P180
筆者は精神科臨床において,適応タイプの名称をクライアントとの共通言語として使用することを想定し,それぞれの適応タイプを英語の頭文字を取った略語で呼ぶか,各タイプの外界とのコンタクトの方略を表す,簡易で覚えやすい名称を使用していた。
それらは,
・想像型(創造的夢想家 CD)
・行動型(魅力的操作者 CM)
・信念型(才気ある懐疑者 BS)
・反応型(おどけた反抗者 PR)
・思考型(責任感ある仕事中毒者 RW)
・感情型(熱狂的過剰反応者 EO)
である。
P181
テイビー・ケーラーは,適応タイプの査定図表を提示した。タテの軸は「能動的(active)」「受動的(passive)」の次元を表し,横の軸は「関わる(involving)」「引きこもる(withdrawing)」を表す。
・能動的とは,問題解決に率先して関与すること。自ら主導権を取ることを好むこと。
・受動的とは,問題解決に受け身の姿勢を取ること。誰かが動くのを待ち,他者が主導権を取る方を好むこと。
・関わるとは,大きなグループに参加することを好むこと。
・引きこもるとは,一人または少人数でいることを好むこと。
能動的に関わると,問題解決に自分から関わり,積極的に大きな集団に入るか,周囲に多くの人を集める。
能動的に引きこもると,問題解決に自分から対処し社会参加も行うが,人間関係では一人か少人数でいることを好む。
受動的に引きこもると,他者が問題解決してくれるのを待ち,社会活動も少ないものの,他者が先導する社会的行動には反応を示す。人間関係では多くの人と関わらない。
受動的に関わると,他者が問題解決してくれることを求め,自分から積極的に接触しないものの大きなグループに参加することを好む。
この査定図表上に6つの適応タイプを配置すると図4-1の通りである。
図4-1で見ると,CD(想像型)は受動的で引きこもる,PR(反応型)は受動的で関わる,RW(思考型)は能動的で引きこもる,EO(感情型)は能動的で関わる領域に配置され,BS(信念型)は能動的と受動的の中間で引きこもる領域に位置している。
CM(行動型)は能動的に関わると受動的に引きこもるの2つの領域を行ったり来たりする。
P183
適応タイプが環境に適応するために身に付けるものであるならば,親の養育態度と適応タイプは深い関係を持つ。
親が自信を持って子どもの世話ができずに当惑してあやふやな態度を表してしまうとき,子どもは期待した通りの世話が親から得られないと感じる。
または親が自分のことで精いっぱいであったり,他のことで手いっぱいであったりする場合も同様に感じる。子どもがその親に対してあきらめ”もう要求しない,自分の世話を自分でする”と決断し引きこもるとき,CD(想像型)の適応スタイルを選択する。子どもにとってこの場合の親は,「あてにならない」養育スタイルを持った親である。
子どもが欲求を表す前に,親が自分の関心に基づいて先取りして子どもの欲求を満たそうとする場合がある。
この場合の親は,自分自身が何らかの刺激に飢えており、それを満たそうとしているのか,世間によい親であることを示そうとしているのである。
子どもは欲求を満たすことには受け身であり,自分で行動を起こそうとしない。そして彼らの親は自分の欲求を優先させる傾向があるので,親から無視されたときや親が不在のときには欲求を満たせず,見捨てられ感を体験する。また子どもは親が自分に何が起きても構わない態度のときにも見捨てられ感を体験する。一方で,自分の欲求が満たされるのが当たり前だと思っている子どもは,親の注意を引こうとする,あるいは親がそうするよう操作する。
これがCM(行動型)の適応スタイルである。このような親の養育スタイルを「先取りする」養育という。
ある行動に対してときには愛情深く,しかしあるときには批判的・拒否的であるなど,親の言動に一貫性がなかったとすれば,子どもはどのようにしていいかわからず不安を感じ心配する。
このような態度は,親がストレスに影響を受けていることと関係がある。子どもは,親から否定的な反応を得て,驚かされないために用心深くなり,そして親に対して疑い深くなる。
これがBS(信念型)の適応スタイルである。そしてこのような養育スタイルを「一貫性がない」養育という。
親が”ああしなさい,こうしなさい”と管理しすぎで,親の言うとおりにすることを強制されていた場合,子どもは,自身の自律を達成するためには親との闘いを余儀なくされてしまう。子どもは生きることを闘うことのように大変なことであると感じ,親の指示通りにしなくてはならないときには受動攻撃,すなわち直接的な反抗ではなく,遠回しの反抗で反応する。
これはPR(反応型)の適応スタイルであり,このような親の態度は「管理しすぎ」の養育スタイルである。
親から何かを達成することを強調され,何かができることに価値を置く場合,子どもは認められるためにやりすぎるようになる。これは達成できない(認められない)ことに対する恥や罪悪感を避けようとする行動でもある。
これはRW(思考型)の適応スタイルであり,このような親は「達成の強調」の養育スタイルである。
親から,人を喜ばせることを強く求められた場合,子どもは親を喜ばせるために,親の期待に沿った子どもとして振る舞うようになる。しかしそれがうまくいかないときに,子どもは自己否定感を強く感じてしまう。自分が求めるものが得られないことに反応過剰になり,親の関心を引くことで欲求を満たそうとする。
これはEO(感情型)の養育スタイルであり,この場合の親の養育スタイルは「他者を喜ばせることの強調」である。RW(思考型)が,親が期待することをやり遂げることで関心を得ようとしたのに対し,EO(感情型)は親が期待する子どもとして,魅力的に振る舞い,親を魅惑しようとしたものである。
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