国際的競争の激化、人口減少という企業環境のもとで、低賃金労働者を求めたいという企業経営者の要望は高まっている。
一方、外国人犯罪の増加を懸念して、外国人の受け入れに対し否定的な意見を持つ国民も多い。二〇〇五年のJGSS調査(日本版総合的社会調査)によれば、「あなた(わたし)の町に外国員が増えることに反対」だと答えた日本人は六三パーセントと過半数を超えている。
競争と公平感―市場経済の本当のメリット
大竹 文雄 (著)
中央公論新社 (2010/3/1)
P202
P208
以上のように、移民が自国生まれの労働者の賃金を引き下げるか否かについては、まだ確定的な結論が出いているわけではない。しかし、単純労働の外国人労働を増やした時に、まったく同じ仕事をしている自国生まれの労働者の賃金は下がる可能性が高いことは否定できない。
議論されているのは、その程度が大きいか無視できるほど小さいか、という問題だ。
その程度を決めるのは、外国人労働者・自国生まれ労働者・資本とがどの程度補完的であるか、ということだ。また、高度の技能をもった移民が受け入れ国にプラスの影響を与えることを否定する経済学者はほとんどいない。
アメリカの研究で、移民の増加がアメリカの低学歴労働者にも大きなマイナスの影響を与えていないという結論が得られているのは、高学歴の移民労働者が多かったこと、低学歴の移民労働者とアメリカ生まれの労働者が補完的な仕事をしていることが理由だ。外国人労働者の拡大を検討する場合には、日本人労働者との代替・補完性を考慮することが必要だ。
製図室は軍艦と商船の二部にわかれていて、あわせて五十人ばかりの技術者がいた。
それらのほとんどが、まだ新規の移民だったのである。旧国籍は、ノルウェー、ドイツ、イギリス、フランスなどで、ヨーロッパの先進国の技術者のあつまりだったといっていい。
「アメリカの技術が発展したはずだ」
とは桝本(住人注;小村寿太郎の弟子ともいうべき書生の桝本卯平(ますもとうへい)(工学士・造船技師)がフィラデルフィアのクラム部造船所を訪ねたのは、一八九九年(明治三二)七月五日)は書いていないが、読んでいて当方がそのように声をあげざるをえない。
このことは、第二次世界大戦後、アメリカがドイツをはじめとするヨーロッパからの最先端の学問や技術を、人間ぐるみ吸収したのと酷似している。立場をかえてヨーロッパからの頭脳移民の側からいえば、自分たちがヨーロッパにおいて遂げられなかった志を新大陸で思いのままに伸ばしている、とも言えなくない。
当時のヨーロッパは、高い技術教育をうけたひとびとの人数にくらべて、その才能を生かす市場は小さかった。また、市場以上に大学の研究室の定員も小さかったから、それらのなかで敢為 (かんい)の精神をもった頭脳が、間断なく大西洋をわたって、可能性の大きなアメリカへ流入したのであろう。
桝本は、アメリカの力は、給料のよさと、食べものの安さと、それに自由にある、とした。
「これが米国社会の同化力の機能である」
と、書いている。
収入がふえてしかも自由なら、どんな技術者でもやってくる。
アメリカ素描
司馬 遼太郎(著)
新潮社; 改版 (1989/4/25)
P229
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