2008年10月6日月曜日

EBMと診療ガイドライン

http://www.hirano-med.or.jp/Academy/Report_5.htm
より



2.EBMと診療ガイドライン 
EBMの実践に必須な最善の医学的根拠の収集に当たって、教科書、レビューを中心とした二次的医学情報誌、CD-ROM、インターネット、などが利用されるが、日常の診療に際して多忙な医師が目の前の患者に対するEBMに必要な情報を迅速に取得することは容易ではない.したがって通常EBMに利用されることを目的とした診療ガイドラインが作製され利用されている.診療ガイドラインはEBMを重視する欧米諸国で数多く作製されており、それを積極的に参考にしているわが国の医師も少なくない.一方、わが国でも日本医師会や各学会が様々な疾患に対して診療ガイドラインを作製している.厚生労働省医政局研究開発振興課医療技術情報推進室は、平成11年度から、関連する各学会に依頼する形で各種疾患に対する診療ガイドラインの作製を開始している.その経過を示したのが表1であるが、ガイドライン作製の対象とする疾患の選択に当たって、1)患者数の多さ、2)疾患の重症度、3)社会的な関心、の3つの事項に焦点が当てられている.また、診療ガイドラインの作製に際して『根拠に基づく医療(Evidence-BasedMediCine)の手法を用いた医療技術の体系化に関する調査研究(福井次矢)』、『日本におけるEBMのためのデータベース構築及び提供利用に関する調査研究(丹波俊郎)』の報告書が厚生科学研究費によって作成され、ガイドラインの内容が各疾患によって著しく異なることがないような配慮がなされている.

表1. 厚生労働科学研究費による診療ガイドラインの研究課題一覧
平成11年度 作成開始分 (計5課題)o高血圧 o糖尿病 o喘 息 o急性心筋梗塞 o前立腺肥大 症及び女性尿失禁→ 完成
平成12年度 作成開始分 (計7課題) o白内障 o胃潰瘍 oクモ膜下出血 o腰痛 oアレルギー性鼻炎 o脳梗塞 o関節リウマチ→ 完成

平成13年度 作成開始分 (計4課題) o肺がん o乳がん oアルツハイマー病 →完成 o胃がん →15年度 完成予定
平成14年度 作成開始分 (計4課題) o脳出血 (15年脳卒中) o椎間板ヘルニア o大腿骨頚部骨折 o肝ガン →15年度 完成予定
平成15年度 作成開始分 (計3課題) o急性胆道炎 o尿路結石症 o前立腺がん →16年度 完成予定

 医学の進歩が著しい現在では、診療ガイドラインに対しては常に更新することが要求される.上記の厚生労働省の医療技術情報推進室では定期的に既成の診療ガイドラインを更新することを目標としているが、疾患によっては短期間に更新することが必要となるであろう.各診療ガイドラインの評価に際しては当然ガイドラインを使用することによって各医師の診療行為が改善し、その結果として患者の状態が良くなったかということが最も重視される.したがって、診療ガイドラインを実際に利用した現場の医師からのフィードバックが最も重要である.わが国でも各医師から得られた現場からの情報を基にし、診療ガイドラインを更新することが計画され、そのための機構が(財)日本医療機能評価機構の中に「医療情報サービスセンター」を付設する形で作られている.各医師が診療ガイドラインを基にしつつ、最終的には自分の能力を十分に発揮した診療を行うことが、今回の日本医師会学術推進会議のテーマである「医療の質の向上」に直接つながることは言うまでもない.