2025年12月1日月曜日

全体性と完全性

河合隼雄はユングをひいて、全体性と完全性の対比を試みる。
「完全性は欠点を、悪を排除することによって達成される。これに対して全体性は、むしろ悪をさえ受け容れることによって達成される。 父権的意識は、ともすると、完全性を目指そうとする。それは鋭い切断のはたらきによって、悪しきものを切り棄ててゆく。
ところが、女性の意識は何ものをも取り入れて、全体性を目指そうとする。(中略)それは内部矛盾を許容しなければならない。」

 ここで河合隼雄は、炭焼長者と日本神話を比較し、民話を優位におく。日本神話における蛭子は、炭焼長者の先夫と重なる。 日本神話は蛭子を排除するが、昔話は何かとこの落伍者を受け入れようとする。
「全体性は、明確に把握しようとすれば、全体性を損ない、全体を把握しようとすると明確さを失うジレンマをもつ。全体性の神は、人間の意識のみによって明確に把握することは不可能である。」
 この提言は、日本の伝統の中から見出された規範として、示唆に富む。同時に、これは科学のらちをはみだす主張であることを感じる。
この提言は、日本の伝統から河合隼雄が自分の直感をとおしてのべた独創的結論である。
解説 鶴見俊輔

昔話と日本人の心
河合 隼雄 (著)
岩波書店 (2002/1/16)
P407

昔話と日本人の心 (岩波現代文庫 学術 71)

昔話と日本人の心 (岩波現代文庫 学術 71)

  • 出版社/メーカー: 岩波書店
  • 発売日: 2002/01/16
  • メディア: 文庫

 

岐阜県 白川郷

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