一九二三年九月一日、相模湾を震源とするM七・九の地震に襲われ東京は灰燼と化した。関東大震災である。
~中略~
NHKのラジオ放送が始まったのは一九二五年であり、国民の情報源は専ら新聞であった。多少誇張した噂話が「朝鮮人と社会主義者の諜略と暴動」という流言飛語となって増幅され、被災者の恐怖心を煽り、とんでもない惨劇を生んだ。
~中略~
芥川龍之介は「中央公論」一九二三年一〇月号に「大震雑記」と題して寄稿し次のように述べた。
「僕の所見によれば、善良なる市民というものは、ボルシェヴィッキと○○○(伏字で朝鮮人の意)との陰謀の存在を信ずるものである。もし万一信ぜられぬ場合は少なくとも信じているらしい顔つきを装わねばならぬものである」
彼らしい歪曲な言い回しだが、異様な時代の空気を伝えている。
今日メディア環境は激変し、活字媒体に加え電波メディア、さらに際立った特色として一億台を超すまでに普及した携帯電話とツイッターなど、ネットワーク情報技術の進化がある。
安否確認から事態の展望まで驚くほどの情報がネットを駆け巡る。しかも国境を越えて。
これが現代版流言飛語のシステムともなる。
脳力のレッスン 109
緊急編 東日本大震災の衝撃を受け止めて──近代主義者の覚悟
寺島実郎
世界 2011年 05月号
岩波書店; 月刊版 (2011/4/8)
P78
正確なことを知りたがったが、知ることができるものと言えば、それは他人の口にする話のみに限られた。
根本的に、そうした情報は不確かな正確をもつものであるが、死への恐怖と激しい飢餓におびえた人々にとってはなんの抵抗もなく素直に受け入れられがちであった。そして、人の口から口に伝わる間に、憶測が確実なものであるかのように変形して、しかも突風にあおられた野火のような素早い速さでひろがっていった。
P228
大震災後の混乱で理性を失っていた庶民は、官憲の注意にも耳をかさず凶行をつづけていったのである。
関東大震災
吉村 昭 (著)
文藝春秋; 新装版 (2004/08)
- 作者: 吉村 昭
- 出版社/メーカー: 文藝春秋
- 発売日: 2004/08/03
- メディア: 文庫
リアルなデマや風評はなかなか消えない。でもソーシャルメディア上ではパッと広まりはするが、収束も早かった。真面目かつ優しい人々がなるべく正しい情報を広め、間違った情報は消すべく躍起になってくれたからである。
明日のコミュニケーション 「関与する生活者」に愛される方法
佐藤尚之 (著)
アスキー・メディアワークス (2011/10/11)
P41
明日のコミュニケーション 「関与する生活者」に愛される方法 (アスキー新書)
- 作者: 佐藤尚之
- 出版社/メーカー: アスキー・メディアワークス
- 発売日: 2011/10/11
- メディア: 新書
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