2025年1月31日金曜日

イッチ・スクラッチサイクル

 かゆみを語るうえで、もっとも重要な問題がある。それが、「無性にかゆくてたまらない状態」を引き起こす最大の元凶である「イッチ・スクラッチサイクル(itch-scratch-cycle)」だ。
 「イッチ(itch)」とは「かゆみ」、「スクラッチ(scratch)」は「掻く」という意味である。
そしてイッチ・スクラッチサイクルとは、「かゆい」→「掻く」→「掻いた部分が傷つく」→「傷ついた部分に炎症が起きる」→症状が悪化する」→「もっとかゆくなる」→「さらに掻き壊す」→「掻いた部分がもっと傷つく」→・・・・という悪循環のことを指す。


なぜ皮膚はかゆくなるのか
菊池 新(著)
PHP研究所 (2014/10/16)
P46

なぜ皮膚はかゆくなるのか PHP新書

なぜ皮膚はかゆくなるのか PHP新書

  • 作者: 菊池 新
  • 出版社/メーカー: PHP研究所
  • 発売日: 2014/11/21
  • メディア: Kindle版

 

熊本県 一心行の大桜

心因性疼痛

 私たちのからだに、何か異常な状態が発生したり、あるいは発生する可能性が生じた場合、その状態は、すべて痛みを訴える原因となり得る。
 この異常な状態というのは、からだの中の、いかなる組織や器官に発生しようとも、痛みとして発現する可能性がある。このような痛みは、身体に異常が発生したための痛みという意味で「身体性疼痛」ともいわれている。 具体的には、外傷、炎症、血流障害、退行変性、腫瘍、代謝障害、などさまざまな原因によって痛みの発言することは、よく知られている。
したがって、このような状況下では、なんらかの痛みを訴えることは多い。しかし、このような異常状態がからだの中に発生したからといって、必ずしもすべての人が痛みを訴えるとは限らない。
 訴える痛みの原因が、その人のからだの異常としては存在しなくとも、痛みは訴えられる。例えば、「体育の時間になると、足が痛くなる」など、体育に対する恐怖感、劣等感などが痛みの原因となっているものである。
この場合、足が痛いからといって足の治療をしたり、鎮痛薬を与えることは全く意味がないことであり、体育とのかかわり方にメスを入れない限り、すなわち、痛みの心因を除去しない限り痛みは治癒しない。このような痛みを「心因性疼痛」とよんでいる。

痛みとはなにか―人間性とのかかわりを探る
柳田 尚 (著)
講談社 (1988/09)
P38

痛みとはなにか―人間性とのかかわりを探る (ブルーバックス)

痛みとはなにか―人間性とのかかわりを探る (ブルーバックス)

  • 作者: 柳田 尚
  • 出版社/メーカー: 講談社
  • 発売日: 2022/05/10
  • メディア: 新書

天神山の大しだれ桜 福岡県築上町

2025年1月30日木曜日

人生いろいろ 痛みもいろいろ

 例えば、むし歯による痛みがあるとする。この痛みは純粋な意味で、からだに起因した痛みであるから、むし歯を治療することにより、完全になおすことのできる痛みである。むし歯が痛いということは、気が重く、決して晴ればれした「心」にはなれないものである。
 しかし、むし歯が完全になおって痛みも完全に消えれば晴ればれとした「心」になるのはきわめて自然の経過であり、ほとんどの人たちは、このような経過をたどるはずである。
 しかし、むし歯になる以前から、心に起因する痛みを、からだのどこかに訴えていたり、あるいは、精神疾患に起因する痛み、さらには人間性に起因する痛みをたえず訴えつづけているような人であれば、この人は、むし歯の痛みと心の痛み、精神疾患の痛み、それに、この人の人間性による痛みとが混然一体となり、それぞれの痛みが、それぞれの痛みを増強させる結果となる。
 この人にすれば、「歯が痛い」と訴えているつもりではあるが、歯以外の痛みも同時に、次々と訴えるために、結果として、焦点がしぼり切れず、とりとめのない訴えとなってしまう。
例えば、歯の痛みを治療している時は手の痛みを訴え、手の痛みを治療しているときには腰の痛みを訴え、腰の痛みを治療しているときには頭の痛みを訴える。
 さらに厄介なことには、むし歯に対して行った適切な治療それ自体を新しい痛みとして訴えることである。このようなことは、むし歯だけにかぎらず、手でも足でも、からだの中いかなる部位であっても、そこに加えた治療上の処置が引き金となって、その部位の痛みを訴えることもある。
 むし歯の治療や口腔内手術の後に、二次的に出現する痛みも時には存在する。したがって、訴える人の痛みは、治療上の処置によって二次的に発生したからだの異常に起因する痛みであるのか、本来この人が有する「心」「精神疾患」、あるいは「人間性」に起因する痛みであるのかを見分けることは非常に重要なことである。
 この意味でも、このような人の訴える痛みに対しては、もつれにもつれた糸を、一本一本ときほぐすような対応が必要になってくる。
 このように、本人の訴える痛みのなかで、四つの原因、すなわち、「からだ」「心」「精神疾患」「人間性」が、どの程度の割合で混在し、それぞれがどの程度影響し合っているかによって、訴える痛みの内容は異なってくる。そして当然のことながら治療法も異なる。

痛みとはなにか―人間性とのかかわりを探る
柳田 尚 (著)
講談社 (1988/09)
P42

痛みとはなにか―人間性とのかかわりを探る (ブルーバックス)

痛みとはなにか―人間性とのかかわりを探る (ブルーバックス)

  • 作者: 柳田 尚
  • 出版社/メーカー: 講談社
  • 発売日: 2023/03/14
  • メディア: 新書

宮崎 都井岬

予想どおりに不合理

わたしたちはふつうの経済理論が想定するより、はるかに合理性を欠いている。
そのうえ、わたしたちの不合理な行動はでたらめでも無分別でもない。
規則性があって、何度も繰り返してしまうため、予想もできる。

予想どおりに不合理[増補版]
ダン アリエリー (著), Dan Ariely (著), 熊谷 淳子 (翻訳)
早川書房; 増補版版 (2010/10/22)
P20

予想どおりに不合理 行動経済学が明かす「あなたがそれを選ぶわけ」 増補版

予想どおりに不合理 行動経済学が明かす「あなたがそれを選ぶわけ」 増補版

  • 出版社/メーカー: 早川書房
  • 発売日: 2010/10/22
  • メディア: ペーパーバック


P79
デカルトは、コギト・エルゴ・スム―”我思う、ゆえに我あり”と言った。
しかし、人間というものが、最初に何も知らずにたまたまとった行動の総体でしかないとしたらどうだろう。
~中略~

何をするにつけても、自分が繰り返ししている行動に疑問を持つよう訓練すべきだ。
携帯電話なら、最新型よりひとつ前の機種にして出費を抑え、浮いたお金をほかのことにまわしてはどうだろう。コーヒーなら、きょうはどのブレンドにしようか考えるかわりに、そもそも高価なコーヒーを毎日飲む習慣をつづけていいのかと自問すべきだ。
 ~中略~

 これだけの効力をもつのだから、最初の決断はきわめて重要であり、十分な注意を払うべきだ。
 ソクラテスは、吟味されない人生は生きる価値がないと言った。わたしたちもそろそろ、自分の人生にける刷りこみやアンカーをよくよく検討していいころだ。
その刷りこみやアンカーがかつてはまったく合理的だったとしても、いまも合理的とはかぎらない。ひとたび昔の選択を考えなおせば、新しい決断に、そして新しい一日の新しいチャンスに気持ちを向けられるようになる。

  P92
 結婚や高額商談など重要な選択をした後に、人はもっともらしい”言い訳”を探して「後悔していない」と思い込みたがる傾向が強い。熟達な営業マンはこうした客の心理をうまく利用しているという。

P95
「反対意見のほうが自分の意見よりもいいかも」すぐには心が変わらなくて、むしろ自己弁護に入って「私の意見の方がいい」と固辞する傾向が生まれることが、心理学的には古くから知られています。
~中略~
議論好きな人は、本心から議論が好きというより、自分の意見がうまく変えられなくて、無駄をしてしまっていることが多いように感じます。これについてはフランスの思想家ジョセフ・ジュベールの名言に譲りましょう。
「自分の意見を引っ込めないものは、真理より自分自身を愛している」。
 これも根本を辿ると、「言い訳」は「自分の維持」、「恒常性の維持」への本能ということになってくるのだと思います。

P148
 つまり、人間の行動は根拠があるようでいて、基本的には深い根拠はないのです。
 恋愛も同じです。なぜ、その人を好きになったか、根拠があるでしょうか。
~中略~
そうやって突き詰めていくと、理由なんてないのです。人は選んだ後に「言い訳」を言っているだけなのです。
「なぜ僕のことを好きになったの?」と聞かれたら、正しい答えは一つ。そう、「脳がゆらいだから」です。

脳はなにかと言い訳する―人は幸せになるようにできていた!?
池谷 裕二 (著)
祥伝社 (2006/09)
 

 

脳はなにかと言い訳する―人は幸せになるようにできていた!? (新潮文庫)

脳はなにかと言い訳する―人は幸せになるようにできていた!? (新潮文庫)

  • 作者: 裕二, 池谷
  • 出版社/メーカー: 新潮社
  • 発売日: 2010/05/28
  • メディア: 文庫

 私たちは自分が思っているほど、理性的な生き物ではない。そして効果的なあの手この手に簡単に乗ってしまう。「特典付加テクニック」で、頼みもしない値引きをし、あなたの財布から金をさらおうとする人たちにご用心を。
また、小さな頼みからはじめて、だんだん要求を大きくしていく人たちや、最初に大きな要求をもちだして、すぐに小さな要求に切り換える人たちにもご用心を。

その科学が成功を決める
リチャード ワイズマン (著), Richard Wiseman (原著), 木村 博江 (翻訳)
文藝春秋 (2012/9/4)
P248

 

その科学が成功を決める (文春文庫 S 10-1)

その科学が成功を決める (文春文庫 S 10-1)

  • 出版社/メーカー: 文藝春秋
  • 発売日: 2012/09/04
  • メディア: 文庫

P7
軽率に物事を信じやすいという、この昔ながらの人間性をわれわれは大目に見てやる必要がある。諸君のお気に入り牧師がまったく効かないインチキ粉薬をチョッキのポケットに忍ばせているのを見つけたとしても、あるいは諸君の模範的な患者の病室でたまたま(19)ワーナーの救命薬を見つけたにしても、怒りの気持を抑えるよう努めねばならない。
諸君は今後、この種の腹立たしい出来事を一度ならず経験するであろうが、あらかじめかくごしておき、そのような事態が起こったからといって決して立腹してはならない。
P16
(19)ワーナーの救命薬(Warner's Safe Cure):ニューヨーク州ロチェスターに住むワーナー(H.H.Warner)が製造したインチキ売薬。腎臓病と肝臓病に効くという評判がたち、一八八〇年頃爆発的な売れ行きを示したという。

平静の心―オスラー博士講演集
ウィリアム・オスラー (著), William Osler (著), 日野原 重明 (翻訳), 仁木 久恵 (翻訳)
医学書院; 新訂増補版 (2003/9/1)

平静の心―オスラー博士講演集

平静の心―オスラー博士講演集

  • 出版社/メーカー: 医学書院
  • 発売日: 2003/09/01
  • メディア: 単行本

私たちは人生における選択状況のすべてにおいて,とりわけ,新奇でリスクが痛みをもたらすような選択においては,自分が何を望んでいるかはっきりわからないことがある.その結果,人はその選好その場その場で”構成”するよう迫られる.
自分の生活において一般方針を決めている”基盤”価値に基づいて,いつもとは違う特定の状況で,自分が何を望んでいるのか推論することになるのである.この過程でつまづいてしまうと,公理を逸脱し,(その意味において)非合理な選択を行うことになってしまう.
 いま,自動車を購入しようとしている夫婦がいるとする.お金はできるだけ使いたくないが,事故時に子どもを守りたいとも考えていて,これら二つの対立する価値がどれくらい重要なのか測りかねている.その状態を察知したベテラン販売員は,販売価格を高くするために,オプションの安全機能をそなえたモデルを推すだろう.
しかし,そのセールストークに接して”安全パッケージ”オプションはあまりに高価すぎる,と夫婦が突然気づき,逆に最も低価格で,危険で,最低限の装備しかついていない自動車を選らんでしまうと,販売戦略は失敗ということになる.
この場合,販売員は高い商品を販売できず,夫婦は推移性を破り,すでに否定したはずの選択肢に逆もどりしていることになる.
依然として,この夫婦が価値の優先順位をはっきり決めかねているようなら,販売員は先の最上級の安全パッケージよりグレードは低いが比較的安い安全オプションンの提案を再開するだろう.

リスク 不確実性の中での意思決定
Baruch Fischhoff (著), John Kadvany (著),中谷内 一也 (翻訳)
丸善出版 (2015/4/26)
P108

リスク 不確実性の中での意思決定 (サイエンス・パレット)

リスク 不確実性の中での意思決定 (サイエンス・パレット)

  • 出版社/メーカー: 丸善出版
  • 発売日: 2015/04/26
  • メディア: 新書

脳の進化の歴史をたどれば、人間は合理的に考えることのできる知性を発達させることで繁栄もしてきましたが、その合理性を適度に抑えることで―つまり、適度に鈍感であり、忘れっぽく、愚かであり続けることによって―集団として協調行動をとることが可能になりました。  それが、今日まで人類が発展を続けることができた大きな要素だったのではないあかと考えることができます。果たして、合理性だけが発達した人間は、どのように扱われるのでしょうか?彼らは、異質なものとして人間社会からは排除されてしまうのです。

空気を読む脳
中野 信子 (著)
講談社 (2020/2/20)
P200

空気を読む脳 (講談社+α新書)

空気を読む脳 (講談社+α新書)

  • 作者: 中野信子
  • 出版社/メーカー: 講談社
  • 発売日: 2020/02/20
  • メディア: Kindle版

 

2025年1月29日水曜日

腸内フローラ

P037
 腸の中には、なんと、500種類程度、100兆個以上の細菌が棲んでいると考えられています。
我々の体を作っている細胞の種類が200、総数がおよそ37兆個といわれていますから、腸内細菌の多さがわかるでしょう。
ヒトの細胞にくらべて細菌はずいぶんと小さいので、コンパクトにおさまってくれているとはいえ、すごい数です。大便というのは食べ物を消化した残りかすと思われているかもしれませんが、ちがいます。およそ半分くらいは腸内細菌の死骸なのであります。
 腸内に存在する細菌は、全部ひっくるめて、腸内細菌叢、あるいは腸内フローラ、と呼ばれます。フローラというのは、もともとは「植物相」という意味の生体学用語です。

P038
ビタミンKというのをご存じでしょうか。たとえば、ちょっとしたケガをしても、すぐに血が止まります。それには、血液凝固因子という何種類ものタンパク質が機能します。ビタミンKは血液凝固因子を作る時に必要なビタミンです。
 このビタミンKは腸に棲みついている細菌で産生され、我々はそれを吸収しています。いわば、細菌は、腸の中でウンコまみれになりながら、有用な物質を作ってくれているのです。
一方で、細菌はおならのような好ましくないものを作ってしまいますけど、それくらいはまけといらんとあかんでしょう。

P040
 おなかの中の赤ちゃんは無菌です。なので、腸内フローラは生まれてからできはじめます。赤ちゃんの腸に最初にはいっていく細菌は、産道に存在する細菌です。帝王切開で生まれた赤ちゃんは、産道を通らないので、当然、腸内フローラの成立は通常の出産の場合とはちがっています。  その後はミルクや食べ物など、環境からはいりこんだ細菌が腸に棲みついてフローラが形成されていきます。
ミルクしか飲まない段階の乳児と離乳後では腸内フローラが大きく変化する、親子や夫婦でも必ずしも腸内フローラは似ていない、といったことがわかっています。
また、それぞれの人の腸内フローラにはけっこうな違いがありますが、個人の腸内フローラは比較的安定しています。
 ビタミンKのことを少し書きましたが、赤ちゃんは腸内フローラが未発達なので、十分なビタミンKが作られません。また、母乳にもあまり含まれていません。なので、新生児にはビタミンKの投与が必要なのです。
~中略~ 海に生息する細菌には海藻壁を消化する酵素を持っているものがあります。また、われわれ日本人はノリや昆布などの海藻類をよく食べます。腸内フローラのメタゲノム解析で、海藻壁を消化する酵素をもつ細菌が日本人の腸に存在することがわかったのです。
しかし、海藻類をあまり食べない欧米人の腸には見つかりませんでした。食文化が、特殊な機能を持った腸内細菌との共生に影響を与えるって、なんかすごいことやと思われませんか。

P042
 クローン病や潰瘍性大腸炎といった炎症性腸疾患と呼ばれる疾患は、我が国では比較的少なかったのですが、近年、急速に増加してきています。そういえば、安倍晋三首相も潰瘍性大腸炎でしたね。これらの炎症性腸疾患の発症には腸内細菌が関与していて、腸内フローラを改善することにより、ある程度の治療が可能ではないかと考えられています。~中略~
 生活習慣病と腸内フローラについてもおもしろいはなしがあります。
まず、肥満の人は正常体重の人と腸内フローラの組成が違います。それだけではなく、肥満の人に一年間低カロリーダイエットをしてもらって体重が減ると、腸内フローラも正常体重の人に近づいていくことがわかりました。
腸内フローラが肥満の原因なのか、それとも単なる結果なのかまではわかりませんが、なんらかの相関関係があること間違いなさそうです。

(あまり)病気をしない暮らし
仲野徹 (著)
晶文社 (2018/12/6)

(あまり)病気をしない暮らし

(あまり)病気をしない暮らし

  • 作者: 仲野徹
  • 出版社/メーカー: 晶文社
  • 発売日: 2018/12/06
  • メディア: 単行本

北海道 ファーム富田

人前で話をする時

 もし君が、伝えたい内容を何の飾りもつけずに、理路整然と話せればそれで十分だと思っているなら、それはとんでもないまちがいだ。
人前で話をする時は、話の内容ではなく、能弁か否かでその人の評価が決まってしまう。
 私的な集まりで人の心をつかみたい時でも、公的な会合で聴衆を説得したい時でも、大切なのは、内容もさることながら、その人の雰囲気、表情、身ぶり、品位、声の出し方、なまりの有無、どこを強調するか、抑揚など、いわば枝葉の部分なのだ。
~中略~

 何の飾りもない理路整然とした話し方は、知的な人間が二、三人集まる私的な集まりでは、説得力もあるし、魅力もあるかもしれない。けれど、たくさんの人間を相手にする公的な場では、通用しない。
 世の中とはそういうものだ。私たちは、スピーチで何かを教えられるよりは楽しく聞けることの方を選ぶ。
元来、人にものを教えられるということは、あまり気分の良いことではない。
無知だと言われているようなものだから、スピーチがすんなり聞く人の耳に入り、人の賞賛を浴びるには、まず喉ごしがよくなくてはならないのだ。

父から若き息子へ贈る「実りある人生の鍵」45章
フィリップ・チェスターフィールド (著), 竹内 均 (翻訳)
三笠書房 (2011/3/22)
P133

父から若き息子へ贈る「実りある人生の鍵」45章 (知的生きかた文庫)

父から若き息子へ贈る「実りある人生の鍵」45章 (知的生きかた文庫)

  • 作者: フィリップ・チェスターフィールド
  • 出版社/メーカー: 三笠書房
  • 発売日: 2011/03/22
  • メディア: 文庫


笑いというのは非常に重要で、印象に残るんです。感情は、記憶と直結しているので、ただ抑揚なく話していても、相手の記憶には残りません。
ですから、プレゼンは絶対に、最後にハハッとわらわせなければいけない。怒らせなどしたら、もうアウトです。

マネジメントは動物園に学べ 2011年5月 (仕事学のすすめ)
小菅 正夫 (その他), 野田 稔 (その他)
NHK出版 (2011/4/25)
P92

マネジメントは動物園に学べ 2011年5月 (仕事学のすすめ)

マネジメントは動物園に学べ 2011年5月 (仕事学のすすめ)

  • 作者:
  • 出版社/メーカー: NHK出版
  • 発売日: 2011/04/25
  • メディア: ムック


プレゼン前に準備しておくべきことの中でも最も重要なのは、あらかじめ、「自分が伝えたいことを一言で言うと何か」を決めておくことです。
~中略~
 なぜなら、プレゼンが終わって自分が退席した後、その場で何かを話題にしてもらえるかが重要で、全員が「あそこの製品はあれだったよね」と思える強い印象を一つ残したほうがいいからです。
そのためには、導入、本論、まとめにわたって、伝えたいキーワードを「要するに」と繰り返すことです。
 最初に、「今日はこれを伝えたくてお時間をいただきました」と言って、話の途中で、「これは要するにこういうことなんです」と、しつこいぐらい何回も繰り返し、最後に部屋を出る前に、「今日は、(要するに)これをご理解いただきたくて、お時間いただいて、どうもありがとうございました」という形で締めくくる。

“司法試験流” 知的生産術
伊藤 真 (その他), 野田 稔 (その他)
NHK出版 (2012/1/25)
P59

“司法試験流” 知的生産術 2011年9月 (仕事学のすすめ)

“司法試験流” 知的生産術 2011年9月 (仕事学のすすめ)

  • 作者:
  • 出版社/メーカー: NHK出版
  • 発売日: 2011/08/26
  • メディア: ムック


外道の前に於いて自ら我、無上菩提の妙戒を具すと説くべからず。
秘密三昧耶仏戒儀
仏教のことを理解していない人の前では、「仏教の素晴らしさ」を説いてはならない。

空海 人生の言葉
川辺 秀美 (著)
ディスカヴァー・トゥエンティワン (2010/12/11)
秘密の教え一五三

空海 人生の言葉

空海 人生の言葉

  • 作者: 川辺 秀美
  • 出版社/メーカー: ディスカヴァー・トゥエンティワン
  • 発売日: 2010/12/11
  • メディア: 単行本


P116
 もともと日本にはスピーチに当たるものがなかった。福沢諭吉が古典のことばを借りてきて、スピーチを演説と訳したのだと言われるが、適訳ではなかった。演説とスピーチは違うのである。少なくとも、今の日本語では、演説をスピーチとは言わない。
 しかし、スピーチは演説と同じように、長くないと重みがない、あまり短くては失礼になると思っている人はかなりいるらしい、もちろん、短い話をするのが、どんなに難しいか、知る由(よし)もない。
 アメリカ歴代の大統領の中でもっとも話のうまかったとされるウィルソン大統領が、「二時間の話なら、いますぐでも始められるけれども、三分間のあいさつだったら、用意にひと晩はかかる」という意味のことを言ったのは有名である。

P118
 ついで忘れてはいけないのは、スピーチはおもしろくないといけないことである。だらだら自分のことを話したりするのは論外。短いスピーチでも、一度は聞いている人が笑ってくれるようなことを言いたい。これが難しいのである。

P119
 テレビのCMにはコピーライターがついているが、記者会見をする役員の談話はテレビCMに劣らない影響力をもっている。そんなこともわからないほど、スピーチは軽視されているのである。

日本語の作法
外山 滋比古 (著)
新潮社 (2010/4/24)

日本語の作法 (新潮文庫)

日本語の作法 (新潮文庫)

  • 作者: 外山 滋比古
  • 出版社/メーカー: 新潮社
  • 発売日: 2010/04/24
  • メディア: 文庫


【徳川無声】(一八九四~一九七一)―話術―

 良い話をするには、別に雄弁を必要としません。
~中略~
ハナシも最後はその人の人格に行き着く。〈ハナシは人格の表識。故に、他人から好意を持たれる人格を養うべし。あえて聖人たれとは申さず。ハナシには、個性が絶対必要なり〉。
良い心と強い個性を養うことが話上達の極意と断言した。

日本人の叡智
磯田 道史 (著)
新潮社 (2011/04)
P198

日本人の叡智 (新潮新書)

日本人の叡智 (新潮新書)

  • 作者: 磯田 道史
  • 出版社/メーカー: 新潮社
  • 発売日: 2011/04/16
  • メディア: 単行本


 最初のジョークで自分と聞き手の緊張をほぐして心をつかみ、結論からわかりやすく相手に理解してもらえるように話してみる。そして、その理由や根拠を理路整然とかつ面白おかしく親しみをもって伝えていこう。
 このとき何よりも大切なのは、本気度だ。マニュアル通りのフレームワークや出来すぎたパワーポイントが本気度を下げてしまうことがある。それよりもどうしても伝えたいものやその理由にフォーカスしよう。
 テクニック的な出来は7割くらいでいい。つかえても、ページを飛ばしても、多少数字が間違っていても、それよりも情熱がカギを握る。「どうしても伝えたい」「わかってほしい」「やりたい」そういう気持ちを120~150パーセントの本気度で伝えるのだ。
~中略~
 そのため(住人注;聞き手の感情を揺り動かす)には、準備が大事。プレゼンは何度も繰り返し準備しておこう。うまくいったプレゼンでもさらによくできるはずだ。何度も練習していると、何を訴えたいのかがはっきりしてくる。
資料を見ないでも説明できるくらいになるまでやろう。そして、そこからは本気の情熱だけだ。

頭に来てもアホとは戦うな! 人間関係を思い通りにし、最高のパフォーマンスを実現する方法
田村耕太郎 (著)
朝日新聞出版 (2014/7/8)
P180

頭に来てもアホとは戦うな!

頭に来てもアホとは戦うな!

  • 作者: 田村耕太郎
  • 出版社/メーカー: 朝日新聞出版
  • 発売日: 2014/09/25
  • メディア: Kindle版

 

 大勢の前で話をするとき、とくに自信がないときは、ついそのことを口にしてしまいそうになります。
でも、ひと言目から「私の話には、たいした価値がないかもしれませんが」などと言われたら、貴重な時間を使って聴いている人たちは困惑します。
 こういう値引きシールを貼る人は、「うまく話せなくても責めないでくださいね」という自己防衛の気持ちを持っています。これは言い訳です。
自分の価値を自分で下げるような話し方をすると、せっかくいい内容を話していても、聴き手の感動が半減してしまいますし、聴き手の人たちに失礼です。
 私は、講師になりたい人たちを指導するとき、「自分の話に値引きシールを貼らないように」と伝えています。
 役割を任されたのなら、言い訳などせずに潔く、精一杯話すことを心がけましょう。 聴き手もエネルギーを使っているということを、忘れずに。

<イラスト&図解>コミュニケーション大百科
戸田久実 (著)
かんき出版 (2019/2/14)
P164

【イラスト&図解】コミュニケーション大百科

【イラスト&図解】コミュニケーション大百科

  • 作者: 戸田久実
  • 出版社/メーカー: かんき出版
  • 発売日: 2019/02/12
  • メディア: Kindle版

2025年1月28日火曜日

正義の暴走

普段は誰かのために自己犠牲をいとわず真面目に働く、という人が、いったん不公平な仕打ちを受けると、一気に義憤に駆られて行動してしまうのです。 自らの損失を顧みず、どんな手段を使ってでも、相手に目にもの見せてくれようと燃え立ってしまうというわけです。  そして実は、日本人の脳にあるセロトニントランスポーターの量は、世界でもいちばん少ない部類に入ります(~略~)。 ようするに、世界でも、最も実直で真面目で自己犠牲をいとわない人々ではありますが、いったん怒らせると何をするかわからなくなるということです。  この性質が、第二次世界大戦で恐れられた「カミカゼ」を支えた心理の裏にはあったと考えられ、その遺伝子は脈々と私たちの中に受け継がれていると言えます。

空気を読む脳
中野 信子 (著)
講談社 (2020/2/20)
P20

空気を読む脳 (講談社+α新書)

空気を読む脳 (講談社+α新書)

  • 作者: 中野信子
  • 出版社/メーカー: 講談社
  • 発売日: 2020/02/20
  • メディア: Kindle版

北海道  旭山動物園

日本の意志決定

実際、江戸時代の大名家における政治というのは家老や用人がおこなっていた。殿様が政治に直接たずさわるのは、近世のごく初期にかぎられていた。家老たちが、
―御用部屋

 という部屋におり、これが意志決定機関になっていた。明治以前、日本人が「政府」と言った場合、この家老たちが会議している御用部屋のことだけを指す場合が多かった。
 江戸時代には、この家老会議がすべてを決定し、
「下々、評議あい済みてのち、様子委細を主人に告ぐ」(家訓)
 殿様には「こういう決定が下りました」と事後に報告がなされるものであった。
 この部屋の会議は、密室といってよく、家老と用人・諸奉行が、頭を突き合わせて密談をした。
人事の話になると、門閥の家老たちだけになって、冬などは火鉢を置き、声を出さぬよう、火鉢の灰のうえに名前を書いて、また、ぱぱっと消すというようなことをして、密室で人事をきめた。
 ときどき、時代劇に、藩士が一堂に会して、会議している場面が出てくるが、江戸時代の藩にああいうものはない。これから藩が取りつぶされる、というような異常事態でもないかぎり、なかった。
日本人が、大会議場で「衆議」を尽くし、話し合う習慣は、中世の寺院や、惣村にはみられたが、近世武士の世界にはない。そのかわりにあるのが、
―稟議書
 である。笠谷和比古氏などが研究されているが、担当者から起案が上がり、判子が増えていき、取締役会で決定される姿は、江戸時代の藩のなかで生まれた。

殿様の通信簿
磯田 道史 (著)
朝日新聞社 (2006/06)
P208

殿様の通信簿 (新潮文庫)

殿様の通信簿 (新潮文庫)

  • 作者: 道史, 磯田
  • 出版社/メーカー: 新潮社
  • 発売日: 2008/09/30
  • メディア: 文庫

 

日本のメディア

 事故を起こした原発はこれまで数え切れないほどの事故を起こしていた、とすっぱ抜いたのは米経済誌のウォール・ストリート・ジャーナルだった。

~中略~
自分の国で起きていることを知るために外国の新聞の電子版を毎晩チェックしなければならないというのも情けない。
~中略~

 公開されている公文書をこのように調べた日本のメディアがあっただろうか。同誌(住人注;ウォール・ストリート・ジャーナル)はまた別の日に、日本では電気事業者と監督官庁が癒着していると指摘し、天下りの人数まで報じていた。

メディア批評 第41回
  神保太郎

世界 2011年 05月号

岩波書店; 月刊版 (2011/4/8)
P204

 

世界 2011年 05月号 [雑誌]

世界 2011年 05月号 [雑誌]

  • 作者:
  • 出版社/メーカー: 岩波書店
  • 発売日: 2011/04/08
  • メディア: 雑誌


P3
2011年3月11日、東日本大震災と大津波が東北地方に壊滅的な被害をもたらした。そして、福島第一原発で続けざまに爆発事故が起きた。この国家存亡に関わる一大事に際して、新聞は国民のために何を報じたか、本書を手に取った読者が一番ご存じのことだが、3・11前と変わらず、当局の記者発表やプレスリリースを横流しする報道に終始した。
 結果的に日本の大手メディアは、当局の隠蔽工作に加担することになってしまった。

P62
 日本のメディアの報道は実に不思議だ。電力会社が活断層の存在について触れるまでは、メディアは島根原発の安全性を疑う記事をちっとも書こうとしなかった。
そもそも知らなかったのか、ニュースにならないと判断したかはわからない。それが、電力会社が活断層の存在を認めた瞬間、新聞に記事が出る。裁判で原発の危険性が言及された段階で、ようやく記事を書く。
自らが疑問を抱き、問題を掘り起こすことはなく、何かしらの「お墨付き」が出たところで報じる。これでは「原発ジャーナリズム」と言われても仕方がないと思う。

P78
「日本のメディアはまるで官僚制度の番犬のようだ」という私の意見は、あちこちのメディアで紹介された。ニューヨークタイムズの記事が、何度も日本のメディアに引用されたのだ。
 日本の若い記者は、私と同じような違和感を抱いていたようだ。
~中略~
 心のなかでは「東京地検特捜部と記者クラブのやり方はおかしい」と思っていながら、自社の媒体では自由な意見を言えない。だから私にインタビューしたり、ニューヨーク・タイムズを引用する形で、自分たちが本当に言いたい意見を代弁させていたのだろう。

P168
 メディア業界内でも、非正規雇用者を低賃金で働かせようとするいびつな構造がある。自分たちの足元で起きていることに目をつむってはならない。身近なことに敏感にならなければ、社会全体に蔓延する深刻な問題にまで目が届くはずがない。

P220
 福島第一原発事故の教訓が活かされないまま、再稼働が決定された福井県の大飯原発がいい例だ。 抜本的な対策が取られていないのに、「電力の安定供給」という錦の御旗のもと、野田総理は再稼働を推し進めた。
もし再び大地震や津波に襲われたとき、福島と同じような事故が起きないと言えるのか。なぜ日本の大手メディアはもっと怒りの声を上げないのだろう。
報道を見ていると、批判はしていてもどこか他人事だ。メディアが権力を批判し、社会に議論を起こさなければ、健全な民主主義は絶対に生まれない。

「本当のこと」を伝えない日本の新聞
マーティン・ファクラー (著)
双葉社 (2012/7/4)

「本当のこと」を伝えない日本の新聞 (双葉新書)

「本当のこと」を伝えない日本の新聞 (双葉新書)

  • 作者: マーティン・ファクラー
  • 出版社/メーカー: 双葉社
  • 発売日: 2012/07/04
  • メディア: 新書

熊本県 天草

地縁コミュニティ

 他方、津波で流されなかったものもある。今回、私にとってもっとも印象的だったのは、被災地における地縁コミュニティの強さだった。
~中略~

 家族・地域・企業すべてがそうであるように、コミュニティには構成する諸個人の生活を支えあう側面と同時に、異質な諸個人、また諸個人の異質性を排除する側面がある。
コミュニティ内部の信頼の高さは、コミュニティ外に対する信頼感の低さと比例する。
~中略~

「無縁社会」と言われながらも日本社会の地方全般に見られるこの対照的なあり方が、発災以後のこれまでのプロセスを決定付けている。

復旧と復興 ──「生活」の連続性
  湯浅 誠 (内閣官房震災ボランティア連携室長)

世界 2011年 06月号

岩波書店; 月刊版 (2011/5/7)
P125

世界 2011年 06月号 [雑誌]

世界 2011年 06月号 [雑誌]

  • 出版社/メーカー: 岩波書店
  • 発売日: 2011/05/07
  • メディア: 雑誌


 現在も、日本人は自分の生活する地域、あるいは生まれた地域に対する特別な意識を、それぞれ持ち続けていますが、その基盤が作られた時期は当面、戦国大名が出現した十五、六世紀に求められるでしょう。NHKの大河ドラマの多くは、そうした地域意識に支えられることを期待して作られているとも言えます。
私の郷里は山梨県ですが、武田信玄がドラマになった時、山梨県の道という道に「風林火山」の旗が立てられたのには驚きました。
毛利元就の時には、中国地方が大騒ぎしていましたし、大河ドラマの誘致合戦が行われているなどという話も耳にします。
 私が申し上げたいのは、我々の中にそのような地域意識があり、それにはそれなりの歴史があることを、日本人は深層まで掘り下げて認識できていないのではないかということです。

歴史を考えるヒント
網野 善彦(著)
新潮社 (2001/01)
P51

 

歴史を考えるヒント (新潮文庫)

歴史を考えるヒント (新潮文庫)

  • 作者: 網野 善彦
  • 出版社/メーカー: 新潮社
  • 発売日: 2012/08/27
  • メディア: 文庫


P208
 閉鎖系社会が長期に存続するために重要な条件は、社会の構成員の多くが満足して生活することです。幕末に日本を訪れた欧米人は、「民衆が生活にすっかり満足しているという事実」に驚嘆しました。
渡辺京二氏は名著「逝きし世の面影」で、江戸時代後半から明治初期に日本を訪れた欧米人による膨大な報告・見聞記・日記・考察を分析しています。そこで見出された事実は、彼らが日本では専制政治が行われ個人の自由が一切存在しないと教えられていたにもかかわらず、日本人大衆は幸福であり礼節と親切がゆきわたっていることでした。
 この一見矛盾する現象は、江戸時代にはわれわれの理解する「近代市民」としての自由(たとえば国政において投票する権利と自由)がなかったにもかかわらず、「村や共同体の一員であることによって、あるいは身分ないし職業による社会的共同体に所属することによって得られる自由」があったからだと説明されています。
つまり幕藩権力は年貢の徴収や、一揆の禁止や、キリシタンの禁圧といった国政レベルの領域では強権を振るったが、民衆の日常生活の領域にはできるだけ立ち入りを避けていました。
 武士は城下に集められていたため、農村部では実際には百姓による自治が営まれていました(註⑪)。幕末、長崎海軍伝習所の教育体長カッテンディーケは、「日本の下層階級は(中略)むしろ世界の何(いず)れの国のものよりも大きな個人的自由を共有している。そして彼等の権利は驚くばかり尊重せられている」と報告しています(註⑫)。

P210
したがって共同体の構成要因は江戸時代、士農工商という役割分担の違いはあるものの、その一員としては平等だという意識がありました。

P212
 J・ダイアモンドがまとめた閉鎖系社会の崩壊要因から、逆に存続条件を抽出してみると、①平和である、②環境とくに森林が保たれている、③極端な経済格差がない、④世代を超えた環境政策を実施する、⑤人口過剰を防ぐ、⑥異常気象が続かない、となります。最後の異常気象を別にして、江戸時代の日本は、他の全ての条件を満たす生存状況を作り出していました。
幕末に訪日した欧米人が驚いたように、庶民は貧しくとも幸せで礼節に富んでいたのです。  幸せだった理由の一つは、彼らには祖先、子々孫々、自然、共同体などが構成する世界とつながっているという(深層心理的)感覚があったことです。

P214
「つながりの自己」も「つながりの倫理意識」も、江戸時代という完全な閉鎖社会での生存を通じて、完成させられました。もし江戸時代の日本が、完全な閉鎖系におけるすぐれた「適応」を実証し代表するものならば、「封建的」と戦後なんの価値もないかのごとく棄てられてしまったわれわれの祖先たちの思想や生存戦略に込められた知恵を、学びなおす必要がありましょう。

「痴呆老人」は何を見ているか
大井 玄 (著)
新潮社 (2008/01)

 

「痴呆老人」は何を見ているか (新潮新書)

「痴呆老人」は何を見ているか (新潮新書)

  • 作者: 大井 玄
  • 出版社/メーカー: 新潮社
  • 発売日: 2008/01/01
  • メディア: 新書


熊本県 天草

2025年1月27日月曜日

心房細動

P3
心房細動は不整脈の一種です。非常に患者数が多く、「21世紀の心臓の流行り病」といわれています。特に高齢者に多く、超高齢化社会を迎えたわが国では社会問題となりつつあります。
 心房細動では脳梗塞を合併することが最大の問題です。なぜなら、心房細動に合併する脳梗塞は特に重症となり、12%の人が数日で亡くなり、40%の人が寝たきりあるいは要介護となるからです。
例えば、故小渕恵三元首相やダイエー創業者の故中内功氏は心房細動に合併した脳梗塞が原因で亡くなられています。

P48
 心房細動の3大症状は、「動悸」「めまい」「息切れ」です。

P51
 ところでページ数をとって3つの症状について説明しましたが、なんと心房細動患者の40~50%の人、すなわち2人に1人近くは何の症状も感じないのです。これを「無症状」といいます。

P66
心房細動の2分の1近くを占める無症状の人では、もうお手上げです。実際に診断がついている患者さんが90万人いるのにたいしいて、推定患者数が170万人、すなわち約80万人の心房細動の診断がついていない隠れ心房細動の患者さんがいることになります。この隠れ心房細動の患者さんにこそ、高い頻度で脳梗塞が起きるのです。
 皮肉なことに、脳梗塞が起って初めて、隠れ心房細動であったことが分かることもあります。長嶋茂雄・元巨人軍監督はこのタイプだったといわれています。脳梗塞を起こして病院に運ばれて初めて心房細動であったことが分かったそうです。

心房細動のすべて ――脳梗塞、認知症、心不全を招かないための12章
古川 哲史 (著)
新潮社 (2018/12/14)

心房細動のすべて ――脳梗塞、認知症、心不全を招かないための12章 (新潮新書)

心房細動のすべて ――脳梗塞、認知症、心不全を招かないための12章 (新潮新書)

  • 作者: 古川 哲史
  • 出版社/メーカー: 新潮社
  • 発売日: 2018/12/14
  • メディア: 新書

2025年1月25日土曜日

主婦湿疹

 いわゆる主婦湿疹とは、毎日の炊事や洗濯で使う洗剤で手の皮膚のバリアが失われたために起きる湿疹で、この場合の発疹は、おもに洗剤にもっともよく触れる、利き手の親指や人差し指の先にできる。


なぜ皮膚はかゆくなるのか
菊池 新(著)
PHP研究所 (2014/10/16)
P181

なぜ皮膚はかゆくなるのか (PHP新書)

なぜ皮膚はかゆくなるのか (PHP新書)

  • 作者: 菊池 新
  • 出版社/メーカー: PHP研究所
  • 発売日: 2014/10/16
  • メディア: 新書

 

2025年1月24日金曜日

口臭は自分では気づかない

P120
どんなに優しく接していても、満面の笑顔でいい話をしていても、口が臭いというだけで孫は逃げていってしまうものです。

 とはいっても、家族も一応は年上にあたる高齢の口臭をなかなか指摘しにくい。
すると高齢者は、「何となく避けられている気がする」「嫌われている」と思い込んで疎外感を感じてしまうのです。
 なぜ高齢者は口臭がするのでしょうか。
「おじいちゃんお口臭い」という入れ歯用製剤のCMが有名になったせいもあり、高齢者のニオイは入れ歯が原因と思われがちです。
でも、入れ歯だけではないのです。口臭は85%が口の問題で起こり、15%が胃などで起きます。1)年齢を重ねることで口内の殺菌と洗浄の効果がある唾液が減るために、2)口臭が発生しやすくなります。
 口臭というのはたいていがずっと同じ状態でつきまとっているため、自分では気づきにくいのです。 ~中略~
 ですから「自分は大丈夫」と思いがちですが、60歳を超えると43%に口臭があることがわかっています。

P122
 口臭の原因の85%が口の問題で、高齢になると唾液が減って口臭を引き起こします。肌がカサカサと乾燥するように、口の中もカサカサしてくるのです。
 唾液は消化を助けるだけではなく、口の中の汚れを流してくれます。乾燥してしまって唾液が少なくなれば、口の中の汚れが流れなくなります。汚れがたまってしまい、ニオイが発生するのです。
 また、舌に舌苔(ぜつたい)というものがあります。ベロをベーっと出すと表面が白く(もしくは黄色く)なっている所が舌苔です。
定期的にきれいになっていくものなのですが、唾液が少なくなると舌苔も汚れてしまい、ニオイを発生させます。口の中の汚れが落ちなければ歯周病菌・虫歯菌も抑えることができず、さらにニオイが強くなります。

 

 特に問題になるのは歯周病です。歯周病は40歳を超えると8割の人がかかっています。3)
軽いうちは歯茎が軽く炎症を起こす程度なので、あまり症状がありません。しかし進行すると、歯磨きをして歯茎から血が出ます。さらには、口の中がかゆくなってきます。高齢になると唾液が少なくなり、汚れも落とせず歯周病も落とせず、歯周病が悪化するのです。

老人の取扱説明書
平松 類 (著)
SBクリエイティブ (2017/9/6)

老人の取扱説明書 (SB新書)

老人の取扱説明書 (SB新書)

  • 作者: 平松 類
  • 出版社/メーカー: SBクリエイティブ
  • 発売日: 2017/09/05
  • メディア: Kindle版

リハビリテーションからみえる日本の医療水準

P70
 ここでリハビリについて考えておこう。リハビリには三つのカテゴリーがある。
歩く練習を中心にした運動の訓練Physical therapy (PT、理学療法)と、日常の仕事を中心とした訓練Occupational therapy(OT、作業療法)と、言語療法Speech therapy(ST)である。
この三つがなければリハビリとはいえない。アメリカではその三つがうまく機能するように、リハビリテーション医学が独立した臨床科学として成立している。

 しかし、日本では整形外科が中心となったリハビリテーション医学が、最近まで主流となっていたため、言語療法などは重視されなかった。ごく最近まで、整形外科的な病気、骨折後のケアーとかリウマチの手足の機能回復などマッサージに毛の生えたようなリハビリが主であった。
 東京大学でも、リハビリテーション科が独立したのはごく最近である。それもPT,OTだけでSTはまだない。
 その他の国立大学でも、事情は似たようなものである。むしろ一部の私立大学で、先見性のあるリハビリテーション医学が実現している。理由は、この医学が、地味な努力の積み重ねで成り立つので、古い体制を打破する力になりにくかったからであろう。
外科や一部の内科のように派手な科目ではないし、病院の収入源にもなりにくい。
~中略~

 一般市中病院では、一部優れた設備と高邁な理想で高度の治療が行われてはいるが、それは例外的なもので、一般の医療機関で水準の高いリハビリテーション治療を受けることは難しい。リハビリは、まだ正当な世間の理解を受けるにいたっていない。
~中略~

 行政も、長い期間、人手だけかかってコストに見合わない治療を支援するという考えはまったくない。
都立の大きな病院、たとえば駒込病院などは専門の医師もいないし、OT、PTの療法士の数も明らかに少ないし、レベルも低い。
それは病院当局がリハビリに力を入れていないし、当局に要求もしていないからである。

P74
 それにもかかわらず、その(住人注;言語聴覚士)処遇は今でも最もひどい。一対一の辛抱強い訓練、それに必要な時間数は健康保険で認められていない。保険の点数だって最近までは、ほかの理学療法に比べたらはるかに低く設定されていた。
人材不足になるのは当然のことだ。
こういう技術者をどう評価し育てていくかが今問われているが、行政に声が届くまでには時間がかかるだろう。

 

P123
 私には、麻痺が起こってからわかったことがあった。自分では気づいていなかったが、脳梗塞の発作のずっと前から、私には衰弱の兆候があったのだ。自分では健康だと信じていたが、本当はそうではなかった。
安易な生活に慣れ、単に習慣的に過ごしていたに過ぎなかったのではないか。何よりも生きているという実感があっただろうか。
 元気だというだけで、生命そのものは衰弱していた。毎日の予定に忙殺され、そんなことは忘れていただけだ。発作はその延長線上にあった。
~中略~
 体は回復しないが、生命は回復しているという思いが私にはある。
~中略~
リハビリとは人間の尊厳の回復という意味だそうだが、私は生命力の回復、生きる実感の回復だと思う。

寡黙なる巨人
多田 富雄 (著), 養老 孟司 (著)
集英社 (2010/7/16)

寡黙なる巨人 (集英社文庫)

寡黙なる巨人 (集英社文庫)

  • 作者: 多田富雄
  • 出版社/メーカー: 集英社
  • 発売日: 2014/10/03
  • メディア: Kindle版

 

悲しいけど人間はごまかす

P240
 不正が社会的感染をとおして人から人へと伝わるという考えは、不正を減らすにはいまとは違う手法が必要だということを示唆している。
わたしたちはささいな違反行為を、文字どおりささいで無害なものと考えがちだ。しかし、微罪は、それ自体とるに足りなくても、一人の個人や大勢の人、また集団のなかに積み重なるうちに、もっと大きな不正をしても大丈夫だというシグナルを発するようになる。この観点から言うと、個々の逸脱行為がおよぼす影響が、一つの不正行為という枠を超え得ることを認識する必要がある。
不正は人を介して伝わるため、ゆっくりと気づかれずに社会を浸食していく。「ウィルス」が人から人へと変異しながら感染するうちに、倫理性の低い新たな行動規範が生まれる。このプロセスは目立たず緩慢だが、最終的に破滅的な結果を招くことがある。
これが、どんなにささいなものであれ、ごまかしがもたらす真のコストなのだ。だからこそ、ほんの小さなものも含め、あらゆる違反行為を減らすとりくみを、ますます気を引き締めて行わなくてはならない。

P242
 正直な行為は、社会的な道徳心を育むうえでこのうえなく大切だ。また社会的感染を踏まえて、とくに優れた道徳的行為を、たとえ、センセーショナルなニュースにはならなくても、広く伝えていく必要がある。立派な行動の華々しい例やリアルな例に学べば、社会的に受け入れられる行動、受け入れられない行動についての認識を改め、やがて自分自身、よりよい行動をとれるようになるかもしれない。

P254
 ここまでの集団でのごまかしに関する実験から、二つの力が作用していることがわかった。人は利他的な傾向があるため、自分の不正によってチームメンバーが利益を得る状況では、ごまかしを増やすが、その一方でメンバーによって直接監視されることには、不正を減らし、場合によっては完全に排除する効果もある。

 

P261
 当然だが、わたしたちは他人の助けがなくては生きていけない。協働は生活に欠かせない要素だ。しかし、協働が諸刃の剣だということもはっきりしている。協働は一方で楽しみや忠誠心、モチベーションを高める。だがその一方で、ごまかしの可能性も高めるのだ。
つきつめれば―またとても悲しいことだが―同僚のことを一番気にかけている人たちが、一番たくさんごまかしをしてしまうのかもしれない。もちろん、集団で仕事をするのはやめ、協働を中止し、互いを思いやるべきではないなどとは言わない。だが協働と親近感の高まりに潜む代償は、肝に銘じる必要がある。
 もしわたしたちが協働することで不正直になってしまうのなら、何か対策はあるだろうか?すぐに思いつく答えが、監視を強化することだ。実際、企業不祥事が起きるたびに、政府の規制当局がおきまりのようにとる対応がこれだ。~後略

ずる―嘘とごまかしの行動経済学
ダン アリエリー (著), Dan Ariely (著), 櫻井 祐子 (翻訳)
早川書房 (2012/12/7)

ずる 嘘とごまかしの行動経済学

ずる 嘘とごまかしの行動経済学

  • 出版社/メーカー: 早川書房
  • 発売日: 2013/01/25
  • メディア: Kindle版

 

金属アレルギー

P129
さて、金属アレルギーというと、ピアスなどで皮膚と金属が直接触れている部分がかぶれて炎症を起こす症状を思い浮かべる人が多いと思うが、これは「局所性金属アレルギー」のことである。
 実は金属アレルギーにはもう一種類、「全身性金属アレルギー」というものがある。これは、食べ物や飲み物に含まれる金属、さらには歯科治療で埋め込まれた金歯や銀歯などや、骨折などの外科治療で埋め込まれたボルトの金属が溶け出して、体内を駆け巡って起こる症状である。
 手のひらや足の裏に小さな水泡ができたり、痒疹と呼ばれる虫刺されのようなたくさんの皮膚のしこりやじんましん様の紅斑などができたりして、アトピーなどと誤診されることも多い疾患である。
 もしあなたが慢性的な手足の湿疹や痒疹、じんましんなどで悩まされているならば、一度疑ってみたほうがいいかもしれない。かなり高い確率で金属アレルギーを起していると考えられるからだ。

P181
 口の中を見せてもらったら、予想どおり、金属製の詰め物がたくさん入っていた。
 彼女は、「でもこの歯は、十年も前に入れたんですよ?今までは特に何もなかったんです」と言った。
彼女のように金属アレルギーを誤解している人は多いのだが、口の中に金属を入れてからアレルギーが発症するのには、十年以上という症例も決してまれではない。
長い時間をかけて、少しずつ金属が溶け出し、体内に吸収されて徐々に金属アレルギーがおきていくのだ。
 私は、ひとしきり金属アレルギーの説明をし、こう言った。
「金属を取れば治りますよ。十年かけて溜まったものなので、少し時間がかかるかもしれませんが」
~中略~
金属アレルギーは、人によって症状が出現するまでにかかる時間は異なるが、基本的には原因を取り除けばどんどん良くなる。


なぜ皮膚はかゆくなるのか
菊池 新(著)
PHP研究所 (2014/10/16)

なぜ皮膚はかゆくなるのか (PHP新書)

なぜ皮膚はかゆくなるのか (PHP新書)

  • 作者: 菊池 新
  • 出版社/メーカー: PHP研究所
  • 発売日: 2014/10/16
  • メディア: 新書