2024年11月28日木曜日

三三 子曰わく、知はこれに及ぶも、仁これを守る能わざれば、これを得ると雖も必ずこれを失う。


知これに及び、仁能くこれを守るも、荘以てこれに涖( のぞ)まざれば、則ち民は敬せず。


知これに及び、仁能くこれを守り、荘以てこれに涖むも、これを動かすに礼をもってせざれば、未だ善( よ)からざるなり。


~中略~


「知識で、その地位までゆきつくことはできるが、仁徳によってその地位を守ることができないと、きっとその地位を失うはめになる。
知識でその地位にゆきつき、仁徳で守っても、おごそかに地位についていないと、人民は敬意をはらわない。
知識でその地位にゆきつき、仁徳で守り、おごそかに地位についていても、人民を動かすのに礼の定めにしたがわないと、まだじゅうぶんではないのである」

( 荘)厳格な態度。おごそかに。
( 涖む )定められた位置につくこと。ここでは位について人民に対すること。
衛霊公篇


        論語

           孔子 (著), 貝塚 茂樹

          中央公論新社 (1973/07)

          P452

論語 (中公文庫 D 3)

論語 (中公文庫 D 3)

  • 出版社/メーカー: 中央公論新社
  • 発売日: 1973/07/10
  • メディア: 文庫

次に「礼を知らざれば以て立つこと無きなり」。
 「礼」とは何か。およそ存在するものは、すべてなんらかの内容をもって構成されている。
その全体を構成している部分と部分、部分と全体との円満な調和と秩序、これを「礼」という。

知命と立命―人間学講話
安岡 正篤 (著)
プレジデント社 (1991/05))
P110

知命と立命―人間学講話

知命と立命―人間学講話

  • 作者: 安岡 正篤
  • 出版社/メーカー: プレジデント社
  • 発売日: 1991/05/01
  • メディア: 単行本

P51
 孔子にとって、祖先祭祀はそれをとりおこなう人におよぼす効果という点で、おろそかにできないものだった。儀礼行為が本当に死者に影響を与えたかどうかを問うことは、まったくの的はずれだ。
家族が供物を捧げる必要があったのは、祖先がそこにいるかのようにふるまうことで家族たちの内面に変化がもたらされるからだ。
 祭祀は生者の互に対する感情も変容させた。死はどんなときも残された者たちの人間関係に変化を生じさせる。子ども時代をすぎて長くなりをひそめていた兄弟同士のライバル意識が再燃する。親に逆らっていた息子がいきなり名ばかりの一家の長になり、家族の不安をかき立てる。けれども、儀礼のなかでは、全員がなんの不和もないかのように家族内での新しい役割を演じる。
 礼の力は、現実の世界といかに明らかに異なっているかという点にある。

P55
 わたしたちはなぜ、「お願い」や「ありがとう」を言うのだろう。
 三世紀前、ヨーロッパの社会や社会制度上の関係はまだ世襲による階層制度に完全に規定されていた。農民が地主に話しかけるときは丁重なことばづかいをしたし、貴族が農民にことばをかける場合は、それとまったく異なることばづかいをした。
 都市で市場が発展しはじめると、さまざまな階級出身の人間がこれまでにない新しい形で交流するようになった。まったく対等でないはずの売り手と買い手が、対等であるかのようにふるまう儀礼が発達した。それが「お願い」と「ありがとう」のやりとりであり、参与者が見せかけの対等性を経験できる一瞬だった。

P60
孔子はなにも、すっきり片づいているのが好きだから敷物を真っ直ぐに整えたわけではない。孔子は、いっしょにすわる人たちのために場所を整えるような一見ささいに思える行為によって、普段と異なる環境がつくり出され、その場にいる人びとに大きな影響をおよぼしうることを理解していた。敷物の礼の現代版は、夕食どきの作法だろう。

P66
 いくら自分探しをしたところで、単一の真の自己などというものは存在しない。自分自身の内にも、ほかの人の内にもない。
心理学者であり哲学者であったウィリアム・ジェームズ(一八四二~一九一〇)はかつて、”人は、自分を知る人の数と同じだけの社会的自己をもつ”と書いた。驚くほど孔子的な意見だ。
人にはそれぞれ無数の役割があり、役割同士が対立することも多いうえ、それをあやつる手綱さばきを教えてくれる規範もない。
礼の実践だけが手綱さばきを身につける助けになる。

P72
人類の文明初期のころ、他人同士がばったり出くわしたとき、粗暴で敵対的な出会いのさなかであっても、ものごとがうまく運ぶ瞬間を経験することがあった(たとえば、欲しいものをただ奪い取るのではなく譲ってくれと頼むとか、だれかが苦しんでいたら見て見ぬふりをせず手をさしのべるといった単純なことを想像してもらいたい)。
人々はこうした出会いの好ましい効果に注目して繰り返しおこなうようになり、やがてそれが礼になった。 ときにたつにつれて、礼のレパートリーが増え、互いに礼儀正しくふるまうための指針となり、将来の世代にもそのように教えるための指針ともなっていった。 

ハーバードの人生が変わる東洋哲学──悩めるエリートを熱狂させた超人気講義
マイケル・ピュエット (著), クリスティーン・グロス=ロー (著), 熊谷淳子 (翻訳)
早川書房 (2016/4/22)

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