2009年12月14日月曜日

2010年度は国立の8割が赤字と予測

中央社会保険医療協議会
「大学病院は、国立も私立も死んでいる!」-山形大・嘉山氏
特定機能病院の危機を訴える、2010年度は国立の8割が赤字と予測
2009年12月10日 村山みのり


嘉山孝正氏(山形大学医学部長)
 11月27日の中医協において、委員の嘉山孝正氏(山形大学医学部長)は特定機能病院の現状について、約30分にわたりプレゼンテーションをした。中医協でこうしたヒアリングを行うのは異例のこと。
 嘉山氏は、特定機能病院が担っている医療とそれに必要な人員、収支の実態などについて解説し、「2010年度、8割の大学病院が赤字になる。このままだと大学病院は倒産する。それを避けるためには、特定機能病院の入院料を0.5倍増、DPC係数を1.9にして、2996億円(医療費総額の0.88%に相当)増やすことが必要」と訴えた。(嘉山氏の資料はこちら:『医療の最後の砦の現状』)
 「大学病院の低い人件費でも手術は赤字」
 プレゼンテーションの冒頭で、嘉山氏は日本の医療が世界的に非常に高いレベルであることを紹介。また、特定機能病院が、高難易度の手間のかかる医療を最後の砦として行っている現状について、データを示しつつ、「難しい医療を大学病院が赤字覚悟で背負っている」と強調した。例えば、山形大学では、脳腫瘍の開頭手術でも、患者と話をしながら、言語機能を確認しつつ行う、覚醒下脳手術を実施している。この手術を安全に行うためには、術者、多くの助手、麻酔科医、看護師、臨床工学技士がかかわるほか、学生も臨床実習の一環として参加していると説明した。
 このような手厚い人員配置の一方で、嘉山氏は「ここにお金は一銭もついてない」と指摘。そのため、多くのスタッフが関わることにより不採算・赤字となる。例えば、頭蓋内脳腫瘍摘出術の手術料は、8万2000点(82万円)。一方、機器使用料、人件費、消耗治療材料を合わせると、97万8013円。これは、大学病院の低い人件費で見積もった数字だが、それでも15万8013円(19.3%)の赤字になると試算した。
 通常の病院では、これほど難しい手術は行わないため、スタッフ数はより少なく済みながら同じ医療費になるとの実態があり、それが大学病院の問題として強調すべきことの一つだという。「低賃金長時間労働」の実態も大きな問題だとした。
 「大学病院の医師の人件費は医療費で賄われていない」
 2008年度の医療費の施設別割合を見ると、特定機能病院は全体の4.6%、1.57兆円となっている。しかし、嘉山氏は「実際はこの金額でやっているわけではない」と指摘する。大学病院の医師は文部教官であり、人件費は医療費ではなく、文部科学省による補助金等で賄われているためだ。例えば、東京大学病院の医療費の半分近くは補助金だったという。しかし、2004年度の国立大学の法人化により、この補助金が大幅に削減されたため、「大学がほとんど崩壊している」という。
 運営費交付金は、国立大学附属病院全体で2004年度は584億円だったが、2009年度は207億円にまで減少。法人化当初、大学病院の診療報酬収入を2%上げ、その代わりに交付金を減らす計画が立てられたが、実際には減額が増益をはるかに上回っており、国立大学法人は2009年度予算全体で197億円の赤字。私立医科大学についても、2008年度決算で80億円の赤字となっている。
 嘉山氏は「大学病院は、国立も私立ももう死んでいる。赤字部分は、大学本体からも補填している。私も病院長として様々な改革を行ったが、もうその限界を超えた。患者数もついに減った。ここまで大学は追い込まれている」と危機を訴える。また、同時に大学病院の建物について、スタッフが働いて得た医療費で借金を返しているとの実態にも触れ、「全部で1兆円の借金がある。財務省は、『大学病院は教育だ』と言うのならば、これを払うべきだ」と主張した。
 「約3000億円あれば、大学病院の窮状をなんとかできる」
嘉山氏資料より
 大学病院の財政状況のデータから、嘉山氏は「2010年度、8割の国立大学病院が赤字になる。現在大学は法人化されているので、不渡り手形を出すことになる。このままでは大学病院は倒産する。このような状況にあるのは、我々が大学で不採算部門をやってきた結果であり、良い悪いではなく、それが実態」と警鐘を鳴らす。
 この対応策として、嘉山氏は「大学病院が健全に医療費で自立するために、特定機能病院の入院料を0.5倍増、DPC係数を1.9にして、2996億円(医療費総額の0.88%に相当)増やせば、大学病院は何とかやっていける」と試算。「このような対策を講じずに“最後の砦”である大学病院が崩壊すると、医療難民が発生する。今日お話ししたこともデータ、エビデンスに基づいたもの。ここできちんと議論しなければならない」と主張した。
 最後に、嘉山氏は「今でも医療機関で医療費以外の税金を使っている部分はある。大学病院には文部科学省が、自治体病院には市町村がお金を投入してやっている。しかし、医療機関の健全な経営のためには、医療費で自立できるようにすることが重要だ」と結んだ。