2024年12月6日金曜日

国際法

P94
 軍使に起源を求められる外交官は、軍人の派生職種であり、相互に公認し合ったスパイなのである。国際法は、スパイのような非合法な存在を否定するが、そのような非合法の存在を想定しているのである。

 また、外交言辞(げんじ)において相手の非合法的行為を非難することがあっても、そのような悪徳は当然ながら、自分も行っていなければ主権国家失格なのである。
日本人は「建前と本音を使い分ける」などと非難されるが、これこそ欧州人の「建前」による非難にすぎず、日本人だけがこのような非難をされているという時点で、彼らのほうがむしろ巧妙に使い分けていると考えるべきである。
 当時から現代まで、国際法は外交官の武器だが、軍人の論理で成立している。
国際法には、軍事的合理性を抜きにした理想など、存在しないのである。もしそのようなものが外交交渉で国際法の名の下に飛び出したとしたら、誰かが自己の利益のために言いだす場合だけであろう。
~中略~
 一方、核軍縮の理想をいかに声高に唱えようと、最強の兵器として存在意義がある以上、小国こそ生存のために開発しようと躍起になる。むしろ核兵器拡散防止条約を推進した当時の核保有国が、どの国の核武装を警戒したかを考えなければ、国際社会の実相など見えないであろう。

P108
ヨーロッパ人が誇る「文明」は、ヨーロッパ半島の内部で適用される行為規範にすぎなかった。
たとえば、ヨーロッパ王侯貴族の「決闘としての戦争」は、宣戦布告で開始された講和条約発効で終結するとした。これに違反した者は、国際法違反、すなわち文明に悖(もと)る行為として指弾された。
 しかし、ヨーロッパ域外ではこのような規範は存在しない。アフリカや中南米、アジアの有色人種は力で征服し蹂躙するだけであった。植民地化を「文明の恩恵をもたらす」と称して、現地の言語や歴史を奪い、風俗や伝統を作り替えていった。
「文明」の押しつけである。
 ヨーロッパ人の文明は二重基準であり、国際法の実態はヨーロッパ公法にすぎなかった。

 

P163
高陞号(こうしょうごう)事件で、英国の対日感情は劇的に好転する。
清国兵は開戦後、英国国旗を掲げた高陞号に乗り移動していた。軍艦浪速(なにわ)の東郷平八郎艦長はこれを発見し、清国兵以外の艦員の退去を勧告する。しかし、清国兵はイギリス人艦長らに退艦を許さず、むしろ人質として移動を続けた。
 東郷は艦長室に二時間籠って国際法の先例を確認し、さらに警告手続きを踏んだうえで高陞号を轟沈した。多数の自国民が死亡したイギリスからは抗議が寄せられた。しかし、交戦開始後に第三国の船をシージャックして移動するのは清国の国際法違反である。日本の措置に問題ない。
 理路整然と説明するや、英国世論は一変して日本を支持し、むしろテロ行為を行った清国への非難が強まった。
 国際法を遵守する文明国としての日本は、北清事変でさらに信用を得る。
 明治三十三年(一九〇〇年)、義和団が列国の公使館を包囲し、居留民を虐殺したことに端を発する北清事変で、八カ国連合軍が編成され、その主力を日本が担うことに端を発する北清事変で、八カ国連合軍が編成され、その主力を日本が担うことになる。
日本は迅速に賊徒を討ち居留民を解放しただけでなく、規律正しく国際法を守って行動したために、評判を高めることになる。
 このとき、英仏軍などは「掠奪暴行を加えないとかえって侮(あなど)られるとばかりに不法行為の限りを尽くしたので、清国の民間人が日本軍駐留地に助けを求めてやってくるほどだった。
~中略~
 確かにヨーロッパ内部での戦争では国際法が整備されていったが、外部への植民地戦争では宗教戦争の時代とまったく変わらない非法を続けていた。キリスト教徒でも白人でもない有色人種など、人間ではないとの扱いだった。
 この二重基準に、「我々も人間である」と異を唱えたのが日本人だったのである。

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倉山 満 (著)
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