古代から、身体をあたためることにより、あるいは、痛む局所だけをあたためることにより、痛みのやわらぐことを人類は知っていた。温水、サウナなどは世界中の人たちによって治療用として用いられてきている。あたためた粘土、石、粉、ある種の漢方薬、「からし」などを、痛む部位にすり込み、痛みをとめてきた。
一方、痛い部位を冷やすことによって、痛みのやわららぐことも人類は知っていた。痛い部位とは離れたところを冷やすことによる鎮痛法も、古代から行なわれていた。
例えば、歯が痛いとき、痛む歯を冷やしてもよいが、歯とは離れている手を冷やしてもこの歯痛はやわらぐ。
冷やすことは、冷やされた部位の感覚を麻痺させて痛み自体を感じさせなくする作用もあるが、冷えている時間というのはきわめて短時間内に限られているので、冷えている温度というよりも、冷刺激が加えられたことによって生ずる新しい痛みが関係していると考えられる。
冷すことによって、その周辺が、うずくような、あるいは焼けるような新しい痛みを作ることができる。このあたらしい痛みによる作用の方が鎮痛に大きく関与していると考えられる。
したがって、ただ冷やせばよいというのではなく、この冷たさがある程度痛みを伴うように冷やすことが必要(コツ)である。
痛みとはなにか―人間性とのかかわりを探る
柳田 尚 (著)
講談社 (1988/09)
P176

痛みとはなにか: 人間性とのかかわりを探る (ブルーバックス 748)
- 作者: 柳田 尚
- 出版社/メーカー: 講談社
- 発売日: 1988/09/01
- メディア: 新書
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