2026年7月3日金曜日

劣等コンプレックス

P54
闘う、攻撃的な子どもたちにはいつも劣等コンプレックス(これについては第3章で取り上げます)とそれを克服したいという欲求を見出すことが出来るが、「あたかも、自分を実際よりも大きく見せるために、爪先で立ち、そして、この簡単な方法で、成功と優越性を得ようとしているかのようである」と(「個人心理学講義」六六頁)。

P64
アドラーは、まったく無力な状態から脱したいと願うという意味で(生物学的な意味においても、子どもは弱いので大人と比べて自分が劣っている、と考えるという意味)、優れていようとすること(striving for superiority.これを私は「優越性の追求」と訳しました。)は誰にでも見られる普遍的な欲求である、といっています。
 この優越性の追求と対になるのが劣等感で、この劣等感もアドラーは誰にでもあるといっています。優越性の追求も劣等感もこのように病気ではなく、健康で正常な努力と成長への刺激である、といわれています(「個人心理学講義」六八頁)。
 このようなアドラーの考えに問題がないわけではありません。なぜなら主観的に自分が劣っていると感じるという意味での劣等感があるから優れようとする、また劣等感が人間を動かすというのは原因論的といわなければならないからです。そこで、やがて優れていることを目標にするということが最初にあって、その結果として劣等感を持つというふうにアドラーは考えるようになりました。
 問題は、優越性の追求は普遍的な欲求である、とアドラーはいうのですが、優れていたいと願うことは必ずしも人間にとって本質的なことではなく、それ自体病的なことである、と考えることができるということです。
アドラーはこのような意味での優越性の追求、すなわち、ことさらに他の人よりも優れていなければならないと考える優越性の追求を優越コンプレックス、そしてこれの対となるのが劣等コンプレックスで、優越コンプレックスがこれを隠していることがある、と考えます。

P134
アドラーは、劣等コンプレックスという語を強い劣等感という意味で使っている場合もありますが、「Aであるから(あるいは、Aでないから)、Bできない」という論理を日常の コミュニケーションの中で多用するということが劣等コンプレックスの意味です。
~中略~
 劣等コンプレックスは、心の中で起こっている現象ではなくて、このようにむしろ対人関係の中でのコミュニケーションのパターンに他ならず、人生の課題を回避するための口実を持ち出すことです。
持ち出される口実は、まわりものが思わず、しかたがない、そういう理由があるのなら、と思うようなものであることが多いのです。
もちろん、そういうときに他の人のみならず、自分をも欺いているのであり、アドラーは、このような口実を、「人生の嘘」と呼んでいます(「個人心理学講義」六四頁)。 

アドラー心理学入門―よりよい人間関係のために
岸見 一郎 (著)
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