2025年1月28日火曜日

正義の暴走

普段は誰かのために自己犠牲をいとわず真面目に働く、という人が、いったん不公平な仕打ちを受けると、一気に義憤に駆られて行動してしまうのです。 自らの損失を顧みず、どんな手段を使ってでも、相手に目にもの見せてくれようと燃え立ってしまうというわけです。  そして実は、日本人の脳にあるセロトニントランスポーターの量は、世界でもいちばん少ない部類に入ります(~略~)。 ようするに、世界でも、最も実直で真面目で自己犠牲をいとわない人々ではありますが、いったん怒らせると何をするかわからなくなるということです。  この性質が、第二次世界大戦で恐れられた「カミカゼ」を支えた心理の裏にはあったと考えられ、その遺伝子は脈々と私たちの中に受け継がれていると言えます。

空気を読む脳
中野 信子 (著)
講談社 (2020/2/20)
P20

空気を読む脳 (講談社+α新書)

空気を読む脳 (講談社+α新書)

  • 作者: 中野信子
  • 出版社/メーカー: 講談社
  • 発売日: 2020/02/20
  • メディア: Kindle版

北海道  旭山動物園

日本の意志決定

実際、江戸時代の大名家における政治というのは家老や用人がおこなっていた。殿様が政治に直接たずさわるのは、近世のごく初期にかぎられていた。家老たちが、
―御用部屋

 という部屋におり、これが意志決定機関になっていた。明治以前、日本人が「政府」と言った場合、この家老たちが会議している御用部屋のことだけを指す場合が多かった。
 江戸時代には、この家老会議がすべてを決定し、
「下々、評議あい済みてのち、様子委細を主人に告ぐ」(家訓)
 殿様には「こういう決定が下りました」と事後に報告がなされるものであった。
 この部屋の会議は、密室といってよく、家老と用人・諸奉行が、頭を突き合わせて密談をした。
人事の話になると、門閥の家老たちだけになって、冬などは火鉢を置き、声を出さぬよう、火鉢の灰のうえに名前を書いて、また、ぱぱっと消すというようなことをして、密室で人事をきめた。
 ときどき、時代劇に、藩士が一堂に会して、会議している場面が出てくるが、江戸時代の藩にああいうものはない。これから藩が取りつぶされる、というような異常事態でもないかぎり、なかった。
日本人が、大会議場で「衆議」を尽くし、話し合う習慣は、中世の寺院や、惣村にはみられたが、近世武士の世界にはない。そのかわりにあるのが、
―稟議書
 である。笠谷和比古氏などが研究されているが、担当者から起案が上がり、判子が増えていき、取締役会で決定される姿は、江戸時代の藩のなかで生まれた。

殿様の通信簿
磯田 道史 (著)
朝日新聞社 (2006/06)
P208

殿様の通信簿 (新潮文庫)

殿様の通信簿 (新潮文庫)

  • 作者: 道史, 磯田
  • 出版社/メーカー: 新潮社
  • 発売日: 2008/09/30
  • メディア: 文庫

 

日本のメディア

 事故を起こした原発はこれまで数え切れないほどの事故を起こしていた、とすっぱ抜いたのは米経済誌のウォール・ストリート・ジャーナルだった。

~中略~
自分の国で起きていることを知るために外国の新聞の電子版を毎晩チェックしなければならないというのも情けない。
~中略~

 公開されている公文書をこのように調べた日本のメディアがあっただろうか。同誌(住人注;ウォール・ストリート・ジャーナル)はまた別の日に、日本では電気事業者と監督官庁が癒着していると指摘し、天下りの人数まで報じていた。

メディア批評 第41回
  神保太郎

世界 2011年 05月号
岩波書店; 月刊版 (2011/4/8)
P204

 

世界 2011年 05月号 [雑誌]

世界 2011年 05月号 [雑誌]

  • 作者:
  • 出版社/メーカー: 岩波書店
  • 発売日: 2011/04/08
  • メディア: 雑誌


P3
2011年3月11日、東日本大震災と大津波が東北地方に壊滅的な被害をもたらした。そして、福島第一原発で続けざまに爆発事故が起きた。この国家存亡に関わる一大事に際して、新聞は国民のために何を報じたか、本書を手に取った読者が一番ご存じのことだが、3・11前と変わらず、当局の記者発表やプレスリリースを横流しする報道に終始した。
 結果的に日本の大手メディアは、当局の隠蔽工作に加担することになってしまった。

P62
 日本のメディアの報道は実に不思議だ。電力会社が活断層の存在について触れるまでは、メディアは島根原発の安全性を疑う記事をちっとも書こうとしなかった。
そもそも知らなかったのか、ニュースにならないと判断したかはわからない。それが、電力会社が活断層の存在を認めた瞬間、新聞に記事が出る。裁判で原発の危険性が言及された段階で、ようやく記事を書く。
自らが疑問を抱き、問題を掘り起こすことはなく、何かしらの「お墨付き」が出たところで報じる。これでは「原発ジャーナリズム」と言われても仕方がないと思う。

P78
「日本のメディアはまるで官僚制度の番犬のようだ」という私の意見は、あちこちのメディアで紹介された。ニューヨークタイムズの記事が、何度も日本のメディアに引用されたのだ。
 日本の若い記者は、私と同じような違和感を抱いていたようだ。
~中略~
 心のなかでは「東京地検特捜部と記者クラブのやり方はおかしい」と思っていながら、自社の媒体では自由な意見を言えない。だから私にインタビューしたり、ニューヨーク・タイムズを引用する形で、自分たちが本当に言いたい意見を代弁させていたのだろう。

P168
 メディア業界内でも、非正規雇用者を低賃金で働かせようとするいびつな構造がある。自分たちの足元で起きていることに目をつむってはならない。身近なことに敏感にならなければ、社会全体に蔓延する深刻な問題にまで目が届くはずがない。

P220
 福島第一原発事故の教訓が活かされないまま、再稼働が決定された福井県の大飯原発がいい例だ。 抜本的な対策が取られていないのに、「電力の安定供給」という錦の御旗のもと、野田総理は再稼働を推し進めた。
もし再び大地震や津波に襲われたとき、福島と同じような事故が起きないと言えるのか。なぜ日本の大手メディアはもっと怒りの声を上げないのだろう。
報道を見ていると、批判はしていてもどこか他人事だ。メディアが権力を批判し、社会に議論を起こさなければ、健全な民主主義は絶対に生まれない。

「本当のこと」を伝えない日本の新聞
マーティン・ファクラー (著)
双葉社 (2012/7/4)

「本当のこと」を伝えない日本の新聞 (双葉新書)

「本当のこと」を伝えない日本の新聞 (双葉新書)

  • 作者: マーティン・ファクラー
  • 出版社/メーカー: 双葉社
  • 発売日: 2012/07/04
  • メディア: 新書

熊本県 天草

地縁コミュニティ

 他方、津波で流されなかったものもある。今回、私にとってもっとも印象的だったのは、被災地における地縁コミュニティの強さだった。
~中略~

 家族・地域・企業すべてがそうであるように、コミュニティには構成する諸個人の生活を支えあう側面と同時に、異質な諸個人、また諸個人の異質性を排除する側面がある。
コミュニティ内部の信頼の高さは、コミュニティ外に対する信頼感の低さと比例する。
~中略~

「無縁社会」と言われながらも日本社会の地方全般に見られるこの対照的なあり方が、発災以後のこれまでのプロセスを決定付けている。

復旧と復興 ──「生活」の連続性
  湯浅 誠 (内閣官房震災ボランティア連携室長)

世界 2011年 06月号

岩波書店; 月刊版 (2011/5/7)
P125

世界 2011年 06月号 [雑誌]

世界 2011年 06月号 [雑誌]

  • 出版社/メーカー: 岩波書店
  • 発売日: 2011/05/07
  • メディア: 雑誌


 現在も、日本人は自分の生活する地域、あるいは生まれた地域に対する特別な意識を、それぞれ持ち続けていますが、その基盤が作られた時期は当面、戦国大名が出現した十五、六世紀に求められるでしょう。NHKの大河ドラマの多くは、そうした地域意識に支えられることを期待して作られているとも言えます。
私の郷里は山梨県ですが、武田信玄がドラマになった時、山梨県の道という道に「風林火山」の旗が立てられたのには驚きました。
毛利元就の時には、中国地方が大騒ぎしていましたし、大河ドラマの誘致合戦が行われているなどという話も耳にします。
 私が申し上げたいのは、我々の中にそのような地域意識があり、それにはそれなりの歴史があることを、日本人は深層まで掘り下げて認識できていないのではないかということです。

歴史を考えるヒント
網野 善彦(著)
新潮社 (2001/01)
P51

 

歴史を考えるヒント (新潮文庫)

歴史を考えるヒント (新潮文庫)

  • 作者: 網野 善彦
  • 出版社/メーカー: 新潮社
  • 発売日: 2012/08/27
  • メディア: 文庫


P208
 閉鎖系社会が長期に存続するために重要な条件は、社会の構成員の多くが満足して生活することです。幕末に日本を訪れた欧米人は、「民衆が生活にすっかり満足しているという事実」に驚嘆しました。
渡辺京二氏は名著「逝きし世の面影」で、江戸時代後半から明治初期に日本を訪れた欧米人による膨大な報告・見聞記・日記・考察を分析しています。そこで見出された事実は、彼らが日本では専制政治が行われ個人の自由が一切存在しないと教えられていたにもかかわらず、日本人大衆は幸福であり礼節と親切がゆきわたっていることでした。
 この一見矛盾する現象は、江戸時代にはわれわれの理解する「近代市民」としての自由(たとえば国政において投票する権利と自由)がなかったにもかかわらず、「村や共同体の一員であることによって、あるいは身分ないし職業による社会的共同体に所属することによって得られる自由」があったからだと説明されています。
つまり幕藩権力は年貢の徴収や、一揆の禁止や、キリシタンの禁圧といった国政レベルの領域では強権を振るったが、民衆の日常生活の領域にはできるだけ立ち入りを避けていました。
 武士は城下に集められていたため、農村部では実際には百姓による自治が営まれていました(註⑪)。幕末、長崎海軍伝習所の教育体長カッテンディーケは、「日本の下層階級は(中略)むしろ世界の何(いず)れの国のものよりも大きな個人的自由を共有している。そして彼等の権利は驚くばかり尊重せられている」と報告しています(註⑫)。

P210
したがって共同体の構成要因は江戸時代、士農工商という役割分担の違いはあるものの、その一員としては平等だという意識がありました。

P212
 J・ダイアモンドがまとめた閉鎖系社会の崩壊要因から、逆に存続条件を抽出してみると、①平和である、②環境とくに森林が保たれている、③極端な経済格差がない、④世代を超えた環境政策を実施する、⑤人口過剰を防ぐ、⑥異常気象が続かない、となります。最後の異常気象を別にして、江戸時代の日本は、他の全ての条件を満たす生存状況を作り出していました。
幕末に訪日した欧米人が驚いたように、庶民は貧しくとも幸せで礼節に富んでいたのです。  幸せだった理由の一つは、彼らには祖先、子々孫々、自然、共同体などが構成する世界とつながっているという(深層心理的)感覚があったことです。

P214
「つながりの自己」も「つながりの倫理意識」も、江戸時代という完全な閉鎖社会での生存を通じて、完成させられました。もし江戸時代の日本が、完全な閉鎖系におけるすぐれた「適応」を実証し代表するものならば、「封建的」と戦後なんの価値もないかのごとく棄てられてしまったわれわれの祖先たちの思想や生存戦略に込められた知恵を、学びなおす必要がありましょう。

「痴呆老人」は何を見ているか
大井 玄 (著)
新潮社 (2008/01)

 

「痴呆老人」は何を見ているか (新潮新書)

「痴呆老人」は何を見ているか (新潮新書)

  • 作者: 大井 玄
  • 出版社/メーカー: 新潮社
  • 発売日: 2008/01/01
  • メディア: 新書


熊本県 天草

2025年1月27日月曜日

心房細動

P3
心房細動は不整脈の一種です。非常に患者数が多く、「21世紀の心臓の流行り病」といわれています。特に高齢者に多く、超高齢化社会を迎えたわが国では社会問題となりつつあります。
 心房細動では脳梗塞を合併することが最大の問題です。なぜなら、心房細動に合併する脳梗塞は特に重症となり、12%の人が数日で亡くなり、40%の人が寝たきりあるいは要介護となるからです。
例えば、故小渕恵三元首相やダイエー創業者の故中内功氏は心房細動に合併した脳梗塞が原因で亡くなられています。

P48
 心房細動の3大症状は、「動悸」「めまい」「息切れ」です。

P51
 ところでページ数をとって3つの症状について説明しましたが、なんと心房細動患者の40~50%の人、すなわち2人に1人近くは何の症状も感じないのです。これを「無症状」といいます。

P66
心房細動の2分の1近くを占める無症状の人では、もうお手上げです。実際に診断がついている患者さんが90万人いるのにたいしいて、推定患者数が170万人、すなわち約80万人の心房細動の診断がついていない隠れ心房細動の患者さんがいることになります。この隠れ心房細動の患者さんにこそ、高い頻度で脳梗塞が起きるのです。
 皮肉なことに、脳梗塞が起って初めて、隠れ心房細動であったことが分かることもあります。長嶋茂雄・元巨人軍監督はこのタイプだったといわれています。脳梗塞を起こして病院に運ばれて初めて心房細動であったことが分かったそうです。

心房細動のすべて ――脳梗塞、認知症、心不全を招かないための12章
古川 哲史 (著)
新潮社 (2018/12/14)

心房細動のすべて ――脳梗塞、認知症、心不全を招かないための12章 (新潮新書)

心房細動のすべて ――脳梗塞、認知症、心不全を招かないための12章 (新潮新書)

  • 作者: 古川 哲史
  • 出版社/メーカー: 新潮社
  • 発売日: 2018/12/14
  • メディア: 新書

2025年1月25日土曜日

主婦湿疹

 いわゆる主婦湿疹とは、毎日の炊事や洗濯で使う洗剤で手の皮膚のバリアが失われたために起きる湿疹で、この場合の発疹は、おもに洗剤にもっともよく触れる、利き手の親指や人差し指の先にできる。


なぜ皮膚はかゆくなるのか
菊池 新(著)
PHP研究所 (2014/10/16)
P181

なぜ皮膚はかゆくなるのか (PHP新書)

なぜ皮膚はかゆくなるのか (PHP新書)

  • 作者: 菊池 新
  • 出版社/メーカー: PHP研究所
  • 発売日: 2014/10/16
  • メディア: 新書

 

2025年1月24日金曜日

口臭は自分では気づかない

P120
どんなに優しく接していても、満面の笑顔でいい話をしていても、口が臭いというだけで孫は逃げていってしまうものです。

 とはいっても、家族も一応は年上にあたる高齢の口臭をなかなか指摘しにくい。
すると高齢者は、「何となく避けられている気がする」「嫌われている」と思い込んで疎外感を感じてしまうのです。
 なぜ高齢者は口臭がするのでしょうか。
「おじいちゃんお口臭い」という入れ歯用製剤のCMが有名になったせいもあり、高齢者のニオイは入れ歯が原因と思われがちです。
でも、入れ歯だけではないのです。口臭は85%が口の問題で起こり、15%が胃などで起きます。1)年齢を重ねることで口内の殺菌と洗浄の効果がある唾液が減るために、2)口臭が発生しやすくなります。
 口臭というのはたいていがずっと同じ状態でつきまとっているため、自分では気づきにくいのです。 ~中略~
 ですから「自分は大丈夫」と思いがちですが、60歳を超えると43%に口臭があることがわかっています。

P122
 口臭の原因の85%が口の問題で、高齢になると唾液が減って口臭を引き起こします。肌がカサカサと乾燥するように、口の中もカサカサしてくるのです。
 唾液は消化を助けるだけではなく、口の中の汚れを流してくれます。乾燥してしまって唾液が少なくなれば、口の中の汚れが流れなくなります。汚れがたまってしまい、ニオイが発生するのです。
 また、舌に舌苔(ぜつたい)というものがあります。ベロをベーっと出すと表面が白く(もしくは黄色く)なっている所が舌苔です。
定期的にきれいになっていくものなのですが、唾液が少なくなると舌苔も汚れてしまい、ニオイを発生させます。口の中の汚れが落ちなければ歯周病菌・虫歯菌も抑えることができず、さらにニオイが強くなります。

 

 特に問題になるのは歯周病です。歯周病は40歳を超えると8割の人がかかっています。3)
軽いうちは歯茎が軽く炎症を起こす程度なので、あまり症状がありません。しかし進行すると、歯磨きをして歯茎から血が出ます。さらには、口の中がかゆくなってきます。高齢になると唾液が少なくなり、汚れも落とせず歯周病も落とせず、歯周病が悪化するのです。

老人の取扱説明書
平松 類 (著)
SBクリエイティブ (2017/9/6)

老人の取扱説明書 (SB新書)

老人の取扱説明書 (SB新書)

  • 作者: 平松 類
  • 出版社/メーカー: SBクリエイティブ
  • 発売日: 2017/09/05
  • メディア: Kindle版

リハビリテーションからみえる日本の医療水準

P70
 ここでリハビリについて考えておこう。リハビリには三つのカテゴリーがある。
歩く練習を中心にした運動の訓練Physical therapy (PT、理学療法)と、日常の仕事を中心とした訓練Occupational therapy(OT、作業療法)と、言語療法Speech therapy(ST)である。
この三つがなければリハビリとはいえない。アメリカではその三つがうまく機能するように、リハビリテーション医学が独立した臨床科学として成立している。

 しかし、日本では整形外科が中心となったリハビリテーション医学が、最近まで主流となっていたため、言語療法などは重視されなかった。ごく最近まで、整形外科的な病気、骨折後のケアーとかリウマチの手足の機能回復などマッサージに毛の生えたようなリハビリが主であった。
 東京大学でも、リハビリテーション科が独立したのはごく最近である。それもPT,OTだけでSTはまだない。
 その他の国立大学でも、事情は似たようなものである。むしろ一部の私立大学で、先見性のあるリハビリテーション医学が実現している。理由は、この医学が、地味な努力の積み重ねで成り立つので、古い体制を打破する力になりにくかったからであろう。
外科や一部の内科のように派手な科目ではないし、病院の収入源にもなりにくい。
~中略~

 一般市中病院では、一部優れた設備と高邁な理想で高度の治療が行われてはいるが、それは例外的なもので、一般の医療機関で水準の高いリハビリテーション治療を受けることは難しい。リハビリは、まだ正当な世間の理解を受けるにいたっていない。
~中略~

 行政も、長い期間、人手だけかかってコストに見合わない治療を支援するという考えはまったくない。
都立の大きな病院、たとえば駒込病院などは専門の医師もいないし、OT、PTの療法士の数も明らかに少ないし、レベルも低い。
それは病院当局がリハビリに力を入れていないし、当局に要求もしていないからである。

P74
 それにもかかわらず、その(住人注;言語聴覚士)処遇は今でも最もひどい。一対一の辛抱強い訓練、それに必要な時間数は健康保険で認められていない。保険の点数だって最近までは、ほかの理学療法に比べたらはるかに低く設定されていた。
人材不足になるのは当然のことだ。
こういう技術者をどう評価し育てていくかが今問われているが、行政に声が届くまでには時間がかかるだろう。

 

P123
 私には、麻痺が起こってからわかったことがあった。自分では気づいていなかったが、脳梗塞の発作のずっと前から、私には衰弱の兆候があったのだ。自分では健康だと信じていたが、本当はそうではなかった。
安易な生活に慣れ、単に習慣的に過ごしていたに過ぎなかったのではないか。何よりも生きているという実感があっただろうか。
 元気だというだけで、生命そのものは衰弱していた。毎日の予定に忙殺され、そんなことは忘れていただけだ。発作はその延長線上にあった。
~中略~
 体は回復しないが、生命は回復しているという思いが私にはある。
~中略~
リハビリとは人間の尊厳の回復という意味だそうだが、私は生命力の回復、生きる実感の回復だと思う。

寡黙なる巨人
多田 富雄 (著), 養老 孟司 (著)
集英社 (2010/7/16)

寡黙なる巨人 (集英社文庫)

寡黙なる巨人 (集英社文庫)

  • 作者: 多田富雄
  • 出版社/メーカー: 集英社
  • 発売日: 2014/10/03
  • メディア: Kindle版

 

悲しいけど人間はごまかす

P240
 不正が社会的感染をとおして人から人へと伝わるという考えは、不正を減らすにはいまとは違う手法が必要だということを示唆している。
わたしたちはささいな違反行為を、文字どおりささいで無害なものと考えがちだ。しかし、微罪は、それ自体とるに足りなくても、一人の個人や大勢の人、また集団のなかに積み重なるうちに、もっと大きな不正をしても大丈夫だというシグナルを発するようになる。この観点から言うと、個々の逸脱行為がおよぼす影響が、一つの不正行為という枠を超え得ることを認識する必要がある。
不正は人を介して伝わるため、ゆっくりと気づかれずに社会を浸食していく。「ウィルス」が人から人へと変異しながら感染するうちに、倫理性の低い新たな行動規範が生まれる。このプロセスは目立たず緩慢だが、最終的に破滅的な結果を招くことがある。
これが、どんなにささいなものであれ、ごまかしがもたらす真のコストなのだ。だからこそ、ほんの小さなものも含め、あらゆる違反行為を減らすとりくみを、ますます気を引き締めて行わなくてはならない。

P242
 正直な行為は、社会的な道徳心を育むうえでこのうえなく大切だ。また社会的感染を踏まえて、とくに優れた道徳的行為を、たとえ、センセーショナルなニュースにはならなくても、広く伝えていく必要がある。立派な行動の華々しい例やリアルな例に学べば、社会的に受け入れられる行動、受け入れられない行動についての認識を改め、やがて自分自身、よりよい行動をとれるようになるかもしれない。

P254
 ここまでの集団でのごまかしに関する実験から、二つの力が作用していることがわかった。人は利他的な傾向があるため、自分の不正によってチームメンバーが利益を得る状況では、ごまかしを増やすが、その一方でメンバーによって直接監視されることには、不正を減らし、場合によっては完全に排除する効果もある。

 

P261
 当然だが、わたしたちは他人の助けがなくては生きていけない。協働は生活に欠かせない要素だ。しかし、協働が諸刃の剣だということもはっきりしている。協働は一方で楽しみや忠誠心、モチベーションを高める。だがその一方で、ごまかしの可能性も高めるのだ。
つきつめれば―またとても悲しいことだが―同僚のことを一番気にかけている人たちが、一番たくさんごまかしをしてしまうのかもしれない。もちろん、集団で仕事をするのはやめ、協働を中止し、互いを思いやるべきではないなどとは言わない。だが協働と親近感の高まりに潜む代償は、肝に銘じる必要がある。
 もしわたしたちが協働することで不正直になってしまうのなら、何か対策はあるだろうか?すぐに思いつく答えが、監視を強化することだ。実際、企業不祥事が起きるたびに、政府の規制当局がおきまりのようにとる対応がこれだ。~後略

ずる―嘘とごまかしの行動経済学
ダン アリエリー (著), Dan Ariely (著), 櫻井 祐子 (翻訳)
早川書房 (2012/12/7)

ずる 嘘とごまかしの行動経済学

ずる 嘘とごまかしの行動経済学

  • 出版社/メーカー: 早川書房
  • 発売日: 2013/01/25
  • メディア: Kindle版

 

金属アレルギー

P129
さて、金属アレルギーというと、ピアスなどで皮膚と金属が直接触れている部分がかぶれて炎症を起こす症状を思い浮かべる人が多いと思うが、これは「局所性金属アレルギー」のことである。
 実は金属アレルギーにはもう一種類、「全身性金属アレルギー」というものがある。これは、食べ物や飲み物に含まれる金属、さらには歯科治療で埋め込まれた金歯や銀歯などや、骨折などの外科治療で埋め込まれたボルトの金属が溶け出して、体内を駆け巡って起こる症状である。
 手のひらや足の裏に小さな水泡ができたり、痒疹と呼ばれる虫刺されのようなたくさんの皮膚のしこりやじんましん様の紅斑などができたりして、アトピーなどと誤診されることも多い疾患である。
 もしあなたが慢性的な手足の湿疹や痒疹、じんましんなどで悩まされているならば、一度疑ってみたほうがいいかもしれない。かなり高い確率で金属アレルギーを起していると考えられるからだ。

P181
 口の中を見せてもらったら、予想どおり、金属製の詰め物がたくさん入っていた。
 彼女は、「でもこの歯は、十年も前に入れたんですよ?今までは特に何もなかったんです」と言った。
彼女のように金属アレルギーを誤解している人は多いのだが、口の中に金属を入れてからアレルギーが発症するのには、十年以上という症例も決してまれではない。
長い時間をかけて、少しずつ金属が溶け出し、体内に吸収されて徐々に金属アレルギーがおきていくのだ。
 私は、ひとしきり金属アレルギーの説明をし、こう言った。
「金属を取れば治りますよ。十年かけて溜まったものなので、少し時間がかかるかもしれませんが」
~中略~
金属アレルギーは、人によって症状が出現するまでにかかる時間は異なるが、基本的には原因を取り除けばどんどん良くなる。


なぜ皮膚はかゆくなるのか
菊池 新(著)
PHP研究所 (2014/10/16)

なぜ皮膚はかゆくなるのか (PHP新書)

なぜ皮膚はかゆくなるのか (PHP新書)

  • 作者: 菊池 新
  • 出版社/メーカー: PHP研究所
  • 発売日: 2014/10/16
  • メディア: 新書