~前略
大晦日の夜は、大変暗いのに、松明などをともして、夜半過ぎまで、人の家を尋ねて走り廻り、何ごとだろうか、大げさに騒ぎ立てて、足が空に浮いているように、あたふたやっているのが、明け方からは、さすがに静まってしまったのは、旧年の名残が惜しまれて心淋しいものである。死んだ人の霊が、帰って来る夜だといって、大晦日に精霊を祭るわざは、この頃はもう京都にはないのを、関東の方ではまだ今でもやることになっていたのは感慨深いことであった。
こうして、明けてゆく元旦の空の景色は、別に昨日と変わったとは思われないけれど、前日にひきかえて、清新な珍しい気持ちがする。都大路(大通り)の様子も、門松を立てつらねて、陽気にうれしそうなのは、また特別な感じがするものである。
徒然草―現代語訳
吉田 兼好 (著), 川瀬 一馬
講談社 (1971/12)
第十九段
世の定めとして、大晦日が逃れられない闇夜であることなど、天の岩戸の神代このかた分かりきっているではないか。それなのに、人はみなともすれば世渡りに油断し、毎年ちょっとした胸算用の違いから、大晦日の決済ができずに困り果てる。めいめい心がけが悪いのだ。まったくこの一日だけは千両にもかえがたい>(住人注;胸算用)
この当時は太陰暦が使われていたから、大晦日は月の出ない闇夜である。その闇の暗さは、総決算日の暗鬱な雰囲気そのものだった。
西鶴という鬼才―新書で入門
浅沼 璞 (著)
新潮社 (2008/02)
P25
私は外地で十回、新年を迎えましたが、いつもわびしかった。パリでもワシントンでも、大晦日の十二時に男女が頬にキスして賑わうが、クリスマスの祭りの後の新年だから、一月一日の朝はとりたててどうということはない。北京や台北でも、正月は旧暦(農歴)に従い春節を祝うから、一月一日は事務的に一日休むだけなのです。
だが、この日本の元日とはなにか。神道的雰囲気とは何か。元日の朝早く明治神宮に行くと、外国人は日本人は宗教的な国民だと驚きます。
日本人に生まれて、まあよかった
平川 祐弘 (著)
新潮社 (2014/5/16)
P240
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