2025年9月2日火曜日

センチネルリンパ節

リンパ管は第2章でふれたように、体液を静脈系へと戻してやる働きがありますから、一定の方向に流れていて、そのところどころに、関所のようにリンパ節があります。腫瘍の細胞がリンパ管に入り込んだ場合も、同じようにリンパの流れに沿って進んでいきます。もちろん例外もあるのですが、基本的には、リンパ節転移というのは、腫瘍に近いところから順々に進んでいく、ということになります。
 乳がんの手術では、この性質を利用した「センチネルリンパ節生検」がおこなわれます。
専門用語ではリンパ節郭清といいますが、昔は、リンパ節転移の可能性があるので、ほぼすべての患者さんで腋窩リンパ節を取り除いていました。しかし、そうなると、第2章で書いたように、後遺症としてリンパ浮腫の生じることがあります。がん細胞があれば取り除いた方がいいのですが、なければ、当然その必要はありません。
 センチネルというのは斥候、見張りのことなので、センチネルリンパ節を無理に日本語でいうと「見張りリンパ節」ということになりますが、なんか意味がわからなにのでセンチネルリンパ節とよばれるのが一般的です。なんのことかというと、乳がんの細胞が最初にたどり着くであろうリンパ節のことです。
 手術の前に、リンパ管に入っていきやすい色素か微量の放射性同位元素を腫瘍のまわりに注射します。すると、リンパの流れに乗って移動していきます。その色素に染まる、あるいは、放射線が検出されるリンパ節がセンチネルリンパ節です。
腫瘍の細胞も、リンパ系に入れば同じように流れると考えられますので、リンパ行性転移があるならば、そのリンパ節にがん細胞が認められるはずです。なので、手術中にそのリンパ節をとって、顕微鏡でがん細胞の有無を調べてやります。センチネルリンパ節にがん細胞が見つからなければ、リンパ行性転移はないと判断できるので、腋窩リンパ節の郭清をする必要がないということになるのです。

こわいもの知らずの病理学講義
仲野徹 (著)
晶文社 (2017/9/19)
P205

こわいもの知らずの病理学講義

こわいもの知らずの病理学講義

  • 作者: 仲野徹
  • 出版社/メーカー: 晶文社
  • 発売日: 2017/09/19
  • メディア: 単行本

九重連山 大分県

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