酒は、天から与えられた褒美である。ほどよく飲めば、陽気になり消化を助け、心配事から解放され、やる気がでる。
しかし、多く飲めば害になる。たとえば火や水は人の生活になくてはならないものであるが、同時に火災や水害ももたらす。そういうものである。
酒も飲みすぎると寿命を縮めてしまい、せっかくの天からの褒美も台無しである。
養生訓 現代文
貝原 益軒 (著) , 森下 雅之 (翻訳)
原書房 (2002/05)
P116
[第百七十五段] 世の中にはわけのわからぬことが多いものだ。何事にも機会あるごとに酒をすすめて、無理に飲ませるのを面白がっているのは、どういうわけだかわからない。
~中略~
この様に酒というものは、うとましいと思うものであるが、何となく捨て難い折もあるようだ。
月の夜、また雪の朝、或いは花のもとでも、心のどかに物語りしながら、盃をとり出したりすると、何によらず興を添えるものである。
閑散な日に、思いがけず友だちがやって来て、酒をくみかわしたのも、心が慰められることだ。
恐れ多いお方の御簾の中から、御菓物・御酒などを上品なけぶりでさし出されたのなどは、実によいものだ。
冬、せまい所で、火か何か煎りなどして、遠慮ない同志がさし向かいで大いに飲んだのも、大変面白い。
旅の仮屋・野山などで、「お肴が何かあればいい。」などと言って、芝の上で飲んだのも、いいものだ。
~後略
徒然草―現代語訳
吉田 兼好 (著), 川瀬 一馬
講談社 (1971/12)
P272
P68
アルコールを飲むことは、ストレスを発散した気になっているだけであって、体は依然ストレスを感じ続けていることになる。
そう、酒は本当の意味ではストレス回避にはなっていなかったのだ。要注意である。
P76
ただ、一つだけ言えることは、「酒は本当は体によくないんだよなあ」などと思いながら飲むのがいちばんよろしくない、という点です。そのことがストレスになるからです。
脳はなにかと言い訳する―人は幸せになるようにできていた!?
池谷 裕二 (著)
祥伝社 (2006/09)
P128
法飲は宜しく舒(じょ)なるべし。放飲は宜しく雅なるべし。
病飲は宜しく少なかるべし。愁飲は宜しく酔うべし。
春飲は郊に宜し。夏飲は洞に宜し。
秋飲は船に宜し。冬飲は室に宜し。
夜飲は月に宜し。
P129
醸酒(じょうしゅ)以て病客を待ち、辣酒(らつしゅ)以て飲客を待ち、苦酒を以て豪客を待ち、淡酒以て清客を待ち、濁酒を以て俗客を待つ。
酔古堂剣掃「人間至宝の生き方」への箴言集
安岡 正篤 (著)
PHP研究所 (2005/7/1)
酔古堂剣掃(すいこどうけんすい) 「人間至宝の生き方」への箴言集 (PHP文庫)
- 作者: 安岡 正篤
- 出版社/メーカー: PHP研究所
- 発売日: 2005/07/01
- メディア: 文庫
「そうじゃ。町の者たちは、みな酒を飲む。それはなんのためか。浮き世のうさを忘れるためよ。みんな心が痛むのじゃ。
その気持ちがわからぬようで仏法が説けるか。世のならい、とは、それがわかっておる大人のせりふじゃ。
だからこそ、法然房のところへ老若男女が群れつどうのじゃ。~略」
親鸞(上)
五木 寛之 (著)
講談社 (2011/10/14)
P335
P76
かくしつつ 遊び飲みこそ
草木すら 春は生(お)ひつつ 秋は散りけり
「万葉集」巻六・九九五・大伴坂上郎女(おおとものさかのうえのいらつめ)
この歌の題には、「大伴坂上郎女の親族に宴する歌」とある。大伴氏の「家刀自(いへとじ)」、主婦であった大伴坂上郎女が、一族を招いて宴会をした時の歌である。時期は、巻六の配列から、天平五年(七三三)頃と推測される。~中略~ この歌は、おそらく開会の挨拶に歌われたものと思われる。「短い時間ではございますが・・・・」というやつである。
歌には「酒を勧める歌」の伝統がある。例えば、「古事記」(中巻)の歌謡に、
この御酒(みき)は わが御酒ならず 酒の司(かみ) 常世(とこよ)に座(いま)す 石立(いはた)たす 少名御神(すくなみかみ)の 神寿(ほ)き
寿き狂(くる)ほし 豊寿き 寿きもとほし 献(まつ)り来(こ)し 御酒ぞ 残さず飲(を)せ ささ
がある。神功皇后が、「待酒」(旅人の無事を祈念して準備する酒〕をして、戸である応神天皇を出迎えたときに歌ったとされているが、「琴歌譜」によれば、「大歌」として実際に宮中で歌われていたものらしい。神の作った特別な酒であるから、残さず飲んで下さい、という歌である。
鉄野 昌弘
P102
なかなかに 人とあらずは
酒壺に なりにしてしかも 酒に染みなむ
「万葉集」巻三・三四三・大伴旅人
酒飲みは、嬉しいと酒を吞む。人と会えば酒を飲み、会えなくても酒を飲む。酒は、人の感情を解放してくれる。
酒は、人を別世界に連れていってくれる。アルコール依存とまではいかなくても、酒に有難味を感じている人は多いだろう。
万葉歌人、大伴旅人に「酒を讃(ほ)むる歌十三首」という作品がある。掲出したのは、その第六首である。
~中略~
日本では、それまで酒の歌といえば、客人に酒を勧める歌など、宴会の歌ばかりだった。旅人は、中国に伝統的にある独酌の詩に憧れ、それに倣(なら)って「酒を讃むる歌」を作った、という説は正しいだろう。
しかし彼我(ひが)の相違にも目を向けたい。日本にも伝わっていた中国の独酌の詩、例えば代表的なものとして東晋・陶淵明の「飲酒」二十首が、それぞれに哲学的に思索を深めているのとは、大いに趣を異にする。
「菊を採る東籬の下、悠然として南山を見る」(「飲酒」第五首)。「飲酒」には、孤独の寂しさ、無常の悲しみ、俗世への嫌悪など、マイナスの感情も様々歌われているけれども、基調は酒によって心を慰め、自適の境地を求めてゆくことにある。そこには、今ある自らの生に対するゆったりした肯定感がある。
逆に、なまじっか人でいるより酒壺になって、酒に浸っていた、という「酒を讃むる歌」には、この生に対する否定的な感情が満ちている。
この世にし 楽しくあらば 来む世には 虫に鳥にも 吾はなりなむ(三四八・第十首)
生ける者 遂にも死ぬる ものにあれば この世なる間は 楽しくあらな(三四九・第十一首)
この世では楽しくありたい。そのためならば、来世は虫にでも鳥にでもなる、というのは、裏返せば、現世がいかに苦痛か、ということでもあろう。旅人にとって、酒の価値は、辛い現世を忘れさせてくれる、という一点にある。
老境に入って九州、大宰府に派遣され、そこで妻を失った旅人には、「験なき物思い」を払う酒こそが必要だった。最高の教養人にして漢詩人でもあった彼が、このような歌々を作らねばならなかった所以である。
鉄野 昌弘
からだ (人生をひもとく 日本の古典 第一巻)
久保田 淳 (著),佐伯 真一 (著), 鈴木 健一 (著),高田 祐彦 (著),鉄野 昌弘 (著),山中 玲子 (著)
岩波書店 (2013/6/19)
酒に酔って犯罪をしでかしても、それは心神耗弱とか心神喪失とはされない。 飲酒とは「原因において自由な行為」ゆえに、自分で責任をもたねばならないのであるから。
はじめての精神科―援助者必携
春日 武彦 (著)
医学書院; 第2版 (2011/12)
P182
先輩に「毎日の晩酌が生きがいだ」という人がいる。
現役時代は「生涯を医療に捧げる」が口グセで、定年後は地方の在宅診療に力を入れたいと熱く語っていた。だが、奥さんに認知症の症状が現れ、子どもに負担はかけたくないと、その介護を引き受けるようになった。
現在も介護生活は続いているが、自分にも楽しみは必要だと考え、毎晩、奥さんが寝入ると、大好きな酒を飲むことに決めている。奥さんの介護と晩酌、これがいまの最大の生きがいになっているという。
~中略~
手酌でひとり酒だが、現役のころのような義理がらみのつき合い酒や、上司への不満をぶつけるヤケ酒とは違う。介護の合間とはいえ、心に屈託なく飲む酒は、「しみじみとうまい」と相好をくずしている。
長年、温めていた夢を断たれ、そのうえ介護の日々は気持ちの負担も小さくないだろう。だが、毎晩の酒を静かに楽しみ、気持ちの負担を上手に解消しているのである。
酒を傾けながら、「今日一日も無事に過ぎたなあ」と心から感謝するのだそうだ。
この感謝の思いが、ヘタをすれば、ヤケ酒になってもおかしくない介護の間の二合の酒を、「生きがい」と感じさせるのではないだろうか。
心の持ちよう一つで、どんな状況でも、どんなささやかなことでも「生きがい」にすることはできるという格好の例だと思う。
精神科医が教える50歳からの人生を楽しむ老後術
保坂 隆 (著)
大和書房 (2011/6/10)
P38
精神科医が教える50歳からの人生を楽しむ老後術 (だいわ文庫)
- 作者: 保坂 隆
- 出版社/メーカー: 大和書房
- 発売日: 2011/06/10
- メディア: 文庫
人種的に見ると、白人や黒人は100%、アルコールを分解するALDH(アルデヒド脱水素酵素)を持っています。
ところが日本人はまったくない(つまりまったくお酒を飲めない)人が4%、持っているけでど少ししかない人が40%の割合で存在します。~中略~
このように、欧米に比べ日本にはアルコールに弱い人が多いからでしょうか、まだまだ「お酒は飲まないほうが健康にいい」という風潮があります。医者も、何の根拠もなく「お酒は控えめに」とアドバイスするケースがほとんどです。
しかし、私はそれには反対で、飲める人は大いに、弱い人はそこそこに、毎日お酒を楽しんだらいいと思っています(もちろん飲み過ぎは別です)。
というのも、お酒を飲んだほうが血糖値が上がらず太らないというエビデンスがあるからです。~中略~
とくにおすすめなのがワインです。抗酸化作用のつよいポリフェノールが豊富な赤も、やせる効果がある白も、料理に合わせて飲んでください。一方、ビールや日本酒、紹興酒などは糖質を多く含むので1杯程度にしておきましょう。
~中略~ お酒を飲むときは一緒に水をとることを勧めます。水をとれば、それだけ血中アルコール濃度が低くなるからです。
またトイレが近くなり、アルコールが早く排泄されます。
――20万人を診てわかった医学的に正しい食べ方68
牧田 善二 (著)
ダイヤモンド社 (2017/9/22)
P180
医者が教える食事術 最強の教科書――20万人を診てわかった医学的に正しい食べ方68
- 作者: 牧田 善二
- 出版社/メーカー: ダイヤモンド社
- 発売日: 2017/09/22
- メディア: Kindle版
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