2010年7月13日火曜日

医師の過労自殺裁判で、最高裁が異例の和解勧告

2010年07月08日  「最高裁から、より良い医療の実現のためには、本件は和解により解決するのが妥当であるという考えが示され、弁護団もそのような最高裁の意向に賛同したこと、そして和解の前提として、病院側が、中原利郎氏の死亡が新宿労働基準監督署長により労災認定された事実を真摯に受け止め、弁護団も病院のそのような姿勢を評価したことから、和解に至った」  7月8日、小児科医だった中原利郎氏(当時44歳)が1999年8月に過労自殺、遺族が病院側に損害賠償を求めた裁判で、最高裁で和解が成立、午後5時半から記者会見に臨んだ川人博・弁護士らによる弁護団はこう説明しました。和解額は700万円です。
労災認定を求める行政訴訟では2007年3月の東京地裁判決で遺族側が勝訴、うつ病の発症が過重労働によることが認められました(国は控訴せず確定)。
 民事訴訟では、
(1)病院での業務が過重であったか、それによって自殺の原因となったうつ病が発症したか、
(2)うつ病の発症に関して、使用者である病院の安全配慮義務違反および注意義務違反が認められるか、の2点争点でした(『「医師の過重労働の放置につながる判決」、小児科医の過労死裁判』を参照)。
一審では、(1)と(2)ともに否定され、二審の2009年3月の東京高裁判決では、(1)が認められたものの、(2)は否定され、原告敗訴。  遺族側は判決を不服として最高裁に上告受理の申立を行いました。上告受理、高裁判決の破棄差し戻しには至らなかったものの、最高裁のあっせん趣旨を踏まえて和解に応じることにしたとのこと。  
川人弁護士によると、2008年の司法統計によれば、最高裁に上告申立・上告受理申立がされた民事・行政事件は約4500件で、うち最高裁で和解になったのはわすか延べ8件。原判決が破棄されたのは、56件にすぎないそうです。こうした中での和解勧告について、川人弁護士は、「今回の事件が単に一個人の問題にとどまらず、社会的な事件だというとらえ方を最高裁はしたのだろう」とみています。  遺族側の記者会見の様子も併せ、詳報は改めて医療維新でお伝えします。
【最高裁の和解条項】 申立人らは、亡中原利郎医師の遺志を受け継ぎ、小児科医の過重な勤務条件の改善を希求するとともに、労働基準法等の法規を遵守した職場の確立、医師の心身の健康が守られる保健体制の整備を希求して、本件訴訟を提起したのに対し、相手方は、相手方病院の勤務体制下においては、中原医師の死亡について具体的原因を発見し、防止措置を執ることは容易ではなかったという立場で本件訴訟に対応してきたところ、裁判所は、我が国におけるより良い医療を実現するとの観点から、当事者双方に和解による解決を勧告した。  当事者双方は、原判決が認定した中原医師の勤務状況(相手方病院の措置、対応を含む)を改めて確認するとともに、医師不足や医師の過重負担を生じさせないことが国民の健康を守るために不可欠であることを相互に確認して、以下の内容で和解し、本件訴訟を終了させる。
1.相手方は、中原医師の死亡が新宿労働基準監督署長により労災認定された事実を真摯に受け止め、同医師の死亡に深く哀悼の意を表する。
2.相手方は、申立人らに対し、本件和解金として、労災保険給付金とは別に、合計金700万円の支払義務があることを認め、これを本日、本和解の席上で支払い、申立人らはこれを受領した。
3.申立人らは、その余の請求を放棄する。
4.当事者双方は、今後、本件事案並びにこの和解の経過および結果を公表する場合には、原判決認定事実(原判決が引用する第1審の認定事実を含む)を前提としてこれを行い、相手方病院を含む我が国の医療現場におけるより良い医療を実現することを希求するという本和解の趣旨を十分に尊重し、相手方当事者を誹謗中傷しないことを相互に確約する。
5.当事者双方は、申立人らと相手方との間には、本和解条項に定めるほか、何らかの債権債務がないことを相互に確認する。
6.訴訟の総費用は、各自の負担とする。

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