2025年4月8日火曜日

患者の希望は途中で変わる

P217
  スドーレとフリード(住人注;カリフォルニア大学サンフランシスコ校のレベッカ・L・スドーレ医師とイェール大学のフリード医師)は記している。
「患者にとって将来自分が何を望むかを予測するのは難しい。なぜなら、こうした予測は現時点での病気の状態、精神状態、あるいは社会的なコンテクストとは直接関係しないからである」
なぜ健康な状態にあるときに将来の困難な状況を想像するのがこんなにも難しいのだろうか?
スドーレとフリードはこう説明している。
「意向の変化に関わる大きな要素は適応力である。患者によって障害に負けずに生きる自分の姿を想像しがたいことも多く、そのためそうした状態になったら積極的な治療はしてほしくないとの意思を表明する。
しかし、実際そういう状態に陥ると、徹底した治療も厭わなくなることも多い。たとえそれで得られる利益は限られていても、だ」
 適応力の過小評価に加え、他の二つの認知的な影響がここで働く。
 一つは焦点化である。すなわち失われた体の機能や衰えといった人生の中で起こる変化のみに意識が向いて、たとえ状況が変わっても変わらず人生の喜びとなりえるもののほうは見過ごしてしまう、ということだ。
メアリーは当初、寝たきりの人生なんて生きる価値がないと考えていた。そして実際彼女の容態が悪くなったとき、(自分自身は健康である)家族は、彼女の生活の質が著しく低下したのを見て、もうこれ以上頑張っても仕方がない、と思った。
しかし、当のメアリーは、親孝行な娘が焼いてくれた好物のマフィンをほかほかの状態で味わう、といったごく小さな出来事にも喜びを見いだすことができるのだ、ということに気がつき、生き続けたい、と願った。それはかって彼女自身、想像もしなかったことだった。
 二つ目影響は、「緩衝化」と呼ばれるものである。現実に対処するメカニズムが実際どの程度働いて、精神的な苦痛を緩和してくれるかを知ることは一般的に不可能である。なぜなら、こうした現実対処のメカニズムの大部分は無意識下で働くプロセスだからだ。
否認、合理化、ユーモア、知性化、区画化はすべて現実対処のメカニズムであるが、こうした働きによって私たちは病にあるときでもその人生を何とか耐えうるものに、時には充実感のあるものにすら変えうる。
 生きたい、という気持ちはは、たとえ状態が悪化している中であっても、非常に強力なのだ。

P230

 イェール大学のテリー・フリード医師による研究では、患者の半数が、メアリー・クインのように経過中に積極的治療をどうするかについての意向を変えた。しかし、もう一方の半数の患者は気持ちをぐらつかせなかった。 

決められない患者たち
Jerome Groopman MD (著), Pamela Hartzband MD (著), 堀内 志奈 (翻訳)
医学書院 (2013/4/5)

決められない患者たち

決められない患者たち

  • 出版社/メーカー: 医学書院
  • 発売日: 2013/04/05
  • メディア: 単行本

 

英彦山 福岡県

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