2025年4月30日水曜日

関係性の回復

「関係性」という言葉で私が言いたいのは、人間と人間の間に生じる相互的な心の交流なのである。
親子関係、師弟関係、夫婦関係など、そこに一応の「関係」はあるとしても、私の言っているような深い「関係性」は失われていることが多く、そのために多くの問題が生じていると思われる
。  インターネット書き込みには、「関係性」の喪失の上に立ってなされるので問題が多い。
~中略~
 そこで大切なことは、片方で文明のもたらすいろいろな便利さを享受しつつ、それだけに頼ることによって生じる「関係性の喪失」をいかにして防ぐかということであろう。
そのためには、あらゆる人間関係における「関係性の回復」を心がけることが必要である。
そのような関係性によって保証されている限り、インターネットなどを使っていても、すぐに「切れる」ということは生じないであろう。
文明の進歩をほんとうに享受しようとするためには、相当な努力が必要なのである。
(二〇〇四年六月 東京新聞)河合 隼雄

心理療法個人授業
河合 隼雄 (著), 南 伸坊 (著)
新潮社 (2004/08)
P223

心理療法個人授業(新潮文庫)

心理療法個人授業(新潮文庫)

  • 出版社/メーカー: 新潮社
  • 発売日: 2013/08/02
  • メディア: Kindle版

 

 お年寄りたちの安否を聞かれて、娘や息子が「もう二十年以上会ってない」「父には放浪癖があり、出て行ったきりだ」「弟のところにいると思っていたが、弟とも五十年間連絡をとっていない」などと答えている。

本当なら、家族のきずなってなんだろう。

気になる科学 (調べて、悩んで、考える)
元村有希子 (著)
毎日新聞社 (2012/12/21)
P36

 

気になる科学 (調べて、悩んで、考える)

気になる科学 (調べて、悩んで、考える)

  • 作者: 元村有希子
  • 出版社/メーカー: 毎日新聞社
  • 発売日: 2012/12/20
  • メディア: 単行本

 

 

最近は職場や地域での濃密な人間関係が減り、一方でネット上での人づきあいが増えてきたこともあって、本音で語り合える相手や機械が少なくなってきました。
 たとえばフェイスブックのように実名で交流するSNSを見ると、社交辞令のオンパレードのような様相を呈してしることがしばしばあります。
旅先やレストランで撮った写真を自慢気に投稿すると、「素敵!」「「羨ましい!」といったコメントがつき、「いいね!」ボタンが盛んに押されるわけですが、あれはまさにパーティ・トークのようなものでしょう。
一見すると相互依存によって自己愛を満たし合っているようにも思えますが、本音を書けないストレスを感じている人も多いでしょう。
 また、匿名の書き込みなら本音がいえるかというと、必ずしもそうではありません。

自分が「自分」でいられる コフート心理学入門
和田 秀樹 (著)
青春出版社 (2015/4/16)
P113

自分が「自分」でいられる コフート心理学入門 (青春新書インテリジェンス)

自分が「自分」でいられる コフート心理学入門 (青春新書インテリジェンス)

  • 作者: 和田 秀樹
  • 出版社/メーカー: 青春出版社
  • 発売日: 2015/04/16
  • メディア: 新書

 

日本人とコメ

P82
大前(住人注;大前 研一)
 日本の資本でオーストラリアの鉄鉱石に山を買う。そして二十年間、安定供給してもらうということができます。同じやり方で水田を経営したらいい。そうすると、土地を輸入したことになる。日本という国の中では必ずしも土地を水田に使う必要がない、オーストラリア、ブラジル、アルゼンチン、中国、アメリカで営農をすればいい。
~中略~
鉄鉱石の山をブラジルで買って安心しているのに、なぜ海外の自分の田んぼでつくったものを自分のものと思わないかということです。
 しかし、米も一つの財にすぎません。世界というのは、国境とか、政府を完全に超えた形で、経済的にアメーバみたいな実態になっていると思うんです。

P84
司馬
 日本人のお米に対する感情は、一種の神国思想なんです。弥生式農耕が根づいたときに、神々が生まれて多くの宗教儀礼が生まれたものですから。
大前 でも、アメリカ人にとって、ヘンリー・フォードがつくった自動車はアメリカの文明そのものです。日本人の米と同等に神聖なものなんですね。それを平気で三〇パーセントもとっちゃって、デトロイトが悪いの、経営が怠慢だのと処理してしまう日本人の神経が一方でありながら、米になると待ってくださいというのは、どうなんでしょう。

対談集 日本人への遺言
司馬 遼太郎 (著)
朝日新聞社 (1999/01)

対談集 日本人への遺言 (朝日文庫)

対談集 日本人への遺言 (朝日文庫)

  • 作者: 司馬 遼太郎
  • 出版社/メーカー: 朝日新聞社
  • 発売日: 1999/01/01
  • メディア: 文庫


 江戸期の支配経済は、米を基礎としている。このため米が食物であることにとどまらず、稲作が核になって宗教、哲学を生み、暮らしの文化をつくり、ついには社会的差別まで生んだ。
農が士農工商の次位に置かれたのは、歴史的には士は農から派生したということもあるが、それ以上に大きな理由は米が貨幣同様のものであり、それを基礎として幕藩が成立しているため、それを生む者として農民は、形式上、あるいは功利的理由から、尊重されるかたちがとられていたのである。
 おなじ農でも米百姓に優位があたえられ、かれらは非水田地帯の畑百姓を差別したが、このことはいまはわすれられているようでもある。米百姓も畑百姓も、職人を身分的に軽んじた。村に1戸は鍛冶があり、一戸は大工、さらには左官が住んでいたものであったが、それらは百姓たちから一段低く見られた。米をつくって租税をおさめるということをしないからである。

街道をゆく (12)
司馬 遼太郎(著)
朝日新聞社 (1983/03)
P60

街道をゆく (12) (朝日文芸文庫 (し1-13))

街道をゆく (12) (朝日文芸文庫 (し1-13))

  • 作者: 司馬 遼太郎
  • 出版社/メーカー: 朝日新聞社
  • 発売日: 1983/03/01
  • メディア: 文庫


大和政権というのは要するに水稲農業を奨励し普及し、それによって権力と富を得、秩序の安定を得ようとするせいけんということがいえるであろう。
ユダヤ教やキリスト教、回教のような巨大な形而上的体系でもって民を治めようとしたのではなく、要するに稲作農業という形而下的なものを普及することによって権力を充実させ拡大させた政権で、上代における征服事業というのも、稲作普及軍の一面をもち、山野を駆けまわる非稲作人に打撃を打撃をあたえて「化外」のかれらが水田に定着すればそれでよしとした。
極端にいえば、徳に化(か)していることは定着して稲作をしていることであり、徳に化していない(化外)ということは、稲作をせずにけものを追ったり、魚介を獲ったりしているということであったにちがいない。

街道をゆく〈9〉信州佐久平みち
司馬 遼太郎 (著)
朝日新聞社 (1979/02)
P14

街道をゆく 9 信州佐久平みち、潟のみちほか (朝日文庫) (朝日文庫 し 1-65)

街道をゆく 9 信州佐久平みち、潟のみちほか (朝日文庫) (朝日文庫 し 1-65)

  • 作者: 司馬 遼太郎
  • 出版社/メーカー: 朝日新聞出版
  • 発売日: 2008/10/07
  • メディア: 文庫

 

P24
日本農業は、頻発する自然災害に加えて、高温多湿ゆえに、雑草・害虫との闘いの歴史を刻んできた。
日本農業の代表である稲作についてみてみよう。アメリカでも、多種多様な日本米が広く栽培されているが、種籾を航空散播する。
日本で、そのようなことでもしようものなら、高温多湿ゆえによく生えてくる雑草にやられてヒドイ減収になるのが落ちである。
そこで、先ず、雑草にやられない大きさになるまで苗を育苗施設で育てたあとに、田植え機を使って田圃に移植する。その後も、雑草・害虫にやられないように、農薬をフンダンに散布する。したがって、先ず育苗施設、田植機、農薬のための無駄な経費がかかる上に、これらの作業のための多大な時間と労力を要する。
 以上にも増して、日本農業はいかんともし難い、根本的に不利な環境に置かれている。農業は、炭酸同化作用を活用する産業である。つまり、植物の葉に含まれる葉緑素が地下から吸収した水と空気中から吸収した炭酸ガスに、光のエネルギー作用することにより、人間の食物になる炭水化物が生成される自然の摂理を利用する産業である。~中略~
したがって、太陽光線をどれだけ多量に受け取ることができるかが農業生産における最も重要な鍵である。しかし、日本は、多湿つまり雨が多く厚い曇り空に阻まれて、年間の日照率は、欧米の半分程度で、炭酸同化作用が起こり難いのが厳然たる事実である。

P26
農業をこれ以上切り捨てることは取り返しのつかない負の財産を後世に残すことになる。可能な限り、工業と農業を共生させ、バランスの取れた産業構造に立脚した健全な国家への方向転換が望まれる。
 そのためには、先ずは、日本は欧米に比べて農業に向いていないことを率直に認める意識改革が望まれる。また、それだけに、欧米に増して、強力な農業支援が必要であることへの国民の理解を求めることが不可欠である。

自然科学の視点から考える 日本民俗学
橋口 公一 (著)
幻冬舎 (2017/4/20)

自然科学の視点から考える 日本民俗学 (幻冬舎ルネッサンス新書 は 5-1)

自然科学の視点から考える 日本民俗学 (幻冬舎ルネッサンス新書 は 5-1)

  • 作者: 橋口 公一
  • 出版社/メーカー: 幻冬舎
  • 発売日: 2017/04/20
  • メディア: 新書

 

大分県 臼杵

2025年4月28日月曜日

自然とのつきあい方

 ほとんどすべての人が人間社会には魅力を感じているが、自然に強い魅力を感じている人はあまりいない。
人には技術があっても、自然とのつきあい方では、だいたいにおいて動物に劣る。―「ウォーキング」

ソロー語録
ヘンリー・デイヴィッド・ソロー(著), 岩政 伸治 (翻訳)
文遊社 (2009/10)
P9

ソロー語録

ソロー語録

  • 出版社/メーカー: 文遊社
  • 発売日: 2009/10/01
  • メディア: 単行本


誰にも見られるように、私自身の中にも、より高尚な生活、いわゆる精神的生活を志向する本能が一方にあり、他方には原始的で、野蛮な生活を志向する本能が今でも潜んでいることに気づいた。
そして私はその両方を大切にしている。私は野性的なものを善性と同じく愛している。
釣りという行為にも野生と冒険があるからこそ、今でも私は釣りに魅せられるのである。

森の生活
D・ヘンリー・ソロー (著), 佐渡谷 重信 (翻訳) (著)
講談社 (1991/3/5)
P311

 

森の生活 (講談社学術文庫)

森の生活 (講談社学術文庫)

  • 出版社/メーカー: 講談社
  • 発売日: 1991/03/05
  • メディア: 文庫


北九州市門司区

タチウオ

 釣り師がタチウオを語るとき、必ず言うのが「この魚は幽霊魚(ゆうれいぎょ)だからね」というフレーズ。
つまり、出たり消えたり、神出鬼没ということ。
 釣り的にいうと、昨日爆釣していたのに、今日はまったく姿形も見えないなんてことはザラにある。しかも、一日のうちでもいたと思ったらサッと姿を消す。タナ(魚のいる水深)も深くなったり浅くなったり、だから、船長は魚探(魚群探知機)とにらめっこをして右往左往する。
 東京湾の夏のタチウオ釣りは水深二十メートルくらいの浅場の釣りになる。
~中略~
 タチウオは魚のなかでもかなりヘンな魚である。どう猛なのに繊細。ルアーのジグ(金属の疑似餌)にあれほど猛然とアタックしてくる。だが、エサ釣りとなると一転して臆病な乙女のように恥ずかしげにエサをちょっと触っては離し、ちょっと触ってはかじり、最後には狡猾な年増女のように、釣り師にはわからないうちにエサをかすめ取っていく。
 さらにヘンなのは、全員が水面方向に向かって立って泳ぐことだ。全員といったのは彼らは群れで行動することが多いから。
 細長い文字通り太刀のような光る魚体をもったタチウオたちが、みんな整然と立ち泳ぎしている。 ~中略~
 ともかく、そのどう猛な牙と、どこかイッちゃってる焦点の合わないまん丸な目がやっぱりヘンな魚だ。
 ヘンといえば、その食味。塩焼きにしてこんなに美味しい魚はない。脂がジュージューと滴り落ちてこんがりときつね色になった身にかぶりつくと、塩味の効いた上質な脂の甘みが広がる。刺身、煮付け、唐揚げでも美味しい。まったく外観とは合わない旨さだ。

つり道楽
嵐山 光三郎 (著)
光文社 (2013/4/11)
P54

つり道楽 (光文社文庫 あ 5-5)

つり道楽 (光文社文庫 あ 5-5)

  • 作者: 嵐山 光三郎
  • 出版社/メーカー: 光文社
  • 発売日: 2013/04/11
  • メディア: 文庫

北九州市門司区

平成の釣り道楽心得

そもそも
江戸時代、一番人気の道楽は釣りであった。
しかし、五代将軍徳川綱吉より「生類憐みの令」が出されると、釣りは全面禁止となり、家で飼っている金魚銀魚も放された。
~中略~
 綱吉バカ殿が死んだので、また釣りが復活してめでたく釣り道楽は今日に至るのである。
 平成の釣り道楽心得は、
①気のあう友人と行く
②必ず前泊して休養をとる
③釣り宿での歓談
④本番の釣り(七匹が目安)
⑤釣った魚を調理する
の五点に要約される。
 ねらった魚を釣るのは愉(たの)しいが、やたらと釣ればいいというものではない。
釣りすぎて資源を減らすのはよくない。
~中略~
 これにより、前記の五ケ条に加え、
⑥前夜飲みすぎない
 を付け加えることにする。

つり道楽
嵐山 光三郎 (著)
光文社 (2013/4/11)
P7

つり道楽 (光文社文庫 あ 5-5)

つり道楽 (光文社文庫 あ 5-5)

  • 作者: 嵐山 光三郎
  • 出版社/メーカー: 光文社
  • 発売日: 2013/04/11
  • メディア: 文庫

2025年4月26日土曜日

心房細動リスク年齢

以前は、70歳代から「心房細動リスク年齢」と言われていましたが、 吹田研究の結果を見ると、若年者に比べて60代から心房細動の発症頻度が10倍以上増えているので、60歳以上を「心房細動リスク年齢」といっても良いのかもしれません。
 2018年の人口統計では、60歳以上の国民の34.5%です。これは、4千万人強に相当します。

心房細動のすべて ――脳梗塞、認知症、心不全を招かないための12章
古川 哲史 (著)
新潮社 (2018/12/14)
P201

心房細動のすべて ――脳梗塞、認知症、心不全を招かないための12章 (新潮新書)

心房細動のすべて ――脳梗塞、認知症、心不全を招かないための12章 (新潮新書)

  • 作者: 古川 哲史
  • 出版社/メーカー: 新潮社
  • 発売日: 2018/12/14
  • メディア: 新書

北海道 旭山動物園

脳卒中

P113
脳卒中はわたしたちの社会で、最も人を無力にする病です。そして右脳より左脳のほうで、四倍以上の確率で脳卒中が起きており、言語障害の原因になっています。

P176
「脳卒中の後、六ヶ月以内にもとに戻らなかったら、永遠に回復しないでしょう!」  耳にたこができるほど、お医者さんがこう口にするのを聞いてきました。でも、どうかわたしを信じてください、これは本当じゃありません。

P314
脳卒中という言葉は、酸素を脳細胞に運んでいる血管に問題があることを指しており、基本的に二つのタイプがあります。
虚血性(きょけつせい)(住人注:脳梗塞)と出血性です。
 全米脳卒中協会によれば、虚血性脳卒中は全体の脳卒中のほぼ八三パーセントを占めています。~中略~
 出血性脳卒中は、血液が動脈から漏れて脳に流れ込むときに起こります。脳卒中全体の一七パーセントが出血性です。
ニューロンにとって、血液との直接的な接触は有害ですから、どんな血液の漏れ、あるいは動脈瘤(りゅう)の破裂も、脳に破壊的な影響を与えてしまいます。

奇跡の脳―脳科学者の脳が壊れたとき
ジル・ボルト テイラー (著), Jill Bolte Taylor (原著), 竹内 薫 (翻訳)
新潮社 (2012/3/28)

奇跡の脳―脳科学者の脳が壊れたとき (新潮文庫)

奇跡の脳―脳科学者の脳が壊れたとき (新潮文庫)

  • 出版社/メーカー: 新潮社
  • 発売日: 2012/03/28
  • メディア: 文庫

北海道 旭山動物園

虚血再潅流障害

脳や心臓の動脈がつまっても、即座に梗塞になってしまうわけではありません。ですから、早いタイミングで血流を再開させてやると、梗塞を防ぐことができます。そのために、血栓の酵素で溶かしてやる(血栓溶解療法)、あるいは、カテーテルで血管を拡げてやる、という治療法がおこなわれます。血流を再開させることができたらめでたしめでたし、と思われるかもしれません。が、そうは問屋が卸しません。
再開通することによって、さらに細胞に障害が生じることがあるのです。それが、虚血再潅流障害です。
 どうしてそのようなことが生じるのでしょう?再開通させると、それが目的なのですから当然なのですが、酸素が供給されるようになります。酸素が供給されると活性酸素の産生も増えて、その活性酸素が細胞障害をひきおこしてしまいます。
さらに悪いことに、低酸素によって痛んだミトコンドリアでは、活性酸素ができやすくなっています。
もう1つ、血流に乗って、白血球のような炎症細胞がやってきます。先に書いたように、炎症反応は、壊死の細胞を消化したり貪食したりするのに必要な反応なのですが、まちがえて正常な細胞にも障害をあたえてしまうこともあるのです。
 昔は、血管を再開通させるような治療法はありませんでしたが、あたらしい治療法が開発されて、あらたな病態が生じたという例です。よかれと思ってしたことでも、予想外の副作用が生じてしまうことって、医学だけでなく、日常生活でもけっこうありがちなことかもしれません。

こわいもの知らずの病理学講義
仲野徹 (著)
晶文社 (2017/9/19)
P069

こわいもの知らずの病理学講義

こわいもの知らずの病理学講義

  • 作者: 仲野徹
  • 出版社/メーカー: 晶文社
  • 発売日: 2017/09/19
  • メディア: 単行本

北海道 旭山動物園

血液をサラサラにする薬

P131
 血液が固まることを「凝固」、血液が固まってできたものを「血栓」、これがはがれて血流にのって流れて行って到着先の血管に詰まったものを「塞栓」といいます。

~中略~
 血液をサラサラにする薬は、この血液の凝固を抑制して血栓ができるのを防ぐ薬です。  血栓と一括りに呼びますが、血栓には動脈の中にできるものと静脈の中にできるものがあります。これらは性質が違うので、予防する薬も違うものが使われます。
 動脈にできる血栓を予防する薬は、「抗血小板薬」と呼ばれるものが使われます。皆さんが耳にしたことがあるとすると、アスピリン(商品名アスピリン、バファリン)でしょう。これは、心筋梗塞やアテローム血栓性脳梗塞など動脈に血栓が詰まることによっておこる病気の予防に使われます。
 一方、静脈にできる血栓を予防する薬としては、「抗凝固薬」と呼ばれる薬が使われます。皆さんが聞いたことがあるとしたら、ワルファリン(商品名ワーファリンなど)ではないでしょうか?これは、下枝静脈の血栓が肺に飛んで行って起こる肺塞栓、俗に「エコノミー症候群」などと呼ばれる病気の治療にも使われます。
~中略~
したがって心房細動に合併する血栓の予防には血流の遅いところにできる血栓を予防する後者の抗凝固薬(ワルファリン等)が使われます。

P147
ワルファリンは正しく使っていても生活環境の変化によって変動が激しいので、効果不足になって脳梗塞が起きたり、逆に高価が強くなりすぎて副作用の出血が起きることがあります。
 そこで、多くの製薬会社が化学合成によってワルファリンの欠点をもたない新しい抗凝固薬の開発に着手しました。
2011年のダビガトラン(商品名プラザキサ)を皮切りに、リバーロキサバン(商品名イグザレルト)、アピキサバン(商品名エリキュース)、エドキサバン(商品名リクシアナ)の4種類が次々に発売されました。これらを総称して直接経口抗凝固薬(長ったらしいので、略してDOAC[ドアックと発音します])と呼びます。
「直接」という言葉がついているのは、ワルファリンのようにビタミンKに作用することで、間接的に凝固因子の働きを抑えるような回りくどい作用でなくて、凝固因子の働きを直接的に抑えるからです。

P154
 DOACの作用時間が短く飲み忘れが許されないこと、一方でワルファリンでは有効量と中毒量の隔たりが狭くて、容易に顆状あるいは不足になることは、高齢の患者さんの場合は心配の種です。というのは、最近一人暮らしのご老人が増えており、また心房細動では認知症の発生率が高いので、薬を飲み忘れること、あるいは飲んだかどうかわからなくなって間違って2日分飲んでしまうことが、しばしば起こるからです。このような薬の服用が難しそうな患者さんに、ワルファリンあるいはDOACを処方してよいものかどうかは、医者としていつも頭を悩ませる問題です。

P155
 抗凝固薬は、出血が起きた場合、血液を固まりにくくする薬であって、出血を起こしやすくする薬ではありません。なので、もともと出血が起こりやすい素地があるところに出血が起こります。
例えば、歯槽膿漏があると、歯を磨く際に血が出ることがあります。また、痔があると便に血が混じることがあります(下血)。このような出血は小出血と呼んでいます。小出血は抗凝固薬によってひどくなることがあるのですが、よっぽどひどくならない限り抗凝固薬の内服は続けてもらうことが普通です。なぜなら、やめることによって起こる脳梗塞の方が問題が大きいからです。

 

P161
 ワルファリンあるいはDOACで抗凝固療法を行っている人で、しばしば問題となるのが、抜歯や胃カメラなどの内視鏡検査をするとき、これらの検査を受けるときには1週間前からワルファリンを中止しましょう、とされていました。~中略~
 抜歯や胃カメラなどでワルファリンを中止した人で、脳梗塞の発症率を調べた研究が発表されました。それによると、わずか2週間の間になんと1%もの人が脳梗塞を発症することが分かりました。
 もし歯医者さんにかかって、「抜歯が必要ですが、1%の確率で脳梗塞になりますけどいいですか?」と言われてワルファリンをやめて抜歯する人がどのくらいいるでしょうか?なんか胃がもたれるなと思って病院にかかったら、「胃カメラをしましょうか。でも2週間のあいだに1%の確率で脳梗塞になりますけどいいですか?」と言われて、「はい、問題ないです。胃カメラしてください」という人はどのくらいいるでしょうか?
 そのような理由から、今では抜歯はワルファリンやDOACを服用したまま行います。

心房細動のすべて ――脳梗塞、認知症、心不全を招かないための12章
古川 哲史 (著)
新潮社 (2018/12/14)

心房細動のすべて―脳梗塞、認知症、心不全を招かないための12章―(新潮新書)

心房細動のすべて―脳梗塞、認知症、心不全を招かないための12章―(新潮新書)

  • 作者: 古川哲史
  • 出版社/メーカー: 新潮社
  • 発売日: 2018/12/21
  • メディア: Kindle版

北海道 旭山動物園

不整脈

 心臓は、正常では規則正しく一定のリズムを刻んでいます。この正常のリズムを専門用語で「洞調律」といいます。これは、正常の脈が洞結節と呼ばれる心臓の上部に位置するこぶのような構造(これを「結節」といいます)から始まるからです。(図1)。
このリズムの規則が崩れた状態をすべて「不整脈」と呼びます。心房細動は不整脈の1つです。

心房細動のすべて ――脳梗塞、認知症、心不全を招かないための12章
古川 哲史 (著)
新潮社 (2018/12/14)
P13

心房細動のすべて ――脳梗塞、認知症、心不全を招かないための12章 (新潮新書)

心房細動のすべて ――脳梗塞、認知症、心不全を招かないための12章 (新潮新書)

  • 作者: 古川 哲史
  • 出版社/メーカー: 新潮社
  • 発売日: 2018/12/14
  • メディア: 新書

アトピー

P110
私がかつて勤めていた大学病院では、当時、奇病の研究には余念がなかったが、アトピーとわかると、研修医が当番制で務める「なんでも外来」に回されてしまい、まともな治療を受けられなかった。
 適当にステロイドの外用剤を出しておいて、それが効かなくなればもっと強いステロイドを出しておけばいい」といった具合で、どんどん症状を重症化させてしまうようなこともしばしばだった。~中略~
 街のクリニックの医師でも、皮膚科の専門知識がないにもかかわらず治療をおこなっているケースは多い。日本では、自分の専門外の分野であっても「標榜」して良いという制度になっているため、たとえば内科医であっても、「内科、、皮膚科」という看板を立ててクリニック運営することが可能なのだ。
 ~中略~ そういう医師に限って「皮膚科ではステロイドと抗真菌薬(水虫の薬)と抗生物質の軟膏のどれか適当に塗っておけば治る」と信じている。
 極端な例だと、これらを三つ混合して、「どれかの成分が効くだろう」と処方してしまうかなり乱暴な医師もいる。 ~中略~
 医師からしてこのような状態なのだから、患者さんが民間療法などに頼りたくなるのも無理はない。~中略~
 アトピーはたしかに原因が分かりにくく、治療にもかなりの時間がかかる厄介な病気だが、根気よく原因を探し出し、それを除去するという治療法を続けていけば、必ず良くなる病気である。

P195
アトピーを発症するには、大きく分けて二つ条件がある。一つは「先天的に皮膚が弱いこと」、もう一つは「アレルギーを持っていること」である。
「皮膚が弱い」とは、この場合は皮膚表面のバリア機能が弱いということである。もともとアレルギーを持っていても、皮膚のバリアがしっかりしていれば、アトピーにはならず、アレルギー反応は、鼻水や咳などの別の形でであるだけである。
 また、アトピーの人は「アレルギー体質」であるともいえる。
~中略~
 皮膚のバリアが弱くても、アレルギー体質でなければアトピーにならない。
 ただし、もともとアレルギーのなかった人が、皮膚のバリア機能が低下したことで不幸にしてアレルギーを引き起こしてしまい、結果アトピーになってしまうというケースがあることが最近わかってきた。

P195
蛇足になるが、アトピーの患者さんに、「掻いてはいけないので叩きなさい」と指導する医療機関がある。これはまったくの誤りで、これまでにも述べたようにアトピーの人は皮膚が弱く壊れやすい、つまり細胞間の接着因子の働きが弱いため、特に顔がかゆいからといって顔面を叩き続けると、網膜剥離を起しやすく失明にもつながることがあるので、絶対にやめてほしい。

P148
 アレルギーやかゆみのメカニズムを理解した医師であれば、原因療法をきちんとおこなったうえで、症状が悪くなったときは上手にステロイドをい使う治療もおこなう。
 もちろんその患者さんが過去に他の病院などで強いステロイドをい処方されているケースもあるだろう。
そのような場合、症状を診ながら徐々に弱いものに変えたり、使用回数を減らしたりしていく。
 うまれつきの乾燥しやすいデリケートな肌に対して、冬場保湿剤を塗る程度で 日常生活にはまったく支障をきたさないようにする。そこが治療のゴールであり、すべてのアトピー治療は、そこを目指さなくてはならないのだ。

P191
洗剤や柔軟剤のかぶれをアトピーと誤診されている乳児は多い。
 現代の子供の皮膚は、昔に比べてアレルギーを起しやすくなっている。そのバックグラウンドには、抗生剤の乱用による腸内環境の悪化、水道水の塩素濃度、周囲の環境因子などが少なからず絡んでいる。また、石鹸などの洗浄力が強くなっているにもかかわらず、日本人特有のきれい好き習慣があいまってバリア機能は逆に低下し、このような事態が増えているのだ。

 

P180
 皮膚科の病気、特にアトピーなどのアレルギーは、その人の日常の生活環境や過ごし方が治療効果を左右する場合が多い。この医師と一緒に治していくと決めたら、その指導をできるだけ守ってほしい。それが治癒への近道なのである。


なぜ皮膚はかゆくなるのか
菊池 新(著)
PHP研究所 (2014/10/16)

なぜ皮膚はかゆくなるのか (PHP新書)

なぜ皮膚はかゆくなるのか (PHP新書)

  • 作者: 菊池 新
  • 出版社/メーカー: PHP研究所
  • 発売日: 2014/10/16
  • メディア: 新書

 

2025年4月25日金曜日

質問する会社

 あなたの会社がイノベーションに熱心であってほしいなら、「答える会社」ではなく、「質問する会社」になることだ。
会議の席でいい質問を投げかけてみよう。問うべき疑問を提起した部下にはご褒美を与えよう。
誰も口にしない質問を発して、あなたの立場をはっきりさせる勇気を持つのだ。
 あなたや会社のダメージとなるのは、あなたが「知らない」事柄ではない。あなたの身を滅ぼすのは、あなたが「問わずに済ませた」事柄なのだ。

魂を売らずに成功する-伝説のビジネス誌編集長が選んだ 飛躍のルール52
アラン・M・ウェバー (著), 市川裕康 (翻訳)
英治出版 (2010/2/25)
P64

魂を売らずに成功する-伝説のビジネス誌編集長が選んだ 飛躍のルール52

魂を売らずに成功する-伝説のビジネス誌編集長が選んだ 飛躍のルール52

  • 出版社/メーカー: 英治出版
  • 発売日: 2010/02/25
  • メディア: 単行本(ソフトカバー)

 

 ビジネスの世界でも、「なぜ?」という問いを繰り返して相手の意向を引き出しなさい、というアドバイスはよく行われているようです。しかし、私の知る限り、それを実践している人は案外少ないように思います。
 合意案が長持ちするかどうかは、相手の真情を汲み取ったうえで、相手の納得のいく案に落とし込まれているか否かできまります。そのためには「What?」(何が欲しいのですか? 何が目的ですか? 何が問題ですか?)だけでなく、「Why?」(どうして提案を吞めないのですか? どうしてこのようなことになってしまったのですか? どうしてそのような主張をされるのですか?)についても、相手の話をじっくり聞かなければなりません。
 私の調停の特徴は、「なぜ?」と何度も相手に踏み込み、本当に望んでいることは何かをつかみ、そこから解決策を考えるところにあります。

交渉プロフェッショナル
島田 久仁彦 (著)
NHK出版 (2013/10/8)
P78

 

交渉プロフェッショナル 国際調停の修羅場から (NHK出版新書)

交渉プロフェッショナル 国際調停の修羅場から (NHK出版新書)

  • 作者: 島田久仁彦
  • 出版社/メーカー: NHK出版
  • 発売日: 2013/10/11
  • メディア: Kindle版
山口県長門市 元乃隅稲荷神社

幕府という政体

「水師提督(クーパーのこと)の申されることはよくわかった。しかしわが藩がおこなった攘夷(住人注;下関戦争 )はわが藩の意志でおこなったものではない。朝廷と幕府の命令でおこなったのだ。 わが藩は単に鉄砲に過ぎない。射手は幕府である。その三百万ドルは、幕府が支払うべきものである。
 晋作がいうことに一理あることは、日本政府の政情にあかるいサトーにはわかっている。
~中略~

 しかも、(住人注;サトーが晋作を評して)魔王らは用意のいいことに、朝廷と幕府の攘夷命令書をちゃんともってきていて副使の渡辺という者がそれを卓上に置いた。

「よかろう、償金の件は幕府に交渉する」
 と、クーパーがあっさりいったのは、幕府なら取はぐれがないとみたのである。
幕府はこれをいやとは言えないということは、英国人たちはよく知っていた。この日本国の政府というのは奇妙な体制で、じつは徳川家という「家」なのである。 徳川将軍は中国やヨーロッパのような皇帝ではないということは、サトーの洞察によって英国だけはそう解釈をしていた(これとは逆にフランスはあくまでも徳川将軍をその崩壊まで皇帝と見ており、この政体解釈の差が、対日外交における英国の勝利―フランスに対して―をもたらした。
~中略~
「それは長州藩がやったことで、幕府にはなんの責任もない」 といってしまえば、長州藩は独立国家であることになり、またその解釈をひろげれば三百諸侯はみな独立国家であるということになって、幕府は日本唯一の正式政権であるという大きな建前がくずれてしまう。

世に棲む日日〈3〉
司馬 遼太郎 (著)
文藝春秋; 新装版 (2003/04)
P217

世に棲む日日(三) (文春文庫)

世に棲む日日(三) (文春文庫)

  • 作者: 司馬遼太郎
  • 出版社/メーカー: 文藝春秋
  • 発売日: 2014/12/12
  • メディア: Kindle版

 

山口県下関市 関門海峡

本音を引き出せ

 普通の人でも、いきなり「あなたの希望は何ですか?」と尋ねられて、すべてを曝(さら)け出すようなことはしないでしょう。それが本音であればあるほど、人に言うのは恥ずかしいという気持ちもあります。
真意というのは言いづらいものです。しかし、言いづらい本音をどれだけ吐き出してもらえるか、本当の願いをどこまで聞き出すことができるかが、粉争調停のの場では死活的に重要な問題なのです。
 相手もそのことはよくわかっているはずです。「こいつは話しづらいことをうまく聞きだしてくれる。そして真意を汲んで物事をまとめてくれる」と感じてもらえさえすれば、合意もそれを長持ちさせることも、そう難しいことではありません。

交渉プロフェッショナル
島田 久仁彦
(著)
NHK出版 (2013/10/8)
P80

交渉プロフェッショナル 国際調停の修羅場から (NHK出版新書)

交渉プロフェッショナル 国際調停の修羅場から (NHK出版新書)

  • 作者: 島田久仁彦
  • 出版社/メーカー: NHK出版
  • 発売日: 2013/10/11
  • メディア: Kindle版

 

京都市

2025年4月24日木曜日

対日批判の政治利用

 さて、井上博道君である。
 かれは駕洛国の王陵に感動し、そのまま陵域を去りかね、この異国の古代王の霊をなぐさめるべく施餓鬼のお経をよんだほどに心の優しい人だが、かれの優しさは、この慶州仏国寺の松林ではさんざんであった。
「なぜ写真をとるのか」
 と、歌垣のなかから、この一群の指導者らしい人物から突っかかられたということは、さきにのべた。
その人物だけがこの松林のふんいきとはかけはなれていて、かれだけが背広を着、彼だけが工業高校出らしい風貌をもち、かれだけが井上君に対して細かくつめたく光る視線を絶えずむけていたらしい。
 それまで井上君は、あちこちの輪にまじって踊っていたというのである。井上君はすぐ踊りをおぼえた。
たれもこのまるい肉付きの日本人(イルボン・サラム)を快く受け入れ、一つの空気のなかで踊った。
 ところが、背広氏だけはゆるさなかった。なぜなら踊りに熱中していた井上君がときどき写真をとることを思い出し、ときどきシャッターを押した。それが、背広氏の気に障ったのである。
「また日本で悪宣伝をするつもりか」
 と、眼球まで赤く充血させて、背広氏は怒ったのである。すべて韓国語であった。勇敢なミセス・イムが足早に背広氏に近づき、語尾の美しいソウル言葉でなにを誤解しているのか、ときいた。
「誤解なんぞはしとらん」
と、私は韓国語がよくわからないから、かれの血相からみてそう叫んでいるようであった。
あるいはもっとひどいことをいっているのかもしれない。 背広氏は、かつての大統領李承晩(イ・スンマン)
の反日教育で徹底的にきたえられた世代に属しているようであり、一個の観念が、井上君をみることによって爆発したらしい。
~中略~
 といって、井上君がべつに不都合なふるまいをしたわけではない。ただ背広氏の頭には強烈な日本人観が充満しており、その観念が、たまたまこの大田舎で日本人を見たということでごく図式的に亀裂し、導火線に火がつき、ついに井上君のシャッター音を聞くに及んで大爆発を遂げてしまったというわけで、この種の観念による大爆発という精神体質は、おなじ東アジアでも漢民族にはあまりなく、おたがいツングース人種に多い。
 背広氏は、五度は繰りかえした。井上君を罵倒すると踊りの輪にもどってゆき、またやってきてはどなるというふうで、そういう所作を繰りかえすうちに口もとがゆがみ、顔がいびつになってしまったようであった。
~中略~
 ところがその背広氏が井上君に噛みついている間、踊りの中にいる杖鼓たたきのえびす顔の男性が、井上君のほうにむかって、何度もウィンクを送っていた。
 ―構うな、気にしなさんなよ。
 という意味であることは、われわれによくわかった。同時に私は、
「これはどうやら日韓問題ではありませんね」
と、ミセス・イムにいった。国内の選挙問題であるようで、たまたま私どもがこの松林にいるこの時期が国会議員選挙の真最中だったのである。背広氏はおそらく某候補の運動員として部落中の有権者をひき具(ぐ)してこの松林に野遊びにきているというふうであり、井上君にどなることによって有権者たちになにがしかの感銘をあたえようとしている様子であった。


街道をゆく (2)
司馬 遼太郎(著) 
朝日新聞社 (1978/10)
P103

街道をゆく2

街道をゆく2

  • 作者: 司馬遼太郎
  • 出版社/メーカー: 朝日新聞出版
  • 発売日: 2014/08/07
  • メディア: Kindle版

 朴槿恵韓国大統領は、「日本にされたことは千年忘れない」と宣言している。本気ではなかろう。一方で、自分が加害者の側に立つベトナムでは口をつぐむ。これに対して日本の論者は「ダブルスタンダードだ」と批判する。事実である。
 しかし、事実を突きつけたくらいで歴史問題は解決すると思っているのが、日本人の甘さである。韓国人が改心するとでも思っているのか。~中略~
 朴槿恵に限らず、事あるごとに「歴史問題」「恨み」を持ち出す「恨(ハン)の国」とも言われる韓国にしても、「千年恨む」などと本気で考えているとは思えない。単なるおおげさな比喩であろう。
 日本人は本気で「七百年恨み続ける」ことの意味をわかっていない。韓国人もまた、それを理解していない。いずれも恨みの深刻さを認識していないのだが、幼稚な発言を繰り返す韓国を甘やかしている日本の方こそ問題である。
韓国のほうに非があり、韓国のほうが愚かなのだが、それを咎め立てできない日本のほうが愚かであり非がある、とされるのが国際社会である。

日本人だけが知らない「本当の世界史」
倉山 満 (著)
PHP研究所 (2016/4/3)
P37

日本人だけが知らない「本当の世界史」 なぜ歴史問題は解決しないのか (PHP文庫)

日本人だけが知らない「本当の世界史」 なぜ歴史問題は解決しないのか (PHP文庫)

  • 作者: 倉山 満
  • 出版社/メーカー: PHP研究所
  • 発売日: 2016/04/03
  • メディア: 文庫
北海道 上野ファーム

神社仏閣に行こう

P131
 かねがね、日本人の心の源泉とは何かと考えていたので、古寺、名刹(めいさつ)に、いまも生きつづける不思議なエネルギーを体感してみたい、それが「百寺巡礼」のはじまりでした。
 寺の庭に立ち、堂宇(どうう)の中にはいり、仏像と対面する。そこにはきっと、日本人の精神や生命に、脈々と流れる魂の原型があるに違いない。それに触れることができるのではないかと思ったのです。

P132
 はじめは、不安を感じながらスタートでしたが、お寺を巡るたびに、私の心身が充実してきました。五十代から六十代までの体の不調が、少しずつなくなり、回を追うごとに、気力体力が整ってくる感じがしました。
 私は、これは神社仏閣がもつ不思議なエネルギーで癒されたいのだといい、みんなにも巡礼をすすめました。
「信仰心からではなく、ただの物見遊山でもいいから、神社仏閣に行くといいですよ。そこは古来、よい気が流れる、いやしろ地なのだから」と。

百歳人生を生きるヒント
五木 寛之 (著)
日本経済新聞出版社 (2017/12/21)

百歳人生を生きるヒント

百歳人生を生きるヒント

  • 作者: 五木 寛之
  • 出版社/メーカー: 日経BPマーケティング(日本経済新聞出版
  • 発売日: 2017/12/01
  • メディア: 新書

奈良県 山上ヶ岳 大峰山寺

戦いにロマンはない

P21
 鎌倉初期は「武芸精神の高潮期」と位置づけられ、主従道徳や名をたっとぶこと、恥を知ること、不言実行、思慮のあることなどを徳目とする、鎌倉武士の精神生活が指摘 されてきたのである(河合正治「鎌倉武士団とその精神生活」)。

 しかし、このようにロマン化された源平合戦のイメージは正確なのだろうか。先に揚げた「今昔物語集」(住人注;十二世紀段階)ですら「昔の兵、かくありける」と記し、すで に過ぎ去った時代の、多分に理念化された「兵」像であることを明言している。
 とすれば、「今昔」から半世紀以上経た、地承・寿永内乱期の源平合戦についてなおさらのこと、通説的イメージを疑い、実態を問いなおすことが必要なのではないだろう か。

P29
つまり当時(住人注;一条天皇の時代(在位九八六~一〇一一)の認識では、武士は上横手雅敬(うわよこてまさたか)氏の指摘のように「一種の学業乃至は職業(職能)で あり」、「特殊な職能者称したもの」であった(上横手雅敬「平安中期の警察制度」五三一ページ)。

P112
 いずれにせよ、この段階における戦場では、このような人夫的兵士、工兵隊の存在は不可欠だったわけであり、攻撃の主力をなす騎馬隊も、こうして敵が構築した堀を埋め、逆茂木を取り除くような工兵隊が味方にあってはじめて、ほんらいの機動性・攻撃性を発揮することができたのである。
~中略~

そして彼らは直接戦闘員ではないものの、たんなる武器・兵粮の運搬要員でもなく、戦争を全体として遂行するうえできわめて重要な軍事的意義を担っていた点を強調し ておきたいと思う。

 

P136
 治承・寿永内乱期の路地追捕が、たんなる場あたり的な掠奪ではなく、遠征をおこなうにあたり当初から予定されていた「合法的」軍事行動だったとすると、当然この時期 の軍隊にも、兵粮の刈り取りや追捕活動を専門的におこなう補給部隊が組織されていたはずである。
~中略~
 最近、藤木久志氏は、戦場は端境期の飢えた村人たちのせつない稼ぎ場であったとして、戦国期の傭兵=出稼ぎ兵の実態を解明しているが(藤木久志「雑兵たちの戦場」)、この治承・寿永内乱期にも、まさに戦場に動員された村人たちが、軍隊の駐留地や路地地域の村人たちの資財を掠奪するという事態がつくりだされていたのである。
~中略~
 住宅の追捕や牛馬の掠奪とともに、ここに「妻子を追い取る」と見えるのは、藤木氏が指摘したとおり、戦場での人取り=奴隷がりが、軍勢の追捕活動の一環としてこの時期にも確実におこなわれていたことを示すものであろう。

源平合戦の虚像を剥ぐ 治承・寿永内乱史研究
川合 康 (著)
講談社 (2010/4/12)

源平合戦の虚像を剥ぐ 治承・寿永内乱史研究 (講談社学術文庫)

源平合戦の虚像を剥ぐ 治承・寿永内乱史研究 (講談社学術文庫)

  • 作者: 川合 康
  • 出版社/メーカー: 講談社
  • 発売日: 2010/04/12
  • メディア: 文庫

 

法然六三歳の時、京都東山にあった庵を一人に少年が訪ねてきた。出目を秘め通し追っ手の目を掻い潜ってきたのであろう師盛の子、後の源智(住人注;平師盛のとしてこの世に生を受けたのは、木曽義仲に敗れた平氏が都落ちを始めた頃、すなわち寿永二年(一一八三)祖父は重盛。)だった。 一三歳になっていた。
 少年は、九条兼実の弟で前年に天台座主となった慈円の許へ送られ、出家。しかし、ほどなく法然の室に帰り、勢観房源智と僧名を授けられ、修学に励むことになる。
~中略~

(住人注;昭和五四年玉桂寺の小堂で見つかった仏像の胎内にああった文書)「弟子源智、敬って三法諸尊に白(もう)して言(もう)さく。
恩の山尤(もっと)も高きは教道の恩、
徳の海尤も深きは厳訓の徳なり・・・
ここを以て三尺の阿弥陀仏を造立し、先師の恩徳に報ぜんと欲す」
この阿弥陀如来像は。源智が師法然への報恩謝徳の念を込め、一周忌供養のために造ったものだったのだ。
~中略~

 (住人注;仏像の胎内にああった文書に出てくる人名によると)それにしても、一年もたたないうちに、数万もの膨大な人々との結縁を成し遂げたことは驚愕するしかない。
 そこに連なる名を読むと、さらに驚きは増幅する。平氏、源氏の名が認められたからだ。清盛、頼朝もである。すでに没した人物の名さえあるのは、追善供養の意であったに相違ない。
 平氏の子・源智が源氏の供養?
 きっと源智の心には、怨親相食む娑婆世界の酷さと悲哀というものが、幼い時から同居していたであろう。
~中略~

 法然は九歳の時、武士の業により父親を亡くしている。
臨終の枕辺で父は、「仇討ちはやめよ。さらなる恨みを生むだけだ。出家し、我が菩提を弔うべし」と遺言。法然の求道と思想には、この出来事が大きく影響している。
 その怨親を超え、平等にもたらされるべき仏の慈悲―これこそまさに、源智自身、身をもっての願いであり、師から相承したおしえだった。

仏像探訪 第3号 平家物語ゆかりの名刹を訪ねる
エイ出版社 (2011/12/19)
P003

 

仏像探訪 第3号 平家物語ゆかりの名刹を訪ねる (エイムック 2307)

仏像探訪 第3号 平家物語ゆかりの名刹を訪ねる (エイムック 2307)

  • 出版社/メーカー: エイ出版社
  • 発売日: 2011/12/19
  • メディア: 大型本
京都府 法然院