2010年1月7日木曜日

日医、産経新聞記事「納税者の視点で見直せ」に厳しく抗議

日医、産経新聞記事「納税者の視点で見直せ」に厳しく抗議
2009年6月17日 村山みのり

 6月15日、産経新聞朝刊に掲載された社説「納税者の視点で見直せ--開業医と勤務医の診療報酬配分」に対し、日本医師会は「事実誤認もはなはだしい」として、17日の記者会見で抗議を行った。
当該記事の執筆者である岩崎慶市氏(産経新聞論説副委員長)は、財政制度等審議会の委員を務めている。
 常任理事・中川俊男氏は、「日本医師会は、財政審が医療崩壊の現実に目を背け、勤務医と開業医の開業医の対立構造を作り上げたことに憤りを感じており、財政審が恣意的に作り上げたデータで進めている議論の土俵に上がるつもりはない」と前置きしつつ、「何と言って怒りを表したら良いか分からない」と非難。記事中における記述と日医による反論のポイントは以下の通り(カッコ内は記事原文より抜粋。記事概要は文末を参照)。

・「医師の人件費に当たる診療報酬」「医師などの人件費、つまり診療報酬」  
診療報酬は医療機関の主たる経営原資であり、医療機関は、医薬品費、材料費、外注費、給与費などを支払う。医療安全のために投資を行う場合には、利益も必要である。 診療報酬イコール医師の人件費ではない。一般企業の売上高がそのまま給与費に直結しないのと同じである。

・「医師会調査でも勤務医が開業医になりたい主な理由は『激務が給料に反映されない』だった」
 医師会調査ではなく、中医協の調査*。当該質問の回答数(できれば開業したいと回答した医師に質問)は235人と少なく、うち72人(30.6%)がこう答えている。なお、「診療や経営方針を自分で決めたい」という選択肢はあるが、「理想の医療を追求したい」といった前向きな選択肢はなく、これだけで開業理由を判断できない。
 *中医協診療報酬改定結果検証部会「診療報酬改定結果検証に係る特別調査(2008年度調査) 病院勤務医の負担軽減の実態調査報告書」

・「勤務医だって税引き前の数字だし」「借入金についても一般の会計手法とは違っている」
 借入金の返済は、会計上は費用ではなく、税法上も経費ではないため、税引き後の所得から支払う。給与所得者は、事業のために借り入れをすることはなく、税引き後の所得から返済することもない。 医師会が勤務医・開業医の年収比較を、税金や借入金返済を差し引いた手取り年収で示すことを問題視するが、一般の会計手法で処理したままでは全く比較できない。

・「開業医は週休2.5日、時間外診療も往診もほとんどせずに」
 そのエビデンスを示していただきたい。厚生労働省「医療施設調査(2005年)」によると、診療所は土曜の午前中は72.5%、午後も23.2%が表示診療時間としている。日曜は午前4.5%、午後3.4%。週2.5日、つまり土日丸々と平日半日休むケースは希少であり、もちろん夜間診療も行っている。

・「優遇されすぎた開業医の診療報酬を大胆に削り、その分を不足する勤務医や診療科に配分すれば、診療報酬全体を上げなくても医師不足はかなり是正される」
 財政審建議(2009年6月3日)の受け売りであり、本質的な問題のすり替えである。また、基本診療料、入院診療報酬など、診療所・病院の診療報酬の違いを理解せずに開業医が優遇されていると指摘するのは間違いである。

・「中医協はかつて改革が行われ、公益委員や健保団体の代表もいるにはいる。だが、開業医を中心とする医師会の影響力が依然として圧倒的だ」
 中医協は会議・議事録がすべて公開される透明な会議である。診療側・支払い側・公益側の委員が議論を展開しており、支払い側・公益側の発言力が弱いかのような表現は大変失礼だ。診療側にしても、様々な団体の委員が参画している。

【参考】産経新聞(2009年6月15日朝刊)
日曜経済講座:納税者の視点で見直せ--開業医と勤務医の診療報酬配分
〔要約〕医師の人件費に当たる診療報酬改定を控え、日本医師会などが医師不足解消を理由に大幅引き上げ論を展開している。

国民医療費は10年後には56兆円に達すると見込まれ、内訳は保険料49%、税金37%、患者負担14%であり、国民負担が急増する。使途の50%は医師などの人件費であり、診療報酬には多額の税金が注ぎ込まれている。同様に税金を財源とする公務員給与が民間準拠であるのに比べ、診療報酬の引き下げ幅ははるかに小さく、前回改定では逆に引き上げられた。民間では急激な景気悪化により、給与削減・雇用不安に直面している中、医師の給与をさらに上げよ、との主張に納税者が納得できるか。
■医師不足の本質は偏在:大義名分である「医師不足解消」も説得力に欠ける。この2年間で医学部定員は1割以上も増員され、医師会が求めていた医師数は確保される。
にも関らず医師不足が解消されないのは、問題の本質が勤務医・開業医、地域、診療科間の偏在であるため。この構造を支えるのが診療報酬のいびつな配分であり、それを大胆に見直さない限り、医師数を増やしても偏在は拡大するだけだろう。
勤務医と開業医の年収格差はデータからも明らか。医師会は税金・借入金返済等を理由に反論しているが、その理屈はサラリーマンには理解しがたい。開業医には定年がなく、週休2.5日、時間外診療も往診もほとんどせずに、この高報酬をずっと維持できる。
■米の報酬体系は真逆:米国でも医師の高報酬が問題となっているが、専門性が高く勤務が厳しい診療科ほど報酬が高い。これが常識だろう。
日本も優遇され過ぎた開業医の診療報酬を大胆に削り、その分を不足する勤務医や診療科に配分すれば、診療報酬全体を上げなくても医師不足は是正される。
それができないのは、配分を決める中医協で開業医を中心とする医師会の影響力が依然として圧倒的であるため。
配分見直しを断行するには、納税者が納得できるような別の機関が中医協を主導する場が必要。
また、医師には教育段階から多額の税金を投入している以上、米国・ドイツのように配置規制も考えるべきだ。
納税者の視点を欠いた護送船団的“医療村”に任せておいては、医師不足解消も国民負担抑制もままならない。