P48
仏になるというのは高い山に登るようなものでして、自分で登るのが自力、ケーブルカーで行くのが他力と考えてもいいんですが、そのためにはどんな仏教でも共通の道徳を守らなくてはなりません。
まず十善戒 というものがあります。
これは、守るべき十の戒律です。それと同時に、六の徳を備えなければならない。それが六波羅蜜。 十善戒を守って、六波羅蜜という徳を備えなくてはならない。ですから仏教は道徳を大変に大事にしているんです。
ところが、現代の仏教は道徳から離れてしまった。だから坊さんは仏教を説きますが、本当に十善戒を守っているか、六波羅蜜の徳を行っているかというと、あまり守り、行っていないのではないでしょうか。
~中略~
ヨーロッパの社会は、だいたいキリスト教です。
ということは、ヨーロッパ人の道徳はキリスト教を基本にしている。
もしキリスト教がだめになれば、道徳もだめになる。キリスト教を信じなかったら道徳も信じられないということになるのではないかと思います。
そういうことを誰よりもはっきり語ったのが、ロシアのドストエフスキーという作家です。
P54
聖徳太子が、晩年、常にいっていた言葉が「諸悪莫作、衆善奉行」 です。いろんな悪をしてはならない。いろんな善をしなさい、ということですね。聖徳太子はこの仏典の文句をしょっちゅうつぶやいていたというんです。
P86
仏教には、十善戒、 十の善き戒というものあります。~中略~十善戒というのは、全部「不」がついている戒ですから、悪を禁止する道徳です。~中略~もう一つ、六波羅蜜というのがある。こちらは積極的な道徳を説いています。
十善戒は次のような戒です。
不殺生(ふせっしょう) 人を殺してはいけない。
不偸盗(ふちゅうとう) 盗みをしてはいけない
不邪淫(ふじゃいん) よこしまなセックスをしてはいけない。
不妄語(ふもうご) 嘘をついてはいけない。
不綺語(ふきご) きらびやかな言葉をつかってはいけない。
不悪口(ふあっく) 人の悪口を言ってはいけない。
不両舌(ふりょうぜつ) 二枚舌を使ってはいけない。
不慳貪(ふけんどん) 物惜しみをしてはいけない。
不瞋恚(ふしんに) 怒ってはいけない。
不邪見(ふじゃけん) よこしまな見解を抱いてはいけない。
これをモーセの十戒とくらべてみましょう。
~中略~
一、あなたには、わたしをおいてほかに神があってはならない。
二、あなたはいかなる像も造ってはならない。
三、あなたの神、主の名をみだりに唱えてはならない。
四、安息日を心に留め、これを聖別せよ。
五、あなたの父母を敬え。そうすればあなたは、あなたの神、主が与えられる土地に長く生きることができる。
六、殺してはならない。
七、姦淫してはならない。
八、盗んではならない。
九、隣人に関して偽証してはならない。
十、隣人の家を欲してはならない。隣人の妻、男女の奴隷、牛、ろばなど隣人のものを一切欲してはならない。
十戒の一から五までは、ユダヤ教、キリスト教の宗教的な掟のようなものですね。だから、すべての人類に当てはまるものではないでしょう。
特に一の、「あなたには、わたしをおいてほかに神があってはならない。」というのは一神教の主張です。
梅原猛の授業 仏になろう
梅原 猛 (著)
朝日新聞社 (2006/03)
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