全国で一律に看護師の賃金が決められていると、大都市では他の代替的な仕事の賃金が高くなり、優秀な看護師を集めることが難しくなる。そこで、高賃金地域の病院は、賃金規制の対象外である派遣看護師をより多く雇うことになる。
派遣看護師は、常用看護師よりも当該病院内のことに詳しくない上、経験も少ないことが多い。このため、病院のパフォーマンスを引き下げる。
彼ら(住人注;ブリストル大学のホールとプロッパー、そしてロンドン大学のヴァン・リーネンの三氏)の研究によれば、地域で民間企業の女性の賃金と看護師の賃金の間の格差が一〇パーセント拡大すると、心臓発作による死亡率が五パーセント上昇するという。 この衝撃的な研究結果は、私たちにとって他人事(ひとごと)ではない。
日本の医療制度も診療報酬点数制度という規制体系のもとで運営されている。小児科医や産婦人科医が不足して大きな問題になっている。いわば、医師の報酬が規制されているために、医師の診療科目によって需給ギャップが発生しているのだ。
賃金規制をすることで、私たちはサービスの質の低下に直面している。実は、この問題は看護師や医師に限ったことではない。~中略~
警察官や教師の賃金が相対的に低くなると、代替的な仕事が多くある都市部では、警察官や教師の質が低下してくる。その結果、治安の悪化や教育の質の低下に直面するのは私たちだ。
競争と公平感―市場経済の本当のメリット
大竹 文雄 (著)
中央公論新社 (2010/3/1)
P190
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