2025年3月1日土曜日

アメリカでは自立が求められる

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「アメリカ人にとって最大の恐怖は、老いて痴呆になってナーシングホームに追いやられること」とは、わたしが在米中よく聞いたせりふです。
当時はその含意を十分には理解できませんでしたが、いま考えると、アメリカ社会で自立性を失うことは、即、死を意味するからだと思われます。
 日本でも、老いて体力知力が衰え、介護老人福祉施設(特養など)に入所する人が増えています。二〇〇〇年秋の調べで、施設数は約四五〇〇、在所者数は三〇万人です。
そのうち死亡による退所者の平均在所日数は一六〇〇日ですから、施設内での余命は約四年半になります。入所者の大部分は認知能力が衰えた人と考えてもよいでしょう。
 ベティ・フリーダンによれば、アメリカでは、八六年にナーシングホームで息を引き取った人の四分の一は入所して一ヶ月以内、半分ほどが六ヶ月以内でした(註⑪)。厳密な比較はできませんが、日本とは大差があります。

P55
 要約しますと、「自立性尊重」という倫理意識がもっとも色濃いアメリカ社会では、いったん自立性を失うと、生命の「生かされる」という側面は無視されたまま、生存の場から消えていくように見えます。

「痴呆老人」は何を見ているか
大井 玄 (著)
新潮社 (2008/01)

「痴呆老人」は何を見ているか (新潮新書 248)

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  • 作者: 大井 玄
  • 出版社/メーカー: 新潮社
  • 発売日: 2008/01/15
  • メディア: 新書

 

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