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こうした現象(住人注;大都市部の自治体における「過疎」)は、地方の大都市間でも見られる。同じ福岡県の政令指定都市であっても、北九州市は(住人注;社人研が2010年の国勢調査に基づいて予測した、2040年の人口が)19.7%も減るのに、福岡市は1.7%にとどまる。年齢別の増減まで比較すると、高齢者が大きく増える自治体、勤労世代が激減する自治体など事情はそれぞれ異なる。こうした事情を考慮せず、「大都市部と地方」といゆ単純な発想で人口減少対策を考えたのでは成果は上がらない。
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実は、ここ(住人注:東京への一極集中)でも重要な視点が欠落しがちだ。往々にして東京に住む人が今後味わう”医療・介護地獄”が忘れられるのである。これは近い将来、深刻な社会問題になることだろう。
東京一極集中の是正を考える場合、この問題の解決を避けて通ることはできない。
「2025年問題」の項でも指摘したが、東京圏の高齢者が激増するのは、経済成長期以降に上京した”かつての若者”が年齢をを重ねたことに加え、現在の勤労世代が地方の老親を呼び寄せるからだ。
~中略~
東京は、日本最大の医療集積地であるが、前述したようにビジネス中心の街づくりをしてきたため、介護を要する高齢者用のベッドが極度に不足している。仮に、高度な治療を受けられたとしても、その後、転院先や療養先に困ることになる。
同データ集によれば、介護保険施設のベッド数と高齢者住宅を合わせた高齢者向けのベッド数は、75歳以上1000人あたり100で全国の121を大きく下回る。東京23区の一部では危機的な状況にある。
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こうしたアンバランスを考えれば、退職後は東京から地方に「脱出」するのも1つの選択肢となろう。
東京一極集中と地方の人口減少という2つの課題の同時解決ともなる。人口減少時代は、国民1人ひとりにどういう老後を選ぶかを問うているのである。
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もう1つ大きく誤解されてきたことがある。「地方からの人口流入が続く大都市部では若者は増え続けている」との錯覚だ。
生産年齢人口について2010年と2015年の国勢調査で増減を比較してみると、東京都は約11万6000人減っている。国土交通省の「首都圏白書」(2017年)によれば、首都圏では2000年を境に減少を続けている。
「人口は増えているのに、生産年齢人口は減っている」というのが、この十数年の間に、東京周辺で起こっていることなのだ。この流れはますます強まるだろう。
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要するに、日本の少子高齢化と人口減少の実態は、大都市部と地方で大きく異なっているのだ。
大都市部では総人口はあまり減らず、高齢者の実数だけが増えていく。これに対して、地方では総人口は減少するが、高齢者の実数はさほど増えるわけではない。
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勤労世代が減れば、税収増も期待できず、高齢者向け政策を展開しようにも財源が追いつかない。財源問題を解決するには、自治体は税金や社会保険料のアップと、行政サービスのカットを同時に行なう「ダブル負担増」に踏み切るしかない。しかも、高齢者は長期的に増えるため、それは繰り返し行わざるを得ない。
つまり、大都市部に住み続ける限り、負担増とサービス低下に繰り返し見舞われるということだ。住民の生活水準は低下し、街そのものが活気と魅力を失う。やがて、大都市部の自治体は行き詰るだろう。
未来の年表 人口減少日本でこれから起きること
河合 雅司 (著)
講談社 (2017/6/14)
未来の年表 人口減少日本でこれから起きること (講談社現代新書 2431)
- 作者: 河合 雅司
- 出版社/メーカー: 講談社
- 発売日: 2017/06/14
- メディア: 新書