昌一候補がトップ当選し、山形県選挙区(定数1)の現職、元厚労相副大臣の岸宏一候補が激戦を制した。
 共産党では、オピニオンリーダーとしてメディア露出の多かった現職の党幹事長で医師の小池晃候補(東京都選挙区)が接戦の末に敗れたことが大きい。


医療界の声、届ける難しさ
 比例区を見ると、民主党の医療関連候補は、現職の小林正夫候補(厚生委員会理事)、同じく現職の津田弥太郎(厚生委員会理事)、新人の歯科医師西村正美候補は当選したが、ほかの候補は当選がかなわなかった。日本医師連盟の推薦を受けた病院理事長で新人の安藤高夫候補が落選したほか、現職で医師の土田博和候補、現職で元決算委員会委員長、元薬害エイズ被害者原告代表の家西悟候補も落選した。
 自民党でも、医療関係の候補は厳しい結果となった。元日本看護協会で、新人の高階恵美子候補、元参院議員で元厚生政務官の藤井基之候補、新人で医療団体役員の赤石清美候補は当選したが、現職の元政治倫理公職選挙法特別委員会理事で医師の西島英利候補が、日医の支援を受けていたものの落選したほか、衆議院議員からの鞍替え組としては、元厚労相副大臣の木村義雄候補が落選した。
 そのほかの党では、公明党から、新人で医学博士の秋野公造候補が当選したほかは軒並み苦戦。国民新党からは、新人で医療法人理事長の後藤俊秀候補が落選。共産党からは、新人で医療法人役員の森正明候補が落選、みんなの党からは、元衆議院議員で日医の支援を受けた、医師の清水鴻一郎候補が落選した。新党改革では、新人で自衛隊医官の中村幸嗣候補が落選した。
 今回の選挙においては、日医が民主党推薦の方針を打ち出したことのほか、新党の結党の流れもあり、医療関係の候補者が幅広い党から出馬した。だが、いずれも苦戦。医療界が政治の場に自らの要望を届けることの難しさが浮き彫りになった。

医師の過労自殺裁判で、最高裁が異例の和解勧告

2010年07月08日  「最高裁から、より良い医療の実現のためには、本件は和解により解決するのが妥当であるという考えが示され、弁護団もそのような最高裁の意向に賛同したこと、そして和解の前提として、病院側が、中原利郎氏の死亡が新宿労働基準監督署長により労災認定された事実を真摯に受け止め、弁護団も病院のそのような姿勢を評価したことから、和解に至った」  7月8日、小児科医だった中原利郎氏(当時44歳)が1999年8月に過労自殺、遺族が病院側に損害賠償を求めた裁判で、最高裁で和解が成立、午後5時半から記者会見に臨んだ川人博・弁護士らによる弁護団はこう説明しました。和解額は700万円です。
労災認定を求める行政訴訟では2007年3月の東京地裁判決で遺族側が勝訴、うつ病の発症が過重労働によることが認められました(国は控訴せず確定)。
 民事訴訟では、
(1)病院での業務が過重であったか、それによって自殺の原因となったうつ病が発症したか、
(2)うつ病の発症に関して、使用者である病院の安全配慮義務違反および注意義務違反が認められるか、の2点争点でした(『「医師の過重労働の放置につながる判決」、小児科医の過労死裁判』を参照)。
一審では、(1)と(2)ともに否定され、二審の2009年3月の東京高裁判決では、(1)が認められたものの、(2)は否定され、原告敗訴。  遺族側は判決を不服として最高裁に上告受理の申立を行いました。上告受理、高裁判決の破棄差し戻しには至らなかったものの、最高裁のあっせん趣旨を踏まえて和解に応じることにしたとのこと。  
川人弁護士によると、2008年の司法統計によれば、最高裁に上告申立・上告受理申立がされた民事・行政事件は約4500件で、うち最高裁で和解になったのはわすか延べ8件。原判決が破棄されたのは、56件にすぎないそうです。こうした中での和解勧告について、川人弁護士は、「今回の事件が単に一個人の問題にとどまらず、社会的な事件だというとらえ方を最高裁はしたのだろう」とみています。  遺族側の記者会見の様子も併せ、詳報は改めて医療維新でお伝えします。
【最高裁の和解条項】 申立人らは、亡中原利郎医師の遺志を受け継ぎ、小児科医の過重な勤務条件の改善を希求するとともに、労働基準法等の法規を遵守した職場の確立、医師の心身の健康が守られる保健体制の整備を希求して、本件訴訟を提起したのに対し、相手方は、相手方病院の勤務体制下においては、中原医師の死亡について具体的原因を発見し、防止措置を執ることは容易ではなかったという立場で本件訴訟に対応してきたところ、裁判所は、我が国におけるより良い医療を実現するとの観点から、当事者双方に和解による解決を勧告した。  当事者双方は、原判決が認定した中原医師の勤務状況(相手方病院の措置、対応を含む)を改めて確認するとともに、医師不足や医師の過重負担を生じさせないことが国民の健康を守るために不可欠であることを相互に確認して、以下の内容で和解し、本件訴訟を終了させる。
1.相手方は、中原医師の死亡が新宿労働基準監督署長により労災認定された事実を真摯に受け止め、同医師の死亡に深く哀悼の意を表する。
2.相手方は、申立人らに対し、本件和解金として、労災保険給付金とは別に、合計金700万円の支払義務があることを認め、これを本日、本和解の席上で支払い、申立人らはこれを受領した。
3.申立人らは、その余の請求を放棄する。
4.当事者双方は、今後、本件事案並びにこの和解の経過および結果を公表する場合には、原判決認定事実(原判決が引用する第1審の認定事実を含む)を前提としてこれを行い、相手方病院を含む我が国の医療現場におけるより良い医療を実現することを希求するという本和解の趣旨を十分に尊重し、相手方当事者を誹謗中傷しないことを相互に確約する。
5.当事者双方は、申立人らと相手方との間には、本和解条項に定めるほか、何らかの債権債務がないことを相互に確認する。
6.訴訟の総費用は、各自の負担とする。

2010年6月28日月曜日

イレッサで生存期間2倍に 肺がん治療、指針見直しへ

2010年6月24日 提供:共同通信社

 特定遺伝子が変異している肺がん患者に治療薬イレッサ(一般名ゲフィチニブ)を使うと、従来の抗がん剤治療に比べ、生存期間を2倍に延ばせるとする臨床研究の結果を貫和敏博(ぬきわ・としひろ)東北大教授(呼吸器内科学)らのチームがまとめ、24日付の米医学誌に発表した。
 イレッサは間質性肺炎の副作用があり、日本肺癌(がん)学会は抗がん剤投与を優先するよう治療指針で求めているが、チームの弦間昭彦(げんま・あきひこ)日本医大教授は「最初からイレッサを投与する方が効果の高い患者のいることが示された。初回投与を認める方向で、学会内で指針見直しが進んでいる」と話している。
 チームは、進行した非小細胞肺がん患者のうち「EGF受容体」の遺伝子が変異した患者230人を2グループに分け、治療成績を比較した。
 最初からイレッサを使ったグループは、抗がん剤を投与したグループより、がんが悪化するまでの期間が2倍に延びた。
 イレッサを投与したグループの平均生存期間は約2年半で、抗がん剤治療だけだったこれまでの実績の約1年2カ月と比べ2倍に。もう片方の抗がん剤のグループも途中でイレッサに切り替えると、生存期間は約2年となった。日本人にはこの遺伝子変異が多く、イレッサがよく効くとする説を裏付けた。
 副作用については、6人に間質性肺炎がみられ1人が死亡。ただ、チームは全般的に抗がん剤より重い副作用は少なく、生活の質も高く保てたとしている。
 ※米医学誌はニューイングランド・ジャーナル・オブ・メディシン

深い眠り導くタンパク質 働き解明、新薬開発に期待

2010年6月23日 提供:共同通信社

 眠りの深い「ノンレム睡眠」に導く新たなタンパク質の働きを解明したと、自然科学研究機構生理学研究所(愛知県岡崎市)の山中章弘(やまなか・あきひろ)准教授(神経生理学)らの研究チームが22日、発表した。米国専門誌「SLEEP」の電子版に掲載された。

 これまでの睡眠薬は脳の神経活動全体を抑制していたが、このタンパク質は眠りを促す神経を選んで作用するため、少量で質の高い眠りを促す睡眠薬の開発につながる可能性があるという。

 研究チームは、タンパク質「ニューロペプチドB」(NPB)をマウスの頭部に投与した結果、夜行性のマウスが夜になっても眠り続けることを確認。その上で、マウスの脳波と筋電図を同時に記録する装置を使い、NPB投与マウスの睡眠状態を調べると、脳も体も休んだ状態のノンレム睡眠であることが分かった。
 NPBは研究チームが2002年に人の脳内にあるのを発見、詳しい機能は未解明だった。

注射より効く「塗るワクチン」用素材を開発

2010年6月21日 提供:読売新聞

 インフルエンザウイルスのように鼻やのどの粘膜から感染する病原体を防ぐため、粘膜の免疫力を高める「塗るワクチン」として利用できる素材を、東京大や大阪府立大などの研究チームが開発した。
 21日発行の科学誌「ネイチャー・マテリアルズ」に掲載された。

 ワクチンを注射すると、抗体が血液中にできるが、インフルエンザウイルスは血管から離れた粘膜表面で増殖するため、効果が弱い。粘膜で働く抗体を作るには、粘膜の表面にウイルスや細菌の断片を長期間、付着させる必要があるが、鼻水などですぐに流されてしまうのが課題だった。
 東大の清野宏教授らは粘膜がマイナスの電気を帯びていることに着目し、グルコースなどから、プラスの電気を帯びたゼリー状の物質を合成。この物質に毒性を無くしたボツリヌス菌や破傷風菌の破片を混ぜてマウスの鼻の中に塗ると、粘膜に10時間以上残り、粘膜と血液中の両方に、菌を退治する抗体ができた。

 塗るワクチンは各国で研究が進められているが、ウイルス感染や副作用のおそれがあると指摘される。清野教授は「効果が高く副作用の少ない次世代のワクチンとして期待できる」と話している。

2010年6月19日土曜日

39%で負担重く治療中断 保団連の医療機関調査

2010年6月18日 提供:共同通信社

 全国保険医団体連合会(保団連)は17日、医療機関の39%が半年以内に、治療費負担が重いなどの患者側の理由で治療を中断したことがあるとの調査結果を公表した。保団連は「原則3割の窓口負担が高すぎるので、軽減するべきだ」としている。

 調査は5月中旬以降に全国で実施。茨城、福岡など7都府県の病院や医科診療所、歯科診療所の2829施設分を中間集計した。

 患者の経済的理由で治療が中断した例があったと回答したのは1097施設(39%)。歯科診療所は、ほぼ半数が「あった」とした。

 患者が検査や治療、投薬を断った事例を経験した医療機関は43%。患者が窓口で支払う治療費の未収金があるとしたのは45%に上った。

 保団連によると、治療を中断した疾病は高血圧、糖尿病、歯周疾患などの慢性疾患が中心で、患者が断ったのは血液検査や内視鏡、心電図、エックス線検査などが目立ったという。

 「年金や給料が出るまで受診を延ばす」「所持金の範囲内での治療を希望する」などの例も多く、患者の受診回数自体が減少したとの指摘も多くみられた。

2010年5月26日水曜日

歯茎からiPS細胞作製へ 大阪大倫理委が承認

2010年5月20日 提供:共同通信社

 大阪大の研究倫理審査委員会は19日、歯周病やインプラント(人工歯根)の治療、抜歯の際に切り取った歯茎の組織から新型万能細胞(iPS細胞)をつくる同大大学院歯学研究科の江草宏(えぐさ・ひろし)助教らの研究を承認したと発表した。
 切除した歯茎の組織は捨てられていたといい、江草助教は「患者の負担を最小限にiPS細胞ができれば、再生医療に大きな貢献をできる」としている。人での成功例の報告はないが、マウスでは皮膚の細胞から作製するよりも7-10倍効率良くつくれるという。
 江草助教によると、同大歯学部病院を受診した患者に同意を得た上、歯茎の組織から細胞を分離して培養。iPS細胞を開発した京都大の山中伸弥(やまなか・しんや)教授の技術を使い、この細胞からiPS細胞をつくり、マウスに移植して万能性を確認、あごの骨の再生医療などにつなげたいとしている。

2010年5月10日月曜日

クローン病の臨床的寛解5割以上

インフリキシマブ+アザチオプリン、クローン病の臨床的寛解5割以上

2010年04月19日 ソース:NEJM(論文一覧) カテゴリ: 消化器疾患(関連論文

文献:Colombel JF et al. Infliximab, Azathioprine, or Combination Therapy for Crohn's Disease. NEJM. 2010;362:1383-1395

クローン病患者508名を対象に、インフリキシマブまたはアザチオプリンの単独療法とインフリキシマブ+アザチオプリン併用療法の有効性を無作為化二重盲検試験で比較。副腎皮質ステロイドが不要となった臨床的寛解の達成率は、アザチオプリン群30.0%に比べ、インフリキシマブ群44.4%および併用群56.8%で高かった。

原文(NEJM)を読む

2010年4月23日金曜日

社会保障カード(仮称)の活用シナリオ

http://www.mhlw.go.jp/shingi/2009/04/dl/s0430-4c.pdf

平成21年4月16日社会保障カード(仮称)の在り方に関する検討会作業班

2010年4月22日木曜日

新型インフルエンザの失策を合法化する厚労官僚たち

予防接種法改正は誰のため? - 医師・村重氏
新型インフルエンザの失策を合法化する厚労官僚たち
2010年4月21日 村重直子(医師)

新型インフルエンザのワクチンで注目を集めた予防接種法について、厚生労働省が今国会に提出した改正法案(PDF:151KB)は、4月13日参議院で可決され、4月14日から衆議院で審議中です。
参議院での投票結果を見ると(参議院のホームページを参照)、どの党でも、あまりにも完璧な党議拘束がかかっており、この国には言論の自由がないのかと改めて実感します。
これで、官僚が作った法案の内容を、国会議員が審議したことになってしまうのですから、官僚主導になるのも当然とうなずけます。

 予防接種法は、ワクチン接種の対象疾患を一類疾病と二類疾病に分けていますが、「その発生及びまん延を予防することを目的」「個人の発病又はその重症化を防止し、併せてこれによりそのまん延の予防に資することを目的」という区別は、医学的にも現実的にも分けられないものを、机上のロジックで無理に分けているとしか思えません。

 厚労官僚は、なぜこんな無理をしてまで、この二つを分けたのでしょうか。
実は、この区分が分けているものは、ワクチン接種後の重篤な副反応に対する無過失補償の金額なのです。
つまり、厚労省が払う補償金額を下げるために、二類を作ったわけです。国民にとっては、二類を作られたこと自体が、不利益となっているとも考えられます。
さらに、一類と二類という非現実的な区別が存在するために、以下のような、議論のための議論が不毛に繰り返されています。

 予防接種法では、定期接種のほかに、臨時接種という類型を設けています。突発的に起こる新型インフルエンザのように、緊急的に政府がワクチン対策をしなければならないもののために、臨時接種があると言えます。
国の責任で対応できるように、予防接種法の一類疾病の項に、次の条文があります。
 「前各号に掲げる疾病のほか、その発生及びまん延を予防するため特に予防接種を行う必要があると認められる疾病として政令で定める疾病」
 新型インフルエンザにこれを適用すれば、今回のような法改正の必要はなく、政令で迅速に一類に追加し、臨時接種とすることができるのですが(2条2項8号、6条)、昨年、これをしなかった理由を、厚労官僚は国民に対してきちんと説明するべきです。

 仮に、百歩譲って新型インフルエンザを二類とするとしても、「インフルエンザ」はもともと二類に規定されており、臨時接種が可能でした(6条)。昨年、新型インフルエンザにこのスキームを適用しなかった理由も、厚労官僚は国民に対して説明しなければなりません。
 2010年1月27日の厚生科学審議会感染症分科会予防接種部会において、厚労官僚は「病原性が季節性インフルエンザと同程度のものであったため接種対象者に接種の努力義務を課すほどのものではないと判断」したため、臨時接種としなかったと説明しました(PDF:324KB)。
 つまり、弱毒性だから努力義務を課すほどのものではないという説明ですが、努力義務というのは、本質的に国民の権利義務に影響はありません。
努力義務があってもなくても、接種をするかどうかは、本人の意思で決めることができます。
逆に、臨時接種にしなかった結果、副反応が起きた場合の国の補償制度の対象から外されてしまったことの方が、国民の権利を損ねる方向へ、大きな影響があったと言えます(2009年12月の特別措置法で、二類相当の補償を作りましたが、国民が受け取れる補償金額は一類よりもはるかに少ないのです)。
こうしたことも、厚労官僚が一方的に「臨時接種にしない」という判断を下してよいのではなく、意思決定プロセスをオープンにして、国民のメリット・デメリットをきちんと議論するべきではないでしょうか。

 予防接種部会の厚労官僚の説明では、弱毒性の新型インフルエンザに対応する枠組みがなかったから、対応するため新たな枠組みを作るという趣旨でしたが、新たに作るのは二類の臨時接種です。つまり、弱毒性の新型インフルエンザは、二類の「インフルエンザ」(2条3項)に含まれることになります。昨年、二類の「インフルエンザ」には含まれないとして、新型インフルエンザを臨時接種にしなかったことと矛盾します。

 今後、別のタイプの新型インフルエンザが発生した時、日本政府はワクチン対策をどうするつもりなのでしょうか。
これまでの厚労官僚の説明を聞いている限り、新型インフルエンザは、強毒性なら一類、弱毒性なら二類とする、という意味になります。
医学的にも現実的にも、この区別は不可能ですし、合理性がありません。
それに、致死率やどの程度重症化するか(強毒性か弱毒性か)は、感染拡大した後でしか分かりません。
それを待ってから一類か二類か決めるのでは手遅れになります。
感染拡大する前に、ワクチンを広く接種することが、政府として取るべき対策ではないでしょうか。
新型インフルエンザ発生時の混乱を助長し、ワクチン接種が手遅れとなる要因となるので、シンプルに、区別せず一つにまとめるべきではないでしょうか。

 今回の法改正の主旨は、予防接種部会での厚労官僚の説明を聞いていた方はお分かりの通り、二類の臨時接種を作ることだったのですが、実はもともと二類の臨時接種はありました。
ではいったい、この法改正は何のためなのでしょうか。厚労官僚の説明によれば、この区別が分けるものは、無過失補償の金額を一類よりも低くすることなのです。
加えて、これまで公費負担だった臨時接種を、費用徴収(自己負担)可能としたのです。費用徴収するかどうかは、自治体の判断となります。
 こうしてみると、今回の法改正は、政府として行うべき法定の臨時接種でありながら、国民が受け取れる無過失補償金額を下げ、接種費用は自己負担にできる枠組みを作った。つまり国民の権利を損ねる法改正であると言うこともできます。

 それだけではありません。必要なワクチン接種を推進するためには、フィードバックが必要です。接種を始めた後も、副作用報告などのデータが集まっていますから、そのデータベースを多くの人々が利用できるように、公開しなければなりません。
そうすれば、多様な視点から、臨床的有効性や副作用頻度などの分析結果がたくさん発表され、検証や改善が進むでしょう。
さらに、副作用が起きてしまった人々をみんなで支えていくための、十分な無過失補償と免責制度も必要です。
 一類か二類かという不毛な議論に振り回されるのではなく、データベース公開や無過失補償・免責制度など、本当に必要なことを、皆さんに広く議論していただきたいと思います。

筆者プロフィール 村重 直子(むらしげ なおこ)氏
1998年東京大学医学部卒業。横須賀米海軍病院、ベス・イスラエル・メディカルセンター内科(ニューヨーク)、国立がんセンター中央病院を経て、2005年厚生労働省に医系技官として入省。
2008年3月から舛添前厚労大臣の改革準備室、7月改革推進室、2009年7月から大臣政策室。
2009年10月から仙谷大臣室(行政刷新担当、当時)、2010年3月退職)。

2010年4月5日月曜日

医師が国に勝訴、「保険医登録取消処分は違法」

山梨地裁、小児科医の訴え認める、「行政の裁量にも限度あり」
2010年3月31日 橋本佳子(m3.com編集長)
--------------------------------------------------------------------------------
 みぞべこどもクリニック(山梨県甲府市)院長の溝部達子氏が、保険医療機関の指定取消と保険医登録取消という二つの処分の取り消しを求め、国を提訴していた裁判で、山梨地裁は3月31日、原告の訴えを認める判決を下した。ただし、国に求めていた損害賠償(10万円)は認められなかった。
 溝部氏は、無診察投薬等で監査を受け、41万7845円(不正請求34万2176円、不当請求7万5669円)、2005年11月に二つの取消処分を受けていた。溝部氏は同月に提訴、翌2006年2月に裁判所は処分の執行停止を決定している(溝部氏はその後、保険診療を再開)。みぞべこどもクリニックの存続を求めた患者らによる「山梨の小児医療を考える会」が発足、2万8000人分以上の署名を集め、行政に働きかけるなどの動きもあった。
 判決で取消処分が違法だとした理由について、代理人の石川善一弁護士は、「判決は、健康保険法に基づく指導・監査には、行政の大きな裁量権があるとしながらも、その裁量権には限度があるとしている。今回の取消処分は、社会通念上、著しく妥当性を欠くことが明らかであり、裁量権の範囲を逸脱していると判断された」と説明。
 溝部氏は判決の感想について、「ほっとしているが、国は控訴すると思う。保険の審査、指導、監査については、合理的かつ明確なルールがなく、行政の裁量権は大きい。今回、提訴したのは、こうした事実を明らかにし、この問題を広く知ってもらい、行政庁、医療者、患者などに考えてもらうことが目的。医療を崩壊させずに、患者本位の医療ができるようなルールを作ってもらいたい」と語った。
 関東信越厚生局では、「判決を精査して控訴するかどうかを決定する」としている。
判決後、自院で記者会見する溝部達子氏(左)と代理人の石川善一弁護士(右)。裁判所の傍聴席と記者会見には、患者家族が多数訪れていた。
 「個別指導は、取り調べ・捜査だった」
 溝部氏は、2004年9月、2005年1月、同年2月の3回、個別指導を受けた。その内容は、「指導ではなく、取り調べ・捜査だった」と溝部氏は裁判の陳述書で述べている。2005年3月に監査を受け、同年11月に取消処分を受けた。
 溝部氏は、夜10時、11時まで診察することも多かった上に、病児保育を手がけていた。1回目の個別指導では、点滴の本数や薬の量などが問題にされたが、2回目以降は無診察投薬などが問題視された。例えば、兄弟の一方が受診し、同様の症状を持つ患者家族に診察をせずに抗インフルエンザウイルス薬を処方するケースなどがあった。
 判決では、「(保険医あるいは保険医療機関の指定の取り消しに関する)国の裁量にも限度があるというべきであって、処分理由となった行為の態様、利得の有無とその金額、頻度、動機、他に取りうる措置がなかったかどうか等を勘案して、違反行為の内容に比してその処分が社会通念上著しく妥当性を欠くことが明らかである場合には、裁量権の範囲を逸脱しまたはその濫用があったものとして違法となる」としている。
 その上で、溝部氏の処分について、「原告の行為は、いずれも保険診療上許容されるべきものではなく、長期間にわたっている」と厳しい判断を下しつつ、(1)患者のためを思っての行為であり、悪質性が高いとまでは言えないものが占める割合が多い、(2)金額は多額ではない、(3)不正・不当請求も、原告自らの利益のみを追求するものではなく、患者の希望や要請に基づいて診察・処方している、(4)個別指導を行った上で、経過観察したり、再度指導をするなどの方法や、監査を行った上で他の処分も行うことも可能だった、などとした。
 石川氏の知る範囲では、同様に保険医登録等の取消処分の取り消しを求めた裁判は2件あるという。いずれも地裁では、取消処分の取り消しが認められたものの、1件は高裁で逆転判決(確定)、もう1件は高裁で係争中だ。高裁で確定した判決は、溝部氏の判決と同様に、行政の裁量権が問題になり、ほぼ同じ考え方で処分の違法性が判断されたという。
曖昧な処分基準の見直しが不可欠
 溝部氏が一番問題視していたのは、無診察投薬の有無ではなく、監査を受け、保険医登録の取り消し等を受けた点だ。「指導・監査を経て、私の診療上の問題点が明らかになってからは、社会保険事務局の言う無診察処方、その他の不正・不当とされる診療はしていない」(溝部氏)。
 保険医療機関や保険医に対する、健康保険法に基づく指導・監査は、指導大綱・監査要綱に基づき実施される。
 監査の対象となるのは、診療内容または診療報酬の請求に不正または著しい不当があったことを疑うに足る理由があるとき、度重なる個別指導でも診療内容または診療報酬の請求に改善が見られないときなど。監査の結果、保険医登録あるいは保険医療機関指定の取消・戒告・注意の処分が行われる。
 もっとも、溝部氏の指摘のように、処分の基準は明確ではない。保険の取消は、「故意に不正または不当な診療を行ったもの」「重大な過失により、不正または不当な診療をしばしば行ったもの」など、戒告の対象は「重大な過失により、不正または不当な診療を行ったもの」「軽微な過失により、不正または不当な診療をしばしば行ったもの」など、注意は「軽微な過失により、不正または埠頭な心労を行ったもの」などと定められているだけだ。
 何が監査の対象になるのか、さらに「故意」「重大な過失」「軽微な過失」に該当するか、また「しばしば」の程度などは明確ではない。換言すれば、行政の裁量範囲は広い。
 前述のように今回の判決は、「行政に大きな裁量権がある」ことを前提に判断している。石川氏は、「健康保険法の裁量権の範囲自体を問題視するのは、立法論になるため、今回の裁判では踏み込んでいない」としながらも、「健康保険法の改正は必要」と求めている。

2010年2月15日月曜日

中央社会保険医療協議会 総会(第169回 2/12)《厚労省》

2010年2月12日 提供:WIC REPORT(厚生政策情報センター)
 中央社会保険医療協議会 総会(第169回 2/12)《厚労省》 厚生労働省が2月12日に開催した、中医協総会で配付された資料。
この日は、長妻厚生労働大臣に宛てて答申が行われ、全項目の点数が明らかになった。
10年ぶりのプラス改定(ネット)となった平成22年度改定が、ついに決着した。 救急入院医療の充実としては、
(1)救命救急入院料の充実度評価A加算がこれまでの500点から1000点に倍増
(2)二次救急医療機関における入院医療の評価を充実するため、救急医療管理加算を、これまでの600点から800点に引上げ
(3)ハイケアユニット入院医療管理料をこれまでの3700点から 4500点に引上げ―などがあげられる(p8-p23参照)。 
病院勤務医の負担軽減としては、まず、7対1および10対1病棟における看護補助者の配置を新たに評価する点が注目されている。
点数をみると、
(1)50対1配置では120点(14日まで)
(2)75対1配置では80点(14日まで)―という具合。
平成20年度改定で新設された医師事務作業補助体制加算について、
(1)15対1の新設(810点)
(2)20対1の新設(610点)
(3)25対1-100対1の点数引上げ―などが盛り込まれている(p27-p39参照)。

 再診料は病診統一で69点。患者からの電話問い合わせに対し、標榜時間以外も対応を行う体制を有している診療所を評価するため、「地域医療貢献加算」3点を新設し再診料に加算(p122参照)。
非常に活発な議論が行われた明細書発行だが、「明細書発行体制等加算」1点を新設し再診料に加算されることになる(p115-p118参照)。

(その1:2.4M)(その2:3.5M)(その3:1.4M)(その4:0.7M)(その5:2.2M)


http://www.m3.com/news/GENERAL/2010/2/12/115911/

2010年1月28日木曜日

彼らのやり口

租税特別措置法26条は昭和29年、社会保険診療報酬課税の特別措置として議員立法で成立した。成立の背景には、診療報酬が適正でないため、税制面で医師所得に特別な措置を講ずることがあった。
つまり、当時の財源では診寮報酬の適正化が図れないので、その分を税金で考慮しようと当時の大蔵省が言い出したものである
▼そのため、この26条には「適正単価決定までの措置」という付帯決議がついている。
そして、適正単価とは「保険者、被保険者、保険医の3者が妥当と認める単価」と定義づけされている
▼しかし大蔵省は、自ら言い出したものを「不公平税制」や「医師優遇税制」として昭和53年、いわゆる五段階税制に、また、平成元年からは5千万円超を適用除外とする四段階税制に改悪し、その後も、税制改革のたびにこれの全廃を目論んできた。
驚くべきはこの間、適正単価云々の付帯決議を全く無視した点にある
▼我々保険医は措置法成立時の経緯と付帯決議について今一度、認識し、地域医療を担う小規模医療機関を税制面から支え、先人が診療報酬適正化のために我々に託したこの26条を守り抜かねばならない。
また、民主党はマニフェストに従い、26条を真に必要なものとん、「特別措置」から「恒久措置」へ切り替えるべきである。(晴)
日歯広報 2010/1/25

下手に出ておいてこっそりはしごをはずす。これが彼らの 廃藩置県頃からの、いつものやり口である。
そして、マスコミも民主党もこういう経緯を知らないので、まんまと踊らされる。
当時よりもますます適正価格から遠のいている現在 、適正価格という議論さえ歯科ではない。
誠実に賢くなって、理論武装して、この事実を一般の方々に知っていただく努力が大切。

2010年1月18日月曜日

説明責任

巷では「疑惑をかけられたら、かけられた方は疑惑を晴らすために説明責任がある。」ということになっている。
これは公権力やマスコミには大変都合がよい考え方であるが、大変危険な考え方であることを直視ないといけない。
人が罪を犯しているのをいろいろな証拠から、理論的に証明して立件するのが彼らの仕事である。
それを疑いをかけられたほうに説明の義務があり、疑いをかけた方が退かない限り、被疑者は自由になれないというのは問題であろう。
一方で公務員の無謬性と匿名性に守られた彼らは、その疑いが根も葉もない物で、被疑者を一定期間、心理的、経済的に負担をかけたとしても責任を追求されることは全く無い。
政治家などがこのような目になうのを見ている分には気楽かもしれないが、いつ自分に同じようなことが降りかからないともかぎらない。
窃盗から、痴漢、脱税、全て疑いをかけられたら、自分で身の潔白を証明しなければならず、あらぬ疑いをかけたほうは何もしなくてよく、無責任に疑いをかけてよいのであれば、大変危険な世の中になる。

2010年1月8日金曜日

免疫パトロールの機構解明 リンパ球が炎症を抑制

2010年1月6日 提供:共同通信社

 異常な免疫反応に伴う炎症を抑えるリンパ球の働きを、徳島大の林良夫(はやし・よしお)教授のチームがマウス実験で解明し、米科学誌プロスワンに5日発表した。このリンパ球は「制御性T細胞」と呼ばれ、リンパ節から各臓器に広がって炎症を抑える"パトロール活動"をしていた。
 この働きにはCCR7というタンパク質が必要なことも発見。林教授は「この仕組みを制御できれば、免疫機構が誤って自分自身の体を攻撃する自己免疫疾患の治療に役立つかもしれない」と話している。
 チームは、CCR7をつくれないように遺伝子操作したマウスで実験。通常のマウスは制御性T細胞が血流に乗って体内に広がっていくが、遺伝子操作マウスはほとんどがリンパ節にとどまったままになり、目の炎症などの自己免疫疾患が起きるのを確かめた。

国立大病院、15年度に累積赤字1438億円

2010年1月6日 提供:読売新聞

 国立大学付属病院長会議が、全国42国立大学付属病院全体で2015年度の累積赤字額が約1438億円に達するとの試算をまとめていたことが4日、分かった。
 累積赤字額は08年度の11倍強に相当する。
 民間病院に比べて医療機器の老朽化が著しく、購入の必要や、病棟建設に伴う長期借入金の返済などで支出がかさむため。
 同会議によると、各国立大学病院の決算をまとめたところ、08年度単年度では約52億9000万円の赤字で、累積赤字額は約129億円に上った。赤字の主な原因は国からの運営費交付金の削減としており、試算では、今後も削減が続くとして、15年度までの

自閉症は脳の神経機能低下 タンパク質減少を確認 予防、治療の標的に

2010年1月6日 提供:共同通信社

 自閉症の人の脳の中では、神経から神経に情報を伝える化学物質を回収し再利用するタンパク質「セロトニン・トランスポーター」が少なく、神経機能が低下していることを初めて確かめたと、浜松医大の森則夫(もり・のりお)教授らが5日、都内で発表した。
 この化学物質「セロトニン」は感情、睡眠、食欲、不安などに関係するとされる。森教授は「セロトニン・トランスポーターという、予防や治療に役立つ具体的な標的を提示できた。研究が大きく進むだろう」と話している。
 森教授らは、知的障害がない「高機能自閉症」の18~26歳の男性20人について、陽電子断層撮影法(PET)でセロトニン・トランスポーターの分布を調査。
 すると脳全体で、健常者より密度が低いことが判明。自閉症の症状との関係を分析すると、帯状回という部位での密度低下は「相手の気持ちを読めない」という症状と、視床での低下は強迫症状と関係があることが分かったという。
 これまで、自閉症の人の一部でセロトニンの血液中の濃度が高く、自閉症との関連が指摘されていた。
 グループの辻井正次(つじい・まさつぐ)中京大教授(発達臨床心理学)は「自閉症は育て方の問題ではなく、明確な脳の障害があることが見いだされた。障害を前提に、社会に適応して生きられるようサポートしていくことが大事だ」と話している。

「中医協議論への政治的圧力、由々しき発言」、日医が足立政務官を批判

2010年1月7日 村山みのり

日本医師会は、1月7日の記者会見において、2009年12月27日に共同通信による「厚生労働省は再診療について、現在710円の診療所を引き下げる一方、600円の病院を引き上げて650円前後で一本化する考えを示した」とする報道、まだ2010年1月6日付メディファクスにおける足立信也・厚労大臣政務官が「『病院の点数を診療所に合わせる判断を中医協がすることはあり得ない』と述べ、現行の診療所の点数は引き下げることになるとの見通しを示した」との記事について、「報道をきっかけに既成事実化しようとしているようであり、極めて遺憾」、「厚労大臣の諮問機関である中医協の議論に対し、政務官の立場から政治的に圧力をかけるものであり、中医協を軽視した由々しき発言」と批判した。
 再診料の見直しについては、昨年12月に中医協で「『一物一価』の観点から病院・診療所で一本化する」との方針が合意されたが、遠藤久夫会長は「今後、具体的な点数設定の議論において意見が分かれる可能性がある」とコメントしていた。実際、診療側は「高い方に低い方を合わせるか、適正評価の観点から現在より高い点数で一本化する」ことを合意の条件としているのに対し、支払側は12月22日に提出した意見書に「診療所を引き下げ、病院を引き上げる形で統一を図るべき」と記載しており、統一の方法や点数の設定については今後議論することとなっていた。なお、足立政務官は12月23日夕方に行われた厚労大臣記者会見においても、「再診料も病院と、診療所を合わせるという中医協の合意もありましたし、再診料が下がるという」と発言している。
 また、足立政務官は、再診料を引き下げて得た財源で、不採算の診療科を「手厚く加算すればよい」と述べたと報じられているが、これについても常任理事・中川俊男氏は「特定の診療科が算定できる加算を設けることを示唆しているが、再診料はすべての診療科に共通の技術料・経営コスト。例えば小児科に加算を付けたとしても、小児科診療所でも再診料は下がるため、意味がない。時間外診療を手厚く評価するとの意見も聞かれるが、時間外・救急をしないと経営ができないのは異常。いかに医療の現場を見ていないかは明らか」と批判した。
 常任理事・中川俊男氏は、「中医協の中ではいまだ議論の途上で、基本診療料についても十分な議論は尽くされていない。また、足立政務官は外来管理加算についても『選択肢の一つはいらないということ』と廃止に言及し、中医協で合意されていない内容にまで踏み込んでいる。今回の発言は中医協の議論に政治的に介入し、圧力をかけたもので、重大な問題。日本医師会は、こうしたやり方を断じて容認することはできない」と問題視。
 また、改定率について「大幅なプラス改定が可能な状況ではなかった」とする発言についても「民主党の公約における『総医療費対GDP比をOECD加盟国平均までの引き上げ』は診療報酬を10%引き上げることに相当する。また足立政務官は診療報酬を『少なくとも3.16%は戻さなくてはいけない』と発言していた。にもかかわらず、この期に及んでこのような発言はいかがなものか。厚生労働省の政務官として、発言の重みを肝に銘じていただきたい」と述べた。
 日医は、再診料引き下げについて「診療所の収入の8.5%は再診料。再診料には、医師の技術料のほか、看護職員やコメディカルの人件費、減価償却費、光熱水費、事務経費などが含まれる。再診料の重みの大きい診療所にとって、引き下げは医業経営上きわめて大きな打撃」として強く反対。また、再診料統一については「病院の再診料を引き上げて診療所の点数に統一していく方針に賛成」との方針を示しつつ、現在の点数は病院・診療所いずれも不十分であり、本来はともに引き上げを行うべきであること、一方で2010年度改定の財源が限られていることから、まず今回は病院の点数を引き上げて診療所の水準に近付け、次回以降の改定でより高水準に統一するなど、段階的に統一を図っていくことを提案した。

\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\

ちなみに歯科の再診料はもっと低く、400円である。
これで、医科同様の経費に加え、器具の消毒、紙コップに加え近年では手袋の装着経費もこの中に含まれ、ほとんど何十年も増加していない。
このことを日本歯科医師会や、行政は語っていないことを国民の皆さんに知っていただきたい。
一つ一つの医療行為のコスト計算を行えば、現状の医療がいかに不採算であるかご理解いただける。

2010年1月7日木曜日

日医、産経新聞記事「納税者の視点で見直せ」に厳しく抗議

日医、産経新聞記事「納税者の視点で見直せ」に厳しく抗議
2009年6月17日 村山みのり

 6月15日、産経新聞朝刊に掲載された社説「納税者の視点で見直せ--開業医と勤務医の診療報酬配分」に対し、日本医師会は「事実誤認もはなはだしい」として、17日の記者会見で抗議を行った。
当該記事の執筆者である岩崎慶市氏(産経新聞論説副委員長)は、財政制度等審議会の委員を務めている。
 常任理事・中川俊男氏は、「日本医師会は、財政審が医療崩壊の現実に目を背け、勤務医と開業医の開業医の対立構造を作り上げたことに憤りを感じており、財政審が恣意的に作り上げたデータで進めている議論の土俵に上がるつもりはない」と前置きしつつ、「何と言って怒りを表したら良いか分からない」と非難。記事中における記述と日医による反論のポイントは以下の通り(カッコ内は記事原文より抜粋。記事概要は文末を参照)。

・「医師の人件費に当たる診療報酬」「医師などの人件費、つまり診療報酬」  
診療報酬は医療機関の主たる経営原資であり、医療機関は、医薬品費、材料費、外注費、給与費などを支払う。医療安全のために投資を行う場合には、利益も必要である。 診療報酬イコール医師の人件費ではない。一般企業の売上高がそのまま給与費に直結しないのと同じである。

・「医師会調査でも勤務医が開業医になりたい主な理由は『激務が給料に反映されない』だった」
 医師会調査ではなく、中医協の調査*。当該質問の回答数(できれば開業したいと回答した医師に質問)は235人と少なく、うち72人(30.6%)がこう答えている。なお、「診療や経営方針を自分で決めたい」という選択肢はあるが、「理想の医療を追求したい」といった前向きな選択肢はなく、これだけで開業理由を判断できない。
 *中医協診療報酬改定結果検証部会「診療報酬改定結果検証に係る特別調査(2008年度調査) 病院勤務医の負担軽減の実態調査報告書」

・「勤務医だって税引き前の数字だし」「借入金についても一般の会計手法とは違っている」
 借入金の返済は、会計上は費用ではなく、税法上も経費ではないため、税引き後の所得から支払う。給与所得者は、事業のために借り入れをすることはなく、税引き後の所得から返済することもない。 医師会が勤務医・開業医の年収比較を、税金や借入金返済を差し引いた手取り年収で示すことを問題視するが、一般の会計手法で処理したままでは全く比較できない。

・「開業医は週休2.5日、時間外診療も往診もほとんどせずに」
 そのエビデンスを示していただきたい。厚生労働省「医療施設調査(2005年)」によると、診療所は土曜の午前中は72.5%、午後も23.2%が表示診療時間としている。日曜は午前4.5%、午後3.4%。週2.5日、つまり土日丸々と平日半日休むケースは希少であり、もちろん夜間診療も行っている。

・「優遇されすぎた開業医の診療報酬を大胆に削り、その分を不足する勤務医や診療科に配分すれば、診療報酬全体を上げなくても医師不足はかなり是正される」
 財政審建議(2009年6月3日)の受け売りであり、本質的な問題のすり替えである。また、基本診療料、入院診療報酬など、診療所・病院の診療報酬の違いを理解せずに開業医が優遇されていると指摘するのは間違いである。

・「中医協はかつて改革が行われ、公益委員や健保団体の代表もいるにはいる。だが、開業医を中心とする医師会の影響力が依然として圧倒的だ」
 中医協は会議・議事録がすべて公開される透明な会議である。診療側・支払い側・公益側の委員が議論を展開しており、支払い側・公益側の発言力が弱いかのような表現は大変失礼だ。診療側にしても、様々な団体の委員が参画している。

【参考】産経新聞(2009年6月15日朝刊)
日曜経済講座:納税者の視点で見直せ--開業医と勤務医の診療報酬配分
〔要約〕医師の人件費に当たる診療報酬改定を控え、日本医師会などが医師不足解消を理由に大幅引き上げ論を展開している。

国民医療費は10年後には56兆円に達すると見込まれ、内訳は保険料49%、税金37%、患者負担14%であり、国民負担が急増する。使途の50%は医師などの人件費であり、診療報酬には多額の税金が注ぎ込まれている。同様に税金を財源とする公務員給与が民間準拠であるのに比べ、診療報酬の引き下げ幅ははるかに小さく、前回改定では逆に引き上げられた。民間では急激な景気悪化により、給与削減・雇用不安に直面している中、医師の給与をさらに上げよ、との主張に納税者が納得できるか。
■医師不足の本質は偏在:大義名分である「医師不足解消」も説得力に欠ける。この2年間で医学部定員は1割以上も増員され、医師会が求めていた医師数は確保される。
にも関らず医師不足が解消されないのは、問題の本質が勤務医・開業医、地域、診療科間の偏在であるため。この構造を支えるのが診療報酬のいびつな配分であり、それを大胆に見直さない限り、医師数を増やしても偏在は拡大するだけだろう。
勤務医と開業医の年収格差はデータからも明らか。医師会は税金・借入金返済等を理由に反論しているが、その理屈はサラリーマンには理解しがたい。開業医には定年がなく、週休2.5日、時間外診療も往診もほとんどせずに、この高報酬をずっと維持できる。
■米の報酬体系は真逆:米国でも医師の高報酬が問題となっているが、専門性が高く勤務が厳しい診療科ほど報酬が高い。これが常識だろう。
日本も優遇され過ぎた開業医の診療報酬を大胆に削り、その分を不足する勤務医や診療科に配分すれば、診療報酬全体を上げなくても医師不足は是正される。
それができないのは、配分を決める中医協で開業医を中心とする医師会の影響力が依然として圧倒的であるため。
配分見直しを断行するには、納税者が納得できるような別の機関が中医協を主導する場が必要。
また、医師には教育段階から多額の税金を投入している以上、米国・ドイツのように配置規制も考えるべきだ。
納税者の視点を欠いた護送船団的“医療村”に任せておいては、医師不足解消も国民負担抑制もままならない。

近畿厚生局が事務処理の不手際で、集団的個別指導の対象を誤通知

「前代未聞のミス」、大阪府医師会が近畿厚生局に抗議
近畿厚生局が事務処理の不手際で、集団的個別指導の対象を誤通知

2009年8月19日 橋本佳子

 「前代未聞のミス。集団的個別指導の通知を受け取った医療機関は非常に不安に思い、プレッシャーを感じただろう。本来なら、慎重を期して事前にチェックして、通知を送付すべきなのに、それを怠った」。こう指摘し、近畿厚生局の対応を問題視するのは、大阪府医師会理事の山本時彦氏だ。 
 近畿厚生局は7月27日、今年度の集団的個別指導に関する通知を大阪府の643施設に送付。ところが、その半数以上の351施設が同局の事務処理上の選定ミスで、本来対象でない施設にも誤って通知されるという事態が起こった。
 その直後から、府医師会には会員から「高点数でないのに、なぜ指導の対象になるのか」など問い合わせが寄せられた一方、近畿厚生局にも電話が入るなどして、選定ミスが発覚。8月4日に、近畿厚生局が府医師会に事情を説明、翌5日に近畿厚生局がお詫びの連絡を医療機関に送付した。8月7日に府医師会は、原因究明とその公表などを求める抗議文を近畿厚生局に送付したが、「これに対する回答は現時点(8月18日の取材時点)ではない」(山本氏)という。
 選定ミスがなかった医療機関に対しては、既に集団的個別指導が開始している。再計算し、集団的個別指導の対象を追加するかどうかは現時点では未定だ。
 「内科の場合、約9割に選定ミスがあった。しかも、近畿厚生局が4日に府医師会に説明に来た際には、事務的な処理作業上の人為的なミスと説明していたが、5日の医療機関への説明文には、『対象医療機関を選定する過程において、使用したデータの一部に不具合が生じていることが確認された』とあり、コンピュータのシステムの不都合によるものと受け取れるようで内容で、説明にも食い違いがある」と山本氏は信感を募らせる。
 厚生局への業務移管に伴い、「大阪ルール」も廃止
 集団的個別指導とは、「指導大綱」に基づく行政指導の一形態。レセプト1件当たりの平均点数が、類型区分ごと(病院4区分、診療所11区分)の都道府県別の平均点数の一定割合(病院1.1倍、診療所1.2倍)を超える施設を対象に実施される。前年度と前々年度に集団的個別指導または個別指導を受けた施設は対象外となることから、おおむね上位約8%の医療機関が対象になる。2008年10月に社会保険事務局から地方厚生局に業務が移管された。
 大阪府では従来、診療所(約8000)、病院(約550)と医療機関数が多いことから、上位約8%ではなく、上位約4%としていたほか、府医師会が年1回各地区医師会で実施する「社会保険指導講習会」の参加者は、集団的個別指導の対象に選定されても、その受講が任意になるとしていた。こうしたやり方は、「大阪ルール」とも呼ばれていた。
 「指導は、本来、適切な保険診療を行うために教育的観点から実施するもの。決して医療機関を甘やかすのではなく、指導すべきことは指導するという府医師会のスタンスだ。長年、社会保険事務局と府医師会は協同して指導に取り組んできた。ところが近畿厚生局への業務移管に伴い、この大阪ルールはなくなり、地域の実情や経緯が無視されてしまった」と山本氏は指摘する。集団的個別指導は対象数が多いことから、本来、実施すべき個別指導が滞る場合もあるという。
 昨秋以降、府医師会は近畿厚生局と何度か協議の場を持ったが、「近畿厚生局は自分たちで実施する、の一点張りだった」(山本氏)。その矢先の不手際だっただけに、府医師会の近畿厚生局の不信感は高まった。 
 集団的個別指導の対象は、その前年の医療機関別のレセプトの平均点数を基に決定される。支払基金と国保連合会のレセプトデータは別であるため、平均点数算出の際には両者のデータを合わせる必要があるが、ミスが生じたのはこの作業時だったようだ。
 そのほか、(1)従来は類型区分ごと平均点数が公表されたが、今年度から公表されず、(2)指導を行う会場も医師会館から公共の会議場に変更、など、近畿厚生局への業務移管に伴い、変更された点は多い。「個別指導についても、その理由などを聞くなど情報交換を行い、社会保険指導講習会の指導内容を検討するなどしていたが、それもできなくなった」(山本氏)。
 そもそも、大阪府医師会では、以前から集団的個別指導には意味がなく、指導大綱を見直し、撤廃すべきだと働きかけている。
 「集団的個別指導の場合、2年連続、高点数が続けば、個別指導の対象になる。個別指導になれば、医療機関の心理的ストレスはより高まる。そもそもレセプトの平均点数は診療内容・形態などによって異なるものであり、単に点数が高いからと言って、即、請求に問題があるわけではない。点数の高さではなく、その請求の中身を問題視すべきだが、行政は、単に個別指導につなげたいために、実施しているにすぎない」(山本氏)