P165
やっているときにリアルタイムに見せてくれると、そりゃあいいです。手術も全身麻酔をしないで、お腹を見せて、説明しながらしてくれる先生もいるらしいから、病気によってはそうすると非常にいい。
それはどういうことかと言うと、ドクターの目がある位置に患者の目があるということです。これは情報開示です。
インフォームドコンセントは口で言うわけだから、ドクターからのまた聞きのようなものです。
実際に現場でそれを見せてもらっていると、とても安心感があるの。「ゆだねる」と言うよりも、むしろ「共に」という感じだね。このことを覚えていてください。「共に」ということ。
P190
ここに病があって、病人がいて、治療者がいて、インフォームドコンセントが行われて、病人が病についての知識を得ることによって、病と病人が一体であったものが、病人と病が切り離されて、そこから病人はこの病を治療者と一緒に眺めて、いろいろと意見が作れるようになることが、本当はインフォームド・コンセントの主たる目的なんです。
だけど今のインフォームド・コンセントはそうではなくて「きちんと言っておかないと、あとで裁判になったときに負けるから言っておく」というものになった。これはインフォームドコンセントの悪用です。
インフォームド・コンセントの本来の正しいやり方、情報を共有した二人が病について意見を出し合うためのインフォームド・コンセントという使い方、根本の姿勢を覚えておいてください。~中略~
血液を採るときに、採血管を三本用意して、「これはこのための採血で、これはこのための採血なんですよ」と説明すると、それで知識が得られて、「なぜ三本なんだろうか?」という不安は減るでしょう。これは知識を与えることによって、不安を取り払うことになるわけ。
よく説明することは精神療法なの。
P234
インフォームド・コンセントの根本は、手術という作業に多少とも患者も参加できるように、「ああ、そういうことがあるのか」とか「そういうことになるのか。そんなになったら大変だね」とかいうふうになって参加型のはずなんだ。
今はそうなってないね。参加型じゃなくて、「これは言っておかないと、あとで、訴えられたらかなわん」と、インフォームド・コンセントは相互不信に根ざしている。出席を取るのと同じだ。
お互いが信じあわないように、訴えられてもいいようにするとなったら、これは精神療法にはならないです。
だけどお互いが分かるように、同じものを見て、考えて、意見を言うようになっていれば。これは精神療法になる、これをやってほしい。
神田橋條治 医学部講義
神田橋 條治 (著), 黒木 俊秀 (編集), かしま えりこ (編集)
創元社; 初版 (2013/9/3)
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